ッ――!
(柏生義岡が一閃を放つ)
(荒い息遣い)
はやく伏せるんだ!
死ねい!
なんだって!?
貴様に言ったわけではないわい!この畜生に……
いいからはやく伏せろ、私のアーツがもうじき爆発するぞ!
――!
(爆発音)
そら、手を貸そう。起き上がれるか?
必要ない。
貴様、その手に持っている武器はなんだ……?獣数匹が一瞬で片付けられたぞ……
私が独自で編み出した狩技さ――このアーツユニットから繰り出されるアーツのことでな、ほかにできる者はおらんよ。
フンッ、ただの小細工だろう。
残りは罠でもなんとか持ちこたえられるはずだ、あとは須本たちに任せる。私たちは比較的に守りが薄い向こう側を守りにいこう……焦って一人で突っ走るんじゃないぞ、お前さん。
無駄口を叩いてる場合か。
……
なんだその顔は?
いいや、ただちょっと狩人たちと共に戦ってきた日々を思い出してしまってね。
それにもう七年だ。お前さんが私に消えろだの裏切り者だのと言ってこなかったのは、これが初めてだよ。
私は、思いもしなかったさ……まさかお前さんが本当にまた矛を……
これは明の矛だ。貴様も言いたいことがあるのならハッキリと話さんか、貴様が明の師匠だったことは儂も知っている。儂がこやつらを皆殺しにすることは思いもしなかったのか?
あの時のお前さんはなんせ狩人じゃなかったからね、明が狩人をやることにも反対していたじゃないか。明が犠牲になったことで……お前さんは色々と変わってしまったよ。
分かっているのならそれでいい。
……
なあお前さん、実は一つだけ……ずっと誤解していたのかもしれない。長い間、私もどうやって……お前さんに打ち明けようか分からないでいたんだ。
あの時の私は、なにもあの子を助けにいかなかったわけでは……
誘い粉。
へ?知っていたのかい?
儂はあいつの父親だからな。
クソガキは、あいつは……自分から死ににいったようなものだ。貴様らの採掘場を守るために。
今も時折あの子を夢に見るんだ。あの子も顔も動きも、目もはっきりとね……
……周りは獣のうるさい鳴き声ばかりで、あの子は最後になにか私に伝えようとしていたのだが、声はかき消されてしまっていたよ。あの子の青白くなってしまった唇も今だって覚えていて……
あっ……
まさかあの子が伝えたかったのは……
(回想)
明!
*極東スラング*、どうしてこんなに獣の数が多いんだ?お前、一体なんのつもりだ?
まさかお前、自分にアレを使ったのか……?
師匠、あんたらは帰ってな!絶対について来るんじゃないぞ!
戻りなさい!私たちならここでこいつらを食い止められる!
いいや、師匠!あんたなら誰よりも分かっているはずだ!
この規模の津波は俺たちで撃退できるようなものじゃない……いたずらに死傷者を増やしてしまうだけだ!
源石の採掘場だって壊されちまうし、あんたらがこれまで注いできた心血すべてが台無しになってしまうんだ。そんなことを起こすわけにはいかない。
だがお前は最初、採掘場を開くことに反対していたではないか?壊されたら壊されたでいい!
いいから戻ってきなさい!お前が生きてる以上に大事なことはないんだ!
獣たちが集まって来てしまってるな。
そろそろ時間切れだ、師匠。
俺が採掘場の開発に反対していたのは、源石が未知のもので、きっと予想もつかないような大災害を引き起こすかもしれないからだ……
あんたらがこの無辜の命たちをむやみに殺すことだって受け入れられない。畏敬の念を捨て、欲に身を任せてしまえば、どの道こういった結果を迎えちまうのさ。
だがあの日一緒に行った都市のことを、源石の力によって築き上げられたビル群を、眩いネオンと煌びやかな看板のことは今でも憶えてる……
源石には価値がある、村の貧しい現状を変えてくれるし、みんなが食っていくための拠り所にもなってくれる……ここまで来た以上、師匠らはそのチャンスをしっかりとものにしてくれ。
明!
一族の存続のために身を挺してこその狩人、俺はあんたにそう教わったんだ。忘れてしまったのか?
クソッ!どけ、この畜生ども!これ以上私の邪魔をするでない!
獣の津波とは命の怒り。
こっちだって生きるためにこいつらと歯向かっているんだ、ならこれは対等な戦いだって言えるだろ。
師匠、最後に一つだけ約束してくれ。
なにを……
これからも、みんなを導いて……
生き残ってくれよな!
明ァ!戻ってこんか!
それと師匠、親父にこう伝えてくれ。あの頑固ジジイに。
(回想終了)
あの子はこう言ったんだ……
“すまなかった、親父”と。
フンッ……儂を騙そうたって無駄だ。あいつは一度も儂を親父とは呼ばんかったわい。
クソガキめが……
あぁ!
(深呼吸)
でもな、儂は……
ここから見えるのは、一人の老人の後ろ姿しかなかった。
だがどこからか水玉が滴り落ちる音が聞こえた。
長い間ひた隠していた涙が、縦横に交差する歳月の溝を濡らしていく。
あいつに会いたい……!
(リオレウスの羽ばたく音)
空の上にいるぞ!
あのバケモノめ……やはり来ていたか。
獣たちがまた襲ってくるぞ!*極東スラング*、前よりも数が増えていないか?
クソ、人手がまったく足りんぞ!
貴様はここにいろ!さっきの罠を張っておいて獣どもを食い止めるんだ!
ついて来るでないぞ、あのデカブツは儂が片付ける……
儂は狩人だ、あれは儂の獲物だ!
ヤトウ!リオレウスが来たぞ!
やはり来たか。
以前わしらが何度も怒らせてしまったから、彼は人間を脅威と見なし始めたニャ。
柏生さん家の近くに降りたあと、こっちに向かってきてる!
支援は……来るのにもうしばらくかかりそうだな。村人たちもまだ避難しきれてない。
よりによってこんなタイミングに……仕方ない、君は避難する隊列を守っておいてくれ。私は――
(獣の唸り声)
ヤトウ!向こう!獣が現れたぞ!数は五匹程度だ!
こりゃ獣の津波が来ちまったに違いねえ。狩人たちじゃ襲ってくる獣たちを全部食い止めることは無理だ、今は撤退する村人たちの保護を優先しよう。
じゃあリオレウスがこっちに向かってくるのをただ見ていろと言うのか?それではさらに危機的な状況を作り出してしまうだけだ!
俺だって考えてる……少なくとも俺たちが村人たちを避難所に連れていくまでリオレウスを食い止める方法は……
柏生さん……
柏生さんの手を借りるって?でも今は見つかりそうにねえぞ、それにあの人だけじゃ……
彼なら見つけた、家屋のすぐ隣だ。
めちゃくちゃリオレウスと近いじゃねえか!なあヤトウ、ここは……
もし彼がリオレウスを食い止めてくれるのなら、このまま村人を避難させてやれるかもしれない。
それって……助けにいかないってことか?
今は……彼の信じるしかない。
(油桶の蓋を開ける)
フッ、お前もそう思うか?今日はいい日だ、空もこんなに明るく燃え上がっているのだからな。
最近はいいこと尽くしだったよ。大きくなった小娘が村に戻ってきたおかげで、色々と賑やかになったものだ。
突然と翼が生えたバケモノがやってきて、あたりで火を噴き散らすわ。身の程知らずなよそ者が二人もやってきて、森の中でしっちゃめっちゃにしてくれるわで。
そのせいで獣たちがわっと巣穴から襲いかかってきて、採掘場も吹き飛ばされてしまった。そして訳も分からん間に天災がやって来て、村の連中はあたふたと逃げ惑うばかり。
なにより可笑しいのが、朝から晩まで、わざわざ儂のところにやってきては過去のことを掘り返してべらべらと喚き散らしてくるヤツが現れたことだ。
ヤツらめ、口々に儂のために言ってるとかほざいているわりには、拾い上げた過去で儂の血肉をかき切っていくばかりではないか。
あのノイルホーンという小僧の言う通りだ。真実なんぞちっとも大事ではない、過去は過去に残していくべきだ。
死者はそっとしておいたほうが一番いい。火でキレイに焼き上げるんだ、跡形もなく。
火の光が咽び泣く声が聞こえてくれば、彼は往昔の残片をしきりに呑み込んでいった。
時という灰燼が彼の目の前でひらひらと舞い踊る。悔しさに満ちた眼光もすべて焼き尽くされていく。
燃えよ燃えよ。
美しい炎だぁ。
明、もしお前がまだ生きていたのなら、お前もきっとこうしていただろうな。
儂も、次の一歩も踏み出すことにしよう。
やい!こっちを見ろ!
(リオレウスが降り立ち、咆哮を放つ)
このバケモノめ、口角がすでに焼き焦げているではないか。鱗も傷痕だらけで、まったく醜いのう……
ほう?火花を散らすか、貴様怒っているな?
藻掻く必要ならもうないぞ。貴様の狙いはただ一人、この儂だけだ。
儂から決して目を離すではないぞ……そうだ!それでいい!
怒れ怒れ……もっと怒るのだ!
(リオレウスが咆哮を放つ)
さあ、来ぉい!
儂に向き合え!このバケモノめェェ!