
気前がよろしいことで、ロドスのドクター。

では、アレクサンドリアナ王女殿下の端末に安全地点の座標を送りましたので、しばらくそこで待機してください。どんな行動であれ、予定外のものであればあなた方の安全は保障できかねますので。

端末だと?なッ、いつの間に……!?

そちらにも何名か凄腕の方々がおられますよね?よいことです、我々の協力関係を阻害するのではなく、共通の目標を達成するための力になってくれるでしょう。

あなたもそう思いますよね?

・それを決めるのは私たちではない。
・……
・“脅し”を“協力関係”と呼ぶのがヴィクトリアの慣わしなのか?

もちろんです、これからはゆっくりと信頼関係を構築していきましょう

沈黙を選びましたか、感心してしまうほどの慎重さですね。

お生憎、その通りなのですよ。

では、次の連絡をお待ちくださいませ。
(”グレイハット”が立ち去る)

……

ドクター、改めてロドスの通信システムの安全性を見直す必要が出てきたぞ、私からクロージャに伝えておく。その前に、ひとまず無線を封鎖しておくんだ。

そのほかにも……本艦がヴィクトリア領内を停泊する際の手続きも片付けておこう。

イネスさん、先ほどはありがとうございました。

やあイネス、会うのは初めてかな?

そうとは限らないわよ。

申し訳ない、少し……記憶を失っていてな。

……それは知っているわ。

なら今のあなたにとっては、初めましてかもしれないわね。

それにしてもあなた、本当に記憶を失っているの?それもあなたの計画の一環だったりしない?

・本当に色々と忘れてしまったんだ。
・……
・どうしてそう思うんだい?

……

私は安易に判断をくだしたりはしなくてね。でも分かるわ、あなたは確かに……少し変わってしまったみたいね。

お互いを知る時間なら、これからたっぷりとあるのだから心配しないでちょうだい。

根拠のないデマなんかよりも、私は自分の目で確かめてから物事を判断したいタチなの。

イネスさん、もしかしてドクターに対してなにか……

安心なさい、アーミヤ。彼への偏見ならちゃんと抑え込んでおくから。

今しばらくは、ね。

人員の撤退、ほぼ完了しました!

よし、では私たちもこの場を離脱しましょう。
(Logosがアーツでサルカズの戦士を全て倒す)

あのロドスに所属しているサルカズ、確かLogosって呼ぶんでしたっけ?

私たちって、Miseryさんともう長い間一緒に戦ってきたものでしょ?だからこれ以上ロドスの作戦方式に驚くことはないと思っていたのだけれど……

まったくです。あのLogosさんがどういう人であれ、彼の呪術に色々と助けられたのは事実ですから。

……へへッ、それにあの人、かなりダーツもいい腕をしていますよ。

何度か彼と競ったことがあったんですが、今放ってるあの呪術と見間違えるくらい恐ろしい精度をしていましたよ。

以前とある友人から……そういった技巧を学んだことがあってな。

スツール滑走試合では我に及ばなかったが……ダーツの実力はほぼ互角だった。

それよりもホルン殿、今サルカズたちは一時的に退いている。この隙を逃すでないぞ。

計画通りであれば、ロドスと自救軍は補給線を辿って、あの輸送ルートの起点まで撤退するはずです。そしてブレントウードという町の近くで、新たにセーフハウスを再建するとのとこ。

私たちもそこで彼らと合流する予定です。

そこで、私たちは城壁のほうへ向かいましょう。ノーポート区は切り離され、サルカズも城壁を建て直しましたが、まだ新しい区画がそこに連結させられてはいません。

そこの露出した地下構造なら、きっと難なく脱出できるはずです。
(モリーらしき人物が通り過ぎる)

……

どうやら、また一人旧識に出会ったみたいだ。

あのダーツを教えてくれた友人って人ですか?

いいや。

その友人と違って、我の旧識たちは見た目の変化に乏しい者たちでな。

諸君、少し用事ができた。ロンディニウムからの撤退はホルン殿に任せる。我の仲間であるMiseryも支援が必要な際は馳せ参じてくれるはずだ。

……了解。

それじゃあみんな、引き続き身を隠しながら私について来なさい。

血と涙とて、うぬを惹かせるものではないはずだ。往日の山々はまことにそこまで懐旧するほどのものなのか?

浮かれるほどの興味ならないさ。

けどもし、その山々でしか身を潜めることができず、栄光のみがこの身を暖めることができなかったというのなら……

……

これ以上うぬを狩り尽くす必要はなくなったと思っていたのだがな。

こっちはこれで三十一人目の“モリー”だよ。バンシーの君にしては頑張ったほうなんじゃないかな。

それでもうぬは飽きもせず、テレシスに自救軍を瓦解させるよう力を貸した。

ただの仕事だよ。

……ロンディニウムにある瓦礫の一片一片を持ち上げ、その暗所に縮こまったうぬの破片らを一人残らず摘まみだしてくれようぞ、変形者よ。

うぬは今も変化の可能性を拒んでおる。いや、古から拒み続けていたものだったな。
(”モリー”が姿を変える)

君、ちょっと自惚れすぎなんじゃないかな?変化ってものならボクたちはちゃんと理解しているさ、だってボクたちは変化の中から生まれてきたんだもの。

変化はあくまで適応するための手段なんだよ。どんな変化だって、そうするための目的があるはずだ。

ボクたちはね、サルカズがこんな形になる以前からこの大地を生きてきた存在なんだよ?

理想も信仰も信念も標語も、ぜーんぶ月日に洗い流されてしまってもなお、ボクたちは生きているんだ。

新しい発想を思いついたとして、とっくに誰かがそれを思いついていたし。高尚に思える道筋だって、とっくに誰かが実践してきたんだよ?

そんな人たちは今、どこにいると思う?

いま君の目の前に立っているじゃないか。

それが何よりの証拠だとボクたちは思うけどね。
“ドン!”
“ビシバシ!”

ふぃ~……

少しは体力を節約しなよ、カドール。あれだけたくさん食ったんだからさ。

ダフネだって、もう何度もあんたの食べる量を指摘していたんだよ?今はほら、もう昔とは違うんだから。

そう言わずにお前も肩の力を抜けよ。まだそこまでヒドい状況にゃなっちゃいねえさ。

あの魔族の連中なら見た目ほどの強さはねえよ。俺たちはちょっとそいつらの不意打ちを食らっただけだ。

ところで輸送商工会のマーシャルが言ってたぜ、あいつんとこも人をかき集めてるって。俺たちがもうちょい頭数を揃えちまえば、サルカズとも渡り合えるはずだ。

俺たちがグループを何個も束ねて、サツどもとやりあったあの時みてーにな。

後ろからひょいっと現れて、パパッと片付ける!

何発か食らわせて、試合終了ってな具合でな。

サルカズの軍はサツなんかじゃないよ。

連中が手強い相手だってことくらいなら俺だって分かってる。

だが血を流すことになろうが犠牲が生まれようが怖かねえ!倒れてった仲間たちの屍を越えて、ゲンコツを思いっきりそいつらの顔面に食らわせてやるんだ!

このボクシングジムの名前みてーに――“アゴがズレる”まで叩きのめす!

マーシャルとシミュレーションしたこともあるんだぜ?俺たちならぜってぇに勝てるって。

あんたが集めた龍門の三流映画の内容みたいに?

こっちは大真面目に言ってるんだぞ?言っておくが、俺だってお前とは同じくらいノーポートでつるんできたんだぜ?

昔みてーに、俺たちは自分たちのために生きる道を切り拓かなきゃならねえんだよ。

お前らんとこのシージって野郎がグラスゴーを出て行ってから、俺たちのシマはほかの人の手に渡っちまった。んで、ここでの地盤をまた一から築き上げてきたのは俺とお前だろ。

だから今だって同じことなんだよ。一緒にまとまって、用意を済ませて、そして連中をぶっ飛ばす!ずっとそうしてきたことだろうが。

外がどんな状況になってるかは関係ねえ、俺たちには俺たちのやり方ってもんがある。

あとはそのチャンスが来るのを待っ――

おっと、ダフネたちが帰ってきたみたいだね。
(扉を叩く音)

……

よぉお前ら、どうだった?ペルのハゲは頷いてくれたか?こんな状況でも、俺たちはそいつにかなりいい値段を提示してやったんだからな。だからあいつも――

ってちょっと待て、この血はどうしたんだ?

ペルなら死んだよ。

なんだと!?

野郎、あのサルカズどもがッ!

違うんだ、サルカズじゃないんだ!クソ、一体誰があんなことを……私たちがその人の店に行った時には、もうすでにおっ始めていたんだよ!

連中はとうとう頭がイカレてしまったんだ!バールのようなものを持ったヤツがもう一人の人を地面に引きずった後、あの人は――

おえええええ……ッ!ゲホッ、ゲホッ……

つまりヒドい状況ってこと。たぶん空腹のあまり頭がイッてしまったホームレスなんかに店が襲われてしまっただと思う。あのバカ、ご丁寧に商品をショーウィンドに置いていたからね。

まあ、結果は想像通りだよ。

そんな“ホームレス”たちがこの封鎖された町の中にどれくらいいるものやら……

……

イカレたクソ野郎どもが、どうせ違法薬物かなんかで脳みそが焼き切れちまったに違いねえ!

……あのバールを持っていたヤツなら私も会ったことがあるよ。尻尾用のトリートメントの販売員だった。いつもニコニコしていた人だったよ。

割引してくれるもんだから、私も何度か彼のところでモノを買ったことがあったんだけど、あんまり私には合わなかったかな。

でもさっきのあいつは……目が真っ赤になってて、口元には血が流れてて、バールもグニャグニャになってた。あれはもう……別人だよ。

恐怖が……恐怖が蔓延し始めちゃったんだよ、カドール。

そういったキモの小せえヤツらならそうなるかもしれねえって、輸送商工会の人たちが言っていたが、なんでこんな……
(物が割れ、ドアの叩く音が響き渡る)

まずい!ドアを抑えつけなきゃ!

あぇっ、えっ……

なにボーっとしてるの!はやく手伝って!カドール、ソファーをこっちに運んできて!

チクショ、死にてぇのかテメェら!このクソ*ヴィクトリアスラング*が俺たちになんの用だ!

……

さっさと消えろ!こっちにはまだ人がいるんだ!ここがグラスゴーのシマだってことが分からねえのか!

……

ッ!ベアード、気を付けろ!
消防斧がジムの重厚なドアに大きな隙間を作り出し、鋭い刃はベアードの横顔すれすれをかすめていく。
それによって数本の髪の毛が舞い落ちた。

クソが、聞こえなかったのかテメェ!ここにはまだ人がいるんだぞ!
ドアを抑え込んでいるカドールが、両腕を使ってがっしりとドアの隙間越しの斧の刃を掴み取る。ドアの外にいる人は何度か引っ込めようとするも、斧を引っ張り出すことはできなかった。

テメェが誰だか知らねえがさっさと消えろ!さもなきゃ今度はこの斧でテメェの脳天をカチ割ってやるぞ!やるつったらやるからなッ!

……
何度か斧を揺さぶり、そしてドアを蹴破ろうとする重い音が響いた後、ドアの外にいる者はついに諦めたのか、そそくさとその場から立ち去っていった。

き、君……指が……

……

包帯ならジムには山ほど置いてある、ありがたいことだぜ。

ベアード、ダフネ。もう一度物資を全部数えなおす必要が出てきた。

俺はドアを固定するための土嚢をいくらか卸してくる。

ど、どういうことだ!?あいつら……もしかして本当に狂ってしまったのか!?

の、ノーポート区の市民はほとんどが道徳心に溢れた人たちだったはずだろ?警察はどうしたんだ?いつもなら誰よりもはやく切符を切ってくるはずだろ!

区画から逃げ出せられなかったサツの連中なら、今ごろ武器を以て家ん中に立て籠っているはずだ。俺だったらそうする。

……後でももう一度輸送商工会んとこに行ってくる。ここに住んでいる連中はマーシャルのことを認めているんだ。

そいつらはいつもマーシャルの言う通りにしてくれている。マーシャルならきっと何か考えてくれるはずだ。

クソ……あぁクソッ!サルカズがまだ外にいるって時に、なんでこぞって頭がイカレちまったんだよ!
(カドールが立ち去る)

これから……どうする?カドールが言ったように、このままチャンスが来るのを待ったほうがいいのでは……

チャンスが来るのを待つって?

なら一つ教えてあげる。十五年前にノーポートで起こった大火事のことは知ってる?

き、聞いたことがある。確か港のほうで起こったという……

港がまるごと燃やされちゃったんだよ、その大火事で。ただ実を言えばね、港を全焼するのってそんなに難しいことでもないんだ。

死ぬほど暑い日に、木屑でいっぱいになった倉庫と火が消されていなかった一本のタバコ。その条件さえ揃えば、すぐにでも燃え上がる。

しかも燃え上がったらね、もう誰にも火を消し止めることはできないんだ。

私たちはただ、見ていることしかできないんだよ……すべてが燃え尽きていくところをね。