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【アークナイツ大陸版】12章 驚霆無声 12-19「飛躍、そして狼煙」行動後 翻訳

イネス
イネス

フンッ、今さらだけど、後悔してきてしまったわ。

イネス
イネス

ここに潜り込むの……やっぱりいいアイデアなんかじゃなかった。

イネス
イネス

高いところに行けば行くほど、それだけ完璧で大きな影を見つけることができるのだけれど……

イネス
イネス

それにしてはここ……ちょっと高すぎやしないかしら?

パプリカ
パプリカ

……なんでもいいけど、もうウチを放してくれないっすか?

イネス
イネス

それは無理ね、お嬢さん。

イネス
イネス

余計なマネをして困るのは自分のほうよ?

イネス
イネス

この船は大きすぎるからね。もし可愛らしい女の子が私と一緒にどこかの廊下から急に現れてくる兵士の見張りをしてくれるのなら、こっちも嬉しいのだけれど。

パプリカ
パプリカ

……

パプリカ
パプリカ

あんたも自分をヴィクトリア人と思ってるサルカズなんすか?

イネス
イネス

いいえ、カズデルのサルカズだって思っているわ。

パプリカ
パプリカ

カズデルのサルカズだって思ってるのなら、なんでこんなこと……

パプリカ
パプリカ

マンフレッド将軍や軍事委員会のために戦わないんすか?

イネス
イネス

私は自分のために戦うだけよ。

イネス
イネス

それで、この船は今どこに向かっているのかしら?

パプリカ
パプリカ

……

イネス
イネス

子供に痛い目を遭わせたくはないの。教えてちょうだい

パプリカ
パプリカ

それは……ウチじゃ分かんないす……

パプリカ
パプリカ

ほ、ホントっすよ!

イネス
イネス

……あなた、この船ではどういう役割?

パプリカ
パプリカ

えっと……傭兵?

イネス
イネス

フッ、人を殺したこともない傭兵ね……

イネス
イネス

ものを奪われた時でさえ、どうやって静かに武器を出すのかすら分からないような。

イネス
イネス

マンフレッドはここで何をしてるの?幼稚園でもオープンしたわけ?

パプリカ
パプリカ

あいつ、戦争のなんたるかを学ぶべきだって、ウチに言ってた。

イネス
イネス

それであなたは学べたの?

パプリカ
パプリカ

……他人が他人を殺すだけのことなら。

イネス
イネス

いいわね、少なくとも考えは私と一緒ってこと。

イネス
イネス

……それにしてもこの船、かなり高いところまで飛んだわね。

パプリカ
パプリカ

この船は死した魂の依り代だって、将軍が言ってたっす。

イネス
イネス

チッ、“死した魂”……なるほど、道理で。

イネス
イネス

あの時アスカロンがあれだけ苦しんでいたのはそいつが原因だったのね。ほかの人たちが気を引いてくれたからよかったけど。

イネス
イネス

……この船、まだ高度を上げ続けているわ。

イネス
イネス

向かう先は……戦場じゃなさそうね。ロンディニウムに戻っているのかしら?

イネス
イネス

ロンディニウムから出発して、公爵の戦艦に一発お見舞いしてあげて、それからノーポートに数日停泊した。

イネス
イネス

それで公爵たちの戦艦がもうすぐ来ると知って、さっさととんぼ返りしたってわけ……

イネス
イネス

どうやらマンフレッドの印象を改めなくちゃならなくなったわ。子供連れに興じてるだけでなく、ピクニックにまでハマってしまったのかしら?

パプリカ
パプリカ

ウチは……

イネス
イネス

もう結構よ、あなた何も知らないんでしょ?

イネス
イネス

というか、まだ名前を聞いていなかったわね?

パプリカ
パプリカ

パプリカっす。

イネス
イネス

あなたがあのパプリカだったのね、報告書であなたの名前を見たわよ。十一番軍工場の労働者たちを解放してやったせいで、マンフレッドに捕まえられたらしいじゃない?

パプリカ
パプリカ

……

パプリカ
パプリカ

それ、サルカズの傭兵にとってはあんまり……誉れ高いことじゃないっすよね?

イネス
イネス

サルカズの傭兵からすれば、誉れなんて最高の恥よ。

パプリカ
パプリカ

そうなんだ……

パプリカ
パプリカ

あんた、カズデルに行ったことあるんすよね?あそこってどういう場所なの?

パプリカ
パプリカ

昔ウチの隊長が言うには、あそこがサルカズたちの我が家なんだって。

イネス
イネス

あなた、生まれは?

パプリカ
パプリカ

クルビア。

イネス
イネス

なるほどね。

イネス
イネス

どうりであそこをスイートホームと思っているわけだわ。カズデルに行ったことがないサルカズはみんなそうよ。

イネス
イネス

残念だけどそれ、あなたたちが勝手にそう思っているだけだから。

イネス
イネス

これまで知った言葉の中で一番汚くて気持ち悪くて、惨めなやつを百倍に拡大解釈してやって当てはめれば、カズデルのでき上がりよ。

パプリカ
パプリカ

……それを聞く限りだと、好きになれそうな場所じゃないっすね。

パプリカ
パプリカ

それじゃあなんで……多くのサルカズはそこを家って呼んでるんすか?

イネス
イネス

みんな家を必要としているからよ。

イネス
イネス

家さえ持てばすべてが良くなる。差別も迫害も瞬く間に消え去り、また堂々と生きることができるって、みんなそう思っているからよ。

イネス
イネス

フンッ、本当にバカバカしくて甘っちょろい考えだわ。

パプリカ
パプリカ

それは……あんたがサルカズじゃないからそう思ってるんじゃない?

イネス
イネス

……

イネス
イネス

なかなかものを聞いてくるじゃないの、お嬢さん。いい習慣だけど、戦いの場じゃやめたほうがいいわよ。

パプリカ
パプリカ

て、適当に思っただけっすよ!マジにならないでってば!

パプリカ
パプリカ

……本当にちょっと気になっただけだって。

パプリカ
パプリカ

ここ、誰も話し相手になってくれる人がいなくてさ。マンフレッドも忙しいし。

パプリカ
パプリカ

みんなすごく興奮してるんすよ、自分は偉大な出来事に加わっているんだって……でもウチ、それが分かんないんだ。なんでだろう?

パプリカ
パプリカ

ウチが知ってるのは、古い顔なじみがどんどん死んでいって、その代わりとして新しいやつがどんどん入ってくるだけ。でもその新しい人もまた顔なじみになった時は……

パプリカ
パプリカ

同じことが繰り返されるだけっす。

パプリカ
パプリカ

いつもよく思うんだ、ここはウチがいていい場所じゃないって。

イネス
イネス

……

イネス
イネス

サルカズかそうじゃないかなんて、それってそんなに大事なことかしら?

イネス
イネス

もし周り全員からサルカズだって思われているのなら、自分の角を削って、サルカズのフリをして過ごすことをおすすめするわ。

イネス
イネス

だってその人はもう、サルカズとして生きるしかないのだから。

イネス
イネス

生きていくことに、自分がどうこう思っていることなんて重要じゃないのよ。

パプリカ
パプリカ

だからあんたは、このサルカズの戦争に参加したんすか?

イネス
イネス

……どうやらもう少しマンフレッドの傍で色々と学ぶべきね、あなた。まだ戦争における一番大事な知識を教えられていないのがこれで分かったから。

パプリカ
パプリカ

でもこの前、マンフレッドが『サルカズ戦史』って本をウチに貸してくれたっすよ?

イネス
イネス

……

イネス
イネス

その本の作者は知ってるわ。ヘドリーっていう大バカ者よ。

イネス
イネス

やれ“サルカズの戦争”だの、“ヴィクトリアの戦争”や“公爵の戦争”だの、はたまた“王庭の戦争”だの。そういうことを言う連中はみんなどうしようもないバカよ。

イネス
イネス

これは自分のための戦争だって、そんなことを言うほど自惚れてるやつが存在すると思う?少なくとも私はそんなこと言わないわ。

イネス
イネス

戦争は戦争なの、それ以上でもそれ以下でもないわ。

パプリカ
パプリカ

この戦争がウチらサルカズを救ってくれるって信じていないのなら……あんたは何を信じて戦ってるんすか?

イネス
イネス

腹が減ればお腹が空く。喉が乾いたら水を欲しがる。腕を振り続ければいずれは疲れるし、ここから飛び降りれば死ぬってことを信じて戦ってるだけ。

イネス
イネス

余計な意味や解釈が付け加えられないものしか私は信じていないの。

イネス
イネス

苦しみっていうのは、そうやって意味や解釈を下手にいじるから生まれてくるのよ。

(マンフレッドが近寄ってくる)

マンフレッド
マンフレッド

それに加えて、利益は人を突き動かし、恐怖は人を駆り立て、燃え盛る炎と成熟した争いはそう易々と消え去ることができないと、私は信じているがね。

マンフレッド
マンフレッド

イネス、ここへ来たのならせめて私に一言挨拶をしてくれないか?

イネス
イネス

久しぶりね、マンフレッド。

マンフレッド
マンフレッド

あぁ、久しぶりだな。

マンフレッド
マンフレッド

お前ならここに残ってくれても構わないんだぞ?私と一緒にここで見届けようじゃないか。

マンフレッド
マンフレッド

もうじき嵐がやってくるぞ?

イネスとマンフレッドが一同に窓の外へ視線を向ける。
遠くでは土煙が舞い上がり、高速戦艦の艦隊が幾つもこちらに向かってきている。
この高く空を飛んでいる飛空船はとっくのとうに、周囲に展開していた大公爵の部隊の注意を引いてしまっていたのだ。
この飛空船の影の下で、まるで昆虫のようにこちらを追いかけて来ている小さな戦艦たちを見て、イネスはふと思った。

イネス
イネス

……あなたたちが欲しがっているのは火種だったのね。

イネス
イネス

いや、火種ならすでに燃え上がった。となれば、あなたたちはこの飛空船を……もっと大きく燃やすための薪にしようとしている。

イネス
イネス

カスターにウェリントン、そしてウィンダミア。もしかしたらノーマンディーもそこに入っているかもしれないけど……

イネス
イネス

そういった貪欲な大公爵たちの代弁者たちがこうしてこの区画に集まった。お互いの艦隊がお互いのライバルの動向を逐一探りながら、ね。

イネス
イネス

この飛空船の飛行速度も遅いことから、あなたたちは彼らを待っていた。誘っていたのということかしら?

イネス
イネス

飛空船が堅牢な城壁に囲まれたロンディニウムに戻ることなんて、大公爵たちが許すはずがない。だから彼らはここに集まった……

イネス
イネス

それをあなたたちは待っていたのね。

イネス
イネス

ザ・シャードに……的を用意するために。

マンフレッド
マンフレッド

ヘドリーはいいバディを持ったな、実に鋭い。私も彼のために喜んでやるべきなのだろうか?

マンフレッド
マンフレッド

だが、気付くのに少々遅かったな。

マンフレッド
マンフレッド

彼女を捕らえろ。

(イネスが兵士達を切り捨て走り去る)

マンフレッド
マンフレッド

パプリカ、彼女から何か誑かされたか?

パプリカ
パプリカ

……

マンフレッド
マンフレッド

戦争は戦争に過ぎない、それ以上でもそれ以下でもないって言われただけっす。

マンフレッド
マンフレッド

ほう……

マンフレッド
マンフレッド

そうだな、その通りだ。

マンフレッド
マンフレッド

だがもう少し視野を広くしておくべきだ。その戦争の周りにも、たくさんのものが存在しているのを忘れないようにな。

必ずこの情報を届けなければならない。
まったく軍事委員会はとんでもない計画を練り出したものだと、イネスも思わず唸ってしまうほどだった。
これから何が起こるのか、彼女にだって想像はつく。
公爵たちの武力は、ザ・シャードが引き起こした天災によって壊滅させられる。そしてこのツケを公爵たちはサルカズだけでなく、ほかのライバルたちにも求めるようになるだろう。
そして天災を引き起こす力をヴィクトリアが所有していることが明るみに出れば、この大地に存在するどの国家であろうと恐怖を感じ、そして怒りを露にするはずだ。
誰もがこの力を滅ぼしたいと、あるいはいっそのこと手に入れたいと企んでくるはず。
だがもしそんなタイミングで、国境を防衛していた公爵たちが内輪揉めで力を削がれてしまったら?
リターニアやウルサス、そしてカジミエーシュ。あるいは旧ガリア地区に至るまで、決してこの絶好のチャンスを逃すはずがない。
しかし、これはあくまでほんの始まりに過ぎない。
争いの火種は瞬く間に、大地全土に席巻するからだ。
とはいえ、それを止める時間はある。まだ遅くはない。それをイネスはよく分かっている。
この情報さえ届けてやれば。
廊下の果てに、黒い影が押し寄せてきた。あれは自分の影ではない、この飛空船の殻に住まう宿主のものだ。
イネスは以前、彼女のバディから死した魂の噂話を耳にしたことがある。この時になって彼女は初めて、自分が本当にサルカズではなかったことを心から喜んだ。

イネス
イネス

……そうね、影のことをすっかり忘れていたわ。

朝日は次第に顔を出し、長い夜は終わりを迎える。足元に見える移動都市の区画にも、長い影が引かれている。

イネス
イネス

……仕方ないわね。

イネス
イネス

これだけの高度にある場所を見つけた自分に感謝しなくちゃ。

イネス
イネス

……多分、ここから飛び降りたら即死でしょうね。

イネス
イネス

……

イネス
イネス

まさかいつも死から逃れてきたあのイネスが、とうとうそいつに捕らえられてしまうとは。

イネス
イネス

ヘドリーとWに知られたら、一生笑いの種にされてしまうでしょうね。

イネス
イネス

そんな惨めなところ、あの二人に見られなければいいのだけれど。

イネス
イネス

……ふぅぅぅ……

(イネスが飛行艇の窓を割って飛行艇から飛び降りる)

重力に引っ張られ、落ちていく身体。髪の毛は強風に吹かれ、ほとんど目が開けられない状況だ。
だがこの高さでなければ、イネスはノーポートを覆う影の全体像を目に収めることができない。
この高さでなければ、目の届く範囲にある大きな影を自身の制御下に入れることができないからだ。
自分に残された時間はたったの数秒。今にも下にある影に落下し続けている。
今がそのタイミングだ。
イネスの周りに死が纏わりつき始めた。

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