6:44 P.M. 天気/晴れ
龍門迂回道路、車内
坊ちゃま?
坊ちゃま、寝ておられるのですか?
ん、ごめん…何処に行くんだっけ?
もうすぐ待ち合わせの場所です。元気をだしてください、坊ちゃま。ペンギン急便の皆様がもうお待ちになっていますよ。
うん、分かったよ。
お疲れのようですね。
大丈夫。
私の戯言をお許しください。ですが、今回の旦那様の決定は本当に厳しいものです。坊ちゃまが何か困ったことがあれば、必ず私にお申し付け下さい。
…父はきっと、自分なりの考えがあるのだと思う。
それにペンギン急便が上手くいけば、父の周りの人達も、もう僕を邪魔することは無いかもしれない。
坊ちゃまは家系の有史以来最も若いトランスポーターですし、仕事能力も申し分ないです。これで十分なのでは。
そうかもしれないけど、大勢の大人たちは必ずしもそうは思っていないんだ。
坊ちゃま…。
窓の外を見れば、龍門の大半の民営トランスポーター業務は父の手中に落ちてしまった。
ペンギン急便、彼らは最後の、そして最も独立し、変な噂も多い会社でもある。
父と皇帝は仲が良いみたいだけど、彼らをよく理解しておかなきゃならない。少なくとも僕ならそうする。
ですから、坊ちゃまのことが心配なのです。ペンギン急便が非情に特殊なことはよく分かっておりますから。
そんな顔をしなくても大丈夫だよ。自分のことは自分で出来るから。
あなた様には、坊ちゃま。同い年の人たちのように笑っていて欲しいのです。
今晩は平和な夜です。友達と一緒に街に出向いてみても良いのでは。
…僕に友達がいなことを馬鹿にしているの?
そんな、滅相な。ははは。
申し訳ありません、坊ちゃま。あなたの盾はまだお手元にございますか?
どうして?
私達は狙われているようです。
目標を見つけた。準備は良いか?
ふん、起爆用の導火線が少し短かったみたいようだが…。
そんなこと問題ではない。やれ。
(爆発音)
な――爆発!?
坊ちゃま、しっかり捕まって――。
目標発見。まだ生きているようだ。
そいつを連れて行け。さっさとしろ。
(道路を爆破したのか…?それに、あいつは….)
(くそ、視界が…はっきりしない…)
状況はどうだ?
目撃者は多いようだが、他のターゲットを見かけはしなかった。
待て、煙の中に誰かがいる!
生存者がいるのか?そいつも一緒に――。
(銃声)
あぐっ――。
おい?おい!
そんな簡単に殺されるのか?
ちっ、俺はこんなよくある映画の芝居をすることは好きじゃないんだが。
ペンギン急便。
よく知っているね。
でも私の考えだと、郊外の道路の中央にバリケードを設置して、更に爆弾を埋めるなんて方法、レトロ過ぎると思うけど?
爆破は個人的な趣味だ。周りをよく見てみろ。仕事はそんな単純なものじゃねえぞ。
くそが、あの馬鹿、まさかこんなにも多くのオリジ二ウム爆薬を使うとは。もしこれがネズミの王様に知られたら、俺達は食えなくなるぞ。
ペンギン急便のトランスポーターを発見した、エクシアです。あいつは爆破チームの奴らにあげたはず…。
意味ねえよ。それに問題にすらなりもしない。それでテキサスとかいう狼は?
いえ、見かけませんでした。
ふん、ならいい。奴らを包囲してさっさと終わらせろ。
案の定待ち伏せもいたね。徹底的にやるなあ。
えーっと、まだ動ける?手足がふらついているみたいだけど。
…なんとか。あなたは…エクシアさん?
そうだよ!あなたの名前は、ええっと、なんだっけ?
バイソンです。
僕たちは…まずはここから離れないと。
顔をこわばらせないで。あの執事の人は無事だから。
本当ですか!?
一応彼を道端までは送っておいたけど、彼の様子を見た限りではあまり助けは必要なかったかな…まあいいや!
(クロスボウの発射音)
ペンギン急便のエクシア、そして小さなお坊ちゃま。降伏しろ。俺たちと一緒に来い。
よく知らない顔が多いけど、こいつら全員シラクーザの親戚?龍門での商売のために募金でもしてるのかな?
お前には関係ねえ。今回は徹底的にお前を潰す。
ふーん…。龍門に長くいるけど、あなた達の縄張り争いって最も簡単で乱暴だよね
シラクーザのマフィアってバーで殴られることだけじゃないんだ。
はは…シシリアンを馬鹿にしたことを後悔するが良い。*龍門での悪口*。やれ!
(ボウガンの発射音と盾で防ぐ音)
ふう、何とか間に合ったわ。
タイミングばっちしだね、クロワッサン!
せやけど、あいつら手を下げるつもりは無いみたいやで。これからどうするんや?
いつも通りだよ、あなたが道を開けて、私は殿を務めて、仕事が終われば、ボーナスは折半~
それじゃあ――遠慮なく行くでえええええ――。
(大きな音)
な、あの馬鹿力、直接道を切り開きやがった!?
…お前たちは先に追いかけろ。あまり無理はするな、リーダーの支援を待つんだ。
は、はい!
奴らを逃したのか、ろくでなしが。
ちっ、誘拐は元々俺の得意分野じゃねえ。ペンギン急便の他のメンバーは現れはしなかったが、配置が終わる前に、いきなり龍門市街に入るのはオレたちにとっては不利だ。
言い訳してろ。車がお前の方に向かった。オープンカーで、どいつも顔なじみだろう。
…もうか?
ああ、もう、これは一体何回目の行き止まりなんだろう?
どうせ、周りは何百年も無人の建物なんやから、壁に直接穴を開けてもええんとちゃうんか。
ま、待って下さい、二人共!何処に行くつもりなのですか?
やつらはここにいるはずだ!行き止まりに潜り込んで死を待っているだけの奴らを包囲しろ!
これじゃ逃げることが出来ないよ!?
そうだ!
有効な対策があるんですか!?
私達ってまだちゃんと挨拶してないよね?
あいつらを全員潰してしまえ!
(盾で弾く音)
それって今言うべきことじゃないですよね!それって大事なことです!?
いいや。
それは重要だ、とても重要だ、かなり重要だ。
私達は企業文化を形作ることを非常に重視しているが、今日の文化のキーワードのスタイルは「儀式感」だ。
さっき決めたことだが。
あ、あいつは皇帝!早くリーダーに知らせろ!
待て、もう一人いるぞ!
餌が空になったぞ、エクシア。
シラクーザの奴らも馬鹿ばかりじゃないってことだよ。また機会があるだろうから、気にしないで。
それじゃあ紹介するね。こちらが私達ペンギン急便の臨時メンバーとなった、バイソン。
あいつらの逃げ道を塞いだ。も、もうやるしかない!
(斬撃音)
お前たちは横になっているといい。まだ死ぬ番では無いのだから。
ちっ!慌てるな、リーダーが応援を連れてくれれば――!
セット!
点灯、はい!
ふ、フラッシュ!一体何処にライトがあるんだ!?
ようこそ、ペンギン急便へ。子猫と子犬ちゃんたち。
お前たちは既に私の視線の中におり、私の視線の中にはペンギン帝国の国土がある。
申し訳有りませんが、ビザはお持ちで?
無い?
では実家にでも帰って泣きじゃくる位しか無いな。
(戦闘)
7:10 P.M 天気/晴れ
ペンギン急便拠点、ヤバそうな室内。
ここがペンギン急便の拠点…。
(滅茶苦茶だし、とても暗いな)
私達の拠点は一つだけだ、あまり上手く片付けられなくてな。自由に座ってくれ。
あ、ありがとうございます…まだきちんとお礼を言っていませんでしたね、ペンギン急便のみなさん。
仕事をしただけだ。まずは自己紹介をしてくれ。
――トランスポーター、コードネームはバイソン。龍門峯馳急便から来ました。父の指導を受けて、貴社を見学しに来た次第です。よろしくお願いいたします。
皇帝さんとの契約内容については以前に確認はしましたが、まだ…。
ちょっと待ってくれ。私には小さな疑問があるんだ。君のとても太くたくましいお父さんがどうやって君をそんな風に育てたのか――。
…ボス。
はい、はい、続けてくれ。
ええっと、先程の襲撃は疑いもなくペンギン急便と峯馳急便に対する挑発かと思います。
このことは決して軽視してはいけないでしょう。必要があれば父と近衛局のほうに報せます。このことは悪質な攻撃とみなすべきかと――。
ふむ、テキサス。
はい?
晩ごはん何する?
歓迎パーティしよう!まだ聞くことはある?でもソラは何処に行ったんだろう、留守番してたんじゃないの?
どうせテキサスが連絡をすれば、すぐに帰ってくるやろ。
あ、ごめんな。そんじゃ続けて。
(ソラ?)
…それで、僕たちを襲ってくる敵やペンギン急便を調べている人たちに関する何か手がかりは?
手かがり?これって普通にある業務紛争じゃないの?
へ、業務紛争…?
テキサス!私の引き出しの中にあった葉巻は!?
ボス、私達は久しぶりにこの拠点に帰ってきたんだよ。もうカビが生えていたのかも。
ソラが掃除をしていたので、その時に捨てたのかもしれません。
ああ、私は今日の夜に死ぬんだあ。だめだ、もうだめだあ…。
あ、続けて。気にしないで。
まずは敵の目的をはっきりさせるべきかと――。
ちょっと待ってくれ、レコード!私のレコードは!一箱ここに置いておいたのは?
ああ、それなら私のところに引っ越してきたで。あの箱には私の数カ月分の給料分があるからなあ。
ここで何か聴くの?
もう何でもいいや。私を選んだのは宇宙の終わりレベルの素晴らしいことってだけか。
ああ、音楽、芸術があってこそ人生はつまらなくないものとなる。音楽を賛美し、そして私自身を賛美する。
バイソン、続けて。
…僕はもう言いましたけど?
彼らの目的は。
そう!彼らの目的は僕です。貴社と我社の関係を挑発するためのものなのかもしれません。
なんだ、そんなこと。これぐらいのことで前のことの仇になるとは…。
何か心当たりがあるのですか?
――よしよし!テキサス!奴らを調べに行くぞ!
残業手当は3倍で。
まあ、この程度の喧嘩なら月に17~8回はあるよ。トランスポーターってのは全員こんな感じじゃないの?
…どういうことです?
トランスポーターっていうのはここまで秘密裏では無く、素早いもの…武力を基準にはしていません。
それって本当?
…私達は物流会社の筈なのに、どうしていつも派閥闘争に巻き込まれているのだろうな?
奴らは無知の度合いが低すぎて、自分の生まれてからの人としての品位が低すぎるからだよ。
社長が私達に給料を払っているからやで。でもちゃんと法律を守って荷物は運んでるからな。
まあ、大体は武装輸送になるんやけどな。
それって、何か問題でもあるの?
…?それで本当に大丈夫なんです?
ふむ…。
先で待っていてくれ。
ここにソラが残したパスワードがある。
ク、クッキー?
え、何で開けるの?ここで開けるのは湿気もあるしまずいよ。
チョコレートのある面は長いのに、尻尾の部分は短い。これはパスワードだ。
(これは何か独自的な暗号学なのだろうか…。)
なんや?それ本気なんか?冗談やないやろな?
…ただ普通にソラの話を覚えていただけだ。
「不審者」。うん、ソラは追いかけていったのかもしれない。
彼女と一緒に行ってくれ。もう退勤の時間だ。
今日は静かな夜だ。残業もないし、資本主義の圧迫も無い。そうでなければ死人も安心できないだろう。
夜に誰か飲みに行きたい人いる?
え?もしかしてボスの奢り?実はな、前に値段の高い蔵酒を仕入れておいたんや~
全然良いよ。どうせ君たちの大量の給料から差し引くことになるだけだから。
もうええわ!
待って下さい!それで…なにか対策はあるのですか?
いらないよ。
あのマフィアを放っておくのですか?
一歩ずつ歩いていけばええんや。
…龍門近衛局には介入させないのですか?
多分出来ないだろうね、あいつらも慣れているはずだし。
はあ…。
もう起こってしまったんだ、受け入れて対処するしかない。
だが、先月送った公共物損害賠償のリストは少し長い。各自注意するように。
…あの、いつもの仕事っていうのは?
配達を委託されて、喧嘩をする。喧嘩があるのなら喧嘩が優先。
ちなみにどの依頼もボスの手からのもので、誰がやるのかというと、誰かが奪うまで誰のものでもないよ!
…。
ふむ、バイソンという子供を最近にお父さんから頼まれたが、たとえ一時的であろうとも君はペンギン急便の一員だ。分かる?
――分かっています。ええ、おそらく。
ペンギン急便物流スタッフの心得第一条である重要な規定は覚えておかないといけないよ。それは「細かいことにはこだわらない」ということだ。
昨日は「愉しみながら死んでいく」じゃなかったっけ?
私は「一瞬を楽しめ」って覚えてたけど。
…大体同じだろ。
君のようなお坊ちゃまを誘拐したいという犯罪者は少なくはない。だが私達のルールで、一つのゲームをするという点では簡単だ。
――待ってくれ。お尻がおかしい。完璧な人体工学ソファーの下に何かあるんだが?
ん?見てみるよ。
あ、かわいいキャンディーボックスだ。ボス、椅子の下にお菓子を盗んでおくなんて!
何をでたらめなことを、お菓子をこんなところに隠すなんて馬鹿な――キャンディーボックス?
キャンディーボックスの上に書いてあるよ「ヴィクトリアフルーツグミ」って…。
離れろエクシア。それはおそらく罠だ。開けるな――。
へ?
くっ、伏せろ。
(爆発音)