燃え盛る廃墟が中心に押し出され、怪物のような敵が高い位置に居座る。
この包囲の中心にいるのは突然現れた女性で、一人の…風変わりな人物だ。
そしてサルカズは止まった。
彼女はサルカズではないが、一人で戦場の中心に立っている。
イネスは震えていたが、彼女は何故震えていたのか分からなかった。
聴力は爆発で損傷してしまったようだ。彼らの話がよく聞こえない。
しかし、彼らが恐れていることはよく分かる。
目の前のこの人物にだろうか?
いや、みんな違う方向を見ていた。他の人を。
意識を失った最後の瞬間に私は見た――
一人は…サルカズだ。
敵意の無い…繊細なサルカズ
…
彼らは…臨時で…
サルカズは…必ず…
…お前は…何だ?
彼女の傷はとても思い…ここで応急処置をしなければ…
…彼…だったら…ここを見つけ…時間が無い…
…ケルシー、手を借してくれ。
…ああ、良いだろう。

――!

ここは――

船の上だ。

船…?

…どうして私達は生きているの?

自嘲したいのであれば私を巻き込まないでくれるか?

つまり…

総じて助かった。

…ここは何処だ?

輸送隊の本隊がずっと護送をしてきたのはこの船だ。今は一時的に負傷者を収容している。

建設中の施設のようで、この船の構造は分からん。

(だけどあの時見た影は確かに…深追いはしないでおこう)

…ヘドリーは?

…彼はここの雇い主と…いや、違うか…ここの主人と交渉をしている。

そうね、ここで大人しくしていたいわ。ヘドリーならきっと大丈夫だろうし。

ちっ。

それで、ここの主人とはどういうこと?

緊張しているみたいね。あなたのその害悪な視力のオリジ二ウムアーツを私は持っていないけどそれでも感じるわ。

…こんなところで、お前が私のことを本当に心配しているとは思えないんだが?

…まあそうね、それで何で緊張しているのかしら?

あー。

私は今は彼がかわいそうに思えるよ。

あの部屋の中には一体どんな化物がいるのやら…。

…。

..そこまで緊張する必要は無い。会議の効率に影響を与えるだろう。

お前たちが最前を尽くしてくれたにも関わらず情報が漏れてしまったのは私達のミスだ。

…戦場において何が正しいのか、俺たちが誰と対立をしているのかはよく理解しています。

ならば問題はない。

しかし、あの指揮官が…本当に殿下の身近な人物だったとは。

あなたの…その力にも驚きを隠せません。俺はまだあなたに正式にお礼を行っていませんでしたね、ケルシー先生。

テレジア姫の意思だ。

私が何かしら?

――!

殿下――

ここはカズデルでは無いので、必要以上の礼儀は必要はありません、腰を下ろしてお話をしましょう。

…かしこまりました。

それであなたのそばにいるこの方が…。

…。

お気になさらず。どんな戦略的情報だろうとドクターは知っておかなければいけませんので。

分かりました。ありがとうございます。

…。

(本当に艦船なの…規模が明らかに小さくないんだけど…)

(一部の施設は新しく見えるのに、一部のところは古ぼけていて近づけない…)

(覚えているわ…これはレム・ビリトンからのものね…)

あ!ご、ごめんなさい。この前にある施設はまだ工事中なんです…

ケルシー先生はこれ以上深く入るのは危険だって…

そう――。

じゃあ道を変えようかしらね。

ありがとうございます。

…礼儀正しいのね。その耳を見る限り、サルカズでは無いわよね。

そう言えばイネスよりも嫌な感じの女は医者のようね?サルカズでは無さそうだけど…。

ここは一体どういうことなのかしら。戦場の中心にいるというのにサルカズ以外のものばかり――
また引っかかった!!

ん?

お、落ち着いて、クロージャ。今日の7番目のショートは――

七――回――ショー――ト――。

これは天才エンジニアにとって最大の屈辱だよ!ドアの買い替えを考えよう!その方が早い!

いえ…負傷者が多く出ていますし、食事の買い出しも緊急を要しています。人でも予算も…

それにここで諦めるほうが恥ではありませんか…。

うああああ――

それじゃ!殿下!

私に3日ちょうだい、3日!それでも直せないのであれば、セキュリティシステムを全部解体して再インストールするから!

さ、再インストール?出来るのですか?

誰が作ったかは知らないけど、レムビリトンの地下深くにはこのシステムが埋まっているのよね。それでも分からないというのであれば――

――分かりやすいものに作り変える!とても簡単な道理だよね!

そ、それではお任せします。

心得た!

…ふう。

ロドスアイランド…運用にはまだ時間が掛かりそうですね…。

ロドスアイランド?

あ――

あなたは…ヘドリーと一緒だった…。

目が覚めたようですね?あなたはひどい怪我をしていました。

(彼女、さっきは驚いていたようだけど…)

傭兵のWよ、ヘドリー隊長を探して道に迷ってしまって――

探索をする時は気をつけてくださいね。一部の区域はまだ工事中で、ケーブルが全部外に露出しているます。感電に注意してください。

しかし、この程度のことであればあなた達傭兵であれば天性のものなのでしょうね。

…

W、でしたか。

私のことはテレジアと呼んでください。

――。

ヘドリーは会議が終わってからドクターと話をしていたようですが、今はもう臨時病棟に戻っているはずです。

仲間を心配させないように、あなたもお帰りなさい。

テレジアは…殿下は何故このドアに力を注がれるの?

さっきの背の小さい人はエンジニアでしょ。これっぽっちのことで…

小さなことでは無いわ。

そう…なの?

どういったことが本当に注目するべきことなのかしらね?

…。

…それでロドスとは?

ええっと、聞こえてしまいましたか。

この船の名前なんです。正式な名称ではありませんが、私は…そう呼びたいなと。

片思いですから、ドクターとケルシーは”本名”を使うことには反対するかもしれませんね?。

…は、本名?この船の?

あなたも見ましたでしょう。この船はカズデルが作ったものではありません。

もっとも最深部に残っている資料の中で、この名前を目にしたのです。

「ロドスアイランド」。

私もこれが何を意味しているのかは分かりません。んー…ケルシーならもっと知っていると思いますが。

でもそう名付けたいのです…名前がある異常。

(カズデルを奪取した政王とほぼ互角に渡り合うことが出来て…ほぼ自身のちからで大半のサルカズの派閥を再統合したテレジア殿下が…)

(電気が切れた自動ドアを自分で修復している?)

…

どうしましたか?少しおかしな表情をして。

殿下の前で声を出して笑うのは…僭越ではないかってね?

いえ、大丈夫ですよ…ですが、ケルシーもドクターもあまり笑わないですね。戦士はたくさんのことを背負っているので、心を開きはしないのでしょう…。

出来ればみなさんが笑顔でいてくれれば良いのですが…

ですが、これは無責任で過度な願望です。皆に押し付けられている重荷を無視することは出来ません。

少し笑わせてもらってもいい?

へ、どうぞ?

….。

いや、急に笑えなくなってしまったわ…。

私のせいですかね…

ふふ…こほん、失礼。

それであなたは?

私?

私はテレジア、これはロドス、あなたは?

「W」…。

それは違います。「W」は一人の傭兵のことを表します。あなたの名前こそが自身を表すものなのです。

戦火にまみれた偽りを長引かせてはいけません。名前だけでなく。おせっかいかもしれませんが。

…。

あ…ごめんなさい。

あなたは自分の名前を持っていないのですか?

カズデルで生まれたサルカズにとっては当たり前のことでしょう。

サルカズはそんなこと気にすることなんて滅多にないわ…名前なんて。忘れる速度も早いし、あんなにも多くの人の本名を覚えるなんて効率的では無いわ。

彼らを忘れたくないし、忘れられませんから。

カズデルの命運が落ち着けば…あなたも「W」で無くなったら、私達にも会話する機会が訪れるでしょう。

より良い名前を持つことが出来るかもしれません。あなたのようなサルカズの女性に似合った名前が。

ロドスのように名前があれば、より暖かく聞こえるでしょう?

…。

そんなこと考えもしなかったわ…。

カズデルに動きがあった。ドクターはもう手配を始めている。

テレジア、通信だ。

ええ、すぐに行くわ。

W?

ん、ええ、ここよ。

もしあなたがまた私達のために戦うのであれば、あなたが何をしていようが、ここはいつでも歓迎をします。

…あー。

私はテレジアの決定に口出しすることはしない、だが…。

ここでは好かれるとは思うな。お前の経歴を見させてもらったが、お前は危険だ。

え、お互い様でしょ?

…身体の回復は早いようだがまだ自由に歩き回れるほどではない。

君は病床に戻っていろ。でないと誰かが君を連れ戻すことになるだろうが。
後になって気付いた。
私は最初から最後までテレジアの目を正視出来なかったということを。
何故だろう。
彼女は無邪気に見えた。
この残酷な戦争を主催した指導者の一人には見えなかった…
無邪気…なのだろうか?
無邪気な人はあんな目をしないはずだ…あんな…悲しい…
…彼女の周りにはいつも二人が取り囲んでいるように見える。
彼らと…一緒に立つことが出来たら…
どんな風景が見えるのだろうか?

…。

…?。

(あのフード…あいつが彼らが言っていたドクターかしら?)

(こっちを向いているのかすら…)

(どういうこと…どうして…)

(私が怖がっている?何が?あいつの感じは至って普通なのに…いや、おかしすぎる。あんな怪しい人見たことがない…)

あ…バベルの戦場指揮官を思い出すわね…)

(「ドクター」だっけ)
私はイネスがどうして殿下に近づくことが出来なかったのかが分かった気がした。
私も心配をするべきなのかもしれない。
でも…どうしてなのかが分からない。まあ、テレジアのことについてもよく分からないんだけど…
きまぐれだと思うけど、ヘドリー達は理解してくれるだろう。