11:30a.m.
リーダー。
幻影射手たちか。無事に戻ってきてくれてなによりだ。
前より人が多いようだが。彼らは龍門からの同胞たちか?
たくさんの感染者たちが……俺たちについてきたんだ。
まさかここであんたらに出会うとはな。
チェルノボーグの物資を利用すれば、多くの人々を救える。このセントラルシティは我々が龍門を攻略するための鋭刃だ。
なんだと?は、話と違うぞ、リーダー…
なぜ龍門の状況が計画とまったく違うんだ?俺たちがあそこで一体どれだけ無駄な犠牲を強いられてきたと思ってるんだ!
おい、リーダーに向かってその口の言い方は……
いや、彼の言う通りだ。
我々の同胞諸君は有り余る苦痛を浴びてきた。我々の作戦計画も敵の姑息な小細工に、挫けられ続けてきた。
だが、たとえ我らの先鋒が一時の障害に突き当たったとしても、レユニオンはお前たちのために報復する決心は揺らがない。お前たちの傷、犠牲の仇は、私が討ち取ってみせる。
だから安心してほしい、私はいつまでもお前たちと共にいる。
……そう願いたいところなんだがな、リーダー。
ん、お前が背負ってるのは……メフィストか?一体何が……
……
ファウストは彼を助けるために犠牲になったのか?
……そうだ、リーダー。ファウストは自分の命を顧みず、アーツで俺たち全員の痕跡を隠して、逃げ出すチャンスを……くれたんだ。
ほう?
……
幻影射手とその同胞たちよ、レユニオンの同胞たちは……ファウストを決して忘れはしない。
彼を下に下ろしてやってくれ。メフィストは少し休む時間が必要だ。
戦士たちに今の駐屯地へ案内させよう。
それと、リーダー……俺たちはクラウンスレイヤーの消息を早くからなくした、彼女の行方がわからない。
スノーデビル隊に至っては……フロストノヴァさんも、あいつらも……みんな……
――
あまりに悲哀な報告だ。
少し……一人にさせてくれ。
……
サルカズ。彼らを城内のいかなるレユニオン人員と接触させるな。
どの程度までだ?
永久に。徹底的にだ。
あえて隠してるのか、それとも自分たちで導き出した成果なのか?彼の部隊は私の知らない情報を持っていた。
おそらく……戦闘中に成長したんだろう。あのような尋常じゃないアーツを持っていたにも関わらず、彼は私に一言も話さなかった。
……不言不語が偽るための皮になったとはな。生き残るのはファウストのほうだと思っていた。
だとしても、おかしくもないか。
……お前は誰だ?
私は誰だ?
何をしたんだ?
私は何をしたんだ……?
お前たちに……加わる?自分のために戦う?
戦う……?
はっ、崇高なウルサス人が。
お前たちこそが最後に行きつくべき存在だったな。
セントラルシティの移動速度が元に戻った、停止時間はあまり長くなかったですね。
ポジティブに考えれば、レユニオンはおそらく一部の龍門から移ってきた感染者を回収したんでしょう。そうあってほしいです……
だがこれで、こちらも戦略を変えざるを得なくなった。
予想できるのは、敵指揮官が自分たちの目的を隠す必要性が無くなり、感染者難民の受け入れを拒否するまで、セントラルシティはこのあとも数回停止する。
ウェイ・イェンウーが時期を見計らって進攻すれば、敵はそれに対応して今の防衛配置を変える、そしてこちらの位置がバレてしまう危険性がある、その時はただの的だ。
あの協定でせめて文月さんがウェイ長官を少しでも引き止めてくれればいいのですが……
よし……セントラルシティの中央区にかなり接近できました。
私たちが通ってきた地下と地上をつなげる大量の通路は、もともとセントラルシティの物資輸送構造の一部だったらしいです。天災の発生後、すべての工業施設は作業を停止しました。
なのにその状況下で、セントラルシティがまだ稼働、移動すらできるなんて……ケルシー先生が言ってた地下施設と関係があるのでしょうか?
でもとにかく、輸送通路はこちらの隠密行動の役に立ってくれました。中央区の備蓄倉庫区域に接近するにつれ、敵の数が二倍ぐらい増えてきましたが……
セントラルシティに潜入してから、まだ大きな武力衝突は起こっていません。ただ中央区に入ったあと、レユニオンとの衝突、ひいては交戦回数も、劇的に増加するかもしれません。
偵察部隊と行動部隊は私たちより先に配置に就いた。今のところ問題なく順調に進んでいる。
・なぜ私たちは小隊三つだけでの共同行動なんだ?
偵察部隊と特殊部隊はそれぞれ各自の任務がある。
ロドスの通信専門家の一人、Raidianが今回の作戦で偵察部隊隊長を担っている。
部隊同士が離れていても、コンタクトは可能、これもすべてあの部隊のおかげだ。
・その人にまだ出会ったことが無いんだが…。
偵察部隊は従来より単独行動が多い。
Outcast、Raidian、それとチェルノボーグでの救助作戦で犠牲になったScoutも――
偵察部隊隊長を担う精鋭たちは、ひとつの部隊を仕切り、リスクの発見と報告、リスクの事前処理という重荷を常に背負っている。
Raidianはそれ以外の二人よりも戦闘は不得意だ。しかし戦局の影響度からいえば、ロドス屈指の一人ともいえる。
今回の攻撃任務は我々の三部隊が担う、Raidianには偵察任務に専念していてほしいからな。
特殊部隊に関しては、彼らの任務は正面作戦とは関係ない。
・それも話してくれ。
・……
・だから話してくれないのか?
今は必要なことだけ知っておけばいい、時が来ればおのずと知れる。
それぞれの部隊は戦略計画という大きな鎖を作るための一つ一つの輪だ。強固で頑丈な構造は安定した結果を出す。
それと同じように、強敵にも複雑に絡まった木の根を持つ。その根が異なる分野から養分を吸収して大きくからなる。枝を切り落とすだけではダメだ。
我々の任務はその根を敵の見えないところから火で炙ることだ。
・え?どういうことだ?
・……
・わかった気がする。
ふん、お前に分からないことなんてないだろうに…
「ドクター」。
止まってください。
遠方にモヤモヤした感じが見えます。
整列している、動きもない、互いに衝突してる感じもありません。
……すごく固い。あと移動しています。
レユニオンの……防衛部隊みたいですね。彼らは避けて、ほかに行けそうな道を探しましょう……
彼らとやり合う時間はありません。
――アーミヤ。
ケルシー先生?
注意深くよく見るんだ。何も感じていないのか?
全オペレーター……防護装備を着用。
……まさか……ローズマリーさん?何か異変を察知しましたか?
え?……いや、してないと思います。たぶん。
あれはローズマリーのアーツが及ぶ範疇ではない。
感情に頼りすぎるな、アーミヤ。感情はただ感覚を察知するだけではない。髪の毛に指を走らせるように、最初に感じるのは愛着や喜びなどではないんだ。表層を見ることが大事だ。
表層を……?
アーミヤ、君は暗い深層から表層に戻ることができる。これはお前にしかできないことなんだ。
では先生の言った通りに、やってみます。
ん……エネルギーが……漂ってるのが見えます。空気の中に何か匂いが、これは……
……死体?
いえ、現実の死体じゃありません、まさか……うそ。え?どうして……
……サルカズです。サルカズのアーツです。死の匂いを含んだ……儀……式?
作った後に動かしたんだろう、古い儀式だ。
――あれは現代のアーツでも、ましてや現代的な戦術でもない。
・サルカズのアーツは普通のとは違うのか?
はい。普通のアーツとは違います。現代のサルカズ人でもあのアーツを動かすことはできません。
ケルシー先生の言いたいことはわかります。あれは、おそらく現代のアーツ理論で形成された産物ではありません。古いサルカズの儀式です。
敵はおそらく最も「純血」なサルカズ人だろう。現代国家が使おうとしないあの技術は、古くからのサルカズ人とサルゴン人の間でしか受け継がれない。
……あれは鉱石病感染と施術者のオリジニウムへの異様な解釈を媒体とした儀式です。
乱雑なエネルギーの正体は、オリジニウムの核から外に漏れだしたものですね、この街区域全体を覆っています。
儀式の元になった高濃度のアーツの渦が生物にどれほどの影響が及ぼすのか想像に難くありません。
味方だろうと敵だろうと……生命活動の痕跡はすべてあのエネルギーの波によって引き離されてしまいします。
あれは現代戦術のニーズに合いません、もたらされた損失が戦果を上回ってしまうかもしれないからです。
「カニバリズム」。
大げさに聞こえるかもしれないが、ただ、あの儀式は確かにそう呼ばれている。
儀式の殺傷力と外部に情報を一切出さないこの「巫術」という行為、祭壇と呼ばれる発生装置なら、そう言われてもおかしくない。
私は……私は普通のサルカズ傭兵がこのアーツが使えるとは考えられません。
カズデルでアーツを学んだ戦争経験豊富な人でしか、この儀式を成功させることはできませんが、実行者が術師である必要もありません。
でもその人は……ただのカズデルのサルカズ人のはずです。この大地で流浪するサルカズの末裔ではないからです。
……ケルシー先生、第二防護装備は、このサルカズのアーツの影響を消すために設計されたのですか?
完璧ではない。儀式に含まれてるエネルギーはこちらが設計した最大限界度をはるかに超えている。
天災に破壊し尽くされたこの都市だからこそ、あの儀式は順調に作動したんだろう。
我々の防具では敵儀式の影響をかき消すことはできない、アーツが古いからと言って威力が弱いわけではない。
今はあれの殺傷力を少し弱めることしかできない、この区域の敵を掃討したあとにあれを破壊する。
サルカズの儀式はしばしば現代技術への挑戦と見なされてきた、だがそれだけではない。
あれはこの大地の文明への新たな挑戦に等しい、歴史上でサルカズ人たちが企てたように。
・それは比喩だろう。
もちろんだ。だがサルカズの歴史は比喩では片づけられない。
このセントラルシティを防衛しているのはただのレユニオンではないことは以前にお前と話したな。
おそらくレユニオンが「ニューラルネットワーク」の各「中枢」に頼って大規模行動しているのは確かなのかもしれない。
だが今までのような純粋な推進戦略と違って、レユニオンは普段と打って変わるだろう。
考えてみろ、もし感染者との戦闘に不慣れな兵隊が、サルカズ人とどう戦っていいかわからない現代武装部隊がセントラルシティに入り込んだら……
彼らはここで惨敗するのは明白だ。
……理解しました。
では……そうですね……
ドクター、ケルシー先生。
敵がサルカズアーツを実行してる位置は、きっと敵にとって重要な拠点、もしくはインフラのチョークポイントなのかもしれません。
彼らは私たちよりこの区域の地理が詳しい、私たちが行ける道も、彼らに先に発見されます……であれば彼らの防御の展開速度もこちらの行動より早いはずです。
こちらが唯一握っている優勢は、情報です。私たちは敵の分布をおおよそ判明できています、でも彼らはこちらの実態を把握できていません。
……なので私たちはこの区域を防衛している敵を迅速に叩かなければいけません。行動時間が短かれば短いほど、こちらの安全度が上がります。彼らにほかへ知らせる時間を与えてはいけません。
敵を闇討ちする考えは捨てたほうがいいでしょう。ここで時間を無駄にしてはいけません。
わかった、私がお前たちの奇襲を支援しよう。
はい、ありがとうございます……でも私……。
先生、でも、ほら、もしできれば……
――良いだろう。
私の支援が必要ないのであれば、ドクター。
・うん?
・……
・手伝えることはあるか?
アーミヤの指揮を頼む。
戦況は自分たちで判断するんだぞ。
わかりました!
ローズマリーさん、動きましょう。
この戦闘終了後、私たちは直ちにこの区域を抜け、セントラルシティの地表を目指します!
ローズマリーさん……ようやく日差しが浴びれますよ。
日差し~
(……)
(ふっ、あの様子じゃ大丈夫そうだな。)
(あとは君に任せたぞ、ドクター。わかるさ、お前は決して人を失望させたりはしない。)
ケルシー、みんなを失望させることはもう起こらないさ。
川の流れが戻らないように、同じことも二度起こらない。
もし同じ人と、同じことが……違う時代にあったとしたら、きっと違う結果になってたのかもしれない。この大地は……変えられる。
お前はそんなことを信じてない、そうだろ?
うん……信じてないか、それもそうだろうな。
でも私は信じてる。ドクター、あんな人が……わかってる……今みたいにじゃなければ、ドクターはこんな風にはならなかった。
あんなにたくさん見てきた、あんなにたくさん知ってきたから……たとえみんなが拒絶しようとも、私ならわかる。
ケルシー……ケルシー。
もし……お互いにもう少し時間さえあれば……お前と……
(君が昔の自分じゃないことが証明できるのであれば)
(もし今も……)
(どんなことだろうと、ドクター。君たちならできる。)