
ボジョカスティ、久しぶりだな。

――

ケルシー、卿なのか?

なぜ……老いていないのだ?

盾衛兵。遊撃隊は、待機だ。ここに全員集結する必要はない。

はっ。

卿よ。

あなたの声……喉に病変した器官ができたのか?

いや。ただ、時間と共に、こうなっただけだ。もはや、うまく、喋ることはできないが。

卿……ここであなたにお会いできるとは、夢にも思わなかった。

未だに憶えている、私と私の同族が去るとき、あなたと殿下は、私たちを止めたりはしなかった。

遠い、遠い昔のことだ。

あの頃の私は、血気盛んだった、今思い返せば、全て一時的な衝動に過ぎなかった。私は殿下の意思を、誤解していた。

……まだ彼女を殿下と呼んでくれるのか。

君主は、いついかなる時も君主だ。

私が去ったときも、殿下は殿下だ、亡くなられた、今でも。

……

まだちゃんとカズデルの君主とウルサス皇帝を区別していたんだな。

けじめはつけるたちなのでな。戦争だろうと、私の意思を攪乱しることはできない。だが私が奉事していた方々は、みな亡くなられてしまった。

私はすでにウルサスも、私の祖国と見なしている。陛下も、このウルサスに、この広大な大地にお隠れになった。

……あまりに長すぎた、ケルシー卿。私たちが去ったとき……

わが一族はまだ、没落していなかった、だが今は、もはや断絶はそう遠くない。

だがあなたは……変わっていない。歳月は、あなたを変えなかった。

いや、私たちは歳月に逆らうことはできないんだ、ボジョカスティ。私はもう過去の私ではない。

ボジョカスティ……なぜカズデルを去った?

私が去った理由は、聞けばおそらく、笑いものになるだろう。

私がカズデルを、離れたのは、人を殺すことに嫌悪していたからだ。

……だがわが生涯を振り返ってみれば、道は血で染め上がっていた。

君を左右する意思のない中、堅牢な信念はお前の血と共に未だに止まらず流れ続けている。君は笑いものなどではない、むしろ尊敬に値する。

過言だ、ケルシー卿。人を殺すことを、私は避けられなかった。私は確かに、数えきれないほど、殺してきたのだ。

ケルシー卿も、ご存じだろう、私の今の通り名は、どこから来たのかを

君の追随者たちは君を真にウルサスのために戦ってくれる戦士だと思っている。君がウルサスの未来のために、不公平や奴役、血と迫害と戦ってくれると。

君自身はどうなんだ?

(頭を横に振る)

戦いが、必然であったとしても、名が上がるのは、やはり嫌いだ。

多くの者のために、戦争をした。たが戦争では、終始人を殺さざるを得ない。

戦争が終われば、もし、本当に戦争が無くなれば、私たちはみな、死ぬ事が出来る。

だが戦争が無くなることはない。

だが私はいずれ死ぬ。

ただ、私は己の死に、価値を見出したい。私は死の間際に、感染者と、ウルサスの、もう一つの未来が見たいのだ。

私は常々、同胞たちにカズデルのことを、尋ねた。あなたは殿下と、長らく共におられた。あのお方はあなたを信頼していた。

あのお方が、信じていたのであれば、ならば私も、あなたを信じる。

あなたがロドスを率いて、ここに来られたのは、血を流すことのためではないと。

……たとえあなたの背後にいる、あの二人に、私の娘の、死の匂いが、染みついていたとしても。

――!

・私?と……アーミヤか……

パトリオットさん……

フロストノヴァは私達を試すために――

やめろ。もう話すな。

ロドスに報復するのか、パトリオット?

いいや、ケルシー卿。私は報復するために、来たのではない。

なぜ、彼女の行いのために、他者に報復しなければいけない?

彼女は自ら、その道を選んだのだ。その道が、たとえどこに向かおうと。

・あなたの娘は全力で私たちと戦った!
・彼女はとても強かった。
・フロストノヴァの意志はとても固かった。

・彼女は私たちを認めてくれたんだ。

黙れ。

・……なに?

……パトリオットさん?

彼女は、あの年ごろでは、まだ盲目的に委ねることしか、知らない。

事実として、我々が信じてきたものは、みな最後には露になった。それら全て、慈眉善目な、凶徒だったのだ。

・お前……!

パトリオットさん!でもフロストノヴァさんは、自分の命を、自分のアーツも……全部……全部……

フロストノヴァさんは本当に彼女の全てを私たちに見せてくれました、彼女自身を証明するために、彼女の怒りも、彼女の理想も……

彼女の死に価値はあったんです!

もういい。お前に、それを言う資格は、ない。

あ……

(アーミヤ、よせ。今はそれを言うタイミングではない。)

お前に何がわかる?

が娘が、病膏盲でなければ、お前たちを殺すことなど、造作もなかった、鎌で、稲穂を刈り取るように。

お前たちの身に、これから何が起こるかなど、興味はない。

私は、それに、微塵も興味などない。ゆえにお前たちは何も、証明すらもできない。

・タルラは今、セントラルシティを龍門に衝突させようとしているんだぞ!

まだ、ここがウルサスの領土だと、吹聴している、のだろう?

・なぜそれを知っている!?
・……
・どうやらこちらから教える事は無いようだな。

パトリオットさん……なぜ……じゃあどうして……

陰謀家の手段に、限りはない。陰謀家の考えなど、大同小異。

だが私は、やつらに道を譲ることはない。レユニオンは、自壊してはならない。

私は二度も、叛徒にはならない。私が裏切れば、全ての感染者に、全ての闘争に、正当性が失われる、すべて無駄に終わってしまう。

たとえタルラが、血迷ったとして……

お前たちのリーダーは、狂っている、あるいは叛徒だと、感染者たちに説明させるのか?

どうやって、彼女は今は間違っているが、過去の行いは正しかったと、説明する?どうやって、お前たちが追随していた、彼女を、今は、処分すると言う?

私は、レユニオンが、「感染者たちの内乱で、自滅した」と、歴史に記載されるようにはしない。させない。

だがレユニオンはもう自重に耐えられない。タルラがレユニオンを支離滅裂に攪乱した今となっては。

あなたの言う通りだ、ケルシー卿。

そのためにここにいるのだろう。

私は、敵と対峙するための、あらゆる準備を、整えてきた。

だがまさか、私の敵が、最後まで、感染者だったとはな。

……本当にそれでいいのか?

ボジョカスティ……死なない選択肢もあるはずだ。

選択肢?私の選択肢は、ただひとつ。

お前たちを皆殺しにすることだ。

パトリオットさん、無駄な犠牲を出すだけです!フロストノヴァさんと違って、今回の戦闘で出た損失は全て敵の思惑通りなんです!

違う。

コータス人、これは、戦争だ。

お前は私に手を止めろと言った。それを大人しく、聞き入れる、とでも?

皮剥ぎ者、骨を折り肉を食らう、悪毒な畜生ども、ウルサスの、ウェンディゴの……蛮族は、我々が浄化した。

醜く曲がりくねった身体、血なまぐさい四肢、百の眼、千の指をもつ、化け物は、我々が屠った。

ヴィクトリアの、蒸気甲冑を纏った衛兵、カジミエーシュの、銀槍の天馬に跨る騎士、ラテラーノの、敬虔な銃騎兵に、我々は連戦連勝した。

だが我々は、己には勝てなかった。帝国の貪欲に、勝てなかった。同胞たちの死に、勝てなかった。

我々ウェンディゴは、サルカズの中で、最も死に近い。

お前たちは、私の娘の死が、こびり付いている。

この大地には、死よりも恐ろしい、運命がある。

なぜ手を止めなければならない?私に、人としての道徳を説く者が、いるとでも?

私が、単純だから、素直に、受け入れろと?

私が運命に、弱者と見なされているから、それに、従えと?私が強者だから、すべてを担えと?

裏切者、反逆者、屠殺者、堅守者……

あらゆる称号は、この「パトリオット」のように、ただの、戦場の瑣末に過ぎない。

ロドス……

お前たちは私の娘を殺した。今度は私がお前たちを殺す番だ。

私は、復讐など、求めていない、復讐の心も、抱えていない。

私の娘はただ、戦うことを放棄した、それだけだ。

・違う!
・……
・それは間違っている。

彼女が諦めていなかったとすれば、彼女はなぜ、己の命が尽き、お前たちは生き延びているというのか!?

私は、しない。

私は己が目にしたものしか信じない。私は己が触れたものしか認めない。

私は、私の娘の死で、お前たちと敵対などしない。

……ただ運命が憎い。

撃ち落とし、砕き、粉になるまで、摺りつぶさなければ、気が収まらない。

運命が、お前たちを、私に仕向けたのなら。

喜んで、受けるとしよう。

……大尉!本当になさるおつもりですか……

私の栄誉は相応しくない、と思う人がいるからこそ、私に、戦いを挑んできた。

お前たちには、愚かしく死んでほしくはない。私はあまりに多く勝利してきたからこそ、私には、よくわかる。

それはつまり……

ボジョカスティ、死ぬのはよせ、馬鹿な真似はやめろ。

ケルシー卿、あなたも、何かを失う味を、ご存知だろう。

知っていてなお、成すすべなく立ち尽くすことが、あなたにはできるか?

――ボジョカスティ――

私の血は、もはやあのお方にためにはない。そうだ、私の今の祖国は……ウルサスだ。

だがあのお方が亡くなられたとき、聞こえたはずだ……あの長い嘆きを。

……

君も感じ取ってたいのか……

あれは彼女のアーツエネルギーが拡散し、この大地にいるサルカズの体内で響いたものだ。

この響きは一瞬にすぎなかった、君が感じ取れるということは、君の血筋も……相当古いということだ。

身辺に同じ血の者が、もういないほど、古いがな。

私の生まれは、カズデルだが、鉱石病に、感染しなかった、歳を老いて、やっと感染とはいかなるかを知った。

これは正しいのだろうか?

知っての通りだ、ケルシー卿。知っての通り、この大地で起こることは、正しくないからこそ、起こるのだ。

事実、この大地は、過ちを繰り返している。

兵士たちは、私たちは過ちを正すことができる、と言う、だが実際には、私はあまりにも多く、積み重ねていった、もう引き返すことは、できない。

卿は、失ったもののために、戦っているのか?

私は、違うと思う。

なぜなら、あなたは、失ってから、気づく人だからだ。

……

私の娘は、もうこの世にはいない。

――私は、彼女の死のために戦うつもりはない。私は、すべての生きる、感染者のために、最後まで戦う。

レユニオンは、過ちを繰り返してはならない。

レユニオンは、すべての感染者を、解放せねばならない。

あの老いぼれと老いぼれの兵士らに情報を伝えに行くんだろ?

そいつらに出会ったら、何を話すんだ?

……お前たちは遊撃隊をハメるつもりだ。ほかのウルサス感染者を……煽動して、彼らを殺すつもりなんだろ。

彼らが一般人に手を出さないと知ったうえで。

憎悪というのは最強の武器だ、誰かを殺せば、そいつは死ぬ。

生憎だが、彼は死なない。

彼はパトリオットだ……俺が今まで聞いてきた伝説たちは全て彼のもとにつながっていく、俺は彼の甲冑と、彼が武器を軽々と振り回すところを見た。

彼は絶対に死なない!彼と彼の部隊こそが、レユニオンで最も古今無双の戦士たちだからだ!

お前たちは感染者を痛めつけることばかり考えている、お前たち魔族は人の生死なんざこれっぽっちも気にかけたことがない、だが彼はそうじゃない!

彼はウルサス人であり……サルカズ人だ、その前に一人の感染者だ!彼は自身の身分に拘り悪事を働くことは決してない!

だから、彼はただのウルサス人でも、サルカズ人でも、ただの感染者でもない。彼はパトリオット、彼こそが愛国者だ。

彼はお前たちを敗り、お前たちの攻撃をしのぎ、お前たちが放つ侮蔑に唾を吐きつけ、感染者たちを導き、彼らの憎悪を一掃してくれる……

彼はパトリオットだ、彼は死なない。

お前たちは卑劣で、陰謀家に育てられた蛆に過ぎない。

……

お前は自分がもう長く生きられないから、そうベラベラと喋られんだよ。

お前の言ってることは正しい。

パトリオットは堅牢強固かもしれない。だがお前は雑魚だ。だからお前は死ぬ。

ゆえに私は、道を譲ることはない。

中央区を、通りたければ、私を殺すしかない。

でなければ、遊撃隊が、無限にお前たちを追い詰める、そして私はここで、お前たちをこの手で、捻りつぶす。

お前たちは、いずれにしろ、私に殺される。

お前たちの価値は、私を殺した、あとにしか、示されない。でなければ、お前たちはただの、侵略者だ。

・お前どうかしているぞ!?
・……理解できない。
・お前は何を言っているんだ…。

もちろん、お前たちに、価値があるとは、思わないがな。

お前たちが、どうやって、わが一族の呪術を、凌いだのかは知らない。だがお前たちは、ウルサスの戦術に、なす術はない。

・それほどまでに私たちが憎いか?

私は誰も、憎んでなど、いない。

ただ、お前たちを信用していないだけだ。信じようとも、思わない。

たとえあなたでもだ、卿。あなたが連れてきたのだろう……

私たちを認めようとも思っていないのだろう。

私は、運命が仕向けた、いかなる偶然も、信じない。

戦争は。

戦争は、善悪を問わない。

受難の者、迫害されし者、隷属されし者。戦場の外には、ある、だが戦場の中では、お前が何者だろうと、関係ない。

戦場に行けば、おのずと定まる。

誰が死に、誰が誤ったのか。

こ……この人の言っていることが全く分からない……!

彼は一体何を言っているんだ……俺たちはどうして戦わなくちゃいけない?

戦わなければ、摺りつぶされる。

戦っても、摺りつぶされる。

私に勝つ以外は。

もし運命が、我が方に立つのであれば、まずお前たちを殺し、そして運命を屠る、やつに二度と、誰かを嘲笑う機会を、与えないために。

もし運命が、お前たちに味方するのなら。

私はただ、前に進む。前進あるのみ。

……

全オペレーター、直ちに、後退!

私は踏む出す。

我々の敵はレユニオン幹部の一人、通称「パトリオット」と呼ばれる感染者!

彼の甲冑も、彼の力も、彼の身躯も、君たちの戦士に対する想像からはるかに超えている。

オリジニウムは彼の多くの身体機能を取って代わったのかもしれない、喉にあるオリジニウムも……彼の結晶率が高い身体の副産物だ。

これは我々が情報から分析した最も信憑性の高い結論だ。

根拠はある、一般的な致死性の傷を彼に与えても効果はない、オリジニウムがすぐさま進行し、彼の身体機能を取って代わるからだ!

ウェンディゴの身体は元から極めて強力な新陳代謝力と修復能力を持っている、そして今、私たちは感染病が彼に苦痛かそれとも良性の変異をもたらしたのかがわからない。

だが彼がどれだけ強靭であろうと、ここで彼を殺すしかない。

彼を殺さなければ、中央区を通り、艦橋を上り、レユニオンを利用する敵を阻止できない!

彼の部隊は彼の挙動に尚も混乱している、今が最後のチャンスだ。

先生……

・どういうことだ?
・……なぜ?
・どうしてこうなったんだ?

……私たちは彼が突き進む道の分岐の一つでしかない。我々の成功など、彼にとっては何の意味もない。

彼に言わせれば、私たちと「タルラをすぐに殺す」ことは一緒らしい。ただ後者は彼にとって重みがあり、観察するの価値があるのだろう。

端的に言えば、彼は私たちを見下している。

先生がいてもですか……

帝国の皇帝でさえ彼の頭を下げることはできない、ましてや私でも無理だ。

私たちは彼の死をもって……彼を目覚めさせ、彼を背けさせ、私たちがしてきたことが確かに有力であると思わせて、私たちは彼よりも強いと意識させるんだ。

彼本人は頑固者だ……変えることなんて到底無理だ。そのほかの全て、君たちが大事に思う全ては、彼にとって脆弱すぎる、彼の重圧に耐えられないほど脆い。

アザゼルのヘラグはあのサルカズの品性を見誤った。

……ボジョカスティがこれ以上に高尚で、多くを背負っていたとしても、彼は一騎当千の戦士だ。

フロストノヴァは君たちを信じ、命の最後のひと時を君たちに預けた……だが彼はそうはしない。

パトリオットが信じるものはない。彼が信じるのは己のみだ。

(……表ではそうだとしても。)

各員戦闘準備。今回ばかりは戦いでなければ結果を見ることは出来ない。

――戦争でしか彼を殺すことができはしないからだ。

賢明な判断だ、ケルシー卿。

遊撃隊は、すぐに整う。

お前たちの時間も、残りわずかだ。

もう話すことは、ない。

理解など、求めていない。私はただ、戦争に勝つだけだ。
永遠に理解されない、化物と称された恐ろしい戦士がそこに立っている。
だが、思い出してほしい、隣にはすべてを理解してくれる、同じく化物と呼ばれた戦士がいることを……
アーミヤが君の手を強く握った。

行くぞ、ロドス。
ストーリータイトル「パトリオットの死」