2:10P.M. 天気/晴れ
リターニア移動都市ヴォルモンド、かつて商業都市として栄えていたこの町も今では人の影すらまばらである。
町内議事庁
チェフェリン・ホーソーン長官、先ほどまでどこに行かれていた?
君が不在の決議会で、我々にどうやって決めごとをしろと?
……お前たちが私の息子の運命を決めたときの場に、私はそこにいたか?
ぐっ……その件だが、もしかしてタジャーナがすでに……
ああ、教えてもらった。タジャーナからな。だが今はお前たちがやろうとしていることに注意しに来た。
現状はどうなっている?
……感染者たちは依然抗議をしている、新しくコミュニティに入ろうとする感染者の排斥も始まっているな。
彼らの要求はなんだ?
彼らは……彼らはあの火災は誰かが「わざと」企んだと言っている、アント医師と亡くなった感染者の説明も求めている。
……わざと、説明を求めている、か、何者かが彼らを煽動しているかもしれん。彼らは感染者だが、ほとんどはヴォルモンドのかつての住民だ、そんな下劣で人に濡れ衣を着せるやり方はするはずがない。
彼らとあの武装した不審者との接触は?
……今のところはまだだ。
だが、だがあの不審者どもはずっと村の周辺を徘徊している、やつらが抗議者たちに影響を及ぼすかが心配だ。
待て、見張り所から連絡が――
どうぞ。
……二人?感染者か?
ロドスと名乗っている?確かその名は――
……アント医師が所属している企業だ、はぁ、とうとう来てしまったか。
ど、どうすればいい?
アント先生は尊敬に値する感染者だ、おそらくはアント先生の行方を調査しに来たんだろう、彼らには真相を知る権利がある。
入ってもらえ。
……聞こえただろ、長官の言う通りに。
ふぅ、しかしこれで本当に問題はないだろうな?ロドスが俺達に責任を追及してきたら、ヴォルモンドの顔に泥が塗られてしまうんだぞ!
……だからなんだ?
なら彼らを拒むのか?それとも騙すのか?彼らにアント先生は鉱石病感染者を連れて遠くへ行かれたとでも言うのか?
隠しきれないのは分かっている、だがこの事件は君の一存でどうこうできるものではない、万が一にも備えておかなくてはならない。
真相は誰であろうと決定できない、だが……まあいい、お前たちの好きにしろ。私は先に失礼する。
失礼する?またどこへ行くつもりだ?
……問題を解決しに行く。
私の管轄はこの町がちゃんと正規航路に戻すことだ、決議の進行は……お前たちのおままごとに、興味はない。
待てよ!おい!
君のつらい気持ちはよくわかる、俺達が良からぬことを沢山してきたこともよく分かっている、だがほかに方法が無かったんだ!
方法がないのは私もわかっている、私がお前たちとまだ落ち着いて話せる理由がこれだ。
ロドスのことは任せる、そっちのほうが得意だろ。私は町のほかの通りの状況を見てくる。
では。
チェフェリン!チェフェリン・ホーソーン!今の君はここの長官なんだぞ!ほっつき歩くな――
チッ――いつもこうだよ――
――はあぁ。
まあいい、どいつもこいつも哀れなやつってことさ。タジャーナも、チェフェリンも、トールも。
さっさとここを片付けろ、ロドスの人が間もなくここに来るぞ。
ヴォルモンドとは、第八の月を意味する、周囲の七つの町と共同してリターニア西部の煌びやかな商業集落を形成している――
と本に書かれています。
でも目の前の景色とその「商業集落」がまったく一致してないんだけど。
「大峡谷」の事件が原因ですかね?
そうね。あの規模の天災はめったに起こらない、活性オリジニウムが露出した岩壁、数千メートル以上の深さ、うわぁ、思い出しただけでゾッとする。
でもフォリニックお姉さん……あの時砲弾を一発そこに投げ捨てたらどうなるかすごく気になるって……
いいえ、あれは活性オリジニウムに対しての研究精神の現れよ、でももしかすると、本当にあの高地を丸ごと二分割にできたかもしれないわよ?
私たちはなんとか回り込んで到着できたけど、この町は動くにも動けないでしょうね。
こんな時に旅客?変な恰好だな、危ないやつらなんじゃないか?
見てあの尻尾、あ、彼女の肩に結晶があるわ、感染者よね?
でもあの格好、どっかで見たことがある……よう……な?
……フォ、フォリニックお姉さん、堂々と町を歩いて本当に大丈夫なんですか?
オリジニウムアーツを普及してきたリターニアではほかでは見られない特色を二点もたらしてきた、音楽と芸術の繁栄、それと、感染者への寛容な態度よ。
移動やその他諸々の自由は制限されてしまうけれど、でも自分が生きていきたいと思ったときに、それらの代償を払えば生活できる権利を勝ち取れるのよ。
……代償?
払う価値がある代償のことね。
町の中心から離れたとしても、衝突と小競り合いは消えない、でもヴォルモンドはそれでも変わらず感染者に居住の町を与えた……少なくとも彼女は私にこう教えてくれた――
――あ、誰か来た。
……ん?
(あれ?あのおじさんの服装……)
(ヴォルモンドの憲兵かしら?道を尋ねてみたらどうかしら?)
(こっちに向かってきてますよ、私たちをお迎えしに来たんでしょうか?)
(さあ……)
(あ、タバコを付けましたよ。)
(ライターをポケットに戻して、タバコの持ち手を変えて、また持ち手を変えて――)
(――こちらを見向きもせずに行ってしまいました!フォリニックお姉さん!)
あの――!
ん。
こんにちは、あの私たちは――
あぁ、ロドスの、だよな?
政府議事庁はすぐそこだよ、一番高い塔の下、見えるかい、迎えがそこで君たちを待っているから。
えっ、ありがとうございます、あのどちら様か伺っても……?
私か?すまないが仕事終わりなんだ。
えっと、はい?
仕事終わり、仕事以外で人と話を交わすのはあまり好きじゃないんだ……それにまだ急用があるんでね。
それじゃ、また。
(チェフェリンが去っていく足音)
……行っちゃった。
ちょっと失礼ですけど、でもあのおじさん何か考え事があるみたいです……
ったく……こっちだって疲れてるのよ!
でもちょうど道は教えてくれたし、やっぱり先に現地の人たちに聞いて――
(タジャーナが駆け寄ってくる足音)
長官!ここにいましたか!
感染者たちがまた抗議し始めました、ほかの憲兵はすでに向かわれています、でも現場はあなたの指揮が必要で――
あ!またタバコを吸われて!店長たちにまた何か言われたんですね?ちゃんと見た目は保ってください、でないと住民たちに示しがつかない――
――うん?どうされました?
……
……
……長官って、言いましたよね?
どうされましたか、長官?
……なんでもない。お前はずっと職に誇りを持っているんだな。大したもんだ。
え?お褒めいただきありがとうございます――
あ、そちらのお二方、服装を見るに現地の方ではないですね?もしかしてロドスのお医者様ですか?
え?あ、はいそうです。ロドスから来た医者です。私はフォリニックと申します、こちらはスズラン。
(お医者さん?)
(私たちも一応……ほら医者でしょ?)
(私もそうなんですか?)
(私は医療部門の正式オペレーター。リサちゃんは……ケルシー先生の下で習ってる研修医かな、たぶん。)
そうでしたか……あ!お二人は議事庁に行かれる途中でしたよね?私の勝手でお二方の足を止めてしまって、申し訳ありません!
本来であれば長官がお二人をお迎えするはずでしたが、でもドデカフォニー通りは長官の助けが必要ですし……
えっと……
いえ、実は彼は――
おほん!よし、ではタジャーナ、彼女らの案内を頼む、私は先に感染者たちの様子を見に行く。
お二方。
――なんですか?
あなた方の目的はわかっている、だが今は状況が状況なんだ。
ヴォルモンドの現状はご存じで?
大峡谷ですよね。
……うむ、話が早くて助かる。
現状感染者住民の反発がかつてないほどに激烈なんだ、巻き込まれたくなければ、ドデカフォニー通りには近づかないほうがいい。
私たちは感染者対策の専門家でもあります。
承知している、御社のアント先生にはお世話になっている。
では存じ上げてるのでしたら、助けにはなれます。
必要はない。
……では、アントはここで何をやっているのですか?
あ……
……今彼女は村にはいない。
ではどちらへ?
彼女は――
ま、まずい!おっぱじめたぞ!
あ、あの感染者たち武器を持っているぞ!どういうことだ?
刀、刀も持っているぞ!?死人が出るんじゃないのか?
長官!
……わかっている。
感染者対策の専門家、なんだな?
ついてきてくれ。