

……歌声?

どうして歌声が……

あ、街中に歌声が響いてます……

淡い藍色の黄昏が静かな街道を覆う、散りばめられた灯の火の間には、人々の営みがそこにあった。
二人の目が届く限りの街道に人は一人もいなく、ただ朧げな歌声は一枚の網のように織り成していた、夕日も徐々に西へと隠れていく。
露になったオリジニウムの藪、騒動を起こした感染者、青ざめた星空とレンガが同じくして沈黙した。
歌声……そこには歌声しか残っていなかった……


どういうこと?……私は何を見たの?これは……アーツ?

これは……民謡?それとも詩?日が落ちてる時に?

ヴォルモンドにはこういう風習があるの?

あの……フォリニックお姉さん、歌詞が分かるのですか?

いいえ……でもこれはリターニア語なの?現代のリターニア語にこんな難しい発音はないはずだけど……

……でも、いい歌ですね。

初めてロドスの艦橋で大地を眺めたように、悠揚で、古くて……

これは……確かにアーツによるものですね……東国の古いアーツみたいです!


やつらを探し出せ。

分かりました、探し出したあとはどうされますか?直接逮捕ですか?

そうだ。

ほかの邪な考えをしてる人の煽動のきっかけになってしまう可能性もありますが。

……やつらが感染者と非感染者との間の挑発を防止するためだ、煽動を始めた者が冬霊人の可能性もある。

チェフェリン長官!?な、何をするつもりですか?

……これは冬霊の唄だ、古い祭典と葬儀の時にしか歌われない。

冬霊人は感染者と非感染者を争わせるために挑発した、やつらが危険分子を従わせ町の動力施設を破壊した張本人だ。

今は寛容を話す時ではない、これはある信号だと私は思っている。

やつらは理由なく姿を現すことはない、必ず裏で暗躍してるほかの連中がいるはずだ、それにその大多数が術師だ、頭に入れておけ。

その冬霊人というのは一体何なのですか?

この地に住まうキャプリニーだ、数百年前、この山岳地帯に住んでいた原住民だ。

それで?

……それでヴォルモンドと冬霊人の間に衝突が起こった、それだけだ。

いいえ。それだけじゃないはずです。

単純な植民問題なら、コロンビア、レムビリトンなど、どの国家にも同様の歴史を抱えています。

あなた方が考えを巡らせて話題を避けれるほど、簡単な問題なのでしょうか?本当に矛盾と衝突だけですか?

……君たちに教えるべきかまだわからないのだ、この問題は確実にロドス知っていい情報の範疇を超えている……

一人の憲兵が事件を包み隠さず他所の企業に教えてしまえば、一部の貴族たちの機嫌を損ねてしまうのでね。

貴族……?機嫌が損ねる??

――アントはあなたたちを助けるために犠牲になったのよ!メンツを保とうとしてる場合なの!?

フォ、フォリニックお姉さん!アント先生の犠牲を……喧嘩のきっかけにしてはいけませんよ。

チェフェリン長官……!先にこの捜索を中止してもらってもいいでしょうか?でないと皆さんの機嫌がもっと悪くなってしまい、事件が取り戻しの効かないところまで行ってしまいますよ!

――

……いや、唯一の手掛かりはすぐ目の前にある、これを逃すわけにはいかないわ。

チェフェリン、……リターニアのこれほどの移動都市の中で、聳え立つ塔の頂で胡坐をかきながら、あなたたちの死活を管理できる貴族がいるとでも?

大峡谷が出現したとしても、一番近くにいた移動都市が支援に徹していれば、本当に飢饉など起こりえるの?

チェフェリン、誰があなたたちを助けていると思っているでのですか!

わかっている……ミス・フォリニック、誰よりも分かっているさ。

だがロドスが私たちを生涯助けてくれないことも、分かっている。事件が解決されてヴォルモンドがあるべき場所に戻ったとき、塔からメッセージが送られてくる、私はそれを受け取りたくないのだよ。

……どうか理解してくれ。

でもフォリニックお姉さん、私たち――
(爆発音)

――爆発!?また襲撃ですか?

長官、長官!助けてください!人手が必要です!

落ち着け、どうした?

あ、あいつらが都市用防御装置を作動させたんです!爆発が、炎が、あいつらが――!

落ち着け!

長官!感染者たちが、ドデカフォニー通りで巡回している全憲兵が感染者たちに捕らえられてしまいました!誰にも連絡が取れません!

彼らは蓄音機を利用して激しく抵抗しています、全街道が制御つかない状態に陥ってしまいました――!

……連中が統制取れた行動ができるとは思えない、誰が指揮している?

まだ分かりません――それに多くの非感染者も抗議の隊列に加わっています!ヴォルモンドが……二つに分かれてしまいました!

チッ、冬霊人め……よくもまあ。

包囲された街道に、群衆をコントロール、こちらが街道を奪い返すには――

ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッゴホッ!

長官!

クソッ……お前は先に議事庁に戻って、警報を鳴らせ、もはやただの感染者の拮抗ではなくなった……

ヴォルモンドは厳戒態勢に入った、全ての民兵を集合させろ。

でももし今共食いを起これば、ヴォルモンドはこの冬を乗り越えることが――!

言われた通りにやれ!

りょ、了解!

……

ロドスのお二人だが……君たちは、自分たちが正しいと思うやり方をしてくれ。

つまり、今は君たちに目を配れる余裕がないということだ。

こっちももっと情報が必要――

で、でも私たちもまずは救援しに行ったほうが……たくさんの無関係な人たちが巻き込まれていますし……

――必ず犯人を見つけ出します、これが終わった後に。

……ヴォルモンドは必ずロドスに満足いく回答を出そう。

絶対ですからね。

私がまだ生きていればな。


……フォリニックお姉さん、さっきはチェフェリン長官を止めるべきでしたよ。

止めても無駄よ、あなたも見たでしょ、みんな興奮してて聞く耳すらない。

え……そうなんですか?

でももし長官が言っていたように、飢饉が目の前に迫ってきているのなら、犯人を捜してる場合じゃ……

……早く犯人を見つけ出さない限り、この動乱は終息しないわ、この手がかりを逃せば、もっと最悪になる。

そういう意味じゃなくて……

……

フォリニックお姉さん、その犯人を見つけ出せば、私たちは本当に問題を解決できるのでしょうか?

私は――

――フォリニックお姉さん、落ち着いて。

……スズラン?

フォリニックお姉さんもわかってる通り……今のみなさんはみんな頭に血が上って、冷静じゃないんです。

私が思うには……私の感覚によるものですけど、でも私の感覚は結構当たるんですよ!

……何かもっと良くない出来事がすでに起こっているように感じるんです。あの、良いのか悪いのかよくわからない出来事が……

私たちがすべきことは、できる限り巻き込まれた無関係な町民さんたちを助けることです。

フォリニックお姉さん……もしチェフェリン長官を阻止しなければ、事態はもっと最悪な方向に進んでしまいますよ。

……そうかもしれないね。

(言いよどむ)……

……うん。
