早く、こっち!
ここら付近の痕跡は……ただの気晴らしで付けたように見えるな。
……チェフェリンが思うには、今回事件は策略的で、規律を有する反逆計画とのこと。でも実際はどう?ただ暴力で鬱憤を晴らしてるだけ。
カシャ、何か発見した?
間違いない、でも、これって……
グレースロート姉早くこっち来て、その……なんて言えばいいか……
……どうしたの?
部屋の中……
あなた目が……怖がらなくても大丈夫、自分を抑えて、エアーズカーペ、外で彼女と一緒にいてあげて、周辺の暴徒への警戒は怠らずに。
了解。
……この中ね?
(……何もかもぐちゃぐちゃ、本当にひどい争い……ん……これは……凍った身体の一部?)
(待って、この人って――?)
クソッ――!なんなんだこの医者は!?
さっさとそこをどかないと、お前も殺すぞ!
……さっきあなたたちに撒いた薬剤ですけど、毒が含まれているんですよ。
あ!?お、俺たちに何をした?
さっさと言え!さもないとお前を――お前を……おま……うぐっ……
苦しいですか?
ヴィットマンの居場所を教えてくれれば、解毒してあげます、でないとこれから三時間、あなた方はひどい幻覚と嘔吐に見舞われますが。
この卑劣な……お……俺は知らねぇ……ヴィットマンなんか……俺はただ……貴族共に……死を……うっ……
……残念です、ならおとなしく監獄にぶち込まれなさい。
ん……?キノコ?すごくでかいキノコが……どういうことだ、なんで動いてるんだ、なんで人に噛みついて――
長官……ケガ人が多数……!シュトラスネーカ商店街とメイプ音楽広場が占領されました……それよりも、多数の人がドデカフォニー通りで行き詰っています……
彼らを制御できません!
……一番最初のケガ人が出たの時点で、もう何も止められなくなった。
我々が今直面している結末は二つ、投降か、進攻かだ。
どうすればいいでしょうか?
投降すれば、制御権はレユニオンと叛乱者どもの手に渡り、そして凍土の上で餓死する。
民衆を率いて進攻すれば、共倒れの上、膨大な数の死傷者が出る、目先のことしか見なかった連中ともども凍土の上で餓死する。
……あるいは……
……
死傷が避けられないのであれば、せめてできる限る死傷者を出さな――ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッゴホッ――
うっ……ゴホッゴホッゴホッ、ゴホッゴホッゴホッ――
長官――伯父さん?伯父さん?
――!伯父さん、血、口に血が……!
すみません!道を開けてください!タジャーナさん!
伯父さんが、話せなくなって――
大丈夫ですか?呼吸を整えて、肺の病変で失声を引き起こしてる、こういうときは……こういうときは……
――どうかしたのですか?
チェフェリン長官が、彼は――
……医者の言うことはちゃんと聞いてください、タバコはもうやめてくださいって。あなたの肺疾病の深刻さは検査せずとも分かりきっていますから。
ちょっと診てみますね……首元のボタンを外して――
こらっ!動かないで!
……
あなた……感染者だったんですか?
えぇ!?
……症状が鉱石病のと合致してる、源石が彼の肺から咽喉まで広がってる……喉元の黒い粉末状の固体は……体表に露見した源石結晶。
チッ、体細胞がもうすでに源石と融合している、これがあなたがちっとも健康を気にしていなかった理由ですね!
まさかさっきの戦闘で?
これは早期症状や急性悪化なんかじゃありません、彼はとっくの昔に感染していた。
天災の時……いや、それだと早すぎる……感染時期はもっと前から……
ゴホッゴホッ――ゴホッゴホッゴホッ――
……黒い血塊、スズラン、サンプルを取って。
はい――!長官、ちょっとだけ我慢してくださいね。
病院は――稼働してるわけないか、チッ、先に彼を議事庁まで運びます!
――ヴォルモンドに、長官はいなくては、ならない!
これ以上無理したら本当にヴォルモンドから長官が居なくなってしまいますよ――
君って人は――こういう時は、医者らしいな。
ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッゴホッ――
はぁ、血を吐き出したら喋れるようになった、便利なもんだ……
減らず口ですね、まったく。
ミス・フォリニック、頼みが一つある。
話してもいいですけど、いやでもあなたを議事庁まで連れて行きますから、リサ、支えてちょうだい、タジャーナ、担ぐの手伝ってください。
分かりました!
……お嬢さん方、どうか、ゴホッゴホッ、私が感染者だということは隠しておいてくれ……
後のことは、私が火災の犯人だと、ヴォルモンドを狂わせた元凶だと認める……
では真犯人はどうするんですか?
……もう構ってる暇はない。
そうだな……そうすれば、少なくとも多くの人から殺戮の口実が消える。
だがこれではまだ足りん……彼らを押さえつけれる力がない、いずれまた続々と報復し合ってしまう。
今の我々では、報酬を支払いのは困難だが、どうか……ロドスからも助けを……
もしヴォルモンドがこの災難を乗り越えれたら……必ず君たちに恩を返そう。
……私たちは慈善団体じゃありません。
頼む!
私にロドスを代表してあなたの請求に答えられる権限などありません……人口一万人近くの町を救うなんて、私たちの任務の範疇を超えています、アーミヤが私に委任してくれた権限ではどうにもできません。
……でも、アントのためだから、「私たち」はヴォルモンドを見捨てたりはしません。
……かたじけない。
すみませんどいてください、救急患者が――
……
……グレースロート?一人で戻ってきたのですか?
スズラン、チェフェリン長官を上の客室まで運んでおいて……誰にも見つからないようにね。
残酷かもしれないけど、チェフェリン長官の容体が落ち着いた後、また大衆の前に姿を見せる必要があるから。
あっ、はい!任せてください!
タジャーナ……あなた……
……町の至る所で今も暴動が起こっています、今でもどこかで、誰かが怪我したり亡くなったりしています……私は、ここで見過ごすわけにはいきません。
暴動に参与していない民兵を組織してきます、せめて……少しでも暴動の規模を縮小しないと。
うん、がんばって。
――ありがとうございます!
(タジャーナが走り去っていく足音)
……もう話しても大丈夫ですよね?
ヴィットマンをようやく見つけ出した。
――!
じゃあさっさと彼をとっ捕まえて、この暴動を終わらせましょう、アントのためにも仇を――
――無理よ。
彼はすでに死んでいた。
……え?
私たちはB2座標位置にある「蓄音機」のところで彼を発見した。
彼の後頭部には明らかな傷口が残っていた、皮膚表面にも氷と霜が付着していた、明らかにアーツで襲撃された痕跡よ。
現場のオペレーターでは適正な診断はで出せないけど、その他の死体の傷口や血液の状況から見て、少なくともヴィットマンは数時間前に暴動で死んでいたことが分かった。
ヴィットマンは死んでいた、けど暴動は終わってない。これが何を意味するのか、分かるはずよ。
現在カシャとエアーズカーペが彼の住所を捜索している、予想通りなら――
ちょっと待って……!死んだ、彼は死んだって?
……もう一度言う必要があるんだったら、そう、彼はもう死んでる。
……
……
フォリニックが顔に出していた笑みが徐々に固まっていくのが見えた――そう、笑顔が。
オペレーターアントの犠牲により、彼女の情緒はとてつもなく不安定だった、私たちがヴィットマンの情報を得るまでは。
植民問題や感染者問題、あるいは階級問題に悩まされずに、彼女は簡単に嬉しくも復讐の対象を見つけていた。
彼女はあの短いひと時の間に安心感を得ていたのだろうか?明確な目的があったために彼女の心は釈然としていたのだろうか?
なら今、私はどうやって彼女の……この表情に接してあげればいいのだろうか?
……やはりか。
これは?
危機契約の行動項目だ……ヴィットマンは危機契約を結んでいた天災トランスポーターだったんだ。
つまるところ、全ては計画の内だというのか?己の死さえも?
うっ……でも彼はなんのためにこうしたの?その危機なんとかが、黒幕なんじゃないの?
天災で人命を落とすことはあいつらの行動理念にそぐわない……危機契約もそこまで狂ったことはしない……
……だがしかし……彼は叛乱者に手を貸してより多くの人命を助けようとした?なぜだ?
結局そんなので本当に多くの人を生き延びさせることができるの?グレースロート姉に聞いたんだけど、今のヴォルモンドの状況はマジでヤバイらしいじゃん。
いや、あいつらはれっきとした功利主義のド変態たちだ、道徳と常識なんか通用しない、あいつらは本当にただより多くの人たちを「救いたい」だけなんだ。
……当時のヴォルモンドはすでに天災に遭遇した、まさか……外界の勢力が介入できるように、彼はわざと火を放ったのか……
レオンハルトとロドスの天災トランスポーターたちがあいつらと過ぎた関わりがないことが本当に幸いだ。
だが……違う……何かがおかしい……
エアースカーペ!!
どうした?
あそこを見て!あの楽器屋さんのとこ!なんか変なのがいる!
変なもの?あれは……山?
違う、あれは移動してる岩石の巨像……?
あのアーツって、もしかしてあいつが操ってるの?
あれは一人で操れるアーツなんかじゃない――はやく、フォリニックたちのとこに戻るぞ!
普通の民兵では百戦錬磨の作戦小隊を――サルカズの作戦小隊を止めることなんて不可能だ!
(瓦礫が崩れ去る音)
何?この震動?
ねえ!またあの石の巨像よ!はやく!早く「蓄音機」を作動して!
レユニオンが俺たちを助けに来てくれたんだ!彼らが来てくれたぞ!俺たちを解放しに来てくれたぞ!
レユニオン万歳!進め!腐敗した貴族どもを追い払え!進め!
――レユニオン・ムーブメント万歳!
……撤退を援護してください、ダウンタウンに戻って、「蓄音機」を活性化させるのです、そしたら防衛に専念しててください!
分かった!
タジャーナ、街道の先にあるあれは……一体?
(マドロックが歩いてくる音)
……止まれ、休め。
ああ……あと一歩だ。
……あと一歩で、この町を滅ぼせる。
だが俺たちは希望と存続を背後に捨て去った、彼らは高らかに解放を叫んでいるが、解放されるのは怒りの炎と憎しみだけだ、これはいつもの、ただの汚れた進軍にすぎない。
そうか?俺はどっちでもいいけどよ、もうここまで来ちまったんだ、ハッピーエンドなんかあるわけがねぇからな。
これは最後のチャンスだ……俺たちが最後の一歩を踏み出す前に、彼らにチャンスを与えよう。
投降するチャンスか?
いいや……抗うチャンスさ。信念を示し、俺たちと彼らとが全ての人に替わって……雌雄を決する。
骨折れ損のくたびれ儲けだなまったく、傭兵をやってる以上、骨折れ損なのはいつも自分だ。
まあいいや、あんたの言うことに従うさ。
では――
――さあ立ち上がれ、岩の巨人たちよ。