
(爆発音)

タジャーナ!最後の「蓄音機」が破壊された!もうあの巨人たちの対抗手段がないぞ!

おい!暴徒たちが家を焼き始めたぞ!クソ、あいつら……火がどんどん広がってる!

おい、タジャーナ、チェフェリンはどうした!こんな肝心なときに、どこにいるんだ!?

チェフェリン長官は……ケガをされて、休んでいます……

こんなときにまだ休んでいるの!?私達が命を冒してまで――

黙れ!今は内輪もめしてる場合じゃないだろ、こっちが劣勢なのが見えないのか!

あなたのアーツが使い物にならないからでしょ!?このやくたたず!

け、ケンカはやめてください!各自の管轄区域を制御してください、防御性アーツで必ず各区域を――

東だ!東の術師が倒れたぞ!はやく誰か代われ!
(爆発音)

あぶない――!

火――!火が燃え移ってきたわ!

た――助けてくれえええ――ああ――!

は、はやく消火して!火を消せる術師はいないの!!

たすけ――い、いてええ――!

タジャーナ――た――すけ――

あ……あぁ……
先ほどまではっきりと話していた言葉はすぐさま惨叫に遮られた。
焼きこげた皮膚のにおいは、どんな悪趣味なイタズラよりもおぞましい。
炎に包まれた人は徐々にその形を失っていき、黒い影のような人の形をしたものしか残らなかった……
黒こげの皮膚と血、口を大きく開けたさまは――
痛い、苦しい、助けてくれと私に訴えているようだった。
でも――
でも――トールも、こんな感じに苦しんでいたのかな?

タジャーナ!ボケっとするな、離れすぎだ!あぶない!

え?

願ってもない機会!お前も焼け死ね!貴族の飼い犬が!

――

(爆発音と崩れ去る音)

……

混沌と化してるな。この町は最初から一枚岩じゃなかったんだ、ケーキみたいに、一皿一皿切り分けられている。

そして今、最後の一皿もじきに砂みたいに崩れていく、あいつらだけじゃどうしようも出来ないだろう。

俺たちが手を引いて、撤退したとしても、あいつらは生き延びれるのかね?

リターニアも必然とあいつらを切り捨てるだろう。

ここから最も近い二つの移動都市も、二十四の塔も、お偉いさんの誰一人とて冬霊山脈で死にあがいてるちっぽけな町に目を向けるやつはいないさ。

――悲哀だ。

俺たちはこの悲哀に嫌気がさして、ここに立っているんだ、忘れるな。

勝手なことを言うな。

……はいはい。なぁ、どうして普段からそう喋らないんだ?俺はただちょっとぼやいただけなんだが。

俺たちがこんなに我慢して待ち続けたのに、結局は何も変わらない。むしろより最悪になった。

少しばかり悔しさのある……愚痴だ。
(爆発音)

あいつらが突っこんでくるわ!

――くっ!!

か、加勢します!
(爆発音)

クソっ!せっかくこじあけた突破口が!

あのヴァルポはどっから来たんだ!?し、尻尾が九本?

違う!お前感染者じゃないか!なぜそっち側に立っている!?

そんな幼い年齢で――お前は自分の不幸や苦痛のために、抗おうとは思わないのか!?

――

同胞たちよ!やつらに抗え!騙されるな!

あいつらこそ俺たちを欺いて搾取し続けた罪人だ!

何を――

あ?

何を――言ってるんですか!
(爆発音)

あ、あいつらを吹き飛ばした?

周りのアーツ反応を遅らせているのか?どこの国のアーツなんだ、こんなの教わっていなかったぞ……

勝手に人の運命を決めつけないでください、ロドスの先輩方も、お父さんもお母さんも、みんな私に優しくしてくれてるんですから!

それとあなたたち!こそこそと逃げようとしても無駄です!

うおっ――!か、身体が……!

はあ――!

いつもいつも――

――目先の事だけを見て先のことを悪くしないでください!


……それで、あなたはどうするつもり?

ヴィットマンが……元凶は死んだ。

エアースカーペとカシャが戻ってくるまで、まだ確定したわけじゃないけど……

……じゃあ本当の元凶は一体誰なの?私の目の前で起こってることは一体なんなの?

今はそんなことを話してる時間はない、先のこの暴動を鎮圧しないと。

……

――フォリニック?

私……もうどうすればいいか分からない……

……私にもわかる。

感染者を救治していた医師が、感染者の暴動で死んでいったときの無力感と現実味がない感じ……

私もかつて……心底憎んでいたから。


むぅ――!

どうして、どうしてこんなことをするんですか?皆さん今の状況を分かっていますよね?

殺し合っても良いことなんて一つもありません!みんな死んでしまうだけです!

どけ!さもないと子供だからって、容赦しないぞ!

――イヤです!

話を聞いてくだ――
(爆発音や殴る音)

ならお前は何を言いたいんだ?最初にもどって誰が正しくて誰が間違っていたことをもう一回整理でもするのか?

だれが俺たちをここまで追い込んだと思っている?時代も、国も、人の心も、なにもかも腐りきっている、解決策があると思い込んでいるヤツはみんな口をそろえてそう言うんだ。

だがな、仮にお前が道を歩いてたときに、刃物を持った暴徒が道をふさいでこう問い詰んできた、どうすれば生き残れるんだと――

そのときお前はどこから話すんだ?リターニアの腐敗した制度からか、それともレムビリトンの血なまぐさい開拓の歴史からか?

違う!
(爆発音)

くっ――!これ以上は――もたない――!

その棒が考えてるのはどうやってお前を殺して活路を切り開くかだ、そしてお前が考えてるのはすぐに暴徒に銃を撃つかそれとも距離を空けてから撃つかだけだ――

生き残ろうとする人の考えなんて、どれも単純なんだよ。

いつも弱い立場の人が犠牲になる、偶然にもいつも俺たちと同じ人がだ、お前たちではなく。

お前らは悠々自適で、理想を語り合い、時代を背負い、話題を拡大し、敵を対岸の火事として扱い、いつも目の前の問題を避けてきたんだ――ハアッ!
(爆発音)

――効いたぞ!防衛線を攻め続けろ!

……みんななんの罪もないのに……感染者だって好きでそんなことをしてるわけじゃ……!

罪がない?はっ、同情なんていらねぇ。俺たちに罪がないわけがねぇ。んなもんクソくらえだ。

自分たちは生き延び、ほかは生き残れない、そんな弱肉強食の戦いに、慈善なヤツなんているわけがねぇんだよ!

――!


おい!あのヴァルポはもうダメそうだ、九尾のあいつ!

そいつを狙え!はやく!
(ボウガンで射る音)

うあッ――ア、アーツロッドが折れた?どこから撃たれた!?

助けにきたよ。

エアースカーペとカシャは外周で巻き込まれた民衆を疎開させている、私たちは――

――フォリニック?

……レユニオン。

確かに聞こえた、人の群れのなかで高らかに、レユニオンが彼らを解放したって。

でも彼らは……

違う――!

支柱を失えば、この暴動だって自然と収まるはずだった!

それに、あいつらのせいで、アントが――!

フォリニック!

――

落ち着いて。

……ごめんなさい。

あなたにとってこんなことは初めてじゃありませんもんね、私も……同じです。

どうすればいいか……分からないんです。

……行きましょう、この暴動をロドスでどうにか阻止しないと。


……ロドスが見えた、お前が期待していた連中は、ただのガキたちじゃねぇか。

あいつらはまだまだ未熟だ、阻止しようにもどうしようもできねぇ、何もかももう遅いんだ。

……だがあいつらは、もうれっきとした戦士だ。

へえ――?

戦士が、戦場という相応しき舞台に上がった。

ほかの人を下がらせろ。

行くぞ。
サルカズの一団がレユニオンのシンボルマークを引き外した。マドロックは手を掲げ、岩を瓦解し、再びつなぎ合わせた。
戦場に静寂が訪れた、暴動者たちは自ずと道を譲り、それに抗う者たちは恐れおののき退いた。
マドロックはただ前へと、一歩を踏み出した。
