
あ――長官、ここにいましたか!

ケガをされたと聞きましたが、もう起き上がって大丈夫なんですか?

……ゴホッ、ここは負傷者が多い……このままだと、足の踏み場もなくなってしまうからな……

タジャーナ……タジャーナに何かあったのか?

わ、分かりませんけど、彼女の目の前で人が焼かれて死んだって聞きました、それからこの調子で……

ううぅ……うっ……

……泣いたっていいんだ、タジャーナ、強がる必要はない……

ご、ごめんなさい……でも私……

泣いてスッキリしてこい。

外の暴動はまだ終わっていないんですよ!

私が行く……私と、ロドスの諸君がいる。

きっとなんとかなる。

いや……そんなまさか……

休憩できそうな場所まで連れていってやれ、今から私が指揮を執る。

わかりました……

伯父さん……!お願い!死ぬのはやめて!

そんなことしても意味なんてないよ……

……お前に意味はないなんて言われたら、本当に意味がなくなっちまうな。

ほんの少しでもいいから希望を持て……まだ転機はあるかもしれん。
(斬撃音と爆発音)

この――どきなさい!
(斬撃音)

やったわ!巨像が、巨像が粉砕されたわ!

なんて執着心だ……まったく予想外だ。

マドロック、もう手加減はやめだ、でなきゃ俺たちが撤退できないくなるぞ。

……お前の目は憎しみと茫然に、満ちあふれている。

お前はアント医師のために怒っているが、それがどうしたというのだ?

ここにいるだれもが、重々しく何かしらを背負っている。

黙って。

あなたに彼女の名を口にする……資格はない。
(アーツの音)

くっ――!

飢饉と厳冬が訪れれば、お前たちはどのみち敗れる、これはだれも生き残れない茶番劇なんだ。

ヴォルモンドは……滅ぶ。

あんたに言われなくともわかるわよ!

お前はだれを憎んでいるんだ……?だれを救おうとしているんだ?

……くっ!またあのアーツか――

グオオオオオ――!

フォリニックお姉さん――!
(爆発音)

マドロックのアーツの生成時間を遅らせたのか……本当に奇妙な技だ。

だが、気をゆるむ余裕なんてないぞ?
(サルカズの戦士がスズランを掴む音)

うっ!は、放してください!

お前は運がいい、もしあと何歳か大人だったら、問答無用でお前の杖を持っている利き手を切り落としていたところだ。

――スズラン!?

逃がさん。

グオオオオオ――!
(爆発音)

……お前は医者なんだから、敵に背を向けるんじゃない。

チェフェリン――!まだ起き上がっちゃダメよ!

戦士が……また一人現れた。

……

……元凶は、見つかった。

この全てをもたらした元凶!裏切者のヴィットマンは!たった先ほど、ロドスのオペレーターたちにより議事庁に連行した!

……

なんだと、ヴィットマンは……ヴィットマンは死んでいなかったのか?どういうことだ?

ヤツのでたらめに耳を貸すな!元凶がだれなんてもはやどうでもいいだろう!?

俺たちが求めるのは感染者が二度と非感染者に搾取されないこと、貧しい者が貴族に命を売り出す必要がないこと!冬霊人が自分たちの土地を奪い返すことだ!

俺たちはレユニオンだ――俺たちで新たな時代を切り拓くのだ――!

ほら見ろ、チェフェリン、そんなんで効くはずがない……

……なら私を殺すがいい、レユニオン、一発気分良く殺り合おうじゃないか。

……ならそのあとはどうする?厳冬と飢饉はどのみちこの都市を滅ぼすぞ。

いいや……

どのみち死の一本道なら……私はロドスを、彼女らなら最悪の事態を阻止してくれると信じている。

それなら生き残れる人も今より多くなるはずだ……

それにだ、お前だって満身創痍で、マスクも半分砕けちまっている、巨像も粉々だ、本当はお前も疲れているんだろ、違うか?
私

にはわかる……お前と私は同類だ。

――ん、火借りていいか?

……

どうせ最後の一本なんだから……いいよな?

(やれ、今だ、あいつらに俺を助ける機会を与えるな。)

――チェフェリン・ホーソーン、お前の死を見届けたあと、ここから撤退しよう。

ここはただの荒廃寸前の町だ、ここに残れば、死ぬだけだ。

お前の死は、彼らに任せる。彼らがまだ他者を殺そうとするのなら、俺が処置する。

……それでいい。
(斬撃と爆発音)

――ではさらばだ。

……あのアーツ、あれは一体何だ……

――ど、そうしてあなたは……死に急ごうとするのですか?

どいてくれ、嬢ちゃん!

死んではいけません!

ならもっと多くの人が死ぬぞ――!

おい!マドロックが手こずってるようだ!加勢しにいけ!あいつらに息抜きする間を与えるな!

あついら、あの巨像すら打ち砕きやがった……なんて野郎だ……
(エアースカーペが歩いてくる音)

……おとなしく投降しろ。

サルカズすら失敗に終わったんだ、これ以上何を頼りに戦う?

――チッ。

不満を発散させたいのであれば……いいだろう、俺が付き合ってやる。

とことん付き合ってやるよ。

は、はやく残りの「蓄音機」を作動させろ!

お、俺はリターニアのアーツがわからねぇんだ、はやくリターニア人を探してこい……おい、頭上のあれはなんだ、ドローンか!?

ドローンに気を取られるな!お前の背後だ!目の赤い――

……動かないほうがいいよ、グレースロート姉がキミたちを狙っているからね。

もう……グレースロート姉の位置を探すのもやめてよね、アタシだってキミたちに武器を構えてるんだからさぁ。

……お前たちの怒りと、守護。これで何度目だ?

お前たちは……フッ、本当に俺に勝ったとは。

武器を下ろして、今回は容赦しないから、マドロック。

……

君たち……そんなことしたらそいつらがまたヴォルモンドを恨むことになるぞ!

どんな立場とて関係ない、彼らは本当に変革を求めているわけじゃない、ただ自分たちの利益を他人のより凌駕したいだけ。

なぜなら彼らは共に苦難を乗り越えようとも、真相を知りたいとも思っていない、彼らはただ……混乱のさなかに略奪したいだけよ。

タジャーナの言う通り、あなたが自分を犠牲にしても、ただの無駄よ。

背景にどんな複雑な問題が絡まっていようと、ロドスのオペレーターは決して感染者が……町を滅ぼすことを見過ごさないから。

……アントが守ろうとした町。

ロドスの行動小隊がこの広場と、議事庁のビルを死守しにくる。

確かに、さらに多くの死傷が出てくるかもしれない……

でもそんなのは後のこと、「あなたたち」と「私たち」の後のこと。

まだやろうっていう人がいるのなら、前に出なさい。

……

……

……

……お前たちは、確かに俺に勝った……もしかしたらお前たちなら本当にその塔を死守できるかもしれない……

だがそれになんの意味がある?

みんな死んでしまうから。

アントみたいに……意味もなく死んでしまうから。

感染者には抗う理由がある。

理由はいつだって正当化されるわ……でも今は、あなたたちは問題を解決しようとはしていない、ただ破壊してるだけよ。

ヴォルモンドが天災に遭遇したあと、急遽人手を補充しようとしいたときに……あなたたちは何をしていたの?

教えて、一体何をしていたの!?

……

――言ったはず、動かないで。

あなたのアーツはもはや筒抜けよ、今のこの距離なら、私のボウガンでもあなたの行動能力を奪える。

……ロドス。

何があの火災を引き起こした、あの火災は何を引き起こした?

……元凶は、もう死んだわ。

……そうか。

……

――撤退するぞ。

なんだと?だが俺たちは……

撤退、と言ったはずだ。

ほんの一部の人なら……大峡谷を通り抜け、温かい地帯に戻れるだろう。

だがお前たちが土地を取り戻そうが富裕層に復讐しようが……最後はどのみち凍土で遭難する。

お前たちは怒りの炎で冬を越そうとするのか、それとも罪なき者たちの死体を燃やして暖を取ろうとするのか?

元凶が死んだ今、撤退して当然だ。

だ、だが俺たちが取り戻すのはヴォルモンドなんだ!俺たちの土地なんだぞ!

黙れ、冬霊人。お前はただ権力が欲しいだけだ、強者の背後に隠れて楽して腐りきった権力を拾いたいだけだ。

リーダーにばかり問い詰めるのはやめろ、少しは自分の頭を動かせ、でないとお前を廃土に捨て去るぞ。

ぐっ……

……お前の一言二言で解決できる問題じゃねぇんだ!!

こんなに大勢死んだんだ!そんな口説き文句で尻尾まいて逃げるわけがねぇだろうが!?

……彼を静かにさせてくれ、わが朋友たちよ。
グオオオオオ――

うわ――うわああああ――なっ――拳だと――!?

地面から石の拳を……まだ力が残っていたのか?

そんな過激な手段で黙らせるのはよせ、さっきまでこいつらと俺たちは味方だったんだぞ。

驚かそうとしただけだ……もうやめる……

それといつまでも自分のアーツを友って呼ぶのもやめろ、気味が悪いぜ。

……聞こえてないフリをすればいいだろ。うるさいな。

いいか、撤退は俺の判断だ。俺はお前たち全員に命令できるほど偉くはない、しかしな……

俺はここから出る。俺に付いてきてくれるやつらも一緒にな。

残りたいやつらは……達者でな。

そうだ……マッチは持ってるか?

湿ってないんだったら持ってるぜ、さっきのあの術師たちは本当に面倒くさかったぜ。

あそこのチェフェリン長官に、火を渡してやれ。

敗北者が……生きて戦場から退くことが出来るのは、なによりもの幸福だ、ぐずぐずするな。

チッ!ならレユニオンなんざ放っておけ!議事庁はいずれ落とす、この町の主は俺たちが務める――!

投降しろ、チェフェリン!

……だから言っただろ、こいつらはそう簡単に手を引かないんだ、ゴホッゴホッ――

左翼に注意しろ、あいつらが来るぞ!

長官、私のうしろに隠れていてください。

……まったくどいつもこいつもイカれたやつらばっかね、チッ。

ロドスが守ろうとするものを踏みにじってみなさい、絶対に、許さない。

彼らがアーツを放とうとしている、防御に備えて、術師を撃破して――
(アーツと斬撃音)

――

な、なに?俺のアーツを防いだだと!?

なぜ邪魔をする――!

――リーダーの命令だからだ。

お前たちが相手だからって、俺たちが尻尾まいて逃げると思うなよ、魔族め!

……ほう。
(斬撃音)

なにが起こってるの、どうして内輪もめなんかしはじめたの……?

待って……マドロックが……足を止めた?

どうしたリーダー?

……土壌よ。

立ち……上がれ。

やめろ、マドロック、寿命を縮めるだけだ。

……そんなのどうでもいい。

そんな古いやつを使わなくても――

立ち上がれと……言ってるんだ!
ほぼすべての廃墟が一つに集められ凝固した。
それは巨人と化し、遠くの山脈を見据えていた。
彼は、マドロックは、ピクリとも動かなかった。

た、高い!大きい!

……竜頭蛇尾なだけよ、身体が崩れはじめている、彼は無理しているんだ。

後退、無闇に進攻しないで。

……

ち、違う……マドロックにそんな気力はもうないはず、でもこのアーツは……

あの中にサルカズのアーツが……混じってるの?

(言ったはずだ――)

言ったはずだ――

お前は今とても危険なことをしているのがわからないのか、お前は自分の命を自分の創造物に分け与えているんだ、脅すだけにしても、割に合わないぞ。

……

……わかった、お前に言うことを聞くよ。

(憎しみと紛争から脱して、生き延びよ、これがここから出られる最後のチャンスだ。)

ここから立ち去れ。

(まだ戦おうとするやつは……ここの全ての人を死に追いやろうとするやつだ。)

ならば……まずは俺を滅ぼせ。

俺を……先に倒してからだ!

な、なんなんだあいつは……俺たちを助けにきたんじゃないのか!あいつはレユニオンじゃないのか!

……し、知るかよ!ならあいつを殺せ!

過去に……俺たちは確かにおまえらを助けた。あの火災で、俺たちはみな同じ怒りで満ち溢れていたからだ。

俺たちがおまえらを認め、導いてきたのは、他者の死を求めるためではない、己の生を求めるためだ。

残念だが、俺たちはもう、同じ側に立っていないらしいな。

……平民とロドスの戦士を殺すことに、俺たちは決心できなかった。

誰が相手であろうと、俺たちにとって、サルカズにとって、「魔族」にとってすれば余裕なんだよ。

余裕過ぎてあくびが出る。

何が起こったんだ?あの巨像が出現してから、声がやんだぞ……

あの、山みたいな巨像もアーツなの?

……どうにかしてフォリニックたちと合流しないと。
(斬撃音)

……クソッ!クソォッ!

行くぞ、撤退だ、この町はもう死んだ、冬が来る前に大峡谷を抜ける道が見つからないと生きていけない!

この町を諦めろ、冬霊の同胞たち、貧しい者と感染者たちよ。

必ずどこかに俺たちの怒りの炎を迎えてくれるところがあるはずだ、ヴォルモンドはこのまま死なせておけばいい!

……ここでサルカズと戦ってもなんの利益にもならない、撤退だ。

行くぞ。
(武装感染者が撤退する足音)

見てみろこの町を……俺たちは、混乱をもたらしてしまった。

俺たちの本望ではないがな、争いはもとからエゴ同士の対立だ、心に偉大な想いを抱いて参加してるやつなんてそういないさ。

お前の言う通りだな……じゃあ俺たちはこれまでの争いと死んでいった仲間たちに……どう顔向けすればいいんだ?

苦痛と葛藤はいつでもまとわりついてくるものだ。

あー、ちょっと待ってろ……確かマッチがまだ残ってたような、予備のやつだ。

おい、そこの憲兵、受け取りな。

……!

ん……サルカズの戦士もタバコを嗜むのか?

もうやめたけどな。

うむ、タバコをやめたやつはどいつもこいつもマッチは離せないんだな。

……命拾いした、大切にしろよ。

ロドス、か……

……

……

……じゃあ、ここでお別れだ。

もしかしたら……もしかしたらお前たちなら本当に残ったこの人らを助ける方法が見つかるかもしれないな……

でもそんなこと、サルカズには関係ないことだ。
岩が崩れ落ちる音が響くなか、サルカズたちは身をひるがえして去っていた。
町は燃え続けている。
暴徒たちは去った、再び衝突が起こらなかった唯一の原因が、単なる恐怖と威嚇だけであった。
最後の砕けた石も地に落ちた。