
マドロック、連中が残りの逃亡犯を捕まえにきてるぞ。

……あいつらなら逃亡犯を山に追い込んで生かすも死なすこともできるんだが、連れ戻してるのは、そいつらの命を助けるためなんだろう。

まったく良かれと思ってやってるのか残忍なのかわかんねぇ連中だぜ。

……俺たちについてこなかった人たちは俺たちとあまり関わりがないからまだいい、でも……

あいつらの捜索からはできる限り避けろ、冬に入る前にここから出るぞ。

もう結構冷えてきている。

ここを離れて、どこに行くっていうんだ?

こんなにさまよい続けて、結局どうなった?ハッピーエンドなんて永遠に来ないぞ。

……じゃあ、家に帰ろう。

帰って、静かな森を探して、そこで生きるんだ。

じゃあオレたちが求めてきた戦いはどうすんだ?

……しばらくは……生きることに専念しよう。

生き延びる、生き延びることが、この大地と抗い戦うということになる。

……じゃあどこに行けばいいんだ?家に帰ろうって、そんなもんどこに?

――カズデルに行こう。

え……

じゃあ俺たちはどうすればいいんだ?俺たちはサルカズじゃないんだ、あそこは……

お前たちなら、サルカズの仲間だ。

カズデル以外のところはサルカズを迎え入れてはくれないだろうね、でもカズデルなら、お前たちも迎え入れてくれるはずだ。

寛容だから迎え入れてくれるわけではない、あそこはもはや……何も残っていないからだ。

カズデルというのは……都市の名前ではない、国の名称というわけでもない、厳密に言えば、カズデルというのは一地区の名前にすぎないんだ。

故郷を作ることを許されない流亡者たちの土地だ。

あそこは……すべての帰る場所無き人たちが帰るところ。何も持たない人たちが住まうところ。

お前たちの新しい住処でもある。

……ありがとう。

そこら中にサルカズの感染者がいるカズデルなら、むしろゆっくり静かに暮らしていけそうだ……

リターニアが感染者に対して温厚な態度で接してきたのは血統とアーツの普及から出た副産物にすぎない、本心でお前たちを迎え入れてるわけじゃねぇ。

微笑みの仮面が外れたあと、真っ先に排斥されるのは、結局感染者なんだよ。

……鉱石病だけじゃない、この繁栄した国はもうすでに各地の片隅で起こった悲惨な出来事を忘れ去っているんだ。

ヴォルモンドのような問題でも……貴族と銀行家や宮廷芸術家たちにとってみれば飯のあとにするようなちょっとした話題や少し不機嫌になる程度の問題なんだ。

俺たちはそんなこと……到底受け止められない。受け止めたくもない。

出るならとっとと出て、カズデルに行こう、お前たちの故郷を見に行こう。

……ああ。

リターニアが追いかけてくると思うか?

多分な……前後に何があったにしても、サルカズの一団が破壊された町に現れたんだ、きっと俺たちが真っ先に犯人にされる。

チェフェリンは真相を知っている、もしかしてあいつはオレたちに濡れ衣を着せる気か……?

そうするだろうね。

……

……それが彼のやり方だからな……彼の知ってる情報をもとに、町の損害を最小限にとどめる判断を出すだろう。

じゃあ早くここから出よう、でないと、リターニアから指名手配にされるぞ。

ああ、だからできるだけ早くルートを決めないと……あっ……

すまない、ちょっと待っててくれないか、まだ行くところが残ってた……

すぐに戻る。

……

ここにいましたか。

フォリニック……

いえ、立ち上がらなくて結構です、これ以上近づきませんから。

……誰かを待っている、ですよね?

うん。

レユニオン事件が起こったとき私はロドス本艦にいませんでしたので……あなた、随分変わったようですね。

噂よりも、だいぶ人が変わっています。

うわさ?

一人のエリートオペレーターと共に戦い、龍門で多くの事件を解決したと。

……あれはそこら中に血をまき散らしてるだけのバカ猫だから。

それに私たちは……何も解決できなかった。

……ありがとう。

もう一度礼を言わせてください、もしあなたとリサちゃんがいなかれば、どうなっていたか。

……

ロドスだって、チェフェリンだって、あのレユニオンだって、誰もこんなことを望んでいなかった。

みんなあの惨劇を食い止めようとしていたようだったけど、でも結局食い止めることはできなかった。

アントも……彼女も……

無理して自分を思い詰めなくていい、もう起こってしまったことだから。

今はただ亡くなった人たちが安らかに眠るように願おう。

……私たちは犯人を捕らえることはできなかった、それだけじゃない、アントが守ってきた町を守り通せなかった。

きっと私アントに責められちゃいますね。

あなたは自分で自分を責めてるだけよ、アントさんは朗らかな人だから。

そうね、きっと彼女ならあなたの肩をたたいたあと、酔いつぶれるまで酒に付き合わされていたでしょうね。

ふふっ……そうね、アントとは結構仲良かったんですか?

ベロンベロンにまで酔いつぶれるあの「エリートオペレーター」のことならよく知ってる。

……すべてを追い求めることに諦めたのは、私たちだけじゃないわ。
(マドロックが歩いてくる足音)

……

やっぱり来たのね。

これ、新しく摘んできた花だ……

今の状況をよく見たほうがいい、掃討任務はそろそろ山場に来ている、ロドスも近いうちにここを離れる、物資調達係に連絡して支援はするつもりだけどね。

でもその時になれば……

俺たちのために口を挟んでくれるやつは誰もいない、わかっているさ。

……チェフェリンを責めはしないよ。彼は貴族にそう報告せざるを得ない、でないと彼らがひどい目に遭うからね。

俺たちもできるだけ早くここから離れる、もうじき。でも、ここにはまだ俺たちの死んでいった仲間たちがいるんだ……別れを言わないで離れるのはいやなんだ。

……亡くなった八名の感染者。

今の、ヴォルモンドの死傷者の人数は、「八名」より数百倍も多い――

……すまない。

いいえ……これはあなたの問題じゃないわ……あなたを責めてるわけじゃありません。

ただ思い返してるだけです、どうしてこんなことになってしまったのかって。

もちろんこの大地でいいことをしたところでよい報いが返ってくるほど甘くはないことぐらい知っています、でも私でも……あんまり見たことがないわ、こんな自滅は。

煽られた怒りと復讐であと少しですべてが破壊されそうになった……私自身も……

やっぱり自分を責めてる。

いえ……もう落ち着きました。私が考えてるのは、きっと「できなかった」じゃなくて、そもそも「できない」なんだと思います。

ロドスが今までずっと……ケルシー先生が今までずっと教えてきてくれたけど……私にはできなかった。

――誰だってできなかったさ。

彼らの行き過ぎた行いを止めに入ったことはある、でも一回や二回だけで彼らの復讐の炎を消すことはできなかった。

だから……やっぱりこうなってしまった。

……

これからどうするつもり?「レユニオン」は今でもほとんどの人にとっては目の上のたん瘤よ、そのマークは徹底的に捨てたほうがいい。

そうだな……だが「レユニオン」はまだ完全には滅んではいない、この情報はもうすでにリターニアにいる感染者の間で広がり始めている。

争いの火種が消えることはない……たとえ、形が変わったとしても。それに俺たちも少し休憩が必要だ。

俺のチームにいるやつらだが戦士じゃないのがあまりに多い、俺の勝手であいつらの運命を決めるわけにもいかないんだ……あいつらはただ、静かに暮らしたいだけなのかもしれないから。

そうだ……ロドス、ビッグボブを知ってるか?

――いいえ。

何か関連があるんだったら、帰って資料を調べてきますけど。

いや、いい、ただの友達だちだよ……

レユニオン?それともサルカズ?

――レユニオンだった。経験豊富なバウンティーハンターでもあった。

彼らは戦士じゃなかったから、抜け出す理由を持っていた……プレッシャーから解放され、クルビアの開拓チームと一緒にあるべき場所に行けばよかったのに……

あっ……思い出した、あいつホップも持っていたんだった。

なんですって?

ホップを見たことがあるのか?あれはどう使うんだ?ビールは植物で作れるのか?

えっと、素晴らしい植物よ……ビールの泡もそれと関係があるみたい、あ―、確か防腐効果もある――

――って、なんでこんなに真面目に説明してるわけ?私は専門家じゃないのに。

……とりあえず結構使えるってこと。

そっかぁ……うらやましいなぁ。

ホップ……泡……ビールかぁ……

……ビールでボーっとしないでよね、まったく。これでも敵対してる者同士なんですから。

それと身分も別々。

あ……ごめん。

俺たちは、戦士だもんな。サルカズたちは、戦士だから。

とても言いづらいけど……あなたの言動から戦士としての決意がまったく見当たらないわ。

戦士になる以外に選択肢がないからね。

もし何か訴えたいことがあれば、広げたい信念があれば、守らなきゃならないものがあれば、俺たちは戦うことしかできないんだ。

戦わなくても解決できる問題もある。

じゃあ……俺たちの犠牲になった仲間たちはどうするんだ?平和的に主張すれば、あの悪者たちが俺たちのために住処や町を用意してくれるのか?

そんなことはない

俺たちは……戦い続けるしかないんだ……感染者の同胞たちを助けるために。

……「感染者の同胞」ねぇ。

行くあてはあるの?

カズデルに行く。

カズデルか、そんなにいい場所とは言えないわ。

俺たちもいいやつではないからな、ロドス。

本当の「いい場所」は、俺たちを受け入れたりはしないさ。

まだ別の選択肢がある、マドロック。

……そうだな、だが今は、まだだめだ。

ここのリターニア人と、俺たちサルカズには、それぞれの考え方がある。

怨念は消えたわけじゃない、あいつらが易々と他人を信じさせるものなんてない、一致団結して生き残ろうとする意志が、あいつらをまとめているだけ。ただそれだけ。

……残念ね。

いいや、ロドスのツバメ、きっとまた会えるさ……感染者のために戦う者たちよ。

……私をそう呼ぶレユニオンはあなたが最初じゃないわ。

……そうか。

ここを離れれば、俺たちは、また敵同士だ。

でないとリターニアはお前たちを疑う、ここから脱出しづらくなるだろう。

だから……あんまり敵と仲良くしすぎないほうがいいぞ。

俺は花を手向けにきただけだ、花も届けたわけだし、俺もそろそろ……行くよ。

幸運を。
(マドロックが去っていく足音)

……

……これからどうする?

帰りましょう、ロドスに。

アントと……一緒に。
ヴォルモンドの黄昏 完