
ドクター、ジャングルの奥地に入ってきたぜ。

ここはさっきより更に湿度が高い、木々もより生い茂っている。

足元に気を付けてくれ、躓くなよ。

目の前に部族が見えるな、行ってみようぜ。

ふあ~、暇ねぇ、昼寝でもしちゃお……

イナーム!

ガヴィル?祭典でズーママに負けたって聞いたけど、どうして私のところに来たの?

やっぱ情報が早いな、イナーム。

でも、トミミが言うまで信じられなかったぜ、まさかお前が本当に部族のボスになったとはな。

なりたくてなったわけじゃないわよ、この人たちが勝手に私についてくるんだもの、ほかの方法があるんだったら私が知りたいわ。

どうして祭典に来なかったんだ?

ドクター、こいつがトミミが以前紹介していたイナームだ。

・こんにちは。
・……
・やあ!

わお、生きてる外の人じゃないの。

ガヴィル、この人が外から連れてきたお友だち?なんだか照れちゃってるみたいよ。

よっ!ガヴィル、このお友達、あなたと同じように明るいわね。

ん?イナーム、お前までサルゴン語が話せるのか?

私の正式な役職はここら一帯のトランスポーターなのよ。

トランスポーターだと?ハァ?

あなたね……はぁ、まあいいわ、その反応を見るに、トランスポーターが何なのかは知ってるようね。

ほかのヤツらとは違って、彼らにトランスポーターって言っても、まったくなんなのか知らないって反応されるからね。

ちょっと待て、いつからトランスポーターになったんだよ?

はじめっからトランスポーターよ……

ここは腐ってもサルゴン領内なのよ、あなたまさかサルゴンはここの区域をまったく認知していないとでも思っているのかしら?

なんだよ、違うのか?

もちろん違うわよ、私が知るには、数百年前までここは、サルゴンのとある集落の採掘場だったのよ。

でも当時は天災が原因で、その移動都市は離れちゃって、採掘場も廃棄されちゃったけど。

当時残った人やあとからやってきた人たちが現在の人口の基礎を創り上げたってわけ。

本来は政府も一番近くにいる移動都市を呼びこんで新たに再利用しようと考えてたんだけどね。

十数年前のあれよ、あなたも知ってるでしょ。

ああ、あの時のか、アタシもズーママも見たことがあるぜ、あいつはあの時からおかしくなっちまったな。

そうなの?はぁ、でも最終的に何かの原因で諦めざるを得なかったらしいわ、おそらくはその鉱山区にあんまり価値が見いだせなかったんでしょうね。

もし都市をこの区域に停泊させるんだったら、ほかの都市との距離が離れ過ぎちゃうからね。

昔はこの無人区域もだいぶ栄えていたらしいんだけど、どのくらい昔かまでは知らないわ。

まあ、とにかく、私がまだ、ん?何歳だったかしら?まあいいわ、とにかくトランスポーターになってからここに派遣されたのよ。

へぇ。

はぁ、せっかくこの話題を話せる人が現れたっていうのに、あなたはもう少し興味津々なフリぐらいできないのかしら?

めんどくせ。でも、お前がトランスポーターなんだったら、アタシの記憶違いじゃなかったらさ、どうしてお前は一度もここから出て行ってないんだ?

そりゃもちろん、こんな閉鎖的な場所じゃ、私が都会に買い物しに行く時ぐらいしか、手紙を届けにいかないわよ!

私がトランスポーターになってから今まで、出て行ってもまだここと連絡を取っているのは、あなた一人だけよ!

本当にやることがないから、じゃあいっそう都会からモノを買ってきてみんなと商売でもしようと思いついたのよ。

そして時が経って、私はみんなが口に言う商売のイナームになったってわけ。

なるほどな、まったく気がつかなかったぜ。

昔と変わらないあなたじゃ気がつくほうがおかしいわよ……

でも、私は都会育ちだけど、今はこっちの生活のほうが好きよ。

単純でいちいち悩まなくていい、いいところよ。

アタシもずっとお前をジャングルにいるほかのリーベリとなんの違いもないって思ってた。

誉め言葉として受け取るわ、それで私に何の用かしら?

まず聞きたいんだが、AUSのあれはどういうことだ?お前が連れてきたのか?

AUS?そんなことあるわけないじゃない、彼女たちは私みたいなファンでもない人でも名前ぐらい聞いたことがあるバンドよ、連れてこれるわけないじゃない。

むしろ、彼女たちを見て一番驚いたうちの一人よ私は。

彼女たちは本当にたまたまここを経由したついでってだけ、あの期間は私が彼女たちの通訳を務めていたわ。

話し出したら元気が湧いてきたわ、あなたが来てくれてちょうどよかった、彼女たちを知らない人に自慢したところで意味なんかないもの。

]彼女たちのサイン付きのアルバムだって持ってるのよ、見たい?

いやいい、アタシファンじゃねぇから、ただちょっと不思議に思っただけだ。

あら、外に長い間居ても、見識は広がっていないようね、ガヴィル。

一発殴ってやろうか?それより、アタシとドクターはズーママに会いに行く途中なんだ、ここに寄ったのは、ちょっと補給がしたかったからだよ。

いいわよ。ここでの常識は物々交換だけど、でもあなたは外がどんなのか知ってるから、流通貨幣で私とトレードしてもいいわよ。

……おっと、待って、あなたの質問攻めで頭がマヒしちゃってたわ、私もあなたに聞きたいことがあるのすっかり忘れていたわ。

あぁ?

あなたクロワッサンってお友だちを知ってるかしら?

クロワッサン?アタシらの仲間だ、ちょうど今探してるところなんだが、彼女を見かけたのか?

マーケットのほうに行けばわかるわ。

寄ってらっしゃい見てらっしゃい!彫りたてホヤホヤの原木彫刻でっせ!

さあさご覧くだせぇ、俺の爺さんの代から受け継がれた鉱石だ!こいつで武器を作れば、鋭いこと間違いなしだよ!

・結構まともなマーケットがあるんだな。
・……
・賑わってるな。

アハハ、ああいう呼びかけは全部私が彼らに教えたのよ、結構らしいと思わない?

ほらっ、クロワッサンならあそこにいるわよ。
マーケットの一角で、クロワッサンはちょうど一人のアダクリス人となにやら対峙していた。
クロワッサンは相手が手に持つ鉱石と、自分の手に持つ貝殻を交互に指さしたが、相手は頭を横に振るった。
クロワッサンは眉をひそめ、手を一振り、手放すのがなんとも惜しい様子を見せた。
彼女はポケットから石を一つ取り出し、貝殻を指さしたあと、また相手が手に持つ鉱石を指さした、相手は少し考えこんだあと、頭を縦に頷いた。
トレードの過程で、クロワッサンは終始苦い顔を見せていたが、相手が身を翻した途端、彼女の表情はすぐさま笑顔へと変わった。

見栄えがええ鉱石がぎょうさんやなあ、うんうん、今回は儲けたで~

クロワッサン、こんなとこで商売していたんだな。

ガヴィルはん、旦那さん!いやぁ、やっと会えたわ!

・大丈夫だったか?
・……
・ここの人たちと交流ができるのか?

平気平気、ピンピンしとるで~

アハハ、旦那さん、そないな表情せんといてぇな。

ウチもちょうどイナームはんに神殿まで連れてもらって旦那さんたちを探すところやったんや

出来ひんよ、でも商売っちゅーもんは、言葉が通じんでも問題無いんよ!

この間道すがら偶然彼女を拾ったのよ、ここの人じゃなさそうだったから部族に連れてきたのよ。

この子ったら商売がすごく上手なのよ、言葉は通じてないけど、商人の言葉と私の手下たちが見つけた交流の方法を使ったら、すぐここに溶け込んだわ。

見りゃわかるよ。クロワッサン、ほかの人に会ったか?

いいや、イナームはんにも聞いてみたんやけど、そういった情報はまだ聞いてないって。

そうか、お前は無事で何よりだ、残りはウタゲとブレイズか。ブレイズのやつについては、真っ先に飛び降りたから、そんなに心配しなくてもいいが、問題はウタゲだな……

イナーム、大変よ、アダクリスの集団がアタシたちの部族に攻めてきたわ!

なんですって?そんな考えなしの部族はどこのどいつよ?

巨木部族らしいわ!でもそこのボスが刀を持った変人なのよ!

はぁ?変人?

どうかしたのか?

私の手下が刀を持った変人がアダクリスの一団を連れて攻めてきたって言ってるわ、刀を持った変人って一体なんなのよ!?

ちょい待ち、刀を持った、変人やて……それってまさか、ウタゲちゃうんか!?

あなたたちのお仲間さん?チッ、何がどうあれ、どうやらもう攻め入ってきたようね、ガヴィル、それとそこのフード被ってるあなたも、手伝ってちょうだい!

あっ、ウチも行く!

オマエたち、やっちゃいな!

えーっと、あたしが何言ってるかさっぱりわからないと思うけど、でもまあがんばって~

アハッ、最初はちょっと嫌だったけど、でもこいつらを連れてそこら中にケンカ売るのも結構楽しいじゃん。

おい、ウタゲ、この野郎何をやってんだ!

あれぇ、ガヴィルじゃん、クロワッサン、それにドクターまで、やっほ~!

やっほ~って言ってる場合か!人を連れて村を襲うとはどういうつもりだ!

あれっ、ここガヴィルの家なの?じゃああたしは強奪やめる。

ほかの連中にもやめさせろ!

えーっと、それが、そのぉ、あたしの言ってることがわかんないみたいなんだよね~

チッ、しゃーねぇ、このアホどもを全員倒すぞ。