4:12P.M. 天気/晴天
カジミエーシュ中部、四城連合、「大騎士領」カヴァレリエルキ
某所で起こった見るも無残な車両事故現場

あーあ……これ夜の宴会に間に合うのかね?

間に合わなかったとしてもお前のせいだ、フォーゲル。

わしのせい?ハッ!わしのせいじゃと?

お前が否が応でもそのボロ箱を持っていこうとしたからではないか、あの30kgもある箱を!自分のデブさ加減にまだご不満が?

これはマーチンのために用意した修理道具だ!なるほど、それがお前が木に衝突してしまった言い訳か?

わしの方向感覚を疑っておるのか!

お前が老眼で目が霞んでいるんだろと言っているのだ……

先週わしがどうやってバーのダーツチャンピオンを勝ち取ったのか忘れたのか?お前がわしの目を潰したとしてもかすみはせん。

ああわしには潰せんとも、だからはっきりとお前に言ったはずだ、「前に木があるぞ」とな。

はて、そんなこと言っておったか?

スピーカーのボリュームがデカすぎるんだよ!

セイレーンの新曲を入れたのはどこのどいつじゃ?

……もういい、嬢ちゃんのメンテの邪魔をするでない。

うわぁ……こりゃ完膚無きまでにぶつけたね……

フォーゲルのせいだ。

わしでは……お前さんな……マリア、こいつの口車に乗るでないぞ、本当にわしのせいではないんじゃ。

はいはいわかったから、もう少し検査させてね、よいしょ――!

聞こえただろ?嬢ちゃんの邪魔だ、少しその口を閉じろ。

なんじゃとこの老いぼれ!

配線は、OK、でも発動機が動かないか、うーん、これって二つ前の世代のものよね、こうやって動かせばいいのかな……

エンジンも動かないか、ならいっそうアーツで着火してみるか……
(アーツを発動させる音)

……こうかな?

チッチッ、毎度嬢ちゃんが光をつまんでるところを見ると、こやつの爺さんを思い出すわい。

そうじゃな!マリアを見てみろ!お前はどうしてこれっぽっちのアーツも習得できんのじゃ。

わしが源石装置ごときも修理できないとでも言いたいのか!?

マリア!わしにやらせろ!今日こそこやつの目にものを見せてやらんと気が済まんわい!

あはは……二人とももうその辺に……

あ!動いた!

こうして……そしてこうすれば……
(アーツとエンジンが動き出す音)

おお!エンジンが音を出したぞ!わしの可愛いエンジンちゃん!

ホントマリアは日に日に上達しておるな、わしが見るに、どこぞの老いぼれの引退もそろそろなのではないか?

へへ、そんなことないよ、何もかもコワル師匠の教えのおかげだよ。

聞いたか!聞いたか!聞――い――た――か!

ったく、やかましいわ、さっさと乗るぞ。

嬢ちゃん、このあとどこか行くところはあるか?乗せていってやろうか?

私?

私は……このあと別の用事があるからいいよ。

そうか。さあ掴まってろ、コワル、今夜の一杯目は何がなんでもわしの腹に収めんといかん!
(エンジンをふかす音)

言われずとも分かって――ちょっと待て、エンジンの音がちょっとばかし――

行くぞ!
(タイヤのスキール音)

なぜまたそんなに飛ばすんだ!

わしの若い頃に出したスピードはこんなもんではないぞ!それにまだアクセルも踏んでおらんわ!

は?ちょっと待て、70マイルじゃぞ、す――少しはスピードを落とせ、おい、80マイルも行ったぞ!スピード違反じゃ!スピード違反!

落とせたらとっくに落としておるわ!アクセルは踏んでないと言ったじゃろ!

だったら――!ブレーキ、ブレーキを踏め!
(タイヤのスキール音と衝突する音)

あら……あはは……源石エンジン積み過ぎちゃったかな……

また間違えちゃったみたい、えへっ。

カジミエーシュへようこそ――ここに来れば、独特の美食と虜になっちまう風景を楽しみ、カジミエーシュ独特の風土と人情を味わえること間違いなしだ――

だがそんなものに目を向けるやつがどこにいる!この時期、唯一みんなの心を鷲掴みにするのは、騎士競技だけだ!

オレはモブ、ビックマウスモブだ!みんなに今日の試合の解説ができて光栄だぜ!

カヴァレリエルキ中央試合場、クスザイツ競技場、今日もみんなに騎士たちの風采を浴びせてやるぜ!

本日の競技もクスザイツ警備会社がメインスポンサーを務めてくれている、当日でポイントを稼いだ上位10人の選手には、もれなくクスザイツ警備会社が提供する限定版刃物商品の「反乱者」がもらえるぜ!

あのド派手なオモチャが売れなくなったのか……はぁ、あんなもの売れるほうがおかしいが。

まあいい、長年の雇い主だし多少は……ん?

カジミエーシュから――いや、テラ各地からやってきた騎士たちよ!カジミエーシュ商業連合会の各大手企業が今日の独立騎士競技にえらくご注目だ!

レースでぶっちぎるのか、それとも射撃試合でチャンピオンになるのか?どんな競技種目であれ、代表取締役のお目に留まるチャンスが得られるぞ!

もちろん!!観客が待ち望んでいるマンツーマン総合競技もあるぜ!最高得点に、最高注目度!どの試合も騎士団に気に入られて、一気に出世する可能性がある!

カジミエーシュ騎士特別選手トーナメントに参加したいって?数多の騎士のトップに上りたいって?今、そのチケットはお前ら騎士たちが握っている!

相手に勝利し、栄誉を掴み取り、勝鬨を上げろ!!
(大歓声)

ふぅ……

深呼吸……深呼吸よ……

ではお喋りはここまでだ、本日の一試合目を始めよう――

待て――ちょーっと待ったぁ!試合に参加するこの選手は……何やら訳ありのようだぜ!

そうとも!今日の初試合はこの先数日内のカジミエーシュ競技チャンネルのホットニュースになる、とオレは言ったよな!

理由はほかでもねぇ、初めて試合に参加するこの選手には、高らかな「称号」を持っている!この可愛らしい若き乙女は、なんととある名高い一族からやってきた!

騎士競技に注目してきた人なら――いやカシミールの忠実な客人たちなら、きっと耳にしたことのある苗字に違うねぇ!

勿体ぶるんじゃねぇ!早くその新人を登場させろ!

そうだそうだ!

おい、今日の試合スケジュールを持ってこい。

かしこまりました、シェブチック閣下。

見慣れた顔ぶれだな、ん……待て、この一番下にあるヤツがそうか?

ええ……選抜は半月前から始まってますが、今からポイントを稼ごうとする独立騎士も珍しくはありません、ですので……

この苗字は――耀騎士の――?

さあお待ちかね、オレたちの最も熱烈なコールで本日の試合場内に登場する最初の騎士を迎えよう――

――マリア・二アール!!
(大歓声)