3:39P.M.天気/晴天 カジミエーシュ四城連合、某プライベート露天屋根裏部屋
……来ましたか、ミスターモブ。
あぁ、あなたでしたか、先日競技場でお見えになったとき、あなたは――
いえ、気にしなくて結構です、そんなに緊張しないでください、どうぞお座りください。
改めて自己紹介を――チェルネーとお呼びください、今大会の騎士競技予選ブロック交代責任者の一人のです。
ミェシュコグループ騎士競技と宣伝部門の執行役員であると同時に、商業連合会予選ブロックアンバサダーを務めております、お見知りおきを。
しょ、商業連合会?どうか先ほどのご無礼をお許しください、チェルネー様……
そう畏まらないでください、あなたのその解説の風格は……嫌いではありませんよ、「ビッグマウスのモブ」、あるいは、本名でお呼びしたほうがいいですか?
い、いえ……
はは、ジョークですよ……外を見てください、なんて壮麗な景色なんでしょうね。
こういう鉄筋コンクリートで出来た雑木林や、昼夜の見分けがつかない都市を嫌うご老人方もいらっしゃいますが、私から言わせれば、これは文明が進歩した象徴なのですよ。
この地に広がる森林と草原ももちろんカジミエーシュの一部です、しかし強靭なカジミエーシュ人が草木の間の更地に聳え立つビル群を建てたのは、誇りに思えるべきことだと思いますよ。
そうしないと我々は天災から逃れられず、外敵を拒む強固な防衛線を築くことすら叶いませんからね。カジミエーシュも今では繁栄を謳い、凄まじい進歩を遂げてきた……
そうでしょう?マスターモブ。
もちろん!あなたのおっしゃる通りです!
しかしカジミエーシュの進歩はまだ頂には辿りついていません、我々はまだまだ長い道を行かねばならないのです。
例えば……ミスターモブ、あなたの故郷には、「森と匠の都」と称されるアウグニスコがありますよね。
そこの千里以内に、どれだけの貧しい村落と、都市の庇護下にない険しい土地があると思いますか?
よ、よくご存じでいらっしゃいますね、オレはあそこを離れてもう二十年以上経ちます。しかしなぜそのようなことを?実を言いますと、今内心ビクビクしておりまして……
あなたのその素直なところも気に入っていますよ。あなたにお伝えしたいことがあるのです、ミスターモブ、我々が共に目指す進歩のために、あなたをぜひスカウトしたい。
オレを?しかしつい先日クスザイツ警備から前金をもらったばかりでして……
ご安心ください、こちらの秘密契約にはすでにミスターパヴェルがサイン済みです、つまり今日からあなたの雇い主は……
お、オレがミェシュコ社の人間に!?
そうとも言えます……ただほんの少しだけ違う点も。
え?
今から、あなたは私の人です、名司会者さん。
はぁ――!
(斬撃音)
……今日はここまでにしましょう。
え?でもまだ全然動けるけど……
過ぎたるは猶及ばざるが如し!まだ全治してそれほど経ってないのよ、クランタの身体がいくら頑丈でもあなたみたいに痛めつけられたら無意味よ!
わかったよ……
――じゃあ叔母さん、この前話してくれたアーツの打ち方についてもう少しだけ付き合ってくれない?
……昨日教えてあげたじゃないの?
昨日の夜にリターニアの騎士の戦闘記録映像を見てて、参考にできるかなーって――
昨日の夜ですって?
あっやば……
あなたまた夜更かししたのね!ちゃんと休んでなさいって言ったでしょ!
ちゃんと回復したようで何よりだ、これであの爺さん二人もようやく安心できるな。
あれ、マーチンおじさん?どうしてここに?
どうしてって……これのためだよ。
こ、これって?
お前宛てのスポンサーたちだ、全部で十三社、結構有名な大企業も中にあるぞ……
うわぁ、このルシニャンツァタルツァってあの軍需企業だよね……こういう企業も競技騎士を育成していたの?
全部騎士団への加盟書類ね、数字だけ見れば心を動かされるけど、でも結局はただの操り人形にされるだけよ。
……
マリア!絶対にこんな資本家たちに惑わされちゃダメよ!?この程度ならお姉さんにだって負担できるからね!
えぇ……惑わされてないってば、それにそんなに叔母さんからお金を使わせてもらうのもちょっと申し訳ないし……
お金なんて、使いたいときに使えばいいのよ、私がこの土地を買った時もそういう考えだったから買ったのよ。
(だから「お庭」から「雑草場」になったのか……)
ははは……あんだけ企業を断っといて、賞金と引退した数年だけでこんだけ稼業を大きくしたんだもんな、さすがゾフィアだ。
とりあえず、俺はこの書類たちを持ってきただけだ、マイナにうるさくされるのはゴメンだからな。残りは、二人で考えておいてくれ、もし暇だったら、バーに寄ってきてくれよな。
(ハゲのマーチンが去っていく足音)
それで……どうするの?マリア?
前にも話したでしょ、ニアール家の家紋を企業の付属品にしたくないって……それに今の私は彼らと肩を並べる資格はないと思うしね。
まだ続けるの?
うん、お金だけの問題じゃないからね。
たぶん、お爺ちゃんやお父さんお母さんは、証券所の数字とかグラフだけで生涯をかけて「ニアール」を守ってきたわけじゃないんだと思う。
マリア……わかった、じゃあ、これは全部捨てちゃうわよ。
トーナメントに入選すると決心したのであれば、よりたくさんポイントを稼がないといけないわよ――だから競技騎士団に加盟してない独立騎士は面倒臭いのよ。
たとえばスポンサーのメンツに泥を塗ったシェブチックとか、彼一人だけでレースと決闘試合でチーム全体が必要とするのポイントを稼いだのよ。
そして巧妙にポイント移転ルールを利用すれば、騎士団の一軍が予選選抜で出場する必要がまったくないってわけ……
つまりこれからは、より多くの騎士団チームと対抗するってことか……
そうよ、だから少しだけ特殊な手段を使わないとね……参加資格を剥奪されない方法は、そう多くないけど。
たとえば――
みんなポーミェンヌーシュ競技場へようこそ――!
十五のチームに!十五人の騎士たち!
本日の試合はたったこれだけ!略奪、バトルロワイヤル、逃げ惑う騎士に、それを追いかける騎士!このカジミエーシュで三番目に大きい総面積を誇る人工競技場で、騎士たちの殺戮の天性が存分に発揮されるだろう!
なに?試合一回勝ってもポイントを一回しか決算できないじゃないかだって!?そんな面倒臭いことはしなくていいぜ!
ここでは!相手の騎士に与えたどんな有効な攻撃でも、点数として評価され、ポイントに変換され、そして山のような札束に変えることができる!
でもただ勝ち続けてきた騎士の試合を見るのも退屈だろう!分かっているとも、みんなが本当に見たいものは何か――
お前たちはヒーローの終幕、巨星が堕ちる場面が見たいんだろ!その通り!今大会のバトルロワイヤル戦では新たに「減点項目」を設けた、ここにいる騎士たちよ!ハイリスクハイリターンというわけだ!
ポイントがただ上昇するだけってのは見ていて退屈極まりないもんな!?そこで今回の試合では「略奪制度」を採用した!簡単に言うと、誰かに点数が加わったら、誰かが減点されるってわけだ!
おうおう、そうだよなぁ、オレも余裕ぶっこいてきた新星の騎士たちが食いちぎられる場面をはやく見たくてウズウズしてるぜ!前代未聞の、下克上試合だもんなぁ!
家で風呂に浸かりながらビールでも飲んでいればトーナメントに入れるとでも思ってたのか!?だったら今大会で稼いできたポイントをすべてリスクに負わせ、この試合で大いに活躍してくれぇ!!
もちろん、レイジアン工業が提供してくれるドローンが騎士視点で全行程を中継してくれるぜ!八つの騎士協会もどんな不審行為を見逃さないためジャッジに加わってくれた!
騎士たちは今最終調整を行っているところだ、スタッフたちが甲冑にセンサーシールを張り付けている。今日、どれだけのニュースターが誕生し、どれだけの騎士が地に堕ちてしまうのか!?
(大歓声)
さあお待ちかね――騎士たちの入場だ――!!
またコイツがいるのか?クスザイツのシマで大人しくしているのではなかったのか?
こいつも急に出世したな。
しかし……減点じゃと?今までバトルロワイヤルに「減点方式」なんてあったか?
試合開始直前に新制度を発表するなんて、そんなズルいこともできるのかアイツらは!?
どうやら協会の身勝手を舐めていたらしいな……嫌な予感がする。
(大歓声)
それでは、十五人の騎士が各自のポジションに就いた!スタッフが離れたら、試合のゴングが正式に鳴り響く!
バトル継続時間はなんと60分!可哀そうな騎士たちが途中で全員倒れない限り、バトルは最後まで続く――!
たとえ大会ポイントがマイナスになったとしても強制退場はされないから、絶体絶命の下克上という最高の場面が見られるぜ!
ねぇ、マリア・ニアール。
――あなたは?
うーん……あなたの一ファンってとこかしら。
よし――!十五人の騎士の確認も完了した!
手短に話すわ、騎士ラスティーコッパーはうちのグレイちゃんが病院送りにしてやったわよ、あーあ、今週のイングラ一家は多事多難ね。
それでは――
アタシの出場権がグレイちゃんに取られちゃったから、今すっごく暇なんだよねぇ、だから暇つぶしにここでポイントを稼ぎに来たってわけ。でもまさかニアールジュニア本人に出会えるなんて――
――よかったら、ちょっとお手合わせしない?
え?
ポーミェンヌーシュバトルロワイヤル戦、スタート――!