残り――八名――
いや、「残った」八名と言うべきか、それともすでに半数の騎士が負傷により退場してしまったと言うべきか!
待て――言ってる傍から、騎士「グレイヘアー」が騎士「スプリング」から1ポイントを奪った――
おおっと!!「ロックドリル」のドルクが二人まとめて奇襲を仕掛けた!そしてクリティカルヒット!
そこら中で騙し騙され騙し合いが起こっている――これこそがポーミェンヌーシュバトルロワイヤル戦の最大の魅力、純粋なる暴力だ!
(斬撃音)
光あれ――!
その程度の腕前で、よくイングラに勝ったな!?
あなたの剣術……完全に叔母さん以下!
(斬撃音)
チッ、必ずお前をポイントランキングから引きずり落してやる、「ニアール」、くらえ!
あっ――後ろ!
(殴打する音)
あ――!?
あら?
また会ったわね、ニアールジュニア、今度こそ逃げ場はないよ。
「ツリーブランチ」の次は「フレイムテイル」だ!!おいおいおい、試合が開始されてからニアールジュニアが襲撃されてこれで何回目だ?ここはあんたのワンマンショーのためにあるんじゃないぞ、マリアさんよ!
(斬撃音)
アイツ本当にうるさいわね。
でもまあ残りの連中も少なくなってきたし、これでやっとお手合わせできるよね?
――手合わせなら、喜んで受けて立つ。
おお、いいねぇ、「プラスチック」と戦ってた時より、いい目をしてるよ。
……
よっ――
瞬き、片目は開いたまま、片目を閉じる。
(下!?)
うわっ――!?
(斬撃音)
わお?これを避けたの?
(なに今の動き……速いと言うより、すばしっこ過ぎる……)
へぇ、アンタがイングラとシェブチックを相手にしてなぜあれだけ持ちこたえられたのかがようやく分かったわ……想像よりも結構しっかりしてんじゃん。
全部「ウィスラッシュ」から教わったのね。
(足音と斬撃音)
――
ふむふむ、警戒心も中々、学習スピードも速いわね。
でも――
――
(斬撃音)
これで、1ポイント減点ね、アタシは好きなんだけどねこの新制度。
このままだと、「プラスチック」から勝ち取ったポイントが、すぐ無くなっちゃうわよ?
(斬撃音)
くっ――!
うおおお!!このリス野郎が――!
少しは大人しくしててもらえる!?
ハッ、武器が弾き飛ばされたぞ、これで凌げるもんなら凌いでみやがれってんだ!?
拾ってくればいいだけでしょ!このスカタン!
うるせぇ!お前はここでおしまいだ!
――危ない!
(アーツの発動音)
アーツを発動しただと――そんなバカな、武器を持っていないんだぞ!
違う、お前……お前は……お前はまさか――
そこでおねんねしてなさいな。
あらら……また数ポイントゲットしちゃった、今日はツいてるわ……じゃあ続けよっか、ニアールジュニア。
(来る――!)
ねぇ知ってる、アタシって実は感染者なの。
えっ?感染――
(アーツの発動音)
また1ポイント、集中力途切れやす過ぎよアンタ。
……
……感染者って、ウソ?
でもさっき直接アーツを放った……
悔しいんでしょ?
なんですって?
血騎士がチャンピオンになってから、感染者も騎士になれることが許されたの――でも耀騎士は感染者という身分でカジミエーシュから追い出された、悔しくないの?
お姉ちゃんは……
アンタさ、デビュー戦はクスザイツ競技場だったでしょ?普通なら書類を騎士協会に持って行って、参加資格を申請したら、全身武装してバックグラウンドに立つことが許されるのよ……
でも感染者がそこまで行くためにはどうすればいいか知ってる?
まずは、ペンチビーストだらけの檻に放り込まれるの、そして、ほかの感染者の血を踏みながら、一歩ずつ……一般人である資格を勝ち取らなきゃいけないんのよ。
つまり、アイツらは感染者を尊重してるわけじゃない、感染者をただの目新しい観賞物にさせてるために騎士になることを許しただけよ。
……不満に思うのも当然でしょ?
……
アタシたちが目指してるのはあの独りよがりな貴族騎士連中を……アイツらが定めたルールの下で、アイツらを木端微塵に切り刻んでやること。
ここでアンタを退場させるつもりはないわ……アタシ心底あの耀騎士のことは尊敬しているからね、感染者だろうがなんだろうが。
アンタから頂いたポイントについてだけど、アタシが「ウィスラッシュ」の代わりの授業料って思ってくれればいいよ、アンタとイングラの対局を見て分かった、アンタはまだまだ騎士競技がどういうものなのか知らないのよ。
無知なる情熱と己を欺く努力をほかの理想に抱いても、せいぜいみっともなく転ぶだけ、でも騎士競技場にそれらを抱いたら、死ぬわよ。
だから、これからも頑張ってね。
……待ちなさい。
(アーツの発動音)
ん?
光?イングラに勝ったときの……
――はあ!
ちょっマジ!?
これで1ポイントは返してもらったよ!「フレイムテイル」!
いやぁ、思ってたよりも結構強いじゃん――
――でもまあ、それでこそ耀騎士の妹ね!
私たちは再び距離を空け、刃を向け合った。
……変な感覚。
ちょっとしか言葉を交わしてないのに、彼女からはシェブチックとイングラから放たれるあの吐き気がするプレッシャーを感じなかった……性格の問題なのかな?
でも彼女もすごく強いはず、うん、動きも素早くて、攻撃も正確だったし。
笑ってる、そんなに自信があるの?
……どうだかね?
んー、だったら試してみれば分かるわ。
じゃあ……
(斬撃音)
タイム――!アップ!!
司会者が終了を叫んだ瞬間、私たちは同時に剣を止めた。
あと数ミリ――お互いあと数ミリで、お互いの甲冑に触れる距離にいた。
「フレイムテイル」はからかい半分軽く私の盾を叩いた。
もしかしたらさっきのでアタシからもう1ポイント取り返せていたかもね、マリア。
2ポイントかもしれないよ。
はははは――客席で見てるだけだと、その図々しさは分からないもんね、マリア。
こちらのジャッジが判決を出した!この戦闘で最後まで生き残ったのは、たったの四人!!
さあさあ、観客のみんな、お前たちの財布の運命が決まる時が来たぜ、支持していた騎士が開始間もなくタコ殴りにされて気絶してしまったとしても気を落とさないでくれよな、競技場はいつでもみんなを歓迎するぜ!
第四位!10競技ポイント獲得、終始戦場を遊撃していたおかげで、ほぼすべての正面対決から逃れられた、聡明なサバイバー、「ツリーブランチ」のダニエル!!
第三位!息抜きの時間などほぼ与えられず、試合開始直後からずっと追い掛け回されていた、ポイントの起伏の激しさは場内第一位!可憐なる独立騎士、マリア・ニアール!
第二位!試合開始後の混戦でも己の力のみで一気に三人のポイントを連続で奪取、その後重厚な盾を使って競技場の片隅で守りを固め続けてきた!まさに人間城塞、「ライムストーン」のマルコ!
そしてそして、本試合のチャンピオンであり、相手をぶった斬って合計22ポイント獲得、ほぼ全戦全勝、まったく無駄のない戦いを見せてくれたスーパーニュービー――「フレイムテイル」のソナだ!!
彼女が勝ち取った巨額の賞金に歓声を上げよう――!続いては!各賞金プールの当選状況の公開だ!騎士は一夜にして頂へ、観客は一夜にして成金へ!すべてここポーミェンヌーシュ競技場で起こる!
おお、ようこそおいでくださいました。
カジミエーシュ無冑盟有史以来最年少の白金の高位にお会いできるとは、このチェルネー、感激の極みでございます。
お世辞はいいよ、アンバサダーさん。というか、そっちが私を呼んだんでしょ?
とんでもございません、わたくしは連合会の喉舌、理事長たちの意図の代弁者にすぎません、僭越ながら白金の高位に指図することなどありましょうか?
そうは言ってもさ、あの二人は忙しいうえ、上の三人も呼んでも動いてくれなかったから私を呼んだんじゃないの?
はぁ、ホント……つくづく仕事三昧だよ、もともと任務だって少なくなかったんだし、こう呼び出されちゃったらねぇ……トーナメントが終わったらサーミに旅行しに行きたいなぁ。
連合会から承認を得られ次第、プラチナ様のためにサーミ郊外に別荘をご用意致します。
先に仕事を終わらせないとね、じゃあ――
――無冑盟に何の用かな?
問題は山積みでございます、プラチナ様。言うことを聞かない感染者、怪しい噂に、過度に人目を引く騎士などなど……
しかし無冑盟白金の高位の首肯を得た今、すべて――問題ではなくなると信じております。
戻ったわよ!コック長はどこ?すぐに夕食を作らせてちょうだい!
今夜はコック長にご馳走を作ってもらうわ、マリアがもうじき帰ってくるから……労ってあげないとね、私が指示したことは内緒よ。
ゾフィア様、お客様がお見えです、急用のためご相談したいことがあると。
客人?今?
マリアが戻ってからまた――
あぁ……申し訳ありません、ゾフィアさん、勝手に入らせて頂きました……
あなたはこの前の……ははぁ……確か昔自分で小さな会社を経営していた時も、私のスポンサー権をどうしても取りたいがために、あの時もこうやって勝手に入ってきたわね。
それで、今度は何の用かしら?
その、えっと、実はですね……とある情報をお伝えしに来ました……おそらくはただの噂だとは思いますが……
どうか言いふらさないでください!たとえ噂だろうと、情報内にある試合スケジュールは極秘中の極秘ですので……
でもおそらくあなたならもう知っていると思います……恩返しだと思っていただければ……それと、えっと、いい結果がありますように願っておりますので……
こんなに素晴らしい騎士たちに……いい結果が来るのはもう随分と見なくなりましたからね。