

……試合が始まってしまったわ。

絶対に……ん?

ねぇ、どうして私の剣がここに置いているの?

あっ、マリア様が以前送っていただいたんですよ。

それに、武器の状態もすでに調整済みで、新品同然とも言ってましたよ。

……
(剣を振るう音)

キャッ――!

まあ……こんなに軽くなって、この手応えが懐かしいわ。

お、お気を付けください!やだもう、また手すりを壊しちゃったじゃないですか!去年石職人にヴィクトリア式石柱風に彫ってもらったばっかりですのに……

ならいっそのこと屋敷を全部リニューアルすればいいわ、あなたがやってちょうだい。

えぇ、またそんな適当でいいんですか?

人が住めればいいのよ……

……

ゾフィア様?

あ、大丈夫、ただちょっと……懐かしく思っただけ。

この剣は……マリアのお爺様から頂いたものだから。

マリア様は今でも叔母さんとお呼びしてますよ。

血縁関係の話をするとややこしいのよ。当時のマーガレットが言ったことを今でも憶えてるわ――「この人は君の……君の……叔母さんだ。」って言ったのよ。

私あの二人とそんな年齢に差はないのよ?それなのに叔母さん呼ばわりよ?

ゾフィア様はまだまだお若いですよ、それにまだこんなにお若いのにすでに家業を継がれて、私共も大変誇りに思っております、ゾフィア様。

衝動に駆られてこの屋敷を買ったけど、あの時の私も自分を、自分もあの「ニアール」の名に相応しいことを、耀騎士に相応しいことを証明したかったのかしら……

いや……今はそんな過去を懐かしむ場合じゃないわね。

車はすでに準備しております、それとも、ご自分で走っていたほうが速いですか?

そりゃあもちろん――


獲物を弄ぶハンターの如く、レフトハンドナイトが次々と相手に態勢を整えさせる機会を与えて、マリア・ニアールを叩きのめしていく!

……

マーチン!戻ったぞ、状況はどうなっておる!?

なぜマリアがあのクラスの騎士と対戦しておるんじゃ?騎士協会は狂ってるのか!?

話せば長くなる……ところであの子らは無事か?

暫くは安全じゃ、そうしか言えまい、今のあの子らの騎士身分はすでに剥奪されておるからな、クソッ。

まさかこれほどまでに事態が大きくなるなんて夢にも思わんかったわい……

グレートグレイ、フレイムテイル、それに封号を持たぬ騎士が二人と、あの子らの全資産を使い果たして競技場で買い取った感染者……

あのファイターたちは、観客たちを楽しませるためのあの感染者が全員子供だったなんて!一番大きい子で二十何歳、一番小さい子に至っては――!

……

下水管の間に隠れておるが、一日も早くこの都市から離れないと、安全とは言えん、しかし人数が多すぎる。

今はわしの古い付き合いたちが面倒を見てやってる、だがあの子らは何を言おうが感染者じゃ、事態がそう簡単に収まるはずがない。

……こりゃあ企業にケンカを売るだけじゃとどまらんぞ。

なんじゃ怖いのか?

怖いじゃと!?ウルサス人がわしの口に槍をねじ込んだ時でさえ微塵も怖くなかったわ!それにわしだってウルサスじゃしな!

嘘おっしゃい、工匠団が都市を離れたことなどあったか?

ああ!?鍛冶屋が連中の投石機に粉々されたんじゃぞ、連中とやり合わずに屋内で死ぬのを待つというのか?

……

……このままだとマリアが負けるな。

はぁ、今のマリアの相手があんなんじゃ、確かに勝てんわな。

違う、勝てないのではなく、勝ってはいけないんだ。

騎士協会は派手にやりすぎだ、それにこの前やってきたあのチェルネーを加味しても、事はそう簡単じゃない。


くっ……!

(う、腕が脱臼しそう……あの槍のせいで、全然近づけられない――)

(――いや、近づけたとして勝てそうにない……どうすれば……)

……立て。

もう一度だ。

(歯を噛みしめながら立ち上がる)くっ……

この程度でよろけてるのか?貴様が口にする死に損ないの「騎士一族」そっくりじゃないか。

立て、もう一度だ。騎士を消すもっともな方法は、奴らのプライドを消し去ることだからな。

挑発!繰り返しの挑発だ!勝利者の目つきで相手を睨みつけている!「レフトハンド」のタイタス・ポプラー、なんて恐ろしいヤツなんだ!

賞金プールも今や一辺倒、驚異的な偏りと数字を見せている!この金額は、おそらく現時点で全カジミエーシュの競技場金額の合計に等しい金額だ!
(複数の殴打する音と斬撃音)

おい!もっとしっかりしろニアール!もしお前が負けちまったら、俺がつぎ込んだ城を丸ごと買える金が全部パーになるんだぞ!

頭おかしいんじゃないの?彼女にいくらつぎ込んだのよ??

――レフトハンドにはそれ以上つぎ込んだぞ!でもそれだと全然儲からないから、リスクを考えて片方にも入れてやったんだ!

はぁ……はぁ……はぁ……

……

無謀な夢想家でも……騎士になりたいものなのだな。

貴様を殺しはしない、サレンダーしろ、お前のサレンダーで過去が消えることはない、消えるのは己自身だけだ。

それって……同情してるの?

――そうだ、なぜなら貴様は騎士として見るに値しないからだ。

……
(斬撃音)

貴様の試合映像は見せてもらった、シェブチックのときから、レース、混戦まで……

「ニアール家の新しい騎士」とやらに注目していたが、貴様の毎回の運任せの勝利は尽く私への侮辱だった――貴様程度のものが、よくも私の時間を無駄にしてくれたな?
(斬撃音)

うわっ――!

しっかり立てよ、マリア・ニアール、教えてやろう、貴様はあの耀騎士と比べたら天と地の差だ。

奴の光は相手の意志を覆い隠すことができた、奴の激昂は私を震わせ、奴の才華は人々を妬ませた。

だか貴様はどうだ――貴様に勝つことなど造作もない、貴様の意志を灰になるまで徹底的に摺りつぶしてやる。
(斬撃音)

弾き飛ばした!タイタスが再びマリアの武器を弾き飛ばした!!

ああ、あまりにも惨すぎる蹂躙の繰り返しだぜ、だが大丈夫!競技場は血肉が飛び散ってもOKなだけでなく、騎士たちが己の実力ですべてを踏みにじることも全然OKだ!

挑発して!腕試しして!そして粉砕する!これが「レフトハンド」のタイタス・ポプラー、弱者に対する無情なる排斥だ!
(斬撃音)

(重い……!それに盾に亀裂が!?お姉ちゃんが残してくれた盾なのに!)

(刃の部分にアーツエネルギーの痕跡があった――彼のアーツって――)

うわっ!

耀騎士は黒騎士ほど強大ではなく、血騎士ほど恐ろしくはなかった、奴は所詮全体のレベルが最も低かったトーナメントで、運よくチャンピオンになったにすぎない――

――それが私自身への単なる慰めだとしても、私と奴では深い差があることは私でも理解している、だが奴に比べて、貴様の軟弱さはなんて嘆かわしいのだろう。
(アーツの発動音)

私は確かに……お姉ちゃんほどではないのかもしれない……

それでも私は――ニアール家の騎士だ!
(斬撃音)

……目障りだ。

(軽いひと振りで――!?)

もうよい!イングラに撃ったアーツなんぞで私を侮辱するな!

うっ、くっ……

貴様はもう立ち上がるべきではない、その鎧がいくら堅固だろうと、今の貴様には耐えがたい痛いが暴れまわっているはずだ。

……

無言で剣を立てたか、少なくとも貴様の頑固さは賞賛に値する。

ごめんなさい――どいてください、ちょっとどいてください!

やっと見える場所まで来れた……

……マリア。
(斬撃音)

……!

どうした、話す気力もなくなってしまったか?

……

乱れた呼吸に、ふらつく足並み……貴様にまだ勝機はあると言いたいのか?

貴様なんぞ――むっ。
貴族騎士にして、高級商業騎士、トーナメントの古株騎士選手のタイタス・ポプラーは再び目をつぶっった――目が見開けないほどの眩しい光によって。
