チーム戦?
二対二のタッグマッチよ、めったに見ない形式だわ、本来は騎士団の役割分担を顕著にさせるためにも、せめて三対三もしくは四対四であるべきなんだけれども。
でもたとえ何対何だとしても、あなたは騎士団に所属していていないから、助っ人が必要になるわ。
えぇ……相手は誰なの?
スケジュールにスノウイーヒール騎士団って書いてるわね。
……弓使いのやり手が数人と、モーニングスター使いが一人いるな、誰と組むんだろうな。
マリアもついに相手の名前を聞いただけで誰かが分かるところまで来たな。
あはは……
いいんだが悪いんだか……
マリア、タイタスに勝ったことは喜ばしいことだ、だが今以上に多くの目に晒されることも意味する。
フレイムテイルとグレートグレイがその戒めを示してくれた、才華や力を誇示するのもあまりいいこととは言えない。
必要なときに企業に妥協するのも重要なことだ、もう時代は変わったんだ、純粋な勝利だけでは栄誉は取り戻せないんだよ。
……
……なんであの時言ってあげなかったのよ?
あんたが怒って出て行ったあとにちゃんと言ってあげたさ――それと、あのときまたドアを壊してくれたな。
うっ。弁償します……
ところでフォーゲルとコワルは?
今日はあの日だ、まだ帰ってきていないよ。
あ……お墓参りの日ね、まずいわね、マリアの装備を修理してくれないか聞きたかったんだけど……
あいつの工房を借りればいいさ。
それに去年ある日あいつが酔っ払ったついでに、もしマリアにその気があれば、いつでも喜んで工房を継がせてやるって言ってたぞ。
えっほんと!?私全然聞かされてなかったんだけど?
とにかくあいつはもう二度と金床には触れないと誓ったんだ。
はぁ……もう随分経ったもんね……
過去を完全に受け止めきれる人はそういないさ、尚更オレたちみたいなジジイ連中はその過去に取り残されちまった。
なら彼らのことはひとまず放っておきましょ、マリア、自分で装備をなんとかしなさい。
それと、チームメンバーのことは……宛てはあるの?
宛て?うーん……
……
ほらっ、私ってそんなに騎士の友だちいないでしょ?
そうだと思って私が探してあげたわ、私の知り合いよ、当日協会が適当に埋め合わせた人よりよっぽど安心でしょ。
え、誰?
ファーファングナイト、弓の達人よ。
あなたと同じ、独立騎士始まりよ、それに企業のスポンサーも受けなかったわ、今は確か完全自立した騎士団を立ち上げようとしてたわね。
たぶんあなたたちなら相性はいいと思うわ、戦術のほうもお互い補えそうだし、チームタッグ戦はバトルロワイヤル戦やシングルマッチ戦とはまったく違うものだから、その時が来たら分かるわ。
本来時間があれば、訓練所でお互いを把握しておいてほうがよかったんだけど、こんな状況だし、本番で力を発揮するしかなさそうね。
……わ、分かった。
これが独立騎士のデメリットだ……臨時で組んだメンバーと歴戦の相手チームと対戦しても、必ず劣勢に陥ってしまうんだ。
どんな人なんだろう……ちょっと緊張しちゃうなぁ……
この街道を通るのも本日で三回目になってしまいましたね。
ええ、そうですねチェルネーさん……
こういう仕事には慣れているのですね、各競技場を行ったり来たり、無数の電話会議に参加することが。
い、いえそんなことは……私みたいな人はこれといった得意不得意はありませんので……
ただその恰好はいささか場に不釣り合いですね、見た目も交渉するために必要な重要なファクターですよ、そうは思いませんか?
も、申し訳ありません……実はついこの間まで職を失った状態だったので……それで……
ふむ……それとなんの関係が?
私はあなたみたいな方は嫌いではありませんよ、谷底に落ちてしまった人でしか我々が直面しているすべてがいかに残酷かを知ることができませんからね、それにそれを知ったあとでしか、人に満足して頂ける決断も下せませんからね。
……
私の言った一文一句、やってきた全ての仕事をどうか覚えておいてください。
え?あっ、スノウイーヒール騎士団の議事録作成ですね、分かりました、すぐにご用意――
いえいえいえ結構です、彼らのスポンサーは私の古い友人ですので、そんな面倒臭いことはしなくて結構ですよ。
ただ私の取るに足らない……仕事のスタイルをどうか覚えておいてください。
……マリア。
ん?
実は最初から、私はあなたが騎士競技に参加することは反対していたのは知ってるわね。
えっ、うん、どうしたの急に?それならよく知ってるけど。
でもあなたは自分を証明してみせた。
毎回ギリギリだったけどね……
いくらたいそうな動機や、大義や、誓いがあったとしても……あなたの覚悟を証明してくれるのは試合での成績だけよ。
まだまだ甘っちょろいけど。
あはは……
でも……その「ニアールのために栄誉を取り戻す」という純粋な想いが、あなたを強くしていったんでしょうね。
――勝てたのは確かに幸運だったのかもしれない、でもあのタイタスから一点でも奪い取れたんだから、これからの相手と対戦してもなんとも思わないでしょうね。
あなたは自分でアーツの使い方を見出してきた、でも残念ながら、今ではまだ、あなたのその戦術は真の強敵には通用しないわ。
たとえば、レフトハンドナイトが本気を出していたら、マリアが三人かかっても彼には勝てなかったでしょうね。
剣術も、戦術も、私ができるだけ教えてあげるわ、射撃だったら、フォーゲルに聞いてみるのもいいわ、普段はあんな調子だけど、当時の彼はあなたのお爺様を唸らせた名手だったのよ。
――でもアーツだけは、あなたの光は、あなた自身で掴み取らなければならないわ。
――分かった?
う、うん!
はい……事態は急変してしまいましたが、依然順調に進んでおります。
はい?いえ、私たちのユーザーを高く評価しすぎですよ、非難批判は決して観客席では起こりえません、あそこに道徳などは存在しませんから。
ええ、仰る通りです。あの二人を……遣わして頂いて誠にありがとうございます。
必ず皆さまに素晴らしい報告書をお見せいたしましょう。
……
おめでとうございます。
……今、すべての準備が整いました。
この素晴らしい試合の幕開けを共に待ちましょう。
おう……戻ってきたか。
雨は降らないって言ってただろう、降ってきたではないか……
チッ……テレビで流れるもんは全部信用ならん、ニュースも、競技も、それに天気予報もな。
マリアはどうだ!試合は今日なんじゃろ!
もう酒のつまみを用意してあるよ。
どうしたんだ?
……どうもこうも、あれから随分と経った……今年もまた人が減ってしまった。
隊長の墓参りに来る連中がどんどん減ってきてしまってな。
はぁ……わしと飲み比べしてやると言ってたくせに、乾杯する前に、人が先に居なくなってしまったとはな。
……まあいい、もう随分と昔の話だ。
そうだな……まさか、あんたら二人が彼女のために一生独身を貫いてきたとは誰も思わないだろうな。
その話はよせ、酒をくれ。
そうじゃ!ジジイ共の生死なんざその辺にして、マリアの試合を見ようじゃないか!
乾杯、コワル!
乾杯、フォーゲル!
今日はバーゲンセールだ、酒は自分で取ってくれ、それと店の留守番を頼む。
なんじゃ、タダで飲んでいいのか?
そんなわけあるか。
ならどこに行くんじゃ?
競技場だ。
あ?チケットが手に入ったのか?
……人に頼んで一枚だけ手に入ったよ、まったく今のチケット代は本当に馬鹿げてる。
それがここのビジネスじゃよ。
(ドアをノックする音)
こんにちは、今日の競技昼刊新聞です。
ありがとう、坊や、牛乳を一杯やろう。
はい!ありがとうございます!
午後の競技新聞か、持ってい――
――待て、何だこれは?
(大歓声)
本日もポーミェンヌーシュ競技場へ!ようこそ!
前回の試合の熱は未だに冷めず、騎士「ソフトウィング」の血痕も未だ競技場の地面に残ったまま、だが大丈夫、彼の滲んだ血を今回の試合を盛り上げるスパイスにしてあげようじゃないか!
間違いなく、みんなは今日もニアールの風采を目に焼き付けようとここにやってきたんだろう――!このうら若き乙女は、オレたちにこれでもかという奇跡を見せてくれた!
ブレイクタイムももう間もなく終了する、十分後、マリア・ニアールとファーファングナイトが組んだ臨時チームが――
今年のルーキー――過去トーナメントに入選できなかったチームの精鋭たちが組んだ復讐の同盟――スノウイーヒール騎士団と対抗する!
新たなる伝説が復讐の刃に立ち向かう、斬新な二人タッグマッチ戦、前代未聞の刺激を味わおうじゃないか!試合開始までもう少しだけ待っててくれよな!
マリア、傷の具合はどう?
うん!もうバッチリ!叔母さんがお世話してくれたおかげだよ!
そう、なら信じるわ。
……うん!
それにしても、遅いわね……ファーファングはいつも遅刻してくるっていうけど。
大丈夫だよ、間に合ってくれれば――
マリア様!マリア・ニアール閣下!選手待合室で準備をしてください!もう間もなく始まります!
あ、もうすぐ始まっちゃうか……
じゃあ先に準備してくるね、ゾフィアお姉さん。
……うん。
(マーチンが駆け寄ってくる足音)
……ゾフィア?マリアはどこだ?
マーチンおじさん、どうしてこんなところに?
ああ……実はな……まだここでファーファングナイトを待ってるのか?
彼女はもう来ないぞ。
――何ですって?
ほらっ、今日の競技新聞だ。
えっと……ファーファングナイトが……重傷!?
騎士ファンの闘争に巻き込まれて、現在失踪中、生死も不明。
表ではそう報道している。
ちょっと待って……闘争に巻き込まれたですって?
そんなのウソに決まってるわ、一体どんなファンなら闘争で百戦錬磨の騎士を「失踪」させられるっていうの?
ちょっと待って……それってまさか……
……今はそれどころじゃない、試合はどうする?
……何かがおかしいんだ、ゾフィア、よく考えてくれ。
マリアを棄権させないと!もう間に合わないわ、私についてきて――
ブレイクタイムはどうしていつもいつもこんなに短いんだろうな――なに?長すぎるって?おいおい頼むぜ、見かけだけでもステージの掃除ぐらいさせてくれよ。
一体どれだけの人がニアールのためにやってきた?一体どれだけの人がニアールの風采を一目見ようとここにやってきた?
まったく自慢ではないが、このスーパーニュースターをずっと見守ってきたオレは、今の膨大な賞金プールの数字がどうやって少しずつ膨れ上がっていくところをままじかで見てきた!
バックが収集したデータによると、今この瞬間、国内の全都市、国内の全村落から、様々な方法でこの中継を見ている観客は、なんと数十万人にも達する!!
このすべてが一体誰がもたらしてくれたのか!言わずもがなオレ含めみんなはもう分かっているだろう!
だがここで、一つ残念なお知らせだ、ファーファングナイトはどうやら昨晩の事故で負傷してしまい、行方不明になってしまった!
だがしかし!マリアは棄権をしなかった!一対二の大きなリスクを背負いながらも、彼女は依然この場に足を踏み入れたのだ!!
この勇気がみんなにとってどれだけの価値があるのか、このオレに確かな形で見せてくれ!!
それではご登場願おう――今大会もっともホットなスーパールーキー!ニアール家からやってきた若き騎士の、マリア・ニアール!!
(大歓声)
うぅ、やっぱり間に合わなかったか、これからどうしよう……
……いいえ、諦めてはダメよ、まだ始まってもないのに棄権するなんて騎士に対して失礼だよね!
騎士……そうね、騎士。
そして続いて!スノウイーヒール騎士団から二人の老将がやってきた!
(大歓声)
二大会連続ともにもともとの騎士団に所属してもなおトーナメントに入選できず、その後それぞれ異なる道を歩んでいったが、最終的に再び道を共にした復讐の戦団!!
本日登場したスノウイーヒール騎士団の二人のメンバーは、共にその名を轟かせた騎士、彼らこそが――
(会場に響く轟音)
突如鳴り響く轟音は絶え間なく喋り続けていた司会者を遮った。
おい、場内のあれはなんだ?俺の目がおかしくなっちまったのか?
ち、違う、匂いがするわ、気持ち悪い匂いが――
一体何が起こったんだ!?
(何者かの足音)
収容人数二万人以上を誇る競技場でさえ、その重い足音はとてつもなく明瞭に聞こえてきた。
気を取り戻したあと、場内のすべての人は静まりかえった。
……えっと。
騎士競技でなんとも希少な場面がそこにあった。娯楽と消費に満ち溢れたその場にいる、万を超える観光客と観客たちは、まるでその足音の出所を耳に収めようとモニターを凝視していた。
率先して真相を察知したのは、観覧席にいた騎士の貴賓たちであった。
……場内のこれは、霧?アーツか?それとも特殊装備の類か?
スノウイーヒール騎士団にはこんな……ん……?
……違う。彼らじゃない。断じて彼らなどではない。
あれは――
(何者かの足音)
……
……あれって、えっと、騎士なの?
――コワル!
分かっておる!急ぐぞ!
奴らめ……マリアを殺すつもりじゃ!
……
プラチナ様、小隊の準備が整いました。
そう緊張しないでよ、競技場に近づく目標を止めるってだけだからさ。
……承知致しました。。
しかしもし相手が――
もしあのマイナに手を出す度胸があるんだったら……私が相手をするよ。
まあ面倒臭いけどね……やれやれ。
……
えーっと、スノウイーヒール騎士団からやってきた……
(おい!どういうことだ、今日の商業スケジュールは――なに?はぁ?どっちがどっちかなんてオレに分かるわけ――)
……スノウイーヒール騎士団からやってきた――
「腐敗」と「凋零」だぁ!!
観客の歓声は予想に反して上がらなかった、観客席は静寂のままだった。
当然ながら、観客たちが第一に浮かび上がった印象は、恐怖であった。
そして彼らは、この恐怖が観客席にいる彼らに向けているものではなく、あの未だ状況を理解していない少女に向けているものと知ってから――
この残酷さを知ってから、彼らは万雷の拍手を場内に響かせた。
(大歓声)
これ……ちょっとホラーすぎるんじゃないのか?
……まさかニアールは一人で、あの二人とやり合うのか?
おいおい……そんなに絶対面白いのに決まってるじゃねぇか!?
それでは参ろう、試合スタ――
(アーツの発動音)
なっ――
命中。
――ぐはっ!
なんでいきなり……はっ!?
む……盾、固いな、そう簡単にはやれそうにないか。
問題ない……奴を処理するに、そう難しくはない。
ま、まだ試合開始を宣言し終えていないというのに電光石火のような交じり合いが始まった!反則なんじゃないかって?もちろんそんなことはないぜ!騎士が舞台に立った瞬間から、試合はすでに始まっているのだ!
(大歓声)
果たしてニアールはまたもやこの絶体絶命な状況を覆せるのか!?それとも早々に投降――
(なに?棄権は許可できない……?そんなのって……分かったよ。)
この劣勢を覆す唯一の方法はお前たちの手の中にある!さあ哀れなニアールに投資しよう!もしかしたらあのつまらない小道具たちが、ニアールの勝利の足掛かりになるかもしれないぜ!
ぐふっ……この霧は……一体?
それにアーツが抑制されてる……?傷口が、治せない……?
くっ……痛い……
(アーツの発動音)
目標……徐々に抵抗力を失いかけている、殺せ、素早く、事故に見せかけるんだ。
分かっている……
(ダメよ、諦めることを考えちゃダメ、まず先にどう相手にすればいいかを――)
(あの二人のサルカズは……双子?二人がほぼ同じアーツを使っているのか――!)
だったら……もう一回やってみるしか!
(爆発音)
(え?)
――――!!
に、にわかには信じがたい出来事が目の前に起こった!一体何が……!?マリアの身体から突然爆発が起こったぞ、そして腐敗の騎士がすかさず一撃を与えマリアを吹っ飛ばした!
(あっちは?だったっけ?まあどっちでもいいか?)
うわ――!
ゴホッ、ゴホゴホッ……
血……?どうして、どうして私のアーツが効かないの……?
血を吐いてる……アーツが効いてるぞ。
……爛れて、凋落し、腐敗している……彼女の死の匂いがする、もう逃げ場はない。
マリア!早くサレンダーして!はやく!
チッ――
放して!マーチン!
一緒に死ぬつもりか!?
うぅ――
――マリアを一人で死なせるより二人で死んだほうがマシでしょ!
ゾフィア!
早くしろコワル!
ちょ、ちょっと待ってくれ、わしぁクランタじゃないんじゃぞ――
ごめんね、ここを通すわけにはいかないんだ。
貴様は――
前二階征戦騎士のフォーゲルヴァルデ、あるいは、バトバヤルって呼んだ方がいいかな。
アンタは自身の血統に従い四方の戦いに征き、今では誰のものではなくなった草原をその足で駆け回った。
そしてアンタは、工匠団特級工匠の、コワル。
アンタの師匠はあの銀槍の天馬にも尊敬された大鍛冶師、アンタの弟子たちは今も前線で活躍していると――
アンタたちは立派なカジミエーシュ人だ、だから大人しくここを離れてくれないかな?
……貴様の話口調はわしがあの時出会ったあの小娘とはまったく違うな、白金様よ。
へぇ、知ってるんだ?
ああ、知ってる、当然知ってるとも。
あんたの上の連中とは、少々私怨があってな。
……あぁ、なるほどね。
確か隊長がプラチナの位を受け継いだ最初の任務が、一人の征戦騎士の暗殺だったっけ、きれいな女性だったよね、名前は確か――
――黙れ、貴様がその名を口にするな。
――黙れ、貴様がその名を口にするな
……滑稽だね、あの隊長だ、最後はあんな女のために死んじゃったなんて。
この仕事をやり続けると、確実に精神面に影響が出るのかもしれないね、はぁ、そろそろ本当に休みを取って旅行に行ったほうがいいかな……
御託はいい!マリアの一連の出来事は貴様らが裏で操っておるのか!?
……引き続き周りを監視してて、ここは私が対処する。
……承知致しました。
なんじゃ人を連れておるのか、全員まとめてかかってきてもいいんじゃぞ?
こっちは本当に手を出したくないんだ、お互い退いてくれないかな?
ハッ!珍しいな、あの無冑盟のアサシンたちが慈悲をかけてくるとはな?
安心せい、わしだって本気で小娘一人を手にかけたくはない、貴様が反省してる間に、真っ先にマリアを救出させてもら――
(射撃音)
――
フォーゲル――!
へ……平気じゃ、ただのかすり傷じゃ、ただ奴の弓を引く速さがこれほど早く、精確だったとは思わんかった……
ああ、見てみろ奴が黙ってしまった、いくら若かろうと、未熟だろうと――
彼女はあの無冑盟のクズたちの上にいる、あの「逆三角の一角」の白金の位じゃ。
うーん……褒めて頂いて光栄です?
準備はできたか、コワル、お前さんのパンチが衰えていないか見せてもらおうか。
ハッ!やはりお前はとっくにボケておるわい、フォーゲル。
そっ、わかった、じゃあ負けず嫌いのお爺さん二人は――
――ぎっくり腰に気を付けることだね。
もう行ってしまうの?
ああ、時間が迫ってきている。
なら……絶対に気を付けて、絶対に絶対に気を付けて。
そう心配せずとも大丈夫だ……あなたの隣にはまだ彼女がいるだろう?
……うん。
心配する必要はない、大丈夫だ、あなたに誓おう――騎士の名の下に。
いいえ、そんな大それたことはしなくていい、行ってらっしゃい、信じてるから。
ああ。
行ってらっしゃい。
ああ、ありがとう、リズ。
ゴホッ……ゴホゴホッ……
(傷口が爛れてる、治せないなんて……!失血してる……寒い……)
シェブチックさんよりも素早い……イングラさんよりも力強いなんて……
あの二人って――
――
ここで諦めるの?
いいえ、食いしばりなさいマリア、私はまだ――
(アーツの発動音と爆発音)
……命中、眩暈を起こしたか、おい、やれ。
ガァ……つまらん戦いだった……彼女の頭を砕けばいいんだな。
ああ、さっさとやれ!
……
……サルカズは武器を高く持ち上げた。
日の光が反射し、バランスを取り戻そうともがく少女の身を照らした。
うっ、ぐはっ……
地面に吐かれた血、口の中の血腥さ、耳鳴り、眩暈、雨が降ったあとの土の香りがした。
両手で身体を持ち上げようと試みるも、激痛により身体は再び崩れていった。
(古傷で……手が……!)
ガァ……終わりだ。
うっ……
地に倒れたマリアは身動き一つ取れなかった、その哀れな光景はサルカズの騎士の無情な瞳に映っていた。
しかしその時、視界が明るくなった。
太陽を遮っていた雲が散ったのか、あるいは太陽の光がちょうど建物の遮りを通り過ぎたのだろう。
しかし次の瞬間――彼の耳に轟音が響いた、彼の全員の細胞が自身に警告を出している、すぐに手を振り下ろせ、すぐにこの抵抗する力すら無い小さな騎士の脳を砕けと――
しかし視界の明るさは増していくばかりだった。
(爆発音)
それと同時に、彼の手中のハンマーは、何者かによって強く弾き飛ばれてしまった。