法、原初の法とは、復讐の背後に潜む同様なる原初の需要だ、暴力への需要だ。
都市は住民に、手厚い生活と安定した環境で彼らをなだめることを許諾した――
彼らは己の生命をもって人が造りし目標に服従し、彼らの天性の征服の意志を飼いならし、彼らに安心を教え、彼らを軟弱にさせてきた。
我らの陛下はなんと賢明であることか。
多くの都市は力を悪と見なし、勇気の欠乏を美徳と見なし、死への畏怖を進歩と見なしてきた。陛下は彼らの隠れ蓑を引き剥がし、彼らを思考させ、反省させられたのだ。
我ら人類の血脈の中には、絶えず一種の渇望が、その行為のためなら躊躇わず己の命を投げ出す渇望が流れている。
公平は生まれつきあるものではない。公平は智慧と、意志ある力で掴み取るものである。
陛下は彼らが欲するその一切を、都市が奪い去っていったその一切を、彼らのために取り戻されたのだ。
新たな目標が間もなく宣告される、陛下もまた再び日常生活と退屈によって削られてしまった彼らの思考を整理される、我らは怨恨になり、矮小で麻痺した存在となる、そしてそれらによって己の存在を自ら滅ぼすようになるのだ。
往々にして畏怖する人は卑しいものである。
生き延びたいのであれば、暴力に溺れなければならない、数多の道徳の偽りを見定め、この痩せこけた大地を知るべきである。
暴力こそが真実であり、触れられるものであるのだ。
罰ではなく、統治でもなく、価値ある平衡と偽りの懐柔でもあらず、我らは拳と武器をもって彼らに我らがここに生きていることを教え、生きていくのだ。生ある者のみ生を許さるからだ。
私は皇帝陛下が私に下された罰は咎まない、私は時勢に反し陛下が民衆へ述べられた仁慈なお言葉を侮辱してしまった、陛下は人民が激烈な変化がもたらす痛みに遭ってほしくないのである。
しかし例えそうであっても、私は真理の告白を止めることはない。私は陛下の明快なるご見解を賛美し続けねばならない、私は己の誠実を呼応することしかできない、ゆえに私は沈黙してはならないのだ。
事実、我々は正義など欲していない、また安寧を望んでいないのだ。
目先が浅く、己の利益に突っ走っていく人のみ安寧に沈みゆくのだ。
我らが欲しているのは、我らの血に流れる暴力、我らの文明の起源によって啓発された天性、我らの足掻きと勝利の源泉である。我らは暴力を行使者なのだ。
この世の一切の修飾は我らの需要を正当化しているに過ぎない、だが問題ない。
我らは欲しているのであれば、直接求めにいけばいい、修飾は歴史学者と道徳の守護者に残してやればいいのだ、彼らこそ正当化が必要なのだ、我らの生存はいかなる理論よりも正当だからだ。
我らで人を傷つけ、人に勝ち、人を滅ぼそう、もしこれがウルサスにとって災難であるのであれば、この災難を彼らに、ウルサス外の人々に与えればいい。
彼らが壮健でないのであれば、滅ぶべきだ、この世には彼らより生きるに相応しく、成就するに相応しい人々がいるからだ。
軟弱とは即ち悪である。力とは即ち崇高なるものである。我らの法は健全なる人民の心身のためにあるべきだ、我らの国家は蛆虫に服従すべきでも、数多の疾患を養うべきでもない。
どうか私が侮蔑する狭隘なるこれらと、安寧にしがみつく臣民が審判の後に血の湖に永遠にその身が沈まれるよう、どうか陛下がこのウルサスを永久の繁栄へ導かれるよう。
――異端なる君主の伝道師がウルサス皇帝に絞首の刑を下され、絞首台に上がった時に放った最後の伝道より。
チェルノボーグ中心都市、中央区
スパイだ!ウルサスのスパイだ!
ここにいたぞ!ここにいることをみんなに知らせろ!
殺せ、奴ら殺せ!奴らを連結層に吊し上げろ、その身を摺りつぶし龍門の家々に塗り付けてやれ!
撤退しよう、ロスモンティス。商業ビルが丸ごと彼らに占領されている、ここの地域区画も彼らに封鎖された。
ロスモンティス……!
私がやるよ。遠回りしたら、ほかの場所のレユニオンからの攻撃を受けちゃうから。
――
サルカズ……
おい、お前、見張っておけ、あの術師だ……見張っておけって言ってるんだ!奴に手を出させるな!
あいつらを殺せ!早く!
ああ!分かった!!殺す、奴らをぶっ殺ししてやる!
(ロスモンティスが歩いてくる足音)
(クルビア語)私を殺したいの?
お前らは知らないんだな、お前らの首にはウルサスの手綱が括られていることを!
ロスモンティス、そんなことしなくていい!彼らはもうほとんどイカれてるんだ!ほかの区画に移動しよう、別の突破口が見つかるかもしれない!
ボウガンを持ってこい!ボウガンで……そいつの頭を、そいつの頭を撃ちぬいてやる!さっきここに来たあのウサギも……お前も!
アーミヤはここを通らなかったんだね、彼女は私みたいなことはしたくないもんね。
何なんだその目は?お前は感染者だ、お前は感染者なんだろ、なんでお前らはそんな目で俺を見ているんだ!?
協力して?生き延びようだと?ハハ、何を言ってやがるんだ、ウルサスはオレたちには勝てないんだ、俺たちの勝利だ、勝ったんだ!
撃て!ヤレ、彼女を射殺セ!
無駄。
(ボウガンが放たれる音と爆発音と斬撃音)
無駄だよ。私を傷つけることすらできないのであれば、あなたはもう何もできない。
どういうコトだ……どういうことだヨ!撃て!撃つのをやめるな!全部ぶちかませ!
何なんだこの壁は?一体どンなアーツを……どんなまやかしを使ったんだ!ボウガンの矢が当たってモ全部砕けちまった、砕けちまった!
あの壁っぽいものは放っておけ、矢の無駄だ!見るからに堅いってわかるだろ!術師たちを呼んで来い!
お前に何がわかるんだ、俺たちはあいつの顔を狙ってるんだ!
でも矢がそいつのカラダに、散弾がそいつの顔に当たる前に、何かにぶつかっちまった、透明な壁みたいな何かに、ナニかに!砕けちまった、矢が通らねぇ!
ザコ術師が、どれだけ持ちこたえられるか……あとどれだけ体力が残ってるか見ものだナ!もうこれ以上持たねぇだろうよ、あとどれだけ持ちこたえれるカ見といてやるよ!
なんでだ、ナンでなんだ……お前らまさか射貫けねぇのか、あいつは何もやってねぇんだぞ、お前らのバリスタはどうしたんだ、お得意のバリスタはどうした!
なら爆破だ、あいつを粉々に、木っ端ミ塵にシてやろうぜ、クソみたいなウルサス人みたいにヨぉ、そんで今晩のスープにしてヤルんだ!
こちらロスモンティス小隊、アーミヤに繋げてくれ!繋がったか……ロスマンティスを止めてくれ、何とかして止めてくれ!
ロスモンティス、通信だ!
制服を着てるヤツよぉ、アハ、制服を着こんでるヤツよぉ、お前らを吊し上げてヤル、電線に干して、フモウクチバシにボロボロになるまで食い荒らされるがいいさ!
オレをナめたラどうナルか、思い知らせテやる!
俺たちをナめくさってるヤツは、俺たちを迫害してテキたヤツは、オレたちに威張ってたヤツは、ハハ、ヘッ、全部殺シてヤったんだ。
全員エンジンの中に放り投げてよぉ、ドドドドドドドドって、肉ガそこラ中ニ飛び散ったンだ、アハハハハハハ……!
おいなんの真似だ!何を踊ってるんだ!?小隊の位置をバラすんじゃねぇ!
ウルせぇなぁ……魔族の分際がよぉ!偉そうにシやガって畜生!てめぇごときがオレに命令するだと?
自分をタルラか、あのシんでも死にきれなかったクソ野郎とデモ思ってんのか?死んだんだよ、あいつはもうおっちんじまったんだよ!ボンッってな!
てめぇらももうおシまいだ!俺たちウルサスの感染者が……コロス!てめぇら全員ぶっ殺シてやる!てめぇら全員――
(サルカズ傭兵が感染者を蹴り飛ばす音)
サルカズはその感染者を窓から蹴り落した。
感染者は叫びながら、あるいは、笑いながら、七階から落ちていった。そして続けるように放たれたバリスタによって肉片へと変わった。
ペッ。
やるぞ。重火器類を出せ。あいつらをぶっ殺してやる。
アーミヤ、聞こえる?言った通りのルートを進んでね。オーバー。
ロスモンティス……
遊撃隊の現在の動向は?
偵察オペレーターの報告によると、集結した遊撃隊は現在中央大通りで正面からほかレユニオン防衛軍を攻撃しているとのこと。
それと一部の遊撃隊の小隊が、前進ではなく後退し、都市の各区域に散開したと……
……そうですか、遊撃隊にもほかの任務がありますからね。
でも私たちの二小隊はもうこれ以上コアシティ内のほかの区域の状況に目を配る余裕などありません。
封鎖を突破する時間が長ければ長いほど、こちらが不利になります。
もしほかの反遊撃隊の感染者が遊撃隊に牽制されているのであれば、予定より早くコントロールタワーに辿りつけるはずです。このチャンスを無駄にしてはいけません。
戦局の掌握は、RaidianさんとMantraさんの判断に委ねます。戦場の掌握は……
……私とロスモンティスにもう少しだけ練る時間をください。
じゃあ、ロスモンティスはもう……
こちらが敵の待ち伏せを排除したあと、ほかの迂回ルートは確保できました。でもロスマンティスは、おそらく、ロスモンティスなら目の前に映る障碍をただひたすら破壊することしかしないでしょう。
もうそうしてると思いますが。
……やれやれ。
ケルシー先生の予想は的中か。何もかもめちゃくちゃだ。
レユニオンはもう崩壊した。連中の内ゲバは遊撃隊の攻撃よりよっぽど早く進行している。
普段からお互い摩擦がかなり多かったんだろうよ、パトリオット亡き今、その情報がすぐに拡散してしまい、そして何もかもがぐちゃぐちゃなったと。
今までの惨状を見るに、あいつらが日頃から謳ってるほど団結はしていないんだろうな。
……
ほかの小隊隊員に連絡してください、集合します。術師たちにドローンを回収させてください。私たちはロスモンティスたちと合流します。
あ、アーミヤ。
こっちの処理はもう終わったよ。
……アーミヤ……
すまない、アーミヤ。もっとマシな方法があったはずなのに。
私がそうしたってだけだよ。
交渉失敗は問題ではない、あんな様子じゃ、交渉なんて無理だよ。
でも彼らは悪いことをしていたから、放っておくわけにはいかない、じゃないともっと悪いことが起こっちゃうから。
ビルが……お前ビルごと……
もしかしてやり過ぎちゃった?
いや、そんなことない。ただ、俺はあんたとは任務が一緒になったことがなくてな。改めて見ると、ちょっとばかし驚いちまう。
さすがはロドスの切り札、最強の戦争マシーンだな……
……
……えっと。
(アーミヤ、俺なんかマズいこと言ったか?)
……
中心都市攻略隊発艦直前
許可はできない。
ケルシー先生。今回ばかりはお願いします、こうしないといけないんです。
その問題ならこちらも幾度と検討してきた、アーミヤ。
君のアーツは君の体力を食う、しかも君の新陳代謝に必要とする生理活性をだ。
そうすれば君の命は……漏れ出してしまう。君は機械でも、艦砲でもない、君にパーツを入れ替えることも、加工してやることだってできないんだ。
分かっています。
違う。君はまだ知らないのかもしれない。
……あまりにも長い記憶なんだ。それが君にどれだけの負担になるかは私にも分からない。
毎回の模擬テストの結果も理想よりはほど遠い、だからこの選択は常に排除してきたんだ。
でしたら、ケルシー先生、言い方を変えましょう。
今回ばかりは必ずこうしないといけません。もう一枚指輪を解放させてください。
アーミヤ、私たちが検討してきたのは一種の暴力だ。そう私に言ったのはほかでもない君じゃないか。もし私が今の君を止めないのであれば、あの時の私は君に誓約を立てなかったはずだ。
議長と私がこれらの指輪を鋳造したのは、後の者たちが同じ道を辿ってほしなかったからだ。
私はその使用者です、ケルシー先生。武器に弁護などしません、もっと迅速に人が殺せる武器がいいってことも絶対に言いません。
でも、テレジアさんが私に残してくれたものは、絶対同じものではないと信じています。
最初から、これは武器として設計されるべきものではなかったのかもしれません。
誰かを殺すために使われるべきじゃなかったのかもしれません……それは今でもそうです。これを使う時は、私が誰かを救うために使います。
それが私とこれが導き出した結論です。
……武器を信用することは賢明ではない。
もし君がそれを凶器ではなくメスとして使いたいのであれば、その刃を完全に掌握しなければならない。
刃は敵味方問わず刃だ、君がそれをどう運用しようと、それの性質が変わることはないんだ。
アーミヤ……それは必ず君を切り刻んでしまう。
ケルシー先生、私は怖くありません。
傷はいずれ癒えますから。
だが痕が残る。直視できないほどの痕が。
……うぅ。
でも私は……私は諦めません。
源石はもう私の身体をこんな風にしてしまいました。今さら傷が増えても……傷が一つ二つ増えるだけです。
それに私は武器ではありませんし。
もう一度あの負傷者の例を上げようか?
――何の例ですか?
君が武器でないことなど誰が証明してくれる?
我々が武器ではないことなど、一体誰が定義してくれる?
武器は思考するか、思考する武器はより恐ろしいか、自我を持っていれば武器ではないと言い切れるか?
駄目だ、アーミヤ。許可はできない。
たとえ君が――
もう立派に成長したとしても。
私では君を止めることはできなかったとしても。
自分で判断を決めることが出来るようになったとしても。
……
ええ、オペレーターさん、マズいことを言っちゃいましたね。
見たことありますか、えっとぉ……そのぉ……
……こんなに可愛い……
兵器……が?
あっ。いや、そういうつもりでは……
アーミヤのほうが……もっと可愛いよ。
ご、ごめんなさい!ほかにどう言えばいいか……思いつかなくて……
私たちは人です。喜怒哀楽がある人ですもんね。
これが終わったら、あとで謝りに行ってあげてくださいね。
ううん、大丈夫、アーミヤ。大丈夫だよ。
さあ行こ、一緒に。
あっ、待ってください、ロスモンティス……転んじゃいます!
私にしっかり掴まってて。あいつらに、あの感染者に、彼らにあなたを傷つけことは絶対にさせないから。
ならゆっくり……ゆっくり行きましょう。
……
(確かに言っちゃマズかったな。でも……)
(ああ……)
中央区
君も見たのか、ケルシー?
あぇ、うぐ。
ち、近づくな。
捕捉した。視力が正常ないかなる者もあんな現象を無視することは許されない。
――龍門で遭遇した特殊感染者を憶えているか?
ほか感染者の器官を変異させるレユニオンの感染者のあの少年のことだ。
・そんな奴いたか?
・……
・憶えてる。
……アァ。
メフィストの牧群だと!?
なんで魔族が……
先ニハ、先ニハ進ムナ、モット中マデ行ケ。
何のつもりだ……この先で防衛線を張らなきゃならないんだ!裏切者たちがもうすぐここにやってくるんだぞ!
メフィストの野郎、また何を企んでやがるんだ?迂回するぞ、こいつらは俺たちには攻撃しない……
痛ミ、ダケダ。
おい待て、待て!何のつもりだ!!
痛ミ。
手を放せ!!放せつってんだよ!!!
……
各小隊隊員に告ぐ、場所を移動する。ステルス行動はそのまま維持しろ。
ほかの入り口をあたる。あまり芳しくない事態が発生した。