ファイギ:
私たちはひたすら南に向かった。
遊撃隊は感染者絶滅計画が執行される前になるべく多くの感染者を救出したいと考えている。
駐在軍はひたすら退き、私たちはひたすら前に進んだ。
よそからは私たちがウルサスの軍隊を追い掛け回してるように見えるだろうが、実際そんなことはない。
私たちはウルサスの常備軍を避けながら、彼らの見えないところで感染者を救出してきたのだから。
こうする理由は、「こうするべきだ」としか言いようがない。
しかし、より多くの感染者を吸収し、ほかの部隊に許容空間を作り出すことは、パトリオット殿の戦略の内に含まれていると思う。
しかしパトリオットは一本のラインを引いた、跨いではならない一本のラインを。
そのラインを跨げば私たちはウルサスの駐在軍と正面衝突するか――そんなことは絶対になってはならないが――あるいは、身を潜めなければならないことを意味する。
つまり、雪原を離れることは、ウルサスの真の辺境に、厳格な法律で管轄された移動領土に足を踏み入れることを意味する。
そのときになれば、我々が新たな反撃のチャンスを得るまで、遊撃隊は武器を収めなくてはならなくなる。
荒野にはウルサスの軍艦が闊歩するようになり、都市での感染者の扱いもよりいっそう残忍になるだろう。きっと辛い日々になることは間違いない。
その一歩を踏み出すには、確かにあまりにも困難だ。
しかし北西凍原には……雪しかない。
雪しかない大地ではみんなを活かすことはできない。
11月3日
X年目

兄弟姉妹たち、無事か!?

無事で何よりだ。

……今回は本当にひどい戦いだったな。

ありがとう、スノーデビルたち。君たちが共に先鋒を務めてくれたおかげで、かなりやりやすかったよ。

タルラが傍にいてくれたから、俺たちもやりやすかったよ。あなたとのコンビネーションはよく合う、どうりで姐さんが安心してあなたに私たちと作戦を任せたわけだ。

それに、アーツもどんどん上達してきたじゃないか。冷気の間に火をすり抜けさせ起爆するなんて、よく思いついたな?

実を言うと……あれは火じゃないんだ。説明すると色々と複雑なんだ。

姐さんもきっと喜ぶぞ。俺たちももう昔みたいに姐さんばかりに頼ることもなくなったからな。

ここでまた多数のウルサス軍と遭遇するのか、タルラ?

この都市は本来ウルサスが三年前の解体計画に含まれていた都市だ。

汚職、もしくは非正規な活動で、あの部隊はこの都市を占拠するようになったに違いない……現地住民も奴隷にされ、あるいは、駆逐されたんだろう。

だが少なくとも目の前にいる奴らはもうどうってことない。

奴らは言ってるほど弱くはないぞ。

ウルサスの正規部隊と比べて、だ。パトリオットだって君たちをよりハードな戦闘には参加させなかっただろ?

あ。確かに親父にはまだまだって思われているところはあると思う。だが今はもう大丈夫だ、俺たちも姐さんももう実力はバッチリだからな。

しかし正規のウルサス軍は、こんな規律もなく、訓練にもろくに受けてない……ましてや編制から除外された部隊なんかより、よっぽど手強い。

たとえ一撃を食らって怯むようなウルサス軍を相手にしても、私たちが勝ってる点はほんの少しの戦術しかない。

……じゃあ今はそんな喜ぶべきときでもないのか?

そうでもないさ。私たちが生存していく上で欠かせないものを獲得できたからね。

これらの物資を得られなかったら、今年の冬は越せなかっただろうね。だから必ず奪取しなければならなかった。

それに、たとえこの移動都市が古くてボロボロで小さくても……

俺たちにとっては十分すぎるものだもんな。

移動都市なんて一度も住んだことがなかったな。

タルラ!

どうした?

君は確か……ソグヌティーウシ村の感染者だったな。

俺たちの隊も大きいんだ!あんたら遊撃隊と大差ないと思うぜ。

残念だけど、私は遊撃隊ではないよ。

だが今回俺たちと共にする人数はあんたらよりはるかに多い。

……では何か用があるのか?

ここでお別れだ、タルラ。

本気か?

俺たちはあんたらと一緒にいろんな戦いをしてきた!あんたらのために色んなこともしてきた。

この都市にある物資は半々で分けよう。そっちが多くもらっても構わねぇ。

だがこの都市は俺たちに譲ってほしい。

この都市があれば……俺たちは色んな場所に行けるようになる。氷原であちこちを走れば、治安維持隊やウルサス軍に見つからずに済む。

もう戦いたくなくなったのか?

死んじまうからな。

俺たちは……言いにくいが……

敵が……どんどん強くなってきているからな。

ここの連中はパトリオットが歩んできたどの旅路にも敵わないような相手だぞ。

だが俺たちにはもう無理なんだよ!

タルラ、頷いてくれるよな、な?

さっきから何をほざいてやがるんだ?

スノーデビル……!

……生き物の温かさを持たないお前らは死を恐れてなくて当たり前かもしれねぇけどよ、俺たちは……

てめぇ――

(ペトロワの前に腕を出しやめるよう意思を示す)

タルラ……

ペトロワ、戦士たちを召集してくれ。物資を整理しよう。

(それと、鹵獲したウルサス通信端末を出してくれ。)

(それって……)

(彼らはパトリオットの遊撃隊がここにいないことを知って話を持ち掛けたんだ。)

どこに行っていた?

パトリオット殿?ちょうどあなたと合流するつもりでした。

お前、都市をタダで譲ったのか?

どうやらもう私のメッセージを受け取ったようですね。

――奴らの行いは裏切りに等しい。お前の許しで奴らは正当な理由を得た。お前は規律を破ったのだぞ。

彼らが去ると求めた時点で、彼らを留めることなんてできません。

信念無き者、力無き者は、始めから、戦うべきではない。

その言葉通りであれば、最初から戦う資格を持つ人などいません。

規律は鋼よりも固し。

奴らを殺し、都市を奪い返せ。お前の隊とお前の同胞の期待を無にするな。

奴らに感染者は廃棄された都市なんぞのために、逃げ場を失ったものたちを殺し、同胞の血で奴らの歯車に滑りを加えてくれることを知らせることをですか?

奴らは規律を犯したのだ。

彼らは初めから規律のために戦っていたわけではありません。

お前と初めて会ってから、はや四年が経った。お前に命令してことなど一度もなかった、作戦への参加も、拒否もお前の好きなようにさせた。

だが今、お前が以前より成熟したか、あるいは軟弱になったかなど見るよりも明らかだ。

私があなたの価値観に反対してきたからですか?

お前はほかの感染者を召集し、奴らが感染者の規律を裏切ったと宣告し、即刻奴らに刑を下せばよい。

奴らの行いを見せしめにするのだ。

できません。

戸惑ったな。奴らも感染者だから、戸惑ったのだな。

栄誉あることとは思わんのか?

お前は謀殺も、権力にも固執しない、それはいいことだ。だがお前が取り仕切らないにしてもそれらを全うする人が必要になる。

パトリオット殿、私は手を下せないわけではありません、他人より道徳心に溢れているとも自負しておりません。

ならば私と遊撃隊がやる。

お前が奴らの悪を断じないのであれば、私が行く。

どうした?そんな表情をして?私が奴らの言うような……潔白で崇高な人物とでも本気で思っていたのか?

そんな人は戦争が始まる前からとっくに死んでいるのだ。

戦争の勝利と勝利の果実の守護以外に、栄誉あるものは何だと思う?憎き敵を討ち滅ぼすこと、それこそが栄誉だ、だが私は決してより多くの犠牲を誇りに思うことなどない。

もしあることの勝利を掴むことで、同胞を少しでも犠牲にせずに済むのであれば、それこそが正しい。

あの修理修繕されていない都市など数年もすれば動かなくなります。あの都市は本来持つべき寿命よりはるかに長い年月人類に奉仕してきましたから。

お互いよくご存じのはず、彼らの運命は最後になっても凍原に足を止められるのです、彼らは依然自分たちの足で道を切り拓かなくてはなりません。たとえその三年少しの間しかなかろうと、彼らは自分たちに一つの希望を灯したのです。

私はその希望を消したくはありません。

奴らの独断で我らの隊が分裂してしまう事態を放っておくつもりか?

違います。言ったはずです……彼らは最初から私たちの者ではありません。

「軟弱な人は軟弱さゆえに戦えない」のではありません、「私たちの考えを尚も理解できない人もいる」だけです。

私たちはいずれより多くの同行者を持つようになります。しかし彼らは全員が全員私たちと同じ目標を持ってるわけではありません。

私たちは彼らの力を借りるだけであって、彼らを徴用してはならなんです。徴用は彼らを自分たち本来の目標と背反し……猜疑と離反をさらに加速してしまうだけです。

……

隊の純潔か。

あなたのお好きなように呼んでください。私は好きではありませんが。

お前は確かに筋が通っている人だ。

ここ付近にはさらに訓練された通商ルート防衛軍が駐在している。不幸はま逃れないだろう。

認めたくはありませんが、しかしあなたの言う通り、彼らがそうする可能性も否めません、なのでこちらも準備を整えましょう。

スノーデビルが……情報をキャッチしました。

そうです、この区域にいるウルサスの駐留軍宛ての、移動都市から発した情報です、私たちの位置が軍にバレてしまいました……

……彼らが私たちを利用してウルサス軍を引き離すつもりなのでしょう。

こんな戦い、誰も望んでいないと言うのに。

奴らの愚昧さが奴らを徐々に滅びに導くだろう。