
この死体……もう腐り始めている。

Wに所属していた者だ。魔族の傭兵に違いない。

おかしい、私たちはこいつらに手は出してないはずだ。これは私刑だ、明らかに裏で処刑されている。

かなり前からその内部粛清は起こっていたということか?

分からん。ここ数日の出来事なのかもしれん。

しかし、明らかなのは、タルラはかなり前から計画していたということだ。おのれ、我らはなぜもっと早く奴の正体を暴けなかったのだ?なんという演劇派だ、あの悪魔め!

今、タルラはこのサルカズ傭兵たちを指揮して俺たちを対処している、こいつらが心からそう願っていなくとも。それなのに傭兵をわざわざ殺す必要なんてあるのか?見せしめなんじゃないのか?

いや、それはあり得ないな……サルカズを脅せる人なんてこの世にはいねぇ、ましてやサルカズの集団なんて。

フンッ、その通りだ、「魔族を脅した奴がいれば、魔族たちはそいつを殺す」、私たちの遊撃隊にいる奴らも同じさ。

じゃあなおさら変だぞ、こいつらがWの部下だったから殺されたのであれば、Wは一体どっち側についているんだ?

じゃああたしがどっち側についてるか当ててみれば?当たったらプレゼントをあげる。

止まれ!そして両手を上げろ!

――!
(Wの足音)

ちょっと、ちょっと、落ち着いて。ワオ。おっきな剣ね。ロドスの新手かしら?

……W……!

お前が……お前がScoutを!

彼女が?

じゃあScoutさんの仇は私が討つ。

何言ってるの?

ちょっとタンマ。白猫ちゃん、あたしを殺すのはどうぞご自由に、でもね、濡れ衣を着せるのはどうかと思うわよ。

そっちのレユニオンの恰好をしているロドスのお兄さんにも気付かせてあげないとね。

あんたのことは憶えてるし知っている、あたしがあんたを見逃してやったからね、考えてもみなさいよ、あんたを大旦那様に譲ってあげる必要なんてさらさらないのよ。

Scoutはあんたたちロドスのために死んだ。そしてあたしは彼の命を奪うように強いられていた。

よく聞きなさい、あの時の彼は一人でも余裕で離脱できたのよ。彼はあんたとあんたらほかの人を助けるために、あたしと一緒にレユニオンに芝居を打ったってわけ。

あたしが彼を喜んで殺すとでも?一人のサルカズを、サルカズの中で絶滅しかけているステルスマスターを、正真正銘の射撃の達人を、サルカズの英雄になりえる種を喜んで殺すとでも?

嘘だ!

あたしに八つ当たりするのかしら!?

あんた、よくもあたしにキレることができたわね!?

ぶちギレたいのはこっちのほうよ!もしあんたたちに度胸がもっとあれば、もしあんたたちがあの場であの龍女を殺していれば、こんなたくさん人が死なずに済んだのよ?

あたしがScoutを殺すことも、あたしが一目置いた人を殺す必要もなかったのよ?

あたしを戦争屋とでも思ってるわけ?なら教えてあげる、その通りよ。そう、その通り、でもあんたたちと違うのは、あたしは人の価値をちゃんとランク分けしていること。

Scoutはね……よく聞きなさい!たとえあのバベルにいたとしても、あたしからすればScoutは最も価値ある戦士だったわ。

あたし以上にね。

……もう一度聞くわ、あんたたちには何の価値があって彼をあんたたちのために死なせた?あ?

てめぇ……

くっ、ゴホッ、ペッ……

手を上げて。武器を下ろして。あんたなんか信用しないから。

……

タルラに焼き殺されることも、ケルシーのバケモノに壁に打ち付けられてそのまま死なないだけでラッキーだったわ。

だから今は、もうあたしを煩わせないでもらえる……?手の上で踊らされているやつの言ったことが正しいとは限らないのよ、でなければあんなにたくさん人を粉々にしたこのあたしが爆ぜちゃうぐらい正しいことになっちゃうじゃない?

ついでに言うと、ケルシーから言質は取ってあるわ、今のあたしはあなたたち側についてるわ。

あなたたち側よ。

録音取ってあるけど聞く?

……

何をそう焦ってるの?

はあ?あんたみたいなガキんちょも心とかなんとかが読めるわけ?ならなんであたしを信じないのよ?

焦って当然よ。早くタルラを殺さないと、あたしの人がどんどんあいつに殺されるからよ。

サルカズの傭兵には一つ欠点がある、彼らは人を殺す時以外は時勢をこれっぽっちも知ろうとしないの。

彼らに命令すれば、彼らは言ったままに動く、理由なんてないわよ、彼らは自分のことも、自分の命もどうでもいいって思ってるからよ、自分のだろうと他人のだろうと、全部どうでもいいのよ。

だから早く彼らをあたしのところに戻してあげないと、全員死んでしまうわ。

彼らを説得できるのか?

タルラを殺したあとにすればいいでしょ。

もういいでしょ、これ以上時間を無駄にしたくないの、道を譲ってもらえないかしら?

……

お兄さん、あたしが言いたいことはたった一つよ。

彼の死を無駄にしないで。

――

俺にそんな資格はあるのか?

あるよ。

あるわよ。だってあんたの命はあたしの古い付き合いたちが積み重なった上にあるものなんだから。

……あ……!

もういい、分かった!ロスモンティス、そいつを行かせてやれ!

じゃあ彼女が言ってることは本当なの?本当にアーミヤたちを守ったの?

俺を信じろ、そんで一回だけ彼女を信じろ。この一回だけだ。

分かった。

もう行っていいかしら?

……とっとと行け!

二度とそのツラを見せるんじゃねぇぞ。

――二度とそのツラを見せるんじゃねぇぞ!

そりゃどうも。安心しなさい、もし今回あの龍女を殺し損ねたら、また会える機会なんて二度と訪れないから。

彼らは譲ってくれたわ、それで、遊撃隊の衛兵さんたちは、どうなの?

……

お前は信用する価値などないと大尉が言っていた。

あのジジイが言っていたことは何一つ間違っていないわ。嘘もホントもあまりにも多くでっち上げてきたから、その中で意味あるものを掘り出すのは確かに大変だわ。

あなたたちのあたしを見下す目をあたしではどうもできない、そうでしょ?

でもタルラを灰になるまで粉々にしたいという思いだけは、誰よりも強いわ。

ついでに、一言だけ言わせて、あんたたち、他人の背後にあるものをいつまでも睨んでるんじゃないわよ。あんたたちには分からないわ、あんたたちなんかに魔族に起こったことなんて理解できっこないわ。

あたしの死んでいった傭兵が何のために死んでいったのかあんたたちに分かるはずもない。だからそんな目であたしを見ないで。

アハッ。もしかしてあの龍女にもそういう目で見ていたのかしら?

――

お前のその傷を見るに、どうやらもうタルラと一手交えたようだな。

ははーん、鋭いわね、あんたたちの前に立ってまだ十数分しか経ってないっていうのにもう見抜かれたのね。

そうよ、一発殺りあったわ。しかもあたしの負け。

傷も深いうえに、勝算もないではないか、それでどうするつもりだ?

あたしが生きてるってだけで、十分よ。ロドスのあの子ウサギが殺し損ねたのなら、あたしがもう一回タルラを吹っ飛ばしてやるわ。

お前では相手にならん。

死に急ぎたいのであれば、邪魔はしないが。

遠回りすればいいのよ、衛兵さん。あたしならできるわ。

まさかあなたたちがロドスと一緒になるなんてね、でもあたしは、あなたたちに会いに来たのよ、わざわざね。あなたたちの助けるために。

あたしの可哀想な部下たちの死体はもう見たかしら?一回見たほうがいいわよ。

この都市にいるのはもう取り残された市民とレユニオンだけではないのよ。

ウルサスの兵士たちもあたしたちの制服を着ているわ。

奴らとはすでに遭遇済みだ。こちらももうすでに――

準備ができた?準備はできたって言いたいんでしょ?

よくもベラベラと。

本当のことを言っただけでしょ、あたしは本当のことなんてめったに話さないんだから。ただまあ死ぬ準備だけはやめといたほうがいいわよ。

タルラがこういう手を出したってことは、もうすでにレユニオンなんてどうでもいいって思ってるわ。レユニオンをここで死なせるつもりなのよ。

それじゃあさようなら、皆さん。運が良ければ、みんな生き残れるかもしれないわね。

あたしを信じないのであれば、自分たちの運を信じてみることね。

それじゃあ幸運を。

ようやく石棺のコアに十分接近することができたな。

……

何か心配事でもあるのか?

お前をちゃんと守ってやれるかで心配している。

いや、Dr.●●、私はいつかお前を守ってやれなくなる時が来るかもしれない。

まず、私たちの想像をはるかに超える力があまりに多くこの大地でぶつかり合っている、その天災並みの暴力は、予知できない問題、それと予想外の死をももたらす。

すべて知っていたとしても、そのすべてを変えられるとは限らない、これは数多な悲劇の根源でもあり、多くの旅の始まりでもあるからだ。

それに、Dr.●●……

君は果たして本当に私が守るに値する人物なのだろうか?

・
・……
・ケルシー医師からすれば私は君がそうするに値しないとでも?

情報の非対称性を利用して君に少々圧力を加えているだけだ。

もちろん、急かせばあのコータス族でも人に噛みつくことがある。

しかし答えを直接教えてしまえば、君はより事実を疑ってしまう。だから君は自力で真相を掴み取らなければならない、あるいは向こうが答えを開けてくれるのを待つべきだ。

答えるはずもないか。

分かっているさ……昔の君はそういう人だったからな。

しかし君はもうその人ではない。Dr.●●、約束してくれ、君はもう昔とは違うと。

ふむ。

君を呪ったことでもあったかな、Dr.●●?それともその呪いが解かれて、私にリバウンドしたのだろうか?

値するかどうかは私が判断するものではない。

たとえ値しなかったとしても、私はそうする、理由が聞きたいのであれば、あとでまた君に話してやろう。

――牧群だ!

オ前タチハドコニ行クノダ?

故郷ニ帰ルノカ?カカカカ帰ルノカ?

……

断定できるのは、コア区域にいるサルカズ傭兵たちはすでに全員転化してしまったということだ。

各オペレーター、自浄スイッチをオンにしろ。

他者を救う前に、まずは己の身を守れ。

アーミヤ……君は本当にこの不幸なる種族の運命を背負う気なのか?