
さすがだ。

まことに素晴らしい……

しかしなぜだ?龍斬りの剣に斬られていないのに、魔王の剣に突き刺されていないのに、なぜ……

私のアーツが……私の力が、消えていく?
炎が徐々に消えていく。依然と人を殺せる熱さを保ってはいるが、数分前のような荒々しさはもうない。
血に染まったチェンの手が震えている。目もほとんど瞬きせずにいた。
……

喜ばしいか?

味わいはどうだ?

君たちはこれほどまでに勝利に近づいているというのに、なぜまだ堅苦しい表情をしている?

勝利はもう君たちの目の前だ……違うか?

……プハッ。

アーツが解けた……喋れるぞ。

アーミヤ、油断するな。こちらの体力はもう……

私をこの身体から駆逐したのであろう?

さあ、思いっきりやれ。

その嘲蔑は誰に向けてのものだ?

魔王、魔王よ、なぜ一言も喋れない?

私を彼女の中から駆逐する、君たちなら、君になら――

できるのだろう?

……

彼女の審判と私の審判になんの区別があるのいう?今までのすべては私が犯してきた罪だったのではないのか?

どうなのだ、魔王よ?答えてくれ。

あなたの言う通りです、コシチェイ。

もし彼女が完全に拒絶していれば、あなたは……一切動けなかったはず。

……

あなたに属する考え……たとえ歪曲されていようがいまいが……それらの考えは確かに……タルラさん本人のもの。

貴様!

タルラさんの肉体をどうするつもりですか!?

なんのつもりだ!?剣を下ろせ!

目の前で人が自刃する場面を見たことがあるか、「妹」よ?

ドラコの肉体とてこの剣の鋭さには耐えられんだろうな。

私は彼女の意に反することはできん。

であれば、タルラはこのまま生きていけるのだろうか?

貴様ァ!

彼女の心の底にある絶望、逃れられぬ恥辱、それらは彼女の中で蓄積していき、濃縮していった――

――

自刃したいほどにな?

コシチェイ!タルラさんに触れたこと……もう許されません!

あなたが彼女の影だろうと、彼女の中で目覚めた障碍だろうと、彼女のもう一つの側面だろうと……タルラがどれだけの過ちを犯そうと、あなたが正しかったことなんて一度たりともありません。

私はただ彼女を「教育」しただけだ。

私の失敗は私のいまだ健在してる堅持から来ている。君たちがいずれ堅持なき者に遭えば分かる、苦しみという言葉に、どれだけのものが含まれているのかをな。

彼女の下にいた犠牲となったウルサスの戦士たちのように、彼らはただ彼女が踏みしめる道にすぎなかったのだ。

あの感染者たちは、あの悲しき感染者たちは、世俗に受け入れられない価値を発揮すべきだった感染者たちは……今ではもう無駄になってしまった。

私とて彼女の足元の道だ。もし君を見事殺すことができれば、「妹」よ……そうすれば何もかもが収まる。

私たちは黒蛇であり、またタルラなのだから。

チェン・ファイギよ、チェン・ファイギ。タルラと私は世間に普遍してる父と娘の関係の一つにすぎないのだ。

ウェイも私に似ていると思うがね。

よくもそんなことが口に出せたな!?今にも自分の「娘」を犠牲にしようとしているくせに、よく自分は奴と似ていると言えるな!

そ、そんな……そんなこと――

もう手遅れだ、魔王よ。君たちに私の秘密を知られるわけにはいかん。

コシチェイ、あなたがチェンさんを殺したいのは、徹底的にタルラさんを殺したいからですよね!

でも、それも叶いません。私たちが呼び起こした彼女の記憶は、すでに彼女の脳内を長い間彷徨い続けてきました。彼女ももう我慢の限界のはずです。

タルラさん!どうか……どうか自分が誰だったかを思い出してください!

たとえどんな犠牲だろうと、あなたは……あなたは真っ先に彼らのために犠牲になるような人だったじゃないですか!

フロストノヴァさんを思い出してください、ファウストさん……それにあなたを信じていた戦士たちのことを、あなた自身のことも思い出してください!

本当にこんな風に自分の命を奪われてもいいのですか……!他者に乗っ取られた身体で死んでも、あなたは後悔するだけです!

あなたがもし後悔と恨みを思っているのなら、それで罪悪感を抱いているのなら、呪いの受け身としてではなく、古の邪悪の被害者としてではなく、あなた自身でそれを背負ってください……!

死にたいと思っているのなら、タルラとして死んでください!あの雪原を変えようとしていた、感染者の運命を変えようとしていたタルラとして!

タルラさん、私にも分かります!

あなたは物事を成功させるために感染者のために戦ってきたのではないんですよね……なぜなら失敗しても大丈夫だったから!あなたがそうしてきたのは、正しいと思ってきたからそうしてきたんですよね!

あなたはそれを貫き通してきたじゃないですか……あなたが知り合ってきた人たちも、みんな貫き通してきたじゃないですか!

タルラ、あんな蛇の傀儡のままでいいのか?

こんな終わり方でいいのか?私の知ってるタルラはそんな程度か?

その程度で……感染者のリーダーと言えるのか!
……リーダーを名乗れる資格など私にはない。

うわっ!

まさ……か……タルラさん……!
白髪のドラコが「父親」に反抗したのは、決してこれが初めてではなかった。
感染者のリーダー……?
私はリーダーになった覚えなど一度たりともない。
彼が己に教えたすべては彼の陰謀だった。陰謀とは赤裸々な想いだった。
彼女はそれを知った上で、それでも自身を止めることはできなかった。
そのため彼女は自分では受け入れられないものを憎む前に、彼女はまず……
自分を憎んだ。
私は失敗した。貴様の罠にはまってしまった。そして情けないことに、すべて私の行いでそうなってしまった。
しかし、だとしても――!
我が同胞たちを嘲笑う資格など貴様にはない。
あの死しても決して挫けなかった同胞たちを……嘲笑う資格などあるものか!
私と貴様の違いは、貴様の犠牲にしかならない……「愛」にある。
ボジョカスティ殿、エレーナ、イーノ、サーシャ、口数が少ないリュドミラ、親切なアレックス、そしてアリーナ……
彼らを嘲笑うわけがあるか?
生きるために抗ってきた同胞たちを嘲笑うわけがあるか?

もういい。もうここまでだ。私はもう貴様ではない、コシチェイ。私と貴様は違う……私はもう一匹の黒蛇などではない。

貴様に似ているのかもしれないが……断じて黒蛇などではない。

貴様の呪いも今日で断ち切る。

……私の恨みはもう無数の人々を殺めてしまった。これ以上恨みをもって私を煽動しようと思うな。

フッ、コシチェイ、貴様が背負ってきた無数代もの怨恨とその物語は……私の代で終わりを迎える。

貴様は種であり、ツルであり、天にも届く大樹だろうが……それがどうした、コシチェイ。

私は炎だ。

「私が君にすべてを教えた」だと?いいや、違うな、コシチェイ、教えてくれたのはこの大地だ、あの雪原だ、あの陽の光を追い求めた人々だ、彼らが私に教えてものは、貴様は永遠に理解できるはずもない。

私を動かせる人はみなもう向こう側に行ってしまった。だが私から彼らを奪ったとしても……貴様はもう私の感情を操ることはできない

私の炎が私諸共貴様を焼き尽くしてやる。
この我がすべての同胞たちの、隷属されてきた同胞たちの炎にもって、貴様と貴様の悪なる木枝を、跡形もなく燃やし尽くしてやる。

そんな……馬鹿な!私を否定するつもりか?そのようなこと――

……私の牙から君を逃がすわけがないだろう?

陰謀が見破られたからではなく、自分ではもうこの人を操れないと知って腹を立てているのか?

操るだと?彼女は私であり……私は彼女なのだ!

もちろんさ、コシチェイ……ドラコの娘が貴様みたいな爬虫類のように陰湿なわけがない!

ち、チェンさん?ピューティアのオペレーターたちに聞かれたらまずいですよ!

すまん。昔蛇の上司がいてな、彼女はむしろ裏表がない率直な人だった……気にしないでくれ。

だがな、コシチェイ、貴様の敗因はたった一つ、それは貴様は相応しくないからだ。

貴様は私の姉の身体を乗っ取る資格はない。戦争を吹っかける資格もない。それに、ベラベラと自慢げに話していた自分の来歴にもな。

だから、即刻、タルラの身体から……消え失せろ!

もちろん消え失せるとも……だが君たちだけで中枢区画を停止させることができるとでも思っているのかね?

――そんな!

私がここで命を終えれば、すべては再び動きだす、ウルサスを止められるわけが――

……彼女はあなたの娘だったんじゃ……

まだ私の感情を追いかけているのか?雑種なる魔王め……それが事実だったとしても、君にそれを口に出す資格など無い!

……はは。

フンッ、だか君の言う通りでもあるな。

まあいい。

この先また新たなチェルノボーグと新たな傀儡、それに新たなタルラが現れるだろう。

認めよう、今回だけはな、思う存分己の快挙を祝うがいい。

もういい……もうどうでもいい。よく覚えておけ、タルラ。

「地の果てだろうと私は存在する」ことをな。
白髪のドラコががくりと地面に倒れこんだ。

……終わったのでしょうか?

……

動くな!

まだ確証はない……これがあの老いた蛇の策略なのか、タルラが本当に脳内から奴を消し去ることができたのか、それとも彼女は自分が今までしてきたことに後悔していることも……

それに、いや、まだ終わっていない……この都市を停止せねば。

都市を停止させたければそれをこっちに寄越しなさい、ウサギちゃん!

え……?W?一体どこから……

キーをこっちに寄越せって言ってんの!早くしないと間に合わなくなるわ!この屑鉄の塊をさっさと止めないと、みんなオジャンよ!

私は……敵を信用できません。ロドスの仲間をたくさん殺した敵のことを。

ならどうやったら信じてもらえるわけ?じゃこうしましょっ、あたしの心を読めばいいわ。普段だったら足から順にキレイな紅い花を咲かせてあげたけど、今だけは、ちょーっとだけ見させてあげてもいいわ。

それに、ウサギちゃん……あたしを信用してなくてもいいのよ。だってあたしもあなたのこと信用してないから。でもテレジアの継承者がこんなときにバカな選択を選ぶとは思えないけど!

!

殺したければキーをあたしに渡して、都市が止まったあとにあたしを殺せばいいわ。まあボーっと突っ立って殺されるのを待つわけがないけど、でもチャンスはあげる。

いい?こんなチャンス、他の連中にはやらないわよ!

殺人鬼の話が信用できるか。

じゃああなたは自分を信用できていないのね。

それは確かにある。

W、もう一つ信用できる話をしてくれればあなたを信じます。

え?あんたねぇ、ったく……

あ。

アーミヤ、この大地が……安らかに眠れるように。

……
アーミヤ、私にとって、夢とはいくら手を伸ばしても届かないものだと思うの。あーあ、毎日あれこれの処理ばっかりで、疲れちゃうわ。
でも私にはそういう夢が一つあるの。私がどれだけここに精力を尽くしても、全部有意義なんだって思わせてくれる夢なの。
もし夜に寝るとき傍にお父さんやお母さんがいれば、アーミヤも嬉しいと思うでしょ?
うん、そうね。うんうん、分かってる、ケンカもしちゃうかもしれないよね?
だって朝に家具をひっくり返しちゃったこととか夕食で好き嫌いしちゃったら、怒っちゃうわよね。でもケルシーは怒らせちゃダメよ、彼女もわざとああいう風に振舞ってるわけじゃないから。うん、いい子ね。
そうね、何であれ、お父さんとお母さんが傍にいれば安心できるもんね。
暗闇の中だと、お父さんとお母さんはランプなの。角に隠れた黒い怪物とか、窓の外でヨダレを垂らしている野獣とか、みーんなお父さんとお母さんが追い払ってくれるからね。
二人に余計会いたくなったって?まあ、私ったら……
あぁ、大丈夫、大丈夫よ。アーミヤ、大丈夫。私はずっと一緒にいてあげるから。
大丈夫よ、アーミヤ。だってお父さんお母さんもきっとこう思っているはずよ。普段からイライラすることばっかり起こっても、赤ちゃんの顔を見れば、二人とも色んなことに思い更けるって。
あるときは、それが私たちの唯一生きるための理由にもなるのよ。だって……命というのは私たちが死んでも続くものだから、ほかのためではない、誰かが生きているために。私たちが前に進み続けられる理由でもあるわ。
子供たちから両親を失わせたくないし、両親からも子供たちを失わせたくないの。
この大地では、人の命を奪い去る出来事がいつでも繰り返されている、いつも何かが私たちの愛した人を奪いに来るし、私たちを支え続けてきた人を奪いに来る……
しかもそれって、親子の間にも起こってしまうの。一部の言葉、一部の考えだけで……親子の間を憎しみで埋め尽くしてしまうの。
だって傷口から流れ出た血は畑を潤わせることはできないから。一年また一年と積み重なった痛みでは甘い果実を結ばせることはできないから。
アーミヤ、私たちはすごく弱い生き物なのよ。私たちの涙が砂地に滴り落ちても、種はそこから芽を出すことはないの。
だから、私にはすごくすごく遠い夢があるの。
この大地に生きる人々がもう別れや失いで泣かなくて済む夢が、これ以上私たちの夜空が砕けた心と空虚で満たさなくて済む夢が。
いつか……私たちでこの大地に生きる人々すべてに、安らかな夢を見せてあげられるかもしれないわ。
うん、すべてよ。私たちのその一部。
たとえそんな未来が来ないにしても、この大地が暗闇に陥ってしまおうと同じよ。アーミヤ、私たちがここに生きてるのは、一つだけの答えのためじゃないからね。
そして今、ロドスはその航路を唸りながら走っている。すべてうまくいくわ、たとえ終着点に辿りつけなくても。
さあ、もう寝ましょう、おやすみなさい。

ウサギちゃん、いいえ……アーミヤ!

今回だけ、今回だけもう一度彼女のためにやらせて!あのまだ死んでいない人々のために、私にやらせてちょうだい!

お願い、今回だけでいいから!
アーミヤの手の中の黒い剣がゆっくりと灰となり、風と共に散っていった。

分かりました。W、今回だけはあなたを信じましょう。

……この大地が安らかに眠れるために。

お願いします、W。
コータスの女の子はある箱をサルカズの手に渡した。

……ありがとう。

大旦那、あんたの悲願は分かってるわ、だから私がこのクソガラクタを停止させて……

……?パスワードの入力はどこ?

ちょっと待って、このキー……一体なんなの?このキーはもう……

(ウルサス語)警告、権限が不足しています。こちらのキーは起動のみ使用が可能です。

権限が足りないってどういうことよ?

……どういうことですか?

よく聞いて、これは確かにキーだけど……キーだけど……使い物にならないわ。キーの権限が足りないのよ。

つまり市長にすら権限が足りなかったってこと、これでどうやって止めればいいのよ!?

つまり、最初から最後まで、みんな騙されていた……ってことですか……?

でも移動都市の中枢区画には必ず緊急制御用のキーがあるはずです!キーが、キーが……キーが燃やされていなければ……燃やされていなければ……

……違う。いや違う!まさかミーシャが……!?

いや……そんな……

安心しろ。

キーは私が持っている。

あ!

この龍女……

あ。それ、私に寄越してくれないかしら?

そっちがまだそんな悪趣味な計画を最後まで――

受け取れ。

よっと

本当のあんた……結構さっぱりしてるじゃないの。ちょっとだけ気に入ったわ。

ベラベラとよく喋るサルカズだ……

それをコントロールパネルに差し込め、あとはもう分かるだろう。

パスワードなら知ってるわ。

アーミヤ、何かに掴まってなさい、一気にせき止められるかどうか分からないから!

それでなんだったかしら……えーと、(ウルサス語)すべての民を満たすため、だったかしら?

そうだ……それで間違いない。

そのキー、どこで手に入れたんだ?

フッ……あのキーは元から制御室の壁に掛けられていたものだ。パスワードさえ知っていれば、誰だって使える。

ただ誰も思いつかなかっただけさ……

……こんな荒唐無稽で残酷なペテンが起こることをな。

遊撃隊に知られないように、近衛局を騙すために、これらのキーは……私が彼らを誑かすための嘘だったんだ。

私は彼らの移動都市への不理解を、スカルシュレッダーとパトリオットの信頼を利用してしまった、あれが……私への最後の信頼だったにも関わらずにな。

(ウルサス語)すべての民を満たすために。
5:42p.m.
意に反して鳴り響く鉄の塊が、その滅びへの歩みを減速させた。
ついに、チェルノボーグの中枢区画は龍門の艦砲射程外で停止したのだ。

そんなに危機的状況でもなかったわね、これを止められてよかった、ぐらいの気持ち。

ヒュー。

……龍女、あんたキーを壊さなかったのね。

……

ちょっと、喋りたくないからって喋れないフリのつもり?

――きっと喋りたくないんだ。

コシチェイはどんな策略を使ってでも彼女を誘導し、彼女にこのキーを破壊させたかったんだろうが、奴にはそれができなかった。

なぜなら……微かだが消されずにいた、もしくはアーツによって揺さぶられなかった良心がまだ心の内にあったんだろう。

もしくは考えもしなかったのかもしれない。たとえ彼女がとっさの乱心ですべてを滅ぼしたいと思っていたとしても、この道も諸共滅ぼそうとは思いもしなかったのだろうな。

感染者がせめて抗っても生きていける道をな。

……さあ、立て。

……

もうやめてくれ。お前は十分失望させたじゃないか。だから立て、タルラ!

立ち上がれ、タルラ!

お前が今まで見てきたものは何だ?自分で言ってたじゃないか、本心だろうと偽心だろうと、自分の口か他者の口を借りていただろうとな、自分でも理解しているはずだ。

お前は自分の敵はこの腐敗しきったこの大地だと言った。それがどういう意味なのか分かるか、タルラ?

いや、お前のほうが私よりよっぽど理解しているはずだ……!

感染者のために、いいや、感染者と一般人の間に築き上げた高い壁を粉砕するために、醜い謀殺と卑劣な隷属を打ち滅ぼすためにと。

感染者たちと幾年も戦ってきたお前なら、当然私より理解しているはずだ……!

だから理解しているはずだ、この大地に対して、自分には勝機がないことすらも。

勝利の機会など微塵もない……奴らはお前を圧倒し、侮蔑し、溺死させ、唾棄し、欺いてくる!

お前が立ち上がろうとすれば、奴らはお前を最も汚れた場所に引きずり込もうとする、最も薄汚い方法でお前を打ち倒しにくる!

一つでもミスを犯せば倒されてしまい、お前の敵は無限にまた湧いてくる。お前は進むことを選んだ、己の命に代えてでも奴らと対抗することを選んだ、だが奴らが朽ち果てることは決してない。

お前が辿る結末は一つだけだ、お前は奴らに倒され、滅ぼされる、一歩でも道を間違えればな!

一歩でも間違えれば、その一歩が奴らがお前を傷つける言い訳となる……大義名分を得てお前を傷つけに来る。

悪しき獣が血の匂いを嗅ぎつけたかのように襲い掛かり、お前に肉を食いちぎり、お前の舌と目をえぐり取りながら、お前の尊厳を侮辱する言葉をわめき散らかす!

だが人である以上ミスを一つも犯さないことなんてできるか?だからお前は必ず倒れる。地に伏せてしまう。

……だがそれではダメだ、自分でもわかるだろ、タルラ、倒れてはダメなんだ……!

たとえ奴らがお前を睨みつけていたとしても!奴らがお前のすべての弱点を狙っていたとしても、お前の皮を剥ごうとしていたとしても。

たとえ奴らがお前のすべてを曝け出して嘲笑い唾を吐きかけてきたとしても、お前をクズと欲望でできた幼稚な肉の塊と蔑んだとしても……

倒れてはダメだ。

……我々はそれぞれの都市で暮らし、互いを知らない人になってしまった。過去の日々ももう戻っては来ない。

我々にはもう互いのなすべきことができた。

だが今になっても、何も達成できてない……私も、お前も。

まだまだ道は続いているというのにな。

私たちは私たちの成すべきことを終えていない。約束を果たせなかったあの日のようにな。

だからお前のほうが私より少しだけ分かるはずだ。

タルラ、お前の道は、まだまだ続いているんだ。

ヒュー、いいこと言うわね。

(Wを睨みつける)

ん?え?何よ……
若き警官はこれ以上は喋らなかった。
なぜなら戦士が立ち上がったからだ。ゆっくりとだが、彼女は立ち上がったのだ。

……

お前はいつからそんなお喋りになったんだ?

アリーナにも見せてやりたいものだ。

やっと口を開いてくれたか。

――だがその前に、まずはお前を逮捕する。

誰が私を裁くんだ?

誰もいないさ。ウルサスも龍門も……お前を裁ける資格はない。

私はまだ親族に庇われるほど、恥辱を被りながら生き長らえるほど落ちぶれてはいないぞ。

それは違う、タルラ。この大地にはまだ十分な公正と、お前を裁ける場所がまだないってだけだ。

感染者を裁ける場所は、今はまだないんだ。

それがお前の理想なのか?

……すべての人が公平に裁かれ、その人が誰であれ、どこから来ようと、病に侵されていようがいまいが関係ない世界がか?

理想じゃない。それが私の責務だ。

……

久しぶりだな。

久しぶり、姉さん。

やっとお前を連れ戻せた。

このまま大人しくなるつもりはないぞ。たとえ……今でもな。

私はまだ死ぬわけにはいかない。

償うことなら……できる。

私に償えるものなんてない。私はあの冬で無数の人々のすべてを壊してしまった。誰だろうと何かを償える資格なんてない。

だがそれでも私は……今死ぬわけにはいかない。

死ぬわけにはいかないんだ。私が死ねばすべてが終わってしまう。私が死ねば奴の思うつぼになってしまう、私が死ねば私が憶えている名前の人たちが死んでしまうからな。

じゃあこれからも生きていくのか?

――

そんな資格も私にはないのかもしれないな。だが少なくともここで死ぬ資格はない、楽に死んですべてをチャラにする資格などないはずだ。

――この大地が再びやってくることはない。過去の出来事は過去に留まる、まだ起こっていないことはまた起こり続ける、滴り落ちた雨は土地に染み込み、死んでいったすべてが再び戻ってくることはない。

……だから私は生きるよ。彼らの死を弔う資格を得るまで。

……

小さい頃ゲームをやっただろ。顔は三ポイント、胸なら五ポイント、腰は二ポイントのやつだ。

ウェイがなぜ私たちにこんなことを教えたかは今でも分からないままだ。だが役には立ったよ。

あれは確か学校内で私がほかの子供にぶたれていたときだったか。

お前はベアトリクスを庇っていたからな。ひどいぶたれようだったぞ。

お前にやられたわけではないけどな。

今の私なら二三発でお前をやっつけられる。

……なら見せてもらおうか。お前も負けず嫌いになったもんだな。

その剣いい加減捨てたらどうだ、全然似合ってないぞ。

ならお互い素手でやろう。ついでに聞くが、その赤霄はお前の侠客の夢を叶えてやったのか?

「美食美酒美景、美人美善美談」、昔読んでいた訳分からん小説のどの夢が叶ったんだ?

おい!それは言うな……!

まさかまだ読んでいるのか?

……絶対に喋れなくなるまでコテンパンにしてやるからな。

フッ。

だが、ありがとう。

礼なら彼女に言ってくれ、私にではなく。

あの勇敢な小ウサギにな、それと彼女と共に戦った感染者たちにも。

彼女こそが良識だけで一歩一歩お前の溶岩と炎を踏み進んでここまでやってきた人だ。あのアーミヤこそがお前を救った人だ。

だがその前に……私とお前の間でケリをつけようじゃないか

私たちにはもうそれしか残っていないからな。

いいや、タルラ。まだまだ続く未来があるさ。

あ、お二人が……

放っておきなさい、ウサギちゃん。誰にだって打ち砕きたい過去があるってもんよ。

Wさん、その……なぜ中枢区画を停止させるパスワードを知っていたのですか?

誰にだって秘密の情報網はあるのよ?あとは答えたくないわ、答えたらあたしを殺すつもりなんでしょ?

ただまあ、さっきあたしを信じてくれたことに免じて、答えてあげてもいいわよ……怒らないって約束してくれればね。

さっきミーシャって言いましたよね。

いいえ、アレックスよ。スカルシュレッダーね。そうねぇ。

彼の父親が死ぬ前に彼に教えたの。彼の父親だってバカじゃないわ。レユニオンがこの先何を引き起こすかなんて、ほとんど筒抜けだったんでしょうね。

でも彼には止める力はなかった、ウルサスが彼の同僚を殺すことを止められなかったように、自分の子供が死んでしまったことを止められなかったようにね。

ただあのとき私たちは誰も気づけなかった、あたしもついさっき理解して……さっきまで、コシチェイのキツネがあたしたち全員を騙していたことにね。

あたし、パトリオットの大旦那、フロストノヴァ、ファウスト、メフィスト、スカルシュレッダー、クラウンスレイヤー、みーんな騙されたわ。

ミーシャだって本当なら死ぬ必要もなかった。あたしは最初チェルノボーグを起動させないために、彼女を殺した、でもチェルノボーグが止められないって知ったときは、彼女を殺したことを後悔したわ。

そこから、自分のバカさ加減で見たものすべて殺してしまうんじゃないかって思っちゃったわ、あの龍女に良心が少しだけ残っていたことは不幸中の幸いだったけどね。

あれは私の過ちだった、ええそうよ、赦しを乞うつもりなんてないから。あのとき自分は間違っていたとは思ってもいなかったもの。みんな理に従って生きていたら、この大地はとっくに死んでいるからね。

でもミーシャさんはもういません。この過ちも永遠に償得られません。

Wさん、もうそのようなことは起こさないできください。でないと私が許しませんから。

そう誓ってください、しないのであれば、あなたをロドスに監禁します。

たとえあなたが多くの人々を救おうとしていたとしても……人は所詮人なんですから。

そうね……

ふぅ、どうやらタルラの体力も底をつきたようね。自分の身体を顧みずにアーツをジャンジャン放出していたら、そりゃああなるわよ。

あ。倒れた。

ねぇ、ウサギちゃん。

はい?

前に言ったかどうか知らないけど、んー、なんて言ってたかしら?

ウサギちゃん、そうね。あなた、少しだけ彼女に似てているわね。

……どういう意味ですか?

それじゃあさようなら、アーミヤ。

あたしみたいな人と、フフッ、あたしみたいな人と出会わないようにね。お互い気を付けましょ、ロドスのウサギちゃん。
(Wが走り去っていく足音)

あッ、Wさん!

止まった……チェルノボーグが止まったぞ!

やった!よくやったロドス!

敵が撤退しているのか……?敵が混乱しているぞ!

追うか?

連中があちこちに逃げ惑っている――

!

感じ取ったんだ。自分たちは見捨てられたって感じ取ったんだ!

我々の勝利だ!

私たち……成し遂げたんだね!

ワハハハハ!!我ら感染者が団結して成し遂げたぞ!我々はこれを求めていた!すべてお前たちのおかげだ!ロドスよ!

あっ……!

万歳!子猫ちゃん!大したものだ!やったぞ!

万歳!ロドスのフェリーン、万歳!

あ……はは……あはは……
Ace、Scout、やっと成し遂げたよ。
それに分かったんだ。私には家族だけじゃないんだって。
この大地には……いい人もたくさんいるんだって。優しい人も……たくさんいるんだって。
暖かい。すごく暖かいよ。
暖かいことなら、たぶん……忘れないよ。忘れたりはしないよ。たとえそれが痛みだったとしても、ちゃんと……憶えておくから。
(ドクターの走る足音)

やっと到着した!

どうやらちょうど頃合いだったようだな。成し遂げたんだな、アーミヤ。だが……

あっ、ドクター!

また会えて……嬉しい……
(アーミヤが倒れる音)

まずいッ!

アーミヤ!