あ。
失礼ですが、あなたがドクターでしょうか?
・君は……12F?
・君は……?
私を憶えていてくれたんですね。
どこかでお会いしましたでしょうか?それとも、私のプロファイルをご覧になったとか?
あ、失礼しました、初めましてでしょうか?まだ自己紹介しておりませんでしたね。
ドクター殿、お初お目にかかります。12Fとお呼びください。私はただの一般行動チームのオペレーターですので、あまりお会いする機会がありませんからね。
・そんな遠慮しないで!
・……
・そんな畏まらなくても。
いえいえそういうわけには。私という人を知れば、もしかしたら嫌いになってしまうかもしれませんので。
遠慮がてら、お互い少しだけスペースを残しましょう。踏み込むためと退くためのスペースを。
ドクター殿は寡黙なお方と聞きます。ですのでこれ以上のことはお聞きしません。
あなたと私の経歴は完全に異なりますので、お互いの性格もまったく違うのでしょうね。
外ではいつも礼節を弁えているんです。ですのでこの喋り方にも慣れてしまって中々やめれられなくて。
不遜なことを言ってしまうと騒ぎになりかねませんからね、そういうのはたくさん見てきました。私たちはいつもそういった粗野な方たちを避けています、理由など特にはありません、面倒ごとはないに越したことはありませんから。
過酷な戦いでしたね……まさかこの戦役を乗り越えられたとは。
こういった戦いはただ人を恐怖に陥れてしまうだけですね。ドクター殿もそう思いますか?
・(君は怖くはないのかと問い返す。)
・……
・(自分はとっくにその事実には慣れたと彼に伝える)
そう質問してくるでしたら……
正直に言いましょう、そうですね、私も小隊についてきてここまでやってきましたが、やはり怖いものは怖いですね。
荒野では、死はありきたりなものです。今ではもはやそれが世間の常識です。
きっと、私たちはそうして移動都市を建設したんでしょうね。生き延びるために、荒野に殺されないために。
しかしその都市で発生した災難が逐一と私たちに証明してくるのです、自分たちは幸運にもある場所から逃れられたと思うたびに、自分たちでまた新たな不幸を作り上げてしまうんだということを。
チェルノボーグの住民たちも、自分たちもそんな目に遭ってしまうのだろうかと思うでしょうか?多分思わないでしょうね。びくびくと日々を過ごしてもいいことなんてありませんから。
そんな結末はあまりに暗すぎます、自分がそれを予見しながらも暮らすところなんて想像もできません。
しかしそういったものは知らぬ間に彼らの頭上に落ちてきました。私たちはチェルノボーグを停止させた、では今のチェルノボーグにはまた何が起こっているのでしょうか?
今後私たちが遭遇しうるすべては、私にとってはただただ恐ろしいものにしか思えません。
ドクター殿があまり話したがらないのでしたら、私もこれ以上は聞かないでおきましょう。
何に慣れたのでしょうか?
恐れることですか、それとも……戦うことにですか?
少しばかり悲しいです。
けどお気になさらず、あなたに偏見を抱いたわけではありませんので……
あなたが指してるのはきっと後者のほうなんでしょう。
戦いにはもう慣れた……多くの戦士たちはみな口を揃えて似たようなことを言います。
あなたは戦士ではない、けど戦士たちと共に生死を顧みないことに慣れてしまっている。きっと戦闘にもそれなりのこだわりがあるんじゃないでしょうか?
それとも、あなたにとってこれらの衝突は、あなたが目標に到達するための一手段でしかないと……あるいは一つ一つの戦闘に混在する血腥さと栄誉的な部分があなたを……興奮させているのでしょうか?
申し訳ありません、ドクター殿、申し訳ありません。少し言い過ぎました。
ただ私個人としましてはドクター殿には戦場に上がってほしくないのです。戦場指揮官としてのあなたは高い実力を有しています、ケルシー先生と同等かもしくはそれ以上――
しかしケルシー先生同様、あなたがもしご自分の本来の専門分野、本来の生活でさらに精を出していれば、より多くの人々を幸せにできると私は信じています。
しかし現実は願い通りにはいきませんね。天真爛漫な子供たちが武器を取り、活力に満ち溢れた人々から命を落とし、楽しい生活を送ってる人々の家庭から崩壊する。私たちでは止めようがありません。
恐れることに慣れることについては、たぶん、私みたいな人のほうが必要なんでしょうね。
あなたと私が同じタイプの人間とは到底思えません、ドクター殿。あなたが出現して以来、あなたが今まで参加してきた戦いは私から見ればすべて全戦全勝です。
あなたは勝つことを恐れていますか?それとも負けて何かを失うことを恐れているのでしょうか?
ただ私は本当に戦うことが好きではないのです。可能であれば、遠くまで逃げたいほどです。
私はおそらくあなたとは真反対のタイプの人間なんでしょうね。なぜなら私は勝利すらも恐れていますから。
・(沈黙を保つ)
・(何が聞きたいんだと彼を尋ねる)
――
そろそろ時間ですね。私たちの隊も順次撤退します。
ではくれぐれもご安全に。どうかよい一日を。
私はあなたという人が知りたいんです。ただ、ここであなたを見かけられたということは、自分で答えを見つけ出せたということなんでしょう。
昔からあなたを知ってる人を除けば、私みたいなロドスに加入して間もないですがあなたに興味があるという人は実はかなり多いんですよ。
アーミヤさんに対しては、みな大差ない印象を抱いています、強靭な意志があの小さな身体を支えているんだという印象を……
ケルシー先生への印象は人によって違いますが、私は先生のことはよく理解していると自負しています、たとえ先生が何をやろうとも、彼女なりの道理がその中に含まれています、先生は決して衝動的にはならず、感情で動くお方ではありませんから。
あんなの普通の人が成せられる業ではありませんけどね。
しかしあなたは……
あなたはどうなのでしょうか?
あなたはロドスに戻ってまだ間もないのに、あなたの名は戻ってくる以前からすでに各所で飛び交っています。
しかしそれでも私たちにとってあなたは謎です。あなたはどういった人なのでしょうか?私たちに何をもたらすのでしょうか?
ケルシー先生はあなたが帰還する前に各個人の端末にメッセージを送りました、あなたは今後のロドスの指揮部門にとって極めて重要な人員なのだと、私たちに伝えました。
類似した人事メッセージならこれまでもたくさんありましたが、この小さな文字列には隠された別の意味が込められていたんです――
――私たち一部の人にとってあなたは完全な未知なる存在なんだということが。とにかく当時はそんな感じでした。
……私たちはあなたにどんな過去があったかは知りません。あなたにどんな未来が待ち受けているのかすらも。
ロドスは私たちをどこへ導いてくれるのでしょうか?旅路の途中、あなたはきっと重要なキャラクターを務めるでしょう。私には分かります、みなさんもそう考えています。
しかしあなた自身にとってはどうなんでしょう?あなたはこれらすべては……あなたのものではないと思っているのでしょうか?なにせあなたは記憶を失っている上に、この大地もあなたに多くの事実を隠蔽していますしね。
ドクター殿、個人的な経験談があるのですが、聞いて頂けますか?聞くだけでいいですので真に受けて頂かなくても結構です。
あなたはおそらく、目覚めたあとの自分には選択できる権利なんてないと、ずっと誰かに後ろを押されて歩いてきたんだとお思いでしょう。
私もそうでした、私なりの経験としては、生まれてから今に至るまで、この大地にやってきた時から、ずっとそういった感覚にありました。自分に選択肢なんてない、この大地でただただ生きていくだけなんだと。
自分は運命を変えられると信じている偉人たちを除いて……私たちみたいな一般人は……言い方はあれですが言わせてください!私たちみたいな一般人は、常に誰かに押されて生きているんです。
しかし私たちは本当に何も選べられないのでしょうか?
このチェルノボーグ中枢区画の作戦に、私は志願しました。
危険なのは重々承知しています、自分の信条にも反していることも……何か偉業を成し遂げるより私はただ生きていきたいだけですからね。
自分では何の役にも立たないことも理解しています、ほかの専門のオペレーターに比べて、自分は精々なるべく足を引っ張らないように控えるだけなんだと。
しかしそれでも私は志願しました。他人になぜと理由を説明する必要も、ことを終えたあとにそれで悩む必要もありません。
決心する前に、私たちはなぜこうするのかとじっくり考えました。そしてその後私たちは作戦参加に志願したんです。
つまり、ドクター殿、あなたも本当にはとっくに選択をし終えている、ですよね?
あなたはもう私たちと共にここまでやってきた。
そしてあなたはここに立っている。
……これが私の結論です。
お時間を頂きありがとうございます、ドクター殿。申し訳ございません、長々と喋ってしまいました、ただ以前と比べて、確実にドクターへの理解度が上がりました。
――そろそろ時間ですね、整備作業も終わりそうです。ドクターの安全も確認できたことですし、この後、私たちの小隊も順次撤退します。
ではロドスでお会いしましょう、ドクター殿。
そうだ、ドクター殿……
たとえその時は微々たる差だったとしても、未来は時間の流れと、あなたの選択により、異なる世界へと分岐していくんです。
あなたならきっといつまでも選べる事が出来る権利があると信じていますよ。