
2:42P.M. 天気/曇り
レムビリトン辺境、天災早期警戒区域


おお!いいエンジン音だね、さすが緊急任務用に配給されたやつだ、パワーが段違い!

もし壊したらここ一年の仕事はすべてパーになるぞ、だからエネルギー消耗には注意しろ。

今回はおそらくあと最短で20時間以内に暴風が形成されるんだよ、もし天災が到達する前に急いで撤退しないと、車両含め俺たちは砂と活性源石で生き埋めになっちゃうよ。

ていうか備蓄の缶詰と、術師二人いるんだし、エネルギー消耗は問題ないって。でしょ、後部座席の術師さん?

はい……ぼくにも運転免許があればよかったですね。バギーを運転して駆けつければもっと早くて便利だったんじゃないですか?

それはダメだ。

え?

そうだよ、君たぶんこういう緊急任務には参加したことないよね?

移動都市から離れた外勤任務は、多かれ少なかれ面倒ごとがやってくるものさ、だから少しであろうと君に単独行動をさせるわけにはいかない、ヘルパーがいればいいんだけどね。

「天災早期警戒区域内で行動を展開する際は天災トランスポーターの追随を義務とし各種突発的な状況に対応すべし」だからね。

なにより今回キャッチした救難信号は、レムビリトン地方都市の暗号化されたものなんだ。ふぅ……ちょっと気持ち複雑だなぁ。

それは同胞たちが発した信号だから……ですか?

そうでもないさ。

違うな、そうとも言えるかな。レムビリトンは……ふむふむ……どう説明してあげようか――

考え耽るな、前に溝があるぞ。

うわぁ!?

うおっと、舌を噛まないように気を付けて。ごめんね急いでるんだ、乗客一人一人の細かい面倒は見切れないんでね。

なら最初からこの任務を反対していればよかっただろ……

ご、ごめんなさい!ぼくがどうしてもって言ったせいで……

いや……あんたのせいではないさ。恨むならあの時真っ先に手を上げて自分がついていけば問題はないと言った某天災トランスポーターを恨みな。

俺が行かなくてもほかの誰かが行ってただろ!

前方に坂だ、気を付けてね!

うわっ!

!

あっ……あの、ありがとうございます!

まさか君のその武器がロドスで信号増幅器を付けてもらってから、今みたいに人を支える仕事ができるとは思わなかったよ。

必要とあればこいつに縄を括り付け敵を縛り付けることもできるぞ。

それ本気?

試してみるか?

やめとこうかな、それいっつも漏電してるんだし、怒髪天な髪形にされそうで怖いよ。それよりもそれでどうやって枝豆の皮むきができるか研究したほうがいいよ、できたらほかの人にも勧めれそうだからさ。

本題に戻ろう。グレイ、隣の座席に置いたある箱の計器の針を見てくれないかな。

はい!今はまだ緑の箇所を指しています、でも黄色の箇所にすごく近いです、目盛りの数字は……うーん、メーターが多いな、どれを見ればいいんだろ……

あ、それは見なくても大丈夫だよ、どうせもう警戒区域に入っちゃったんだし。今のところ天災雲が形成される予兆もなし、前方の道路状況も良好、あとは……

待て。こういう任務の時にそんな希望的観測なことは言うな。

俺だって天災トランスポーターになったんだから、そんなフラグ的なことは言わないって。

天災トランスポーターより運の悪い奴なんていなんだしさ。

そんなことないです!

あっ、ごめんなさい。ぼくが言いたいのは、天災トランスポーターは人々に危険の到来を知らせてくれるいい人たちなんじゃ……ないのですか?


問題はその人々に知らせるところにあるんだがな。

天災に打撃されたあとのツケは都市では到底払えられないんだ、一旦天災トランスポーターから通達を受けたら即刻都市を移動させる必要がある。

その都市に住まう人たちは一部の娯楽活動あるいは日常の仕事をある程度の日数停止させなければならない。

日夜を惜しまず撤退ルートの制定、娯楽設備及び公共設備のエネルギーの引き抜き、都市ブロックの切断と連結の調整を続々と始める……

その穏やかだった日常を乱したのはすべて天災トランスポーターからの一通の「不詳」なメッセージだ。

事後にもし本当に天災の降臨が観測されれば、人々は大災害から逃れられたことで歓喜渦巻く。

さらにはその歓喜のせいで、鉱石病に冒される危険性に冒されながらも、荒野の異常を察知しそのデータを持ち帰って彼らの難逃れを手助けした人のことすら忘れるだろうな。

しかしもう一つの可能性は……

離脱は難なく成功したが、その数週間後、数か月後。

それでもなんの天災が発生する予兆や観測が得られなかった場合、人々は徐々に自分たちの正常だった生活リズムを乱した厄災の星を白い目で見始めるだろうな。

その天災トランスポーターが数年後ようやく正確に天災を捕らえるまで、あるいは果てしない時間の中その白い目と冷遇に耐えきれず、ついには遠いほかの都市あるいは危機契約の危険な任務に身を投じてしまう……

もう、エアース、それは別の事例でしょ。

レムビリトンでの天災トランスポーターへの待遇はそこそこいいものだよ、鉱石病に罹ってもその食い扶持を諦めない人もいるぐらいだ、まあ生活が多少不自由になるだけだよ。

じゃあお前が良かれと思って採掘船を飛び出して警戒区域内にある街に離脱をすすめた時、誰かお前と握手でもしてくれたか?

……

……その言い方はちょっと違うなぁ、無事でいたら握手してくれる人なんていないでしょ!

幸い当時の場所はレムビリトンで、お前の身体にも結晶は付着していない、人々も簡単に採掘隊の天災トランスポーターの言うことを信じていた。他所ならあんたに石を投げつけられないだけでもマシだ。

(そろそろ別の話題に変えたほうがいいかな?)

いえ、大丈夫です、とても役に立つお話ですので、もっとたくさん教えてください!

お前はあの時炎国の都市でドライバーになることも考慮しておくべきだったぞ、レオン。

じゃあ君はドライバーの護衛にでもなるの?護衛をつけるドライバーって何さ、護送車?

ぷっ……あはは、護送車の後部座席に一般乗客を乗せられる席はないと思いますけど……うーん、えっと、「閑話人」のこととかですかね?

おや?君もその言葉を知ってるの?

はい!超大型移動都市では市内でタクシー業を営む方たちがいまして、特に炎国の一部の都市のドライバーは特にお客さんに篤くおもてなししてくれると聞きます、ですよね!

ロドスの先生方は時折授業中聞いたこともない見聞を言って雰囲気を整えてくれるんです。

ただ授業で……感染者の生活の詳細とかについてはあまり多くは語ってくれません、うん。

まあ授業を受ける人のほとんどはすでに……きっとぼくのお父さんやお母さんと同じで、先生方もまだ心の準備ができていない人たちに現実を突きつけたくはないんでしょう……

まあ確かに大衆の面前で傷をえぐるわけにはいかないもんね。

そうとは限らないぞ。実際多くの人にとって、いわゆる「感染者の境遇」を授業という形では完全には理解できないでいる。

あの経済条件で医療機構に送られ治療を受けに行った子供たちは、感染者になる前に、感染者が何なのかすら理解できていないはずだ。

多くても親に隔離区にいる「悪い子」とは遊ぶなと言われるだけだろうな。

さらには富裕層の手厚い生活を送ってる評論家の中には、文芸作品の中で感染者の悲劇を描いたものを見つければ、それを作者の見せかけだけのお涙頂戴作品と嘲笑う奴らもいる、フンッ。

シアターの常連客たちは前半では貴族のお嬢様が非感染者の貧しい人物のために殉じたシーンで涙を流したと思えば、後半になれば感染者が詐欺師から貯蓄のすべてをはたいて買った嘘の薬を飲んで命を落としたお決まりのシーンでゲラゲラと笑い出すんだ。

彼らにとって、感染者とは薄汚い環境で生活しているならず者という噂にすぎないよ、感染者の苦難なんて妖精や伝説みたいな扱いさ、尾ひれだってつけ放題。

けどしょうがないよ、人は自分のことにしか目がいかないんだもん。自分の知らないことなんてこの大地に存在しないのと同じようなもんだからね。

どうしてラテラーノ人の銃が撃ってるのはアーツの収縮エネルギーではなく実体ある源石製品なんだって疑う人がいるように、実際は前者が模造してるんだって事実にすら気が付いていないようにね。

え?皆さん知らないんですか?

あははは、これが知ってる人が知らない人を理解できていないいい実例だよ。なんせグレイはあの悠々自適すぎてどうしようもないラテラーノ人と彼女らの銃をもう見たことがあるからね。

どんな術師だろうと一目見れば分かるものさ、模造銃のアーツユニットはただ「型」を習得しただけで、エネルギー効率の折損を代償に、術師たちがアーツでのエイムと集束する過程を省略してあげてるだけなんだ。

しかしラテラーノ人の銃器はおそらくその真反対、持ち主の寸分狂いない精度が要求であって高いエネルギーの放出ではない。あ、これただの俺の憶測だけど――

アーツで構造を調べただろ。

シーッ!それ言っちゃダメな話だから!

わかります、術師であれば互いのアーツに好奇心を抱くのは当然ですからね。

オホン!とにかく、この話はもう終わり!じゃないとこれを言い訳にして他人の電気アーツに好奇心を抱いちゃうヤツが現れちゃうからね!

チッ。

えへへ。
車窓の外は荒野本来の色が広がっていた、深い色のガラスを経て、荒野にはどんよりとした灰色がかかっていた。
時折外で群れを成し移動している野獣たちを見かける、天災をより敏感に感じ取る獣はまたこの小さなペッローの心の不安を増大させてしまったのかもしれない。

うーん……でもぼくは、ただ自分の知らないことに好奇心を抱いているだけじゃありませんよ……

ぼ、ぼくはもっとロドスの皆さんが何のために努力をしているのかが知りたいんです!

その、オペレーターの手帳や講義にもたくさん参考になる文章や映像資料はありますけど、それでもやっぱりこの目で見てみたり、この手で体験してみたいんです!

だから今回の任務をどうしても執り行いたかったわけか?

その質問は率直すぎるよ。

大丈夫です!救助隊オペレーターのお兄さんとお姉さん方にここに連れてこられてからずっと、皆さんから過保護にされてるように感じていたんです……

いつも……艦の外でのこととか、故郷のこと、お父さんとお母さんのことなど……全部……ぼくも皆さんの力になりたいんです!

ん?グレイっていつも艦船の電力設備のメンテナンスをして医療費を控除してもらってるんじゃないの?

そうですよ、そうです……けど……

もっともっとも色んなことがしてみたいんです!ぼくを置いてくれたロドスへの恩返しのためにも、もっともたくさんお金を稼ぐためにも、お父さんとお母さんを見つけるためにも……

でも……でももしあの時の内戦がまだ続いていたら……

……

……

(なんか言ってやりなよ、俺こういうの得意じゃないんだ、人の不安をほぐすこととか。)

自分の正しいことをすればいいさ。

俺たちは聖人でもなんでもない、ましてや全能でもない、その点はロドスだって同じだ。ロドスはお前にできる仕事を与え、お前はそれをすべてこなしてきた、ならロドスも自然とお前に医療サービスを提供してくれる。

]命を救う医師は当然高潔だ、だが彼らとて物資支援なしでは他者を救うことはできない。

彼らの食っていくための給料や物資も、医療プロセスで頼らざるを得ない計器も、すべて無償ではない。

彼らが高潔であるのは、彼らが自分たちの命と情熱を人々の幸せのために奮闘する事業に注いでいるからだ、その点に関してはお前も一緒だ。

重要なのはお前が何を成し遂げたかではない、その成果が偉大であろうと矮小であろうとな、重要なのはお前が何のために努力してきたかだ、信念というものにはそれほど力が秘められているんだ。

その点に関してお前は俺やレオンよりもよっぽど強い。俺とこいつはただ自分が持ってるこの生存方法と、それで食い扶持を繋いで行けることを知ってるだけだ、別に大したことはしていない。

なに俺の分まで代言してるのさ!

まあ確かにその通りだけどさ。俺にとって天災トランスポーターというのは天災に対抗しうる職種というより、刺激的な生活スタイルと思ってるよ。

こういった生活方式だから俺もエアースも色んな見聞を見聞きすることができた、無味乾燥と退屈のなかで少しでも楽しい物事を知れたり、笑いながら色んなことを話し合えてきたからラッキーだったよ。

そうだったんですか……天災トランスポーターたちは誰かを思うためとか、強い責任感があったから、天災と対抗していたんだとずっと思っていました。

天災と対抗?まあそうなんだけど。

あの「天災が引き起こす危害と人類にもたらす恐怖を抹消できれば、それ以上にやばい人災を引き起こしても関係ない」と考える連中と俺も違うけどね。

え?そんな過激な方たちもいるんですか……

それだったら「対抗」という言葉は、彼らのほうがお似合いなんだろうね。俺たちみたな情報などを受け取って届ける一派はそんな大志なんて抱いてないからね。

さっきも言ってたけど、天災トランスポーターという職業は確かに重要だよ、ただリスクは大きい。普通それに関連したノウハウや能力を持ってる人なら大半はラボとかなんとか機関でぬるま湯生活を送りたがるはずだよ。

残りの大胆の連中は、気前のいい雇い主に出会ったか、俺みたいにただ単純にほかの選択肢がなかったからか、もしくは信念が強烈すぎて天災に挑もうと妄動するヤツだけだよ。

しかもあのヤバイ連中の中には、すでに人類のためなら自己犠牲も厭わなくなるまで昇華したヤツもいるんだ。

一方で天災自身に恨みを抱いている人や、あるいは挑みたいという情緒に駆られる連中もいる。

まあようするに、あいつらには自主的に自分と他者を犠牲にまでしてより多くの命を救う選択肢や、あるいは天災の爪痕を抹消するために命を救うことを放棄する選択肢があるってこと。

でもね、これってきっと君が思ってるような、他者のためにとかの範疇じゃないでしょ?

そうですけど……でもロドスも確かそういった任務に参加や受理したことありますよね……?さっき話してくれたあれって、確か、危機契約のことですよね?

そうだよ。ただ受理してた任務といっても、天災警戒区域で小型移動都市を襲う落ちぶれ傭兵団の殲滅とか、その程度の任務だと思うよ。

なんせロドスは天災のために命を救うことを放棄するような任務は受け付けないからね、もちろん、高らかに他者の選択に干渉するわけない、それが自分たちの人員だったとしてもね。

天災トランスポーターの本質的な敵というのは天災であって死そのものではない、それでも俺は自分の好みに従って職務を履行することはできるけどね。君も自分の好きなようにオペレーターとしての職務を履行することができるんだよ。

もしくは逆から考えてみるといい。自身のやりたいことのために、自分が今いる立場から適切なきっかけを探せばいいと。

ロドスにとって、任務には重いものや軽いものといった区別があるのかもしれない、他人にとっても、その成果は大と小に別れるかもしれない、だが自分にとって、自分の求めていたものを実現することよりも崇高なものなどないはずだ。

うん……そういった考え方もあるのですね……

ちょっと急かされ過ぎたんでしょうか……

お前は行動するためにそれらの責任を背負ってで自分を押しつぶしてるだけだ。お前だけじゃない、かつて災難から救われた多くの人たちも同じことを考えるはずさ、天災トランスポーターからすれば珍しいことでもない。

本来なら悪いことではない、しかし盲目的により多く重い責任を背負うことは、自身や他者がそれでより多くの救済が得られる意味にはならない。

お前によりよい暮らしを過ごさせたいと思い奮闘してる人もいるんだ、その人たちを自分の目標を実現するための代償として扱ってはダメだぞ。

うっ……そう言われれば医療部のお兄さんお姉さん方に申し訳なく感じてきました……

俺より全然本とか読んでないくせに、よくそんなに屁理屈がポロポロと出るね!

お前は少しでも実用価値もないくだらない発明品を紹介してるクルビアの雑誌を読むのをやめたほうがいい。それとお前に屁理屈なんて言われたくない。

ふんっ、それは経験って言うんだよ。さっきどこまで話したっけ?あ、仕事の話?

そう考えると君は仕事を選ばないって言うけど、エアースがレムビリトンで人を人として扱ってないクソ成金商人の護衛になったところなんて見たことがないんだけどなぁ?

そうでもないぞ。お前がもし今後新しいバギーを買うために借金を背負うのなら、考えてやらんでもないぞ。

マジで!?優しすぎるでしょ、まさか――

まず十分な金額を稼いでから買いたいものを買えって言ってるんだ!

それと、借金はできるだけやめろ!

はいはいはい。

話を戻すけど、グレイも肝が据わってるよね、初めての外勤任務にこういった天災警戒区域での救助任務を選ぶんだもん。

せっかくの電気系統の故障で座礁してしまった移動都市の問題解決という任務内容でしたから、うん。

普段の戦闘関連の任務だといつも皆さんの足を引っ張っちゃうかもしれないので受けないようにしていましたけど……

オペレーター適正テストには通過しましたけど、ぼくには実戦経験なんて皆無です、実戦で本当に「敵」と遭遇してしまった場合……きっと訓練とは全然違うと思いますし……

あ、でも今はそう考えるべきではありませんね、戦闘任務だとうと内勤業務だとうと、どれもぼくのやりたいことを実現するためのチャンスと考えるべきですね……

電力設備のメンテナンスと同時に、ちゃんと鍛錬も怠らないようにして、皆さんの足を引っ張らないように頑張りますから!

そりゃあそうだけどさ、艦船の電力設備のメンテナンスだけでも十分忙しいんじゃないの?一般のお医者さんと病人から参戦するオペレーターまでみんな電気なしでは生きられないからね。

一回ドクターの書類整理を手伝ってた時に疲労で倒れちゃったんだって?ドクターもビックリして急いで医者を呼んで医務室に送って、こっぴどく怒られたとか。

あ……それに関しては本当に申し訳なかったと言いますか……

ドクターと新入りオペレーターの電力使用の批准報告書の整理を手伝ってあげるって約束してたんですけど、その前日の夜に突然ある変圧器が故障しちゃってそれで……

ん?それは電気工学エンジニアの仕事では?

あ、変圧器の修理なら、そうなんですけど。

ただ術師エンジニアに源石ユニットのエネルギー輸出効率に問題ないかチェックしてもらう必要もありましたし、なによりエンジニアにエネルギー転換チェックのプロセスも必要なんです、それに冷却用の……

(うっ、目をキラキラしながら語っているぞ。)

(これがプロってもんだよ。)

……の合流パイプのチェックも必要なんです、とにかくすごく複雑なんですけど、全部しっかり覚えています!

あ、そういえばクロージャさんが設計したこの電気系統って本当に大丈夫なんかな、電気設備をイジるのが好きな人にとってはイジり甲斐はありそうだけど……

なんせここに電気を浴びるのが好きな人がいるからね。

プフ……

この車両には「賢い賢いクロージャお姉さん」が製作したデータ記録装置もついてる、なんと録音付きだぞ。

へ?神様仏様クロージャ様、俺の計器とアーツユニットはイジられてませんように……

冗談だ。

……君いつからユーモアセンスが俺より低くなったんだ、まるでイベリアの潮風みたいに寒い上にカラッカラ、誰に似てきたのやら。

イベリアで潮風を浴びたことなんてないだろ?

夢の中ではね。しかも夢の中でアーツも使えなくなったうえ、喉まで潮風でガラガラされたよ。君はなんか変な剣術を学んでいたし、武器を握って円形に沿って攻撃したり技を繰り出してたよ。

実用的じゃなさそうだな。

君夢の中でこうも言ってたよ。教科書通りの剣術なんて戦闘の技巧とは言えない、実戦で求められるように柔軟に変化できてこその剣術だってね。

誰と戦ってたんですか?

コートを着ていて、ブツブツと何かを喋ってた人だったかな、たぶん。はっきりと憶えてないや、なんせ夢なんだし。

あ、到着したよ、車を降りよう。


え?でも近くに街は見当たりませんけど?

ここから目標座標までは三千メートルも離れている、ただこの先の道は車では行けないからね。グレイ、携帯端末を……あ、どうも。

ふむふむ……

こういう言い方は古臭いけど、いいニュースと悪いニュースがあるよ。

いいニュースは、ここまで向かう途中に収集したデータを更新してみると、俺たちには十分撤退できる時間があるってことが分かった。

どうりで途中でスピードを落としたと思えば。だが、アーツを使ったのか?

睨まないでくれよ、エアース。このハンドルは工匠が改装したときに付けた別タイプのアーツユニットなんだ、途中でアーツロッドを外してアーツを使ったりはしないよ。

君たちも知ってると思うけど、区域外周のデータで予測をするには正確性に欠ける、だから天災トランスポーターが警戒区域に潜り込んで詳細なデータを獲得して修正する必要があるんだ。

ここ付近の源石反応は飽和状態までまだまだかかる、俺たちには少なくとも半月程度の離脱時間が残されているよ。

悪いニュースはね、今回の任務を報告する際はテーマを変えたほうがいいかもね、まあまだ確定はしてないけど。

どっちだ?

さあね、もしかたら両方かも。

え?

ん?言ってなかったっけ?

彼にどう説明してやろうかのところで止まっていたぞ。

そうだった。

レムビリトンでのことなら俺たちは採掘隊で嫌というほど見てきたけど、グレイにとっては初めてだよね。

この救難信号なんだけど本当に都市から発信されたものとは限らない、暴徒が張った罠の可能性が浮上してきたんだ。

それともし本当の救難信号だとしても、さっき発信した信号できっと火事場泥棒たちをもおびき寄せてしまっただろうね。

それに笑えない状況が、暴徒たちが張った罠だとしたらそれによってもう一組の暴徒たちをもおびき寄せてしまっているかもしれないんだ。

ここに来るまでにキャッチし続けてきた信号のエコーを見るに、目標地点でのバイタルサインの数量と分布がいまいち合致していないように見えるんだ。

都市の視点から見ると、人数は少ないうえに相対的に密集し過ぎている。しかし明確に大量の源石製品と建築物も確認できている、都市の人たちが誘拐されたとかじゃなければいいんだけど。

あ……でもラスティハンマーみたいな厄介なヤツじゃなければ、俺たちだけでも十分対処できるよ!

それに距離だってまだまだ遠いんだ、車載装置で増幅できるとはいえ、俺のアーツが正確に捉えられるとは限らない、都市が会議を開いたり電気系統の修理を討論してりしてる可能性だって無視できないしね。

ただどんな結果であろうと、それを見届ける覚悟はもうできてるかい?

……

覚悟を決めなよ。これも君が知りたがっていた、家を出たあとの、舟を出たあとに対面する、生活の一つなんだからさ。

それとも今はこの任務には君自身の戦闘能力じゃなくて君自身の知識が必要なんじゃないかって期待し始めちゃってるのかな?あ、でも「オペレーター」にとってはどっちも一緒か!

悪い人なんてどこにでもいるんだ、君を故郷から追い出した悪い連中とそう変わらないよ。ただ、それでも誰かのために何かをしてあげたいって考えているんだったら、そうすればいいさ。

……はい!
