昼夜はなぜだか正常に戻り、墨魎たちも日の光を恐れなくなり、殺しに殺しを尽くしていた、ラヴァ一行は全力で村人たちを守る中、烏有が予想外なカンフーを披露した、しかしそれでも妖たちを退くるのは至らなかった。
煙霧は町の血だ。
輪郭が朧げにぼやけた月が、空に綺麗に彫られたシミのように残り、月明かりが欠けた境から空に流れ入り、周囲に溶け込んでいったのをこの目で見た。
我が家が火の海に飲み込まれたのをこの目で見た。私はやむを得ず山々を超え、こっち側から向こう側へと逃げて行った。
飢えに耐えきれず蚕のように互いを貪り食う村人たちをこの目で見た。肩をよぎる距離に、鮮血をまき散らす殺戮が起こっても、人は何事もないかのように、前を向いて、進むことができることを知った。
果てしなく長い道をこの目で見た、なぜ人はみなまったく同じ道を歩むのかと怪訝に思っていた、死は不変の定めだ、私たちは無感覚になりながらも同じ結末に行きついているだけなのだ。
荒漠と青山緑水をこの目で見た、よろめいて倒れた後二度と起き上がらなかった友を見た、父母が短い一瞬のスキに見せた自分を捨てようと企んだあの目を見た。
――私はあなたをこの目で見た。
私はあなたを知っている。
あなたの目。あなたのその高みから見下ろすような、冷たく、孤独な目。
天災の襲来に遭遇し、父母に遺棄され、飢餓とその辺で野垂れ死にまいと藻掻いていた私よりもよっぽど哀れ、あまりにも哀れ。
その目は私を見ているのか、それともあなた自身を見ているの?
憶えているわ、だって私がそうあなたに問いかけたんだもの。
来るな!来るんじゃねぇ!
お、俺の腕を食いちぎりやがった、は、はは、なのになんでまったく痛みを感じねぇんだ、俺は一体――
ググァ!
ヒィ――近寄らないで!
(墨魎を吹き飛ばす音)
大丈夫か!
なんで今来たのよッ!なんであの人は鐘を鳴らしていないの!あの鐘撞きの僧侶はどこにいったのよッ!?
あんたたちを信じて、あんたたちの言われた通りにやったのに、どうしてッ!
どうして私の夫が死んだのよッ!どうしてくれるの、どうしてくれるのよッッ!!
……まずはここを離れよう。
うわああああ――お母さんッ、お母さんッ、お母さんを返してよォ!
グバァ!
(殴打音)
ふぅ!今度も間一髪だったね!
お、おじさん、お母さッ、お母さんがッ――
グギャア!
こいつはとりあえず放っておこう、外でもっととんでもないものが出たらしいからね、お嬢ちゃん、しっかり掴まっててね、お兄さん飛ばすよ!
(ウユウが走る足音)
グギャア――!グバヮア!
しつこいな!?
(墨魎を吹き飛ばす音)
クソッ、キリがない!
ガブャア――!
グギィアッ!!
一体どこから湧いてるんだ……!
ダメだ、この量、捌ききれな――
(斬撃音)
グゥ……?
画中の物であれど、そう無情に手を下す必要もなかろう……このような情景を見ると、切歯痛憤する気持ちも理解できなくはないが。
ラヴァ殿、ここは拙僧が防ぐ、はやく他の者を避難させられよ。
お前……
心配はいらぬ、拙僧はこの地を幾度も渡り歩いてきた、この先の未来に数々の想いや、迷いを抱えていないと言えば嘘になるが――
――しかしとて、拙僧は一度たりとも目前で今起こっていることを疎かにしたことはござらん。
だからここは、拙僧に任されよ。
……わかった、東のほうに進め、終わったらアタシらんとこに合流しに来るんだぞ。
心得た!
(斬撃音)
ギャウア!!
拙僧はここにある限り、一歩たりとも進ませぬ!
!?
この界を過ぎる者は、斬る。
(ウユウの走る足音)
うわあああ――
いたたたたッ!お嬢ちゃん!だから髪を引っ張らないでくれないか!
お母さん――お母さんんん――
ギャバア!
ガァガァガァガァ鳴くことしかできないのか、追っかけてくるんだったらちょっとは人の言葉でも発してみたらどうだ!?
ガゥ……
……ニ……ゲルナ……
本当に言葉を発したぞ、冗談だって、そんなことしなくていいから、元のままでいてくれ――ッ!
ううう、おじさんッ、前、前ェェ!
へ?
キャッ!
あ、あなたは占いの……?ほかの英雄様たちはどちらに?
っていうか後ろ、後ろ!
グギャア!
こいつらをおびき寄せてどうするつもりよ!なんとか――してくださいよ!
じゃあ何をすればいいっていうんだ!?
ここから引き離して、引き離してよ!
わ……私は……
ううう、うわああああ、お母さん、お母さあああん――
……
よしよし、泣かない泣かない!大丈夫!泣かないで、大丈夫だから!
あッ!バケモノたちがこっちに来てる!はやく、はやくなんとかしてよ――
(斬撃音)
グバアアアアア!
へ……?
せ、扇子で戦ってる?
……危ないから下がってなさい。
グァウ?グギャ――
(打撃音)
一発で……!?
(打撃音)
ガゥ!?
す、すごい……
……
クゥ~、いたたたた、一体なんなんだ、柔らかそうに見えて、とんでもなくガチガチに固いぞ?
私を見ないでくれ、俗に言う、窮鼠猫を噛むってやつさ、それよりさっさと逃げよう!
(墨魎が墨に帰る音)
ガバァ……
!?
いや~、いい身のこなしだったよ、でも烏さんってこういう状況での救助活動の経験はないでしょ?
目の前の敵に気を取られて全方位に注意を向けないと、いずれ痛い目に遭うよ~。
あ、あははは……さっきは危なかった!恩人様のおかげで、また一命を取り留められたよ。
……はいはい、早く残りの人を避難させてあげてね。
え、恩人様はどうするんだい?
私?大丈夫、私足が軽いから。あいつらには見つからないよ。
(足が軽いってだけで説明できるような程度の身のこなしではないと思うが!?)
そんなことより……これからどうやって迅速に墨魎の数を減らせばいいんだろうね……
ねぇ!て、庭園に何か火の光みたいなのが光ってない?
うおおお!天を衝くような炎の光、なんと壮観な!
ん?もしや「ラヴァ」というお名前は、そこから取ってきたのだろうか?
……
ラヴァちゃん。
……付近にいるすべての敵の分布範囲を確認してくれ。
大きいやつをぶちかますつもり?
今までは周囲の建造物に被害が及んでしまう恐れがあったから、無闇にアーツを撃てなかったが……
……今は敵が多すぎる、このままずるずると相手をすれば、いずれとんでもない数の被害者を出してしまうかもしれないからな。
わかった、状況が状況だもんね。
私は高台に行くから、遠慮なくぶっぱなしてね。
アーツ範囲外の敵は全部こっちが片付けるよ、ちゃんと一匹残らず仕留めてあげるからね。
頼んだ。
終わった後の任務報告書ならアタシが提出するよ……なんせロドスが救うべき対象は、なにも感染者だけじゃないからな。
感染者……?
どうかしたのか?
ううん……なんでもない、その前に、ラヴァちゃん。
煮傘さんを見なかった?