巨大な球状生物がボロボロと分解していき、地面一面に崩れ落ちて蠢く塊となった、この気色悪い生き物は未だに藻掻いて、死を拒絶していた。
こいつまだ動きます!
爆弾設置完了だ、撤退するぞ!
あいつ……再生してるのか?
こいつ……マジでどういう生物なんだよ?
アレが何であれ、この世界で存在してはいけないものよ。
撤退するぞ、爆弾が起爆する前にここを出ないと。
こっちです!
(走り去る足音と爆発音)
(銃撃音)
こっちは弾が尽きた。
レンジャーは?
まだここに……
(タチャンカが駆け寄ってくる足音)
あまり様子が宜しくないようにだな。
もう歳じゃ、歳じゃからな……フゥゥ……
手がどうかしたのか?
さっき避けきれなかっただけじゃ、問題はない。
どうする?避難所に行くか?
洞窟のほうは、まだ連絡がないのか?
ない。
ははは……
まさかわしらがここまで善戦するとは思いもしなかった……しかしそろそろ限界じゃ。
(タチャンカが盾を振り回す音)
何をしておる?
盾を貰う、本当は最初からこうしたかったんだ。
ふふふ……
まるで過去に戻ったようじゃ、栄誉に溢れた素晴らしきあの時期に。
若きレンジャーたちは町の入口に集結しておった。
大軍が押し寄せていると知っていながらも、戦争のあとに彼らの大勢がこの荒野で斃れてしまうと理解していたにも関わらずにな。
じゃが彼らは笑っていた、高らかに戦の歌を歌っていた、まるで敵など取るに足らない虫けらとでも思っていたかのように。
戦争は残忍で無情じゃ、縮こまってしまった者はおったじゃろう、じゃがそれ以上に最後まで死守すると心に決めた者も大勢いた。
斃れた者はやがて伝説となり、立ってる者は彼らの全てを銘記する責任を背負た。
そして最後に立っていたその者は、ゆっくりと死を恐れるようになった。
斃れていった者たちを忘れたくなかったんじゃないのか?
ふふふ……そうかもしれんな。
おぬしと共に戦えて光栄じゃったよ、アレキサンドル。
こちらこそ光栄だ、レンジャー。
そう悲観するな、俺はまだ戦うことを諦めてはいない。
ぶん殴ってでも、数匹ぐらい仕留めてやる。
(矢の射る音)
待て……あれは何じゃ。
(矢の射る音)
弓矢
豪雨の如く邸宅の地に降り注がれた弓矢は、変異体感染者の頭蓋骨と喉を精確に突き刺していった。
鋭利な矢じりで織り成された豪雨が止むことはなく、さながら暴風が大地を席巻するようだった。
援軍じゃ!わはははははは!助かったぞ!
この手法……きっとあの若者じゃな。
救援信号を受信した、ただの一般的な救援任務だと思ってたんだがな。
まさかここで君に会えるとは。
游侠。
もしかして復業したのか。
はは、もう歳じゃよ、見苦しいところを見せてしまったのう。
シャムシールはどうした、游侠。
歳を重ねれば、重すぎてもう振り回せんよ。
もしおぬしが駆けつけてくれなかったら、わしの老骨は今頃ここで眠っていただろうよ。
ご謙遜を、游侠。
小隊に告ぐ、ターゲットは領主邸宅内にある。
敵は危険な変異体源石生物。
随時位置を報告せよ。
気を付けよ、連中は数が多い、そちらの人員がなるべくはぐれないように注意しておくれ。
それと、地下にも注意するんじゃ、ヤツらは穴を掘る。
了解した。
君と戦えることを光栄に思う。
「血色の谷のシャムシール」よ。