お前は私についてくるべきじゃなかった。
私が向かう所は永遠に止まない戦火しかないからだ。
来ても足手まといになるだけだ、自分から死に急ぐことなんてしなくていい。
私は……
……
そこのサヴラ、ボーっとしてんじゃねぇ、死にてぇのか!
(爆発音)
!
※サルカズスラング※、早くどっかに隠れろ、砲弾が降ってくるぞ!
(爆発音)
ゴホッ、ゴホッゴホッ!
よう、生きてるか!?
なんとか。
こっちの狙撃ポジションがバレちまった、時間もない、場所を移すぞ!
(爆発音)
もう第二波かよ!?
(爆発音)
ああああ、チクショ!俺の足が!
(アーツを展開)
こっちです!
ゴホッゴホッ、ありがとよ兄ちゃん。
瓦礫を利用しただけですよ、容易いご用です。
足はもう大丈夫ですか?
問題ない、こんな軽い傷一度や二度じゃねぇんだ。包帯を巻いてくれればひとまず平気だ。
俺のことはともかく、兄ちゃんそんな戦えそうなナリはしてねぇのに、よくここまで持ちこたえたな。
アーツで瓦礫を移動させた様子を見るに、手慣れてるだろ。
戦場は何回目だ?
何度か訓練は受けてきましたが、戦場は今回が初めてです。
ここまで来れたのはただ運がよかっただけですよ、そんな大したことはしていません。
謙虚なもんだねぇ。
だがしかし、このままだといつまでももたないな。
上の連中はまだ大丈夫だろうと思うが、ここはもう無理だ。
どうやらここにはもう俺たち二人しかいねぇようだな、ほかの連中はどうなっちまったのやら。
私はほかのメンバーとはぐれてしまったんです……計画の奇襲任務は失敗しました、それで敵がこちらに突っ込んできたんです。
前線がやけに静かなので、おそらく前線にいた隊員たちはもう……
チッ、そいつは奇遇だな、俺も同じようなことを思ってたぜ。
俺はもう連中がここに来て助けてくれる望みなんて抱いちゃいねぇよ。
任務は失敗してしまいましたが、私はここで倒れるわけにはいきません。
周りを偵察してきます、きっと包囲網から逃げ出せる方法があるはずです。
偵察?お前がか?
お前をナメてるわけじゃないんだけどよ、兄ちゃん。
だがな、お前がアーツでいくら瓦礫を使って攻撃を防げられようと、お前の真っ白い頭がちょっとでも外を覗かせたら、向かい側の弾丸の雨でぐちゃぐちゃにされるのがオチだ。
だったらここで様子を見たほうがいい。
そういうわけには……
三時の方向……敵が来ています。
クランタのクソ共か?
軽装のクランタ傭兵です。ほかにもまだ敵はいると思います……通常なら共同で作戦を遂行しますからね。
彼らが突っ込んできたら、それこそ一巻の終わりです。
おそらく術師の無人ドローンも配備してるかもしれません。
お前、なんでそんなに詳しいんだよ?
簡単な観察と、推察、それと経験からですね。
おそらくハズレもあるでしょうが、大体は合ってると思います。
今出ても見つかりやすいだけだと思いますが、ここももう長くは隠れられません。
そんなに相手が詳しいんだったら、お前ならラクチンであいつらを倒せるんじゃねぇのか?
私のアーツでは倒せませんよ、おそらく手出しした瞬間にやられてしまうでしょうね。
私からすれば、逃げるだけでも精一杯ですから。
ははは、どうやらお前を雇った雇い主のセンスはハズレのようだったな。
敗戦した原因が金をケチって俺たちみたいな兵士しか雇えなかったとはお笑いだぜ。
……それよりもまだ聞いてなかったな。
サヴラ、お前名前は?
名前はたくさんあるので、一先ず46Aとお呼びください。
ハッ、なんだその変な名前は?なんかの家電製品の製品番号みたいだな。
コードネームの一つというだけですよ、しばらくはこの名前でお呼びください。
それを聞くと、きっと自分でも名前を決められなかったんだろう。
名前はそれほど重要ではありませんので。
それもそうだな、どうやらお前も俺と同じで、機を窺ってメシにありつけた類なんだろう。
砲撃音が聞こえたぞ!?
行くぞ、46A、ここから脱出するぞ!
(爆発音)
長い間傭兵をやってきたが、砲弾を誘導するドローンは初めて見たぜ。
しかもこの頃ますますあのドローン術師を相手にするのがやり辛くなってる。
もし早期発見していれば、こっちも大勢死人を出さずに済んだのになぁ。
足跡に偽装を施しておきました、これで多少時間を稼いでくれるといいんですが。
お前ホントなんでもアーツでできるんだな。
できたら俺の傷も治してくれよ。
申し訳ありません、医療アーツは習ったことがないので。
真に受けないでくれ、適当に言ってみただだけだ。
こちらの医療兵は二番目に失踪してしまいました。
気にするな、兄弟。いつものことだ。
お前がいなかったら、俺はとっくにあのクランタにハチの巣にされていたさ。
ほかの人は逃げ切れなかったのでしょうか?
そうだろうな。
だがそれは、俺たちが安全になったことも意味する。
お前まだ動けるか?
問題ありません。
なら休憩はナシだ、合流地点はおそらくもうすぐそこだ、俺たちのスピードでなら、一時間ぐらいかかれば辿りつけるだろうな。
わかりました。
今度ばかしは、マジで隊を間違えちまったな、領主があんなに大金はたいていたんだ、最初はきっと楽勝なんだろうなと思ってたぜ。
だが結果砲弾が数発降ってきただけで、俺たちはどんどん後ろに下がるばかりだ。
金は手に入れたが、その代わり命との交換とはな。
はぁ……
お前はどうなんだ、46A、お前もあいつらの高値に騙されたのか?
補給が必要だったんです。
ははは、そんなお上品にかまさなくていいって、命と金の交換なんて、みんな一緒なんだしよ。
それと人も探しています。
人探しって、戦場でか?
はい。
どういう人なんだ?家族かそれとも仇か?
恩人です。
フッ。
それは、おもしれぇ。
お前らしいっちゃお前らしい、だがこんなクソみたいなところで恩人探しなんて、そいつに騙されてるんじゃねぇのか。
あの方は私を救ってくれたんです、それに――
わかったわかった。だが一つだけ言わせてもらうぜ、利用されないように気を付けるんだな!
さっきは気を利かせて言わなかったが、お前もつくづく変な野郎だぜ。考えてもみろ、カズデルのどこにお前の恩人がいるっていうんだよ?
もしかしたらその人はまったくお前を助けようとも思ってないかもしれないぜ。
お前を雇った雇い主、もしくは仲間のツラを思い出してみろ、どいつもこいつもとっくに裏切っちまったじゃねぇか?
おそらく再会できたとしても、お前が探してるその人も――
(爆発音)
まさかこのような失態をしてしまうとは、完全に敵の攻撃に気づかなかった。
爆発物か?それともアーツ?
耳鳴りがひどい。
ハァ……ハァ……
しかし、ここで死ぬわけにはいかない。
目が見えなくなったとしても、這いずり回ってもでも、生き延びねば。
(何者かが近付いてくる足音)
お前ならきっと生き延びれると思っていたぞ、サヴラ。
だがしかしお前がここまで生き延びれたとは、正直予想外だった。
お前はあのカス共とは違うもんな。
あなたは……
お前はここまで生き延びた、ならとりあえずお前を認めてやろう。
そして、お前にも結果を与えてやらないとな。
過去と向き合うための。
もしくは未来と向き合うための。
選択をな。
……
サヴラは弱弱しくはあったが、アーツロッドを握りしめた。
今度は、あなたについていってもいいですか、アウル?
そこの、そろそろ目を覚ませ。
うぅ……
レンジャーさん、どうしてここに……
みんな用事で忙しそうでな、おぬしとわしのサシだけでここでやけ酒のかたわら語り合っておったんじゃよ。
何か思い出したか?
そう……でしたね。
ほれ、氷水じゃ。
ありがとうございます……
それと目の両側を揉んでみるのじゃ、力いっぱいでな。
フンッ、フッ――
それはわしが若い頃にやってた酔い覚ましの方法じゃ、効いてきたか?
だいぶよくなりました、ありがとうございます、レンジャーさん。
ほほ、身内じゃろう、そう丁重にせんでよい。
これはわしが編み出した方法でな、サヴラにしか効かんのじゃ。
12Fよ、さっきはどういう夢を見ておったのじゃ?身体が強張っておるぞ。
いえ、ちょっと変な夢を見ただけです。
ただ、昔のことを思い出しただけです。
お前、名前は?
私には……名前はありません、コードネームだけです。
なら今日から、私についてくるといい。私が言った通り、これからより多くの危険がお前を襲ってくるだろう。
どこまで行けるかは、お前次第だ。
今のお前は、ここで死んだ。今日がお前の命日であり、お前の誕生日でもある。
ふむふむ、プレゼントとして、私がお前に新しい名前をつけてやろう。
今日は、3月3日だな……
よし、じゃあ今日からお前の名前は12Fだ!