
十三年前
8:09p.m. 天気/大雪
ヴィクトリア辺境自治区、ダラム、ヴィンセント荘園

なんて美しい雪の夜なのだろうか、紳士淑女たち、ようこそおいでくださった、さあさお入りください、使用人たちに雪を払わせましょう、そして暖炉のところで暖を取ってくださいませ。

伯爵様、ご機嫌麗しゅう、盛大なパーティですことね。

これはこれは、ミス・ダイアナ、新年の前夜でお会いできて、こちらも至極光栄でございます。

恐縮でございますわ。伯爵様、こちらカジミエーシュからもってきたプレゼントでございます。

なんと美しいペンダントなんだ!ありがとうございます、ミス・ダイアナ、そちらの旦那様にもぜひよろしくお伝えくださいませ、ささ、屋内へどうぞ、雪であなたの美貌を隠すわけにはいきますまい。

まあ、お世辞がお上手だこと。

おお、これはこれは、“麦畑男爵”ではございませんか!

私は伯爵のお目にかかれるような人ではございませんが、それでも厚かましく参加させて頂きますぞ!

]何をおっしゃいますか、私たちはみな心の底からあなたを尊敬しておりますとも、ご自分を養える人を尊敬しない人などいませんよ、ははは!

はは、伯爵の言う通りですな、来年の収穫時期の際は、また是非とも拙宅にいらしてください、ダラム最大の風車と小麦粉の香りがあなたをお出迎え致しましょう。

もちろんですとも、この雪が過ぎた来年には、きっとまた大豊作間違いなしでしょう。

ありがたいお言葉です。

ささ、はやく中へ入って暖を取ってくださいませ、夜にはあなたが最も愛する香ばしいパンをご用意しております――もちろん、そちらの農場から出た最も細やかで最も香ばしい小麦粉で作られたものですよ。

伯爵は?入られないのですか?時間もそろそろ頃合いかと……残りのお客人は使用人たちに任せればよいじゃないですか。

そうですね、けど大丈夫です、私自らお客人を出迎えることがめっぽう好きでございましてね、みな麗しいお方ばかりだ、貴族だろうと商人だろうと、修道士だろうと兵士だろうとね。

ダラムはなんと素晴らしいところなのでしょうね、そう思いませんか?

やれやれ、あなたというお方は……

おや、どれどれ、あちらはアリゾナ家のご夫妻、それに灯台の見張り役のお方も、それと……

ん?

オホン。

私が最も尊敬する同級生、演説の天才であるトムソンが病を患ったと聞いた、雪風に耐えながらこちらに赴くには忍びないと思い、トランスポーターに私からの祝福を預け送り出したはずだが――

なのに、どうしてここに――コソコソしてる可愛らしいトランスポーターがいるんだろうね!

それッ!


キャッ!

やあ、ハイジ、お久しぶりだね?

ヴィンセント叔父様、髪をかき乱さないでくださいまし!せっかく時間をかけてセットしたのに!

おお、これはすまん。しかし、ハイジも大きくなったな、今じゃ立派なレディじゃないか。

しかし!君のお父上から君が今日来るとは知らされていないんだがね、おじさんに正直に話してごらん、また抜け出してきたんだね?

それと、君はまだ若いんだ、その恰好をお父上に見られたら、また色々言われてしまうぞ?

もう叔父様ったら!わたくしはグチグチ言われたくないから、こっそり抜け出してきましたのよ!

それに今日叔父様は色んな名だたる方たちをお呼びしてるらしいじゃないですの、気になって仕方がありませんでしたわ。それに、お父様もいつまでも教室に引きこもってないで見識を広めてこいと言われてますの、ちょうどよい機会じゃありませんか。

本当はここでナイスガイとの出会いを期待していたんじゃないのかい?お父上から聞かされているぞ、最近何やら低俗な恋愛小説にハマってるらしいじゃないか、いつもそれに悩まされていると嘆いていたぞ。

そ、そ、そんなことありませんわ、わたくしはもうそんな幼稚な女の子じゃありませんのよ、あはは、はは。

君のお父上はいいことを言う、ロマン主義はよいものだが、消費を目的とした生活を欺瞞せんとする真相や、題材を搾取するために読者に媚びへつらう文字など、一文にも値しないとな。

この点に関して、ダラムは君のお父上を見習わなければいかんな。

オホン、叔父様、もうその辺で勘弁してくださいまし、恥ずかしいですわ……

お父様もお父様ですわ、若い頃は他人にグチグチ言ってたくせに、結局自分も最後は商人になってしまわれて……学会のわたくしの先輩が、いっつもそれを持ち出してきますのよ、もううんざりですわ。

それも生活のためさ、仕方ない。まあ、君たち親子のためでもあるんだ、彼が若かった頃も、人から認められないといつも私に悩みを打ち明けていたよ、それで彼の様子は最近どうなんだい?

相変わらずですわ、冬が過ぎたら、また元気になりますわ。

つまり君はご両親が忙しい時を狙って、母上の衣服を拝借し、私の宴会にやってきたというわけだね?

そうで――あ、いやそうじゃなくて、学習を目的とした、お父様のご指導に沿ってやってきただけですわ。

ハイジ……

あはは、目をつむって頂けませんか?

君も相変わらずわがままだね、こんな大雪の日に、万が一来る途中で事故にでも遭ったら、どうやって君のお父上に説明してやればいいんだい?

あ、あはは……ほら叔父様、もう日が暮れてますのよ、わたくしを突っ返すわけにもいかないんじゃなくて?

まったく君という子は、ならはやく屋内へ入りなさい、風邪を引いちゃうからね。

やったぁ!叔父様大好きですわ!

あれ、でも叔父様、まだ誰かを待っているのですの?叔父様を雪だるまにさせてまで待つに相応しい賓客がまだいらして?

ああ、ラテラーノから素敵な修道士様がいらっしゃるんだ。

去年君の叔母様がなんの病に罹ったのか、熱がまったく引かなくてね、その修道士様のおかげで治ったんだよ。

その後仲良くなってね、よくそちらに訪ねに行ってたよ、その方は医療分野だけでなく、各ジャンルにもとても精通していてね、本当に見識が広がるよ。

へぇ……叔父様がそんなに評価されるのでしたら、さぞかしご立派なお方なのでしょうね?

そりゃもちろんさ、もしああいう方をヴィンセント家に尽くしてくれるのであれば、この地はより一層発展するに違いない。

この前ロンデニウムに赴く際、その修道士様も友人としてご同行に誘たんだ、君の叔母様の退屈しのぎも兼ねてね、ただ生憎、彼女はちょうど別件があっていけなくてね。

そのため今日は、何としても皆さんにこの有識者を紹介したいと思いパーティに招いたんだよ。

叔父様……そのラテラーノの修道士様は……紳士の方なのでしょうか?慇懃無礼なサンクタなのですか?年齢はいくつでいらして?

まったく君は、やっぱりそういう下心を抱いていたね!

聞いてみただけですわよ!

]生憎だが、聡明な女性の方だ。サンクタでもないよ。珍しくも、おそらくはフェリーンの修道士だ。ああいう人はとても気に入ってるよ。

オホン……!

お、叔父様、さっきのは聞かなかったことにしておきます、叔母様にも絶対に言いませんので、ご安心くださいまし。

そういう意味で言ったわけではない!まったくそろそろトムソンに君を躾てやったほうがいいらしいな!


申し訳ない、ヴィンセント閣下。

遅れてしまっただろうか?

――――
