(斬撃音と賞金稼ぎが倒れる音)
スカジじゃないか。
腕が落ちたな、スカジ。以前のお前ならヤツらを容易く八つ裂きにできただろうに。
ホセさん、私はあなたが言うような血腥い人じゃない。
どうだろうな。つまりお前は変わったということだ。ヤツらに逃げるチャンスを与えるとはな。
そうかもね。
どういう風に吹き回しでここに来たんだ?ヤツらがここでお前を張っていたのも私と関係があったからなのか?
さあ。
お前はもうこの仕事から足を洗ったと聞いたぞ、その後にその……製薬会社に加入したらしいな?まともな仕事もしないで、こんな荒野に何しに来た?
ホセさん、情報が早いのね。今回はあなたの助けが必要なの。
老人はタバコの紙を取り出しそれを舐め、ポケットから質の悪いタバコ葉を取り出した。
もう数年も経った、てっきりもう辞めたのかと思っていたよ。お前のおかげで、カジミエーシュの賞金稼ぎたちが何度代わったことか。ここはカジミエーシュからかなり遠いが、私ならお前が何をしてるかなんてお見通しだ。
以前ならお前はただ騒ぎを起こすことしかできないヤツだと思っていたよ。
……だが今のお前はこんなにも落ち着くようになった。
そんなトラックみたく重い身体を引きずってミノス付近からここまで来たのは、私に会うためだったのか?用はなんだい、言ってみな。
塩風町に行きたい。
塩……風町だと?
あなたもそんな町は聞いたことがないだなんて言わないでよね。
いや、聞いたことはあるさ。ここ付近にいる情報屋の中でも、知ってるのは私だけだ。だがしかし、なぜそんなところに行くんだ?
そこはもう何もないぞ。数十年前から……もう何もかもなくなった。
海に近いあの場所に、まだ何かが残ってるはずもないだろ?骨組みぐらいしか残ってないさ、風を凌ぐことすらできんよ。
多くの賞金稼ぎたちがその荒廃した都市を目指している、駄獣の死肉に寄ってたかる小さな獣みたいに。
ヤツらはまだごく僅かな血肉にありつけられると思っているんだ、自分が呑み込んだものがまさか毒虫ということにも気付かずにな。
イベリア。ヤツらはこの声を上げないイベリアにはカジミエーシュのガリアみたいに、そこら中に宝が埋まってると思い込んでやがる。
ハッ、そこには何もない。だが何もない場所ほど何もかも揃ってるように見えるのかもしれんな。
じゃああなたは賞金稼ぎたちに何か教えたの?
ヤツらは私から情報を買おうとしたから、売ってやったさ。私みたいな人からすれば、連中が帰ってこようがこまいが関係ない、それが商売だからな。
まあ案の定、ヤツらは戻ってこかった。一人残らずな。
半月前、ある部隊が私の元に来た、“ダガーホーン”の手下だ。
連中の装備は地上にいるヤツらのよりもいいものだったよ。それに経験もある。十数人のメンバーも携えていた。だが今じゃそいつらを見た人は誰もいない。
大勢が連中の行方に興味津々だったよ。懲罰軍に連れて行かれたのか、あるいは国防軍にやられたか、だが私は別の噂を耳にしたんだ。
そこには――バケモノがいるとな。
へぇ。
そうじゃないのなら審問会に連れて行かれたかのどれかだ。どのみち惨い末路だがね。
バケモノだろうと人だろうと、私の剣からすれば大差ないわ。道を塞ぐか、塞がないかの違いしかない。
そうかい、なら好きにしな。塩風町に行くったって、バカンスとして行くわけでもないんだろ。
そこに探してる人がいるの。
またどの可哀そうなヤツがお前に気に入られたんだ?
今回はそうじゃない。その人は私の……昔の知り合い。
……私よりも古い知り合いなのか?
あなたよりもずっと昔よ。
あいつらはてっきりもう居なくなったか、あるいは死んだかと思っていた。少なくとも当時はお前からそう聞かされていた。
だから探しに行くの。明らかにしたいこともあるから。
……何年も探し続けてきたんだっけか?
前回の大騒動も、あの騎士の埋蔵金のためじゃなかったんだろ。
私に言ってくれたじゃない、人なら前に進めって。
――
宝の地図は持ってるか?
……え?
たくさんの人がいた、しかもベテランの連中だ。みんな荒野を進んだ、進むうちに、自分が誰だったかも、何が目的だったかも忘れてしまった。
けどみんな進み続けた。飢えも、疲労も知らぬまま。
……荒野がそいつらを殺すまでな。
そいつらは弱すぎるからよ。
弱い?いくら強大なハンターだろうと、果てしない荒野を征服することは不可能だ。多くのハンターが訳も分からないまま道半ばで死んでいった、死ぬ直前まで自分は何を求めていたのかも知らないままな――そんな結末、お前には似合わん。
どうしてそんなことを私に言うの?
私からあなたに言ったはずよ、彼らはエーギルの機械の相手にすらならないってことを。
お前は強い、だが私の息子の命を救ってくれたか?
……ごめんなさい。
謝罪などいらん!何もお前を責めているわけじゃない。自分で自分のことを考えてほしいんだ、お前を許していないのはお前自身だ、私ではない。
私が後悔しているのは彼の足を折らなかったことだ。私が歩んだ道を歩ませないためにな。お前とはなんら関係はない。
お前は自分は海からやってきたと言っていたな、イベリアを除いて、ほかの海など聞いたこともない。お前は私の知らない人だ。
だがお前はどうだ、お前には知らない人はいないとでも?
ああいう連中が私の息子を殺したんだ。お前の知らない人たちによって。
……私はそういう出来事を恐れているのよ。
もういい。少なくともお前が言うそいつはわざわざ私を殺すことはないだろうな、塩風町に行ってどうするんだ?
友人がそこに連れて行かれたの。
またおかしなことが起こったもんだ。
持って行け。地図だ。
ありがとう。見返りはなに?
何をくれるんだ?
そっちは情報を売ってるんでしょ、なら物々交換としましょ。そっちは私に情報をくれた、ならこっちはそっちが必要とするものをあげる。
(タバコの灰を落とす)
そうだなぁ……当時お前はフアンの遺体を持って帰って、そいつを私に渡してくれたな、頭も腕もまだ身体に繋がっていた。だから、それでチャラにしてやる。
ホセさん、本当にありがとう。
じゃあ行くわ。元気で。
(スカジが歩く足音)
ちょっと待て!何を焦ってるんだ、死に急いでどうする!?
ん?
……おい。まさかほかの連中と話もしたことがないのか?
うん。
なら私が教えてやろう。
そんな全身賞金稼ぎの恰好で、真正面からイベリアの都市に入るつもりなのか?
そうだけど。
まったく相変わらずだな、スカジ。あれだけ話してやったのに、まったく耳に入れてくれやしない。
そんな恰好してたら、国防軍に十数回捕まえられてもおかしくないんだぞ!
お前はそいつらとやり合うつもりなのか?それにその探してる人がずっとそこにいる保証もないんだろ?イベリア人は賞金稼ぎのチンピラ共じゃない、そう簡単な相手じゃないぞ。
じゃあアドバイスを頂戴。
もう少しだけモノを貸してやろう。このハープを持って行け。
ハープ?
弾けるか?確か昔弾いていただろ。
弾けるわ。
よし、なら何よりだ。弾けなくても問題はない、適当にフリでもしておけばいい。
それとこれにも着替えろ。
……なにこれ?変な見た目してるけど。
見てくれなんてどうでもいい、イベリア人の装いだ。
……
今から、お前は流浪の旅を送ってる詩人のスカジだ。
お前の行きたいところに行くといい、詩人さんよ。地図に沿って、水路をしばらく辿れば、そこに着く。お前ならいけるだろ、エーギル人。
ありがとう。じゃあさようなら、ホセさん。
スカジ!
そこで死ぬんじゃないぞ。死ぬなら知ってる人の傍で死んでやれ。
……
そうね。
た――助けてくれェェ!
何なんだよこいつ……俺に纏わりついて、離さねぇ!斬っても斬っても死なねぇ。海辺はこんなバケモノしかいないのかよ?
ひっ――来るな、来るなァ!
(斬撃音)
こんなことなら来るんじゃなかったぜ!※カジミエーシュスラング※“黄煙”のクズが、あの時しっかり道に就いてれば、俺がこんなゴミを拾う羽目になるわけがないだろ!?
※カジミエーシュスラング※!こんなところで死んでたまるか!イベリアなんざ、文字通りクソしかねぇ場所だぜ!
(斬撃音)
な、何が起こったんだ?一瞬でこのバケモノ共がマッシュポテトになっちまったぞ?
ふ……ふぅ。ともかく、命拾いしたぜ――
(斬撃音)
え――
お前。ここから逃がさん。
こ、今度は何だよ?イベリアはこんなクソみたいな連中しかないのかよ?
二度目だ。イベリアでは噂は禁止されている。次その口を開く時は、気を付けたほうがいいぞ。
なんだ?その恰好、それにその武器――
そんな、お、お前は……終わった、俺はもう……
(爆発音)
長官、海辺は片付けました。
もうここに生きてるヤツはいません――えっと、そこに立つこともままならない、全身から鼻がひん曲がるような匂いを出してるヤツを除いては。
お前、何を見た?
お……俺は……
旦那、俺は何もしてねぇ!天に誓うぜ、お、俺はただ迷い込んじまっただけなんだ、間違ってここに来ちまった、わざとじゃないんだ……
ほら、ここに金貨がある、それにほかのものも、クソッ、ほとんど失くしちまった……この金も、装備も、全部やるから、だからどうか見逃してくれ!
(殴打音)
そのゴミを仕舞ってください。長官が聞いてるのは、あなたのその無意味な話じゃないんです、よそ者。
聞く?聞くって何を?旦那、何を聞くってんだ……俺はそんなあんたに聞かれるようなことはしてねぇ、本当だ……
頼む、旦那、俺はまだ……見逃してくれ……なんならここで死んでやったほうがマシだ!
私の面前で海に身を投げ入るつもり?それで間に合うとでも思ってるの?
その剣……俺の腕が……もう少しだったのに……ぐあ……
もうお分かりですか?この虫けら雑草如のきよそ者が、貪欲で腹黒のくせに、いつも簡単にビビりちらかして。
うぅ……もう逃げねぇ、旦那、何でも白状するから。
なら結構。同じことを繰り返し聞くのは好きじゃありませんので。では、これが最後です。
海で何を見たんですか?
お、俺は……ゴホゴホッ……バケモノを見た。
どのくらいの人数でここに来たんですか?
本来なら十二人いた……いや、案内役も入れると、全部十三人だ。
長官、こいつウソは言ってません。ほかの者の死体も海辺で発見しています。
うぅ……
ちょっと、泣いたから見逃してあげるとでも思ってるのですか?あなたたちがここに侵入してこなければ、アイツらもあなたたちにつき纏わなかったんですよ。法律に違反してしまったのなら、報いを受けるのは当然の理です。
しかし、十二人死んで……今でも、アイツらの数が増えていますね。
奴らが巣からそう遠くまで離れることはない。
ということは長官の判断が正解でしたね。近づけば近づくほど、アイツらも数を増やす。あそこの町はきっと何かがあります!
行こう。
この人はどうします?見ちゃいけないものをたくさん見ちゃってますけど。
ゆ、許してくれ!知ってることは全部言った!旦那、長官様、長官様……どうか……
お前、何を見た?
お……俺は……
(斬撃音)
約束したはずだ。
この行為に意味があるとは思えん。
そちらも応えてくれたではないか。
応えた?承諾、(軟体と骨格が摩擦する音)、約束をか?以前にある行いを授け、今は別の行いを完遂しろだと?
いいや。
お前がそう要求すれば、私はそう応えよう。そこに約束も、承諾もない。
応えるか……それも当然だな。
尊き使者よ――
そちらが応えてくれれば、こちらも栄誉に思うよ。