
3:23p.m. 天気/曇り
イベリア、塩風町

とっくに生気を失ったその町は、潮の匂いがする土地に半ば埋もれていた。

地図の場所は、ここね。

……空気中の匂いは、そんないいものではないわね。


こんにちは。

……

あの――

(うなだれながら一言も発さない)
返事をする者は誰もいない。それどころか振り向いてくれる人もいない。みんな目を見開いてはいるが、ピクリとも動かなかった。
彫刻との唯一の区別は、彼らの呼吸だった、みんなとてもゆっくりと呼吸していた。

……

……バケモノかしら?
その場にいる人はみな人間の面貌をしていた、あまりにも痩せこけ、ズタボロの衣服をまとっていることを除けば、道半ばに出会ったイベリア人と大差ない、ホセが描述したバケモノとはあまりにもかけ離れていた。

みんな人だ。

(イベリア語)

今は言葉が変わったのかしら?

(少し訛りを加えたイベリア語)

……
それでも誰からも返事はなかった。
スカジは箱を握っている手の力を強めた。
外でなら、彼女には他人の口を割れさせる方法なんていくらでもある。しかしその前提として、相手が彼女の言葉を理解している必要がある。

……まあ、今の私は吟遊詩人だし。

詩人はこんなことはしない。ホセさんも言っていたわね。

九十九……
一つの小さな影が街を横切った。

誰かが話している。
(スカジの走る足音)
スカジは急いで追いかけた。

九十九。
(スカジの走る足音)
……子供?数字をブツブツ言ってるわね。

聞き間違いじゃないわ。

ねぇあなた――

私のネックレスが……

待ちなさい!
子供は彼女の手からするりと抜け出した。その子は身を翻し、より奥の路地へと走っていった。

九十九、九十九……
(スカジの走る足音)


逃がさないわよ。

うっ……うぅ……

どうして私のものを盗むの?私をここに連れて来させるため?

ん?
地面にはトラップが設置してあったがスカジはそれを踏み壊してしまった。

穴一つに、縄数本。外にいるしつこい連中が仕掛けたもののほうがこれより数倍はマシね。

あなたたち、出てきなさい。

私もそっちに用があったからいいけど。早くしてちょうだい。
陰になってる場所で、数体の“彫刻”が息を吹き返し、ゆっくりとスカジへ近づいてきた。

彼女怪しい。

そうだな、プランチャ、こんな人、見たことがない。

私も見たことがない。

喋れるじゃない。

お前は誰だ。

流浪する吟遊詩人。

吟遊詩人、何だそれは。

プランチャ、そいつと喋るな。

見ない顔だな。その格好も、変だ。ここの者じゃないな。何しに来た?

一つ聞きたいことがあるんだけれど。

お前のその服、新しい。

私の仲間に会ったことはないかしら?

お前いい身体をしているな。飯をたらふく食えているのだろう。

彼女は私が来る前に来たんだけど。

その箱、重いみたいだな。

楽器だから軽くはないわ。

お前のその手に待ってるの、怪しい。

あなたたちが持ってるハープじゃない、見た目もほとんど一緒でしょ。

(ハープを弾く)

耳、辛い。武器に違いない。

言えなくもないわ。

プランチャ、こいつ、怪しい。放っておけ。話すの、疲れる。

バンコを。放せ。

バンコ……それってこの子のこと?

彼に何かするつもりはないわ。私からものを盗んだの。とても、大事なものを。

その子のものを奪いに来たのか。

……

自分のものを取り返しに来ただけよ、それと話が通じる人もほしいわ。

私たちの子に、触るな。

私たちのものを、奪うな。

ん?

私たちの規則を、破るな。

プランチャ、お前どんどん近づいて行ってるぞ。何をするつもりだ。

こいつは私たちの子を傷つけようとしている、私たちのものを奪おうとしている、私たちの規則を破ろうとしている。

こいつは俺たちの姉妹じゃないのか?もしそうだったら、彼女にも分け前があるはずだ。

こいつは違う。

……話が通じないわね。

ほかをあたるわ。

行かせない。

待て、プランチャ……

うわぁ!
(男性住民Bが穴に落ちてコケる音)

こ、ここに穴があるぞ。

フエゴが掘った穴だ。忘れたのか。

へぇ、それが役に立つとは思わなかったわ。

よそ者、ここは私たちの場所だ、お前が来ていい場所ではない!
