(斬撃音)
ふぅ――
海嗣の身体が再びグレイディーアによって貫かれた。
海嗣は死んだ。
海嗣の“顔”は主教には向いていない。その場にいる人たちは海嗣に目はあるのかどうかなんて知る由もなかったが、スカジだけはバケモノの視線を感じ取れていた――少なくとも彼女自身はそう思っている。
ソレは主教を“見ていた”。
形を持たない潮の流れが主教を洗い流す、スカートが重苦しく彼の身を潰れてしまわんばかりに押しつぶした。
それでも海嗣は彼女たちと対話していた。
君たちは私に似ているのか……それとも彼に似ているのだろうか?
Gla-dia、強いのだな。
グレイディーアは冷たい視線でバケモノを見ていた。
これが感情だな。私たちの血族がそれを学ぶだろう。私たちもいずれ様々な物事を、君たちに伝えよう。
Ishar-mla。生きよ。生きることは素晴らしい。いずれほかの血族が君のもとを訪ね……君に問うだろう。
私たちはあまり聞き上手ではない。だが学習はする。
ゆっくりと、海嗣は膝をついた。
バケモノの身体はもう起き上がることはなくなった。ソレはまるで素早く枯れる花のように、委縮した。
――死んだ。
スカジはホッとした。
いや、違う。彼女はまだ真実から回復してはいなかった。しかしこの獲物の死が彼女を……
コレも所詮は生き物だったのだ。
この汚らわしい雑種共め。
声を荒げる主教。ガサついた彼の声が喉から響き、激しい戦闘の末に残った瓦礫を這う、彼は独り言を抑えられずにいた。
しかしグレイディーアは彼に見向きもしない。
ええ、なら私の前にいらっしゃい。今度はあなたの番よ。
このゴミクズは単独だった。外の恐魚はコイツの一族ではなかった。であれば、あなたしかいないわ。
貴様らをズタズタに引き裂いてやる。この私が貴様らの冒涜した罪を裁いてやる。
この私が、ここで貴様ら雑種を処分してやる。命は尊いものだ、だが貴様の命を残しても徒に資源を無駄にするだけだ。
重傷を負った雑種ごときが。まともに身動きも叶わない雑種ごときが。貴様らの肉片を大地に撒き捨て、あの最も低俗な陸生生物の餌にしてやる。
貴様ら二人を殺すことなど、容易いことこの上――
もう隠さなくても結構よ。海嗣のゴミクズより、かつて人間だったにも関わらず今もなお人間のフリをしているあなたたちのほうに反吐が出るわ。
(雄たけび)
貴様らはここで死ぬがいい!
私のことを忘れてない?
冷たい目を向けるスカジ。ニヤリと笑うグレイディーア
主教は一瞬だけ戸惑い、頭を振り向いた。