Loading...

【明日方舟】序曲の灯火「大地を打ち砕かん レユニオン構成員」

 

ガレス
ガレス

足元に気を付けろ、ゆっくりでいい。

イーラ
イーラ

大丈夫……支えなくても平気よ。

ガレス
ガレス

体力を温存しな、まだあの山を越えなければならないからな。

イーラ
イーラ

私たちはウルサスから……どのくらい離れたの?

ガレス
ガレス

まだそれほど離れてはいない、荒野に入ったとも言えん……とにかくまだまだだ。

イーラ
イーラ

少しだけ休ませてちょうだい……

ガレス
ガレス

休みな、いくらでも待つさ。

イーラ
イーラ

……ふぅ……

イーラ
イーラ

北東のあの山を越えたら、どこに行けるの?

ガレス
ガレス

そこを越えると、おそらくはカジミエーシュの領土だろうな。

ガレス
ガレス

だがそこには行かないよ。

イーラ
イーラ

……ウルサスを離れるなんて初めてだわ。

ガレス
ガレス

いずれ慣れるさ。

ガレス
ガレス

もうウルサスには恋しくなる価値なんざなくなっちまったからな。

ガレス
ガレス

ふぅ……ここなら良さそうだ。

ガレス
ガレス

もうすぐ日が暮れる、今日はここでキャンプを張ろう。

イーラ
イーラ

ええ……保存食はあとどれくらい残ってるの?

ガレス
ガレス

倉庫から持ち出してきたものはもう半分食っちまった、流浪人の集落で交換したものも加えると、あと四日分ってとこかな……あまり残っちゃいない。

ガレス
ガレス

お前は荷物を見張っててくれ、俺は薪を拾ってくる。

イーラ
イーラ

ここは……静かね。

ガレス
ガレス

いいことじゃないか、ほかに人がいたら警戒するハメになる

ガレス
ガレス

俺たちがここまで何も起きずに来れたのは、ただ単に運が良かっただけだ。

ガレス
ガレス

強盗団にならず者、群れをなした野獣たち……

ガレス
ガレス

ほとんどの人にとって荒野は命を落とすほど危険な場所だからな。

イーラ
イーラ

私たちは本当にあの“ラスティハンマー”って組織を見つけられるの?

ガレス
ガレス

流浪人集落の連中が俺たちを騙したとは思えん、騙したところで何も得にならないからな。

ガレス
ガレス

ここら一帯でラスティハンマーが活動している、みんなそれを知っていた。

イーラ
イーラ

……彼らは私たちを受け入れてくれるの?

ガレス
ガレス

分からん、だが試してみるしかない。

イーラ
イーラ

昔村にいた頃……兵士たちはみんな“ラスティハンマー”は残虐で野蛮、殺戮を楽しんでいる荒野の暴徒だって言ってたわ。

イーラ
イーラ

みんなそう言ってた、それから部隊の人たちも彼らのことを……

ガレス
ガレス

噂がすべて真実とは限らん、あの貴族のお偉いさんたちが俺たちを指してなんて言ったか忘れたのか?

イーラ
イーラ

「強欲で、残忍なレユニオンの強盗共」よね。

ガレス
ガレス

ウルサスのお上が適当に根も葉もないことを言えば、連中の好まないモノや人はすぐさま一般人の目に人食いのバケモノに早変わりするんだ。

ガレス
ガレス

連中の常套手段だ、だがラスティハンマーに関していえば絶対に違う。

イーラ
イーラ

昔彼らにあったことがあるの?

ガレス
ガレス

ああ、あれはまだ俺が兵士をやっていた頃の話だ。

ガレス
ガレス

あの年、国境の防衛軍がカジミエーシュ領内に侵入し村落を襲ったっていうあの年だ。

イーラ
イーラ

あ……村のみんなから聞いたことがあるわ。

イーラ
イーラ

隊長さんもそのことを言ってた、でもその後アイツらはみんな死んだんじゃないの?

ガレス
ガレス

隊長はお前にそんなことまで話したのか?

ガレス
ガレス

アイツらはウルサスの正規軍だった。武装された正規軍部隊が、全身に戦闘装備を装着しての越境だ、人目を隠し通せることなんて不可能だもんな。

ガレス
ガレス

襲撃したっていうのは上級将校が責任転嫁させたかったための大義名分だったんだろう、もしかするとあの兵士たちは本気で戦争を引き起こしたかったのかもしれん。

ガレス
ガレス

だが残念なことに、事実はヤツらの思い通りにはいかなかった。カジミエーシュの森で何が起こったのかは俺には分からん……だがヤツらは一人も生きて帰ってこなかったことは確かだ、十中八九全滅したんだろ。

ガレス
ガレス

ヤツらが越境した目的についてだが……本人たちが全員死んだ以上、真相は誰にもわからんさ。

ガレス
ガレス

だがヤツらが死んだのは、絶対にカジミエーシュ人が原因ではない……俺には分かる。

イーラ
イーラ

一体何が起こったの?

ガレス
ガレス

部隊が越境した四日目……ある歩哨兵の報告によると、荒野のならず者の大群がウルサスの国境に侵入したらしい。

イーラ
イーラ

荒野のならず者?

ガレス
ガレス

あの時、俺はちょうど国境警備区域の補給基地に駐在していた、歩哨兵がそれを報告しても、基地の連中は誰一人気にしなかったよ。

ガレス
ガレス

後を失った荒野のならず者の大群はあまり見かけることはないが、珍しくもなかったさ、特にウルサスの国境近辺ではな。

ガレス
ガレス

その後基地からは小隊が派遣された、あの不運ならず者を捕らえ、管轄区域の採掘場に労働力を足すためにな、あいつらのよくやる手口だよ。

ガレス
ガレス

……だが……

イーラ
イーラ

当ててあげる、その小隊は戻ってこなかったんでしょ?

ガレス
ガレス

二日目の朝、顔が血まみれの衛兵が俺たちの拠点に逃げて来た、あの小隊が全滅したどころか、隣にいた三つの歩哨拠点も襲撃された、生きて逃れたのはこの血まみれのヤツだけだったよ。

ガレス
ガレス

あの時の駐屯軍の将校は今ほどバカではなかった、彼はカジミエーシュ人が荒野の流浪者に偽装して歩哨拠点を襲撃したと判断し、すぐさま上に救援を要請した。

ガレス
ガレス

その時に俺たちは気づいたんだ、源石通信機がカバーしてる範囲の中に救援信号をキャッチできる友軍はもうどこにもいなかった、俺たちは孤立無援になったんだ。そして、その日の夜……

ガレス
ガレス

太陽が沈んだ後、周囲の山々から金属を叩くような音が響き渡った、恐ろしかったよ、まるで原始的な戦太鼓みたいだった。

ガレス
ガレス

それから人が現れた、たくさん……数百人……あるいは数千人いただろう、彼らは粗悪な武器を持っていて、まったく聞き取れんフレーズを叫びながら、俺たちの拠点に猛突進してきた。

ガレス
ガレス

彼らは人に見えたが、“人”としての部分がまったく見て取れなかった、てっきり彼らはイカレてるのかと思ってたよ、なぜなら傍にいる仲間が弾で吹っ飛ばされても、止まらず突進してきたからだ。

ガレス
ガレス

あれは俺が人生で遭遇した一番恐ろしい突撃だった、それからレユニオンに参加して何度も戦ってきたが、あの狂った夜とは比べ物にならなかったよ。

イーラ
イーラ

……

ガレス
ガレス

山の麓に日の光が差し込んで初めて、彼らは撤退した。

ガレス
ガレス

無数の死体が拠点周囲に横たわり、あちこちが血痕とアーツが爆発した痕跡だかけだった……丸一日、空気中には吐き気を催すほどの鉄が錆びた匂いが充満していた。

イーラ
イーラ

……ぶっ飛んだ話ね。

イーラ
イーラ

どうして?

イーラ
イーラ

どうしてなにも顧みずにウルサスの軍を襲撃したの?目的はなんだったの?

ガレス
ガレス

重要な点はそこだ。

ガレス
ガレス

数日後、支援部隊がやっとかけつけて来た。その時に知ったよ、付近にあった感染者採掘場が二つも襲撃に合い、中にいた人たちを全員逃がし、その周辺にあった五つの倉庫の軍用補給品が燃やされたんだ。

ガレス
ガレス

彼らは捕らえた将校と採掘場の責任者を八つ裂きにし、目に入ったウルサスの旗やモニュメントをすべて粉々に破壊した……

ガレス
ガレス

ラスティハンマーはウルサスの痕跡を抹消した、彼らが後にした廃墟には標識やロゴは一切残っていなかった。

ガレス
ガレス

一番肝心なのが、あの率先してカジミエーシュ領内に入った運の悪かった連中は後方からの支援をほとんど失ってたことだ。ウルサス軍が反応した頃には、もう遅い。

ガレス
ガレス

今になっても、彼らのイカレた行動はまだ理解できないさ。

ガレス
ガレス

だが“殺戮を楽しんでる荒野のゴロツキ”が採掘場の可哀そうな連中のためにウルサス軍を襲撃することなんてありえない。

ガレス
ガレス

彼らは絶対にただの暴徒ではない、俺には分かる。

イーラ
イーラ

……その話……

ガレス
ガレス

信じ難い、だろ。

イーラ
イーラ

私にはまだ分からないわ……彼らに加入することは本当に正しい選択なのかって。

イーラ
イーラ

だってパトリオットさんみたいな人だって……

ガレス
ガレス

もうその辺にしておけ、今日ははやく寝な。

ガレス
ガレス

なんとかなるさ。

イーラ
イーラ

そうね……

ガレス
ガレス

ついたぞ……

イーラ
イーラ

ここがその、私たちが探してきた……?

ガレス
ガレス

「二つ目の山をそのまま北に進めば、そこには聳え立つ巨大な岩がある。」

ガレス
ガレス

まさか本当にここにあるとはな。

斑模様に錆びた鉄槌が山頂の岩石に逆さまに突き刺さっていた、鉄槌の柄に縛られている黒いボロ布はまるで旗のように風の中を激しく舞っていた。

ガレス
ガレス

「彼らに加入したければ、岩を砕くハンマーを探せ。」

ガレス
ガレス

見た目によらず芝居かかった表現が好きな連中だな。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

芝居などではない、これはシンボルだ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

荒野で生き延びたければ、そのハンマーになれ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

鋭利な刃は必要ない、ただ耐え忍べ。

イーラ
イーラ

ガレス
ガレス

……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

お前たちのその恰好……ただの“通行人”ではないな。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

その服にあるロゴマークには見覚えがあるぞ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

“レユニオン”だな。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

言え、なぜ俺たちを訪ねた。

ガレス
ガレス

お前は……感染者には見えんな。

ガレス
ガレス

てっきり……

イーラ
イーラ

私たちは、ラスティハンマーに加入するために来たのよ!

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

加入?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

貧弱で、臆病で、恐れている上に、無力……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

荒野で手足の震えすら抑えられないお前たちはまるで屠殺されるのを待つ家畜のようだ。

(ラスティハンマー構成員が道具を投げる音)

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

そら、それを拾え。

イーラ
イーラ

こ……これは、シャベルにピッケル……それにトラバサミ?

ガレス
ガレス

どういう意味だ?

ガレス
ガレス

なぜこの道具を俺たちに?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ラスティハンマーに加入したいのだろう?なら己を証明してみせろ。

ガレス
ガレス

なんだと?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

己は荒野に属し、柵を飛び越えれば生きてはいけない家畜でないと証明してみせろ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

我らはみな戦士、荒野の征服者だ、我らは互いに身を支え合い、互いに我らのすべてを享受している。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

だが貧弱甚だしい穀潰しの面倒を見ることはしない。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

あそこの峡谷が見えるか?あそこはいい場所だ、ここらで一番いい場所だ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

峡谷にはお前たちが望むすべてがある。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

そこで一か月生き残ってみせろ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

それすらできないというのなら、今のうちにさっさと消えるがいい。

ガレス
ガレス

生き残れ?一か月?こんな場所でか?

ガレス
ガレス

※スラング※、ふざけるのも大概にしろ。

ガレス
ガレス

こんなものだけでどうやって生き残れって言うんだ?

ガレス
ガレス

もし俺たちが死ぬとこを見たのなら、こんな面倒臭い方法せず、直接手を下したほうが手っ取り早いだろ?

ガレス
ガレス

俺たちが荒野で野垂れ死んでいく様を、嘲笑いながら見るのがお前たちの趣味なのか?

ガレス
ガレス

それとも、感染者を迫害するのがお前たちの楽しみなのか?

ガレス
ガレス

お前たちはそこら辺の賊どもとは違うと思ってたのに……見損なったぞ……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

……はははは。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

感染者?感染者と言ったか??

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

はははは……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

感染者を迫害してるだと?はははははははは……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ブーン!

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

こっちに来てくれ、ここにバカがいるぞ。

ラスティハンマーの大男がガサツな笑い声を発してる中、身体がひん曲がった男が岩の後ろから姿を見せた、彼の身体に生えた源石はどれも恐ろしく醜い。男はボサボサな髪の毛の間から鋭い眼光を見せ、目の前の人を推し量るように見つめていた。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ほら、こっちだ、ブーン。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

見えるか、こいつらはお前の“感染者仲間”だぞ。

ブーン
ブーン

ほざけ、こんなひ弱な仲間などいたことがない。

ガレス
ガレス

お、お前もレユニオン……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ここではな、お前が感染者だろうが、特殊な身分だろうが知ったこっちゃないんだ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

誰だって気にしちゃいないんだよ、※スラング※。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

男も、女も、老人も、幼子も、サルカズも……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

レユニオン?落ちぶれ貴族?そいつが荒野を抱擁すれば、文明の毒血を遮断しれば、俺たちはそいつを仲間として認めてやる。

ガレス
ガレス

……

イーラ
イーラ

一か月だけで、いいのよね……

ガレス
ガレス

イーラ?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

そうだ、もし一か月耐えられれば、お前たちは荒野に属すると、文明の足枷から脱却した証明になる。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

その時、お前たちは晴れて荒野の一部となる、ラスティハンマーの兄弟と姉妹たちもお前たちを歓迎しよう。

イーラ
イーラ

わかった……約束よ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

その態度気に入った、期待しているぞ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

幸運を祈ってる、お嬢さん。

(ラスティハンマー構成員が去っていく足音)

ガレス
ガレス

イーラ、お前正気か?

イーラ
イーラ

私たちに……選択肢なんてない、そうでしょ?

ガレス
ガレス

いや、保存食もまだ残ってる、だから帰れる、あそこの流浪人集落に戻ってから別の方法を考えればいいじゃないか。

イーラ
イーラ

ウソを言わないで!もう食料なんて底をついてるんでしょ、あなたなんか二日は何も食べてないじゃない、全部見てたわよ!

ガレス
ガレス

俺は別に……

イーラ
イーラ

私たちは戦友でしょ?戦友ならお互いを支え合うべきよ、そうでしょ?

イーラ
イーラ

あのラスティハンマーの人たちは……ここで生きている……なら私たちも出来なくはないはずよ。

ガレス
ガレス

……そうだな。

イーラ
イーラ

なら手を貸して、まずはキャンプを張るわよ。

十五日後

イーラ
イーラ

……アイツ動かなくなったわよ……

ガレス
ガレス

シッ!声を出すな、もうちょっとで罠にかかるんだ。

イーラ
イーラ

でも逃げられそうでもあるわよ。

ガレス
ガレス

落ち着け……待つんだ……じっと待てば……

ガレス
ガレス

動いたぞ!

イーラ
イーラ

あと少し……あと少しよ……

(罠が動いた音)

ガレス
ガレス

捕まえた!捕まえたぞ!はははは!

イーラ
イーラ

よし!やったわね!

ガレス
ガレス

はははは、いいぞ。

ガレス
ガレス

イーラ、ナイフをくれ。

イーラ
イーラ

はい、ナイフよ。

イーラ
イーラ

こんなところにも駄獣がいるとはね、野生種は初めて見るけど。

ガレス
ガレス

この肉を、帰って燻製にして、洞窟内で干したら、しばらくは保存できるな……

ガレス
ガレス

少なくともしばらくの間は干した砂虫を食わなくて済む。

イーラ
イーラ

あの流浪人集落はまだ残ってるのかしら。

ガレス
ガレス

急にどうしたんだ、そんなこと思い出して?

イーラ
イーラ

肉を燻製にしても全部は食べきれないわ、もしかしたらそこの荒野の流浪人たちと何か交換できるかもしれないわよ。

イーラ
イーラ

たとえば穀物の種を交換するとか……

ガレス
ガレス

コケ麦がどうかしたのか?

イーラ
イーラ

あなたね、今まで一度も畑仕事したことないでしょ?

ガレス
ガレス

……ないよ、俺は都会っ子だったからな。

イーラ
イーラ

ふふ、じゃあ都会っ子のボクくん、穀物は種を埋めてほっといたら勝手に生えるもんじゃないのよ、これを機によく学んでおくことね。

ガレス
ガレス

なにがボクくんだ……俺より何歳か年上なだけじゃないか。

ガレス
ガレス

まあいい、とりあえずだ。

ガレス
ガレス

そこの流浪人たちはあまり一か所には留まらない、それに東の山の麓にもいくつかの集落があったはずだ、機会があればそこにも行くとしよう。

ガレス
ガレス

さあ、コイツを持って帰るぞ。

イーラ
イーラ

わかったわ。

ガレス
ガレス

十三、十四、十五……

イーラ
イーラ

あと半月ってとこね……

ガレス
ガレス

ラスティハンマーの連中がちゃんと約束を守ってくれればいいんだがな。

ガレス
ガレス

だが今思うに、あいつらがいてもいなくてももうどうでもよくなった。

ガレス
ガレス

徐々に気付いてきたんだ、俺たちは自分だけでも生きていけるってな。

イーラ
イーラ

ずっと気になってたんだけど……どうしてこの峡谷にこんな洞窟があるのかしら、自然形成されたようにも見えないし……

ガレス
ガレス

この洞窟は、きっと昔は坑道だったんだろう。

イーラ
イーラ

坑道?こんな人すらいない地域に?カジミエーシュ人が掘ったのかしら?

ガレス
ガレス

カジミエーシュ人でも、ウルサス人でもないのかもしれないな。

ガレス
ガレス

あるいは俺たちが知ってるどの国でもないのかもしれない。

ガレス
ガレス

昔軍にいた時、たくさん古代の民話や伝承を聞いたよ。

ガレス
ガレス

数百年前、あるいは数千年前、ウルサスがウルサスではなく、カジミエーシュもカジミエーシュではなかった時代、多くの国々がこの大地で乱立し、発展し、強大になっていった。

ガレス
ガレス

しかし結局は戦争や天災、あるいはほかの様々な原因で滅亡し、分裂して崩壊していった。

ガレス
ガレス

天災は何度も何度も大地を襲い、その国々が存在していた痕跡もすべて一掃された、残ったとしてもこの坑道みたいな地下にしか残っていない。聞く話によるとほかの地域にもこのような古代の遺跡が多く残されているらしいんだ。

イーラ
イーラ

つまり……

イーラ
イーラ

ここも昔は荒野ではなく、人が住んでいた町や都市だったってこと?

ガレス
ガレス

おそらくな。

イーラ
イーラ

もし……もし私たちがここで生き続ければ、私たちみたいな人がどんどん増えれば、あるいは小さな町とかができるかもしれないわね……

イーラ
イーラ

この峡谷は南から北に伸びている、相当の人数を収容できると思うわ。

イーラ
イーラ

その時になったらこのイーラが村長!そしてあなたは副村長ね!

ガレス
ガレス

わかったわかった、夢が見たいのなら寝てからにしてくれ、とりあえず肉を吊るすから手伝ってくれ。

イーラ
イーラ

了~解。

二十九日後

イーラ
イーラ

ガレス!ガレス起きて!

ガレス
ガレス

なんだよ……こんな朝っぱらから……

イーラ
イーラ

はやく見て、コケ麦が!

ガレス
ガレス

ガレス
ガレス

これは……発芽か?

イーラ
イーラ

そうよ!

ガレス
ガレス

おお!すごい!すごいぞ!

ガレス
ガレス

こんな土地でも穀物は作れるんだ!

イーラ
イーラ

きっと粉に摺りつぶした駄獣の骨のおかげよ。

ガレス
ガレス

よし、そうだな……一番肝心なのは何だったっけ?

イーラ
イーラ

水よ水!

ガレス
ガレス

なら渓谷の水だけでは足りないな、ほかの方法も考えよう。

イーラ
イーラ

でもこの近くに……ほかの水源なんてないわよ。

ガレス
ガレス

東にある山の麓の森を探ってみよう、森があるということは、水があるということだ。

イーラ
イーラ

遠すぎるわ、あったとしても毎日運ぶつもり?

ガレス
ガレス

確かに遠い、だがやるだけの価値はある。

ガレス
ガレス

もしこのコケ麦が通常通りに成長できれば、なにをやっても価値はある!

ガレス
ガレス

荷物を片付けよう、森を見に行くぞ。

イーラ
イーラ

遠いとは思ってたけど……まさかこれほどまでとは……

ガレス
ガレス

帰って別の策を考えよう、もっと大きい器が必要だな。

ガレス
ガレス

水袋だけで水を運ぶには効率が悪い。

イーラ
イーラ

ちょっと待って……これは何かしら?

イーラ
イーラ

これは足跡?この近くに人がいるわよ。

ガレス
ガレス

足跡?なんの足跡だ?

ガレス
ガレス

……違う……これは……

ガレス
ガレス

軍靴の足跡だ!

ガレス
ガレス

この靴底の跡、間違いない、ウルサス軍の軍靴だ。

ガレス
ガレス

なぜだ……なぜだウルサス兵がこんなところにいるんだ?

イーラ
イーラ

私たちはどうすれば……

ガレス
ガレス

……とにかくはやく戻ろう、荷物を片付けるんだ。

ガレス
ガレス

ここを離れよう、この足跡を見るに……きっとまだ遠くには行っていない、それに二十数人はいる。

イーラ
イーラ

待って!ほかにも方法はあるわ。

イーラ
イーラ

火を起こさなければいいのよ……そうすればヤツらもきっと峡谷に洞窟があるとは分からないはずだわ。

ガレス
ガレス

いや、どうせいずれ見つかる、火を起こさずに毎日洞窟に籠っても仕方がない、ヤツらがいつここを離れるのかすら分からないんだぞ!

ガレス
ガレス

きっとヤツらは俺を探しに来たんだ、あの将校がそう簡単に俺を見逃すわけもないからな……

イーラ
イーラ

いやよ、私はここを離れないわ!

ガレス
ガレス

イーラ!

イーラ
イーラ

逃げたってどこに逃げるのよ、もう逃げるのはコリゴリよ、私がレユニオンに加入したのは、少しでも人として生きたかっただけなの!

イーラ
イーラ

これまでの一か月の生活は……確かにキツかった、けどキツいからなに?

イーラ
イーラ

徴税官もいない、貴族もいない、森には獲物もあるし、土地にはコケ麦も生えてる、全部私たちのものよ!

イーラ
イーラ

この一か月で、私は人間らしく生きれた!その日しのぎの家畜としてではなく!

ガレス
ガレス

イーラ、少しは落ち着け、話しを聞いてくれ。

ガレス
ガレス

俺たちが生きてる限り、俺たちに属する場所はいずれ必ずまた見つかる、もし死んじまったら何も残らないんだぞ!

イーラ
イーラ

じゃあ逃げる度に……私たちは自分たちが所有していた何もかもを諦めろって言うの?なんであんな連中に次から次へと私たちの生活を破壊されなきゃいけないのよ!

イーラ
イーラ

一番初めは村のみんなからだった……それから妹……シャーラ……隊長さんまで。

イーラ
イーラ

今日という今日は、どこにも行かないから。

イーラ
イーラ

死ぬんだったら、この峡谷で死んでやるわ、ここにあるモノすべては、私たちの血と汗よ。ここが私たちの新しい我が家よ。

イーラ
イーラ

もうどこにも行かないから!

ガレス
ガレス

……イーラ。

イーラ
イーラ

ここに残りましょう、ガレス、ヤツらと戦うのよ。

イーラ
イーラ

私たちはレユニオンの戦士であって、臆病者じゃない。

ガレス
ガレス

そ……

ガレス
ガレス

そうだな!

ガレス
ガレス

あの※スラング※どもめ!

ガレス
ガレス

貴族連中も、ロモノソフ将校も……みんな死ぬべきだ……みんな死ぬべきだ!

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

いい!素晴らしいぞ!

ガレス
ガレス

!!

ガレス
ガレス

……お前はあの時の!

ガレス
ガレス

なぜここに……まさかずっと俺たちをつけてたのか?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

荒野で一か月のサバイバルだ、俺はただ毎日お前らが生きてるかどうかをチェックしに来ただけだ。

ガレス
ガレス

今はそんなことはいい、この近くにウルサスの……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

慌てるな、取るに足らないことだ。

イーラ
イーラ

それで……私たちは合格したの?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

合格?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

何を言う、お前はもうラスティハンマーの一員だ、姉妹よ。

ガレス
ガレス

……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

それとお前、少しばかり意志が足りないが、お前が正しい道を選択できて俺は喜ばしく思うよ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

妥協と逃亡に果てなどない、この言葉を憶えておくんだな。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

お前も歓迎しよう、兄弟よ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

それと、愚かな獲物どもが今トラバサミに向かってきている、見逃しては損だ。

ガレス
ガレス

獲物?なんの獲物だ?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ヤツらのお出ましだ。

ウルサス兵士
ウルサス兵士

やはりこの峡谷にいたか。

ウルサス兵士
ウルサス兵士

散々手間をかけさせてくれたな、ガレス士官。

ガレス
ガレス

……

ウルサス兵士
ウルサス兵士

この恥知らずの逃亡兵め、逃亡に飽き足らず軍の倉庫から兵糧と補給をも盗み取ってくれたな。

ウルサス兵士
ウルサス兵士

ウルサス軍の尊厳を踏みにじった後、堂々と逃れられるとでも思っているのか?

ウルサス兵士
ウルサス兵士

ロモノソフ将校はたいそうご立腹だ、お前の首を斬り落とさん限り、彼の怒りは収まらん。

ウルサス兵士
ウルサス兵士

貴様の罪の代償を用意しておけ、この感染者のゴミクズめ……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

黒装束を纏ったウルサスの畜生が……二十四匹か。

ウルサス兵士
ウルサス兵士

フッ、毛がついた肉を食らい生き血を啜る野人と仲良くやってるようじゃないか、まさかこの荒野のならず者共なら自分の命を助けてくれるとでも思ってるのか?

ウルサス兵士
ウルサス兵士

今すぐ跪いて自害しろ、そうすればキレイに埋葬してやってもいいぞ。

ウルサス兵士
ウルサス兵士

狙撃手、構えろ……

顔を隠したラスティハンマーの戦士が手に持つ武器で地面を叩き出した。
一回
二回
三回と

次の瞬間、峡谷全体から耳をつんざく打撃音が響き渡った、乱雑ではあるがはっきりとした音だった。

ウォークライ、雄叫びは、峡谷の寒風を纏っていた、さながらこの大地が発した最も原始的な叫び声のように。

その時、ガレスは見た。

峡谷両側の崖の上には、ぎっしりと粗暴な戦士たちが立っていた。

衣服はボロボロで、古くなった金属製の粗造な兜を被っていた。

みな身体は歪にひん曲がっており、手には簡単だがおぞましい見た目をした武器が握られていた。

ウルサス兵士
ウルサス兵士

た……隊長!これは……

ウルサス兵士
ウルサス兵士

な……なんなんだこの人数は???

ウルサス兵士
ウルサス兵士

そ、そんなバカな!歩哨兵は?歩哨兵は何をしていたんだ!

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

お前が探してる“歩哨兵”なら、ここだ。

ウルサス兵士
ウルサス兵士

その……兜……それにその武器、なぜ貴様らが……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

我らの兄弟と姉妹よ、荒野へようこそ、ラスティハンマーに加入して初めての狩猟を楽しもうじゃないか。

イーラ
イーラ

あなたたちと共に戦えて嬉しく思うわ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

戦い?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

姉妹よ、我らは“戦い”などしない。

ラスティハンマーの戦士たちの数が増えるにつれ、ウルサス兵は怖気づいて一歩も動けずにいた。戦士は話をし始め、この二十四人はただ静聴するしかできなかった。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ヤツらは――俗に言う“国家”と“文明”は――根本からの悪である、あの巨大な移動都市は、醜い鋼鉄の創造物は、悪意によって鋳造された金属の足枷と牢獄こそが、ヤツらが邪悪である証なのだ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ヤツらはすべてを奪った、あたかも己の所有物であるかのように、大地の鉱物を、水と土地を強奪していった。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

そして謳った、“文明”を信奉しなければと救いは訪れないと、ヤツらの足枷が繋がっていないモノはすべて野蛮という印を焼き付けられた、ヤツらは真実を恐れている、だが我らはその真実をこの大地へ返還してやるのだ。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ヤツらは力で人々を恐れさせ、文明をもって人々を弱らせてきた、虚空から発明した“秩序”に従わざるを得なくさせるため、己を自ら檻籠に閉じ込めさせるために。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

それを用いてヤツらは本来自由なる人々を奴隷扱いにし、人々を呑み込んでいったのだ!

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

この大地は本来すべての人々に属するはずだった、誰もがお互いのように、己の両手で荒野の中で己の居場所を持つことができた!荒野は弱者を淘汰させるのは自然の理、だが根源を辿れば、一体この世と人々を弱らせてるのは誰だ?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

人々はヤツらの悪夢に、ヤツらの災いに、ヤツらを滅ぼす力にならなければならない。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

暴風と地震に足枷をかけて縄を縛り付けることができる人などどこにいる?霹靂と稲妻を檻籠に閉じ込めさせられるヤツなどどこにいる?

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

我らは戦いなどしない!我らは滅ぼすのだ!

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

檻籠を潰し、足枷を破壊し、奪われたモノを再び奪い返す、ヤツらに与えられた弱さを切り捨てる人は、誰だろうとラスティハンマーの兄弟と姉妹になり得る。

――滅べ!滅べ!滅べ!滅べ!滅べ!――
乱雑ではっきりとした金属の打撃音が峡谷全体に響き渡る。
彼らは叫び、武器で大地を叩く。金属と岩の衝突はまるで遠くで轟く雷鳴のようだった。
――滅びを!滅びを!滅びを!滅びを!滅びを!――

ウルサス兵士
ウルサス兵士

恐れるな!所詮はイカレた連中だ!

ウルサス兵士
ウルサス兵士

陣形展開!せ……戦闘準備!

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

ヤツらが震えてる、我らを恐れているぞ、我らの滅びを、我らの狩猟を。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

文明の足枷を外した我らはもう軟弱ではない。

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

天災は荒野を一掃し……

ラスティハンマー構成員
ラスティハンマー構成員

錆びた鉄槌は大地を打ち砕かん!

タイトルとURLをコピーしました