足元に気を付けろ、ゆっくりでいい。
大丈夫……支えなくても平気よ。
体力を温存しな、まだあの山を越えなければならないからな。
私たちはウルサスから……どのくらい離れたの?
まだそれほど離れてはいない、荒野に入ったとも言えん……とにかくまだまだだ。
少しだけ休ませてちょうだい……
休みな、いくらでも待つさ。
……ふぅ……
北東のあの山を越えたら、どこに行けるの?
そこを越えると、おそらくはカジミエーシュの領土だろうな。
だがそこには行かないよ。
……ウルサスを離れるなんて初めてだわ。
いずれ慣れるさ。
もうウルサスには恋しくなる価値なんざなくなっちまったからな。
ふぅ……ここなら良さそうだ。
もうすぐ日が暮れる、今日はここでキャンプを張ろう。
ええ……保存食はあとどれくらい残ってるの?
倉庫から持ち出してきたものはもう半分食っちまった、流浪人の集落で交換したものも加えると、あと四日分ってとこかな……あまり残っちゃいない。
お前は荷物を見張っててくれ、俺は薪を拾ってくる。
ここは……静かね。
いいことじゃないか、ほかに人がいたら警戒するハメになる
俺たちがここまで何も起きずに来れたのは、ただ単に運が良かっただけだ。
強盗団にならず者、群れをなした野獣たち……
ほとんどの人にとって荒野は命を落とすほど危険な場所だからな。
私たちは本当にあの“ラスティハンマー”って組織を見つけられるの?
流浪人集落の連中が俺たちを騙したとは思えん、騙したところで何も得にならないからな。
ここら一帯でラスティハンマーが活動している、みんなそれを知っていた。
……彼らは私たちを受け入れてくれるの?
分からん、だが試してみるしかない。
昔村にいた頃……兵士たちはみんな“ラスティハンマー”は残虐で野蛮、殺戮を楽しんでいる荒野の暴徒だって言ってたわ。
みんなそう言ってた、それから部隊の人たちも彼らのことを……
噂がすべて真実とは限らん、あの貴族のお偉いさんたちが俺たちを指してなんて言ったか忘れたのか?
「強欲で、残忍なレユニオンの強盗共」よね。
ウルサスのお上が適当に根も葉もないことを言えば、連中の好まないモノや人はすぐさま一般人の目に人食いのバケモノに早変わりするんだ。
連中の常套手段だ、だがラスティハンマーに関していえば絶対に違う。
昔彼らにあったことがあるの?
ああ、あれはまだ俺が兵士をやっていた頃の話だ。
あの年、国境の防衛軍がカジミエーシュ領内に侵入し村落を襲ったっていうあの年だ。
あ……村のみんなから聞いたことがあるわ。
隊長さんもそのことを言ってた、でもその後アイツらはみんな死んだんじゃないの?
隊長はお前にそんなことまで話したのか?
アイツらはウルサスの正規軍だった。武装された正規軍部隊が、全身に戦闘装備を装着しての越境だ、人目を隠し通せることなんて不可能だもんな。
襲撃したっていうのは上級将校が責任転嫁させたかったための大義名分だったんだろう、もしかするとあの兵士たちは本気で戦争を引き起こしたかったのかもしれん。
だが残念なことに、事実はヤツらの思い通りにはいかなかった。カジミエーシュの森で何が起こったのかは俺には分からん……だがヤツらは一人も生きて帰ってこなかったことは確かだ、十中八九全滅したんだろ。
ヤツらが越境した目的についてだが……本人たちが全員死んだ以上、真相は誰にもわからんさ。
だがヤツらが死んだのは、絶対にカジミエーシュ人が原因ではない……俺には分かる。
一体何が起こったの?
部隊が越境した四日目……ある歩哨兵の報告によると、荒野のならず者の大群がウルサスの国境に侵入したらしい。
荒野のならず者?
あの時、俺はちょうど国境警備区域の補給基地に駐在していた、歩哨兵がそれを報告しても、基地の連中は誰一人気にしなかったよ。
後を失った荒野のならず者の大群はあまり見かけることはないが、珍しくもなかったさ、特にウルサスの国境近辺ではな。
その後基地からは小隊が派遣された、あの不運ならず者を捕らえ、管轄区域の採掘場に労働力を足すためにな、あいつらのよくやる手口だよ。
……だが……
当ててあげる、その小隊は戻ってこなかったんでしょ?
二日目の朝、顔が血まみれの衛兵が俺たちの拠点に逃げて来た、あの小隊が全滅したどころか、隣にいた三つの歩哨拠点も襲撃された、生きて逃れたのはこの血まみれのヤツだけだったよ。
あの時の駐屯軍の将校は今ほどバカではなかった、彼はカジミエーシュ人が荒野の流浪者に偽装して歩哨拠点を襲撃したと判断し、すぐさま上に救援を要請した。
その時に俺たちは気づいたんだ、源石通信機がカバーしてる範囲の中に救援信号をキャッチできる友軍はもうどこにもいなかった、俺たちは孤立無援になったんだ。そして、その日の夜……
太陽が沈んだ後、周囲の山々から金属を叩くような音が響き渡った、恐ろしかったよ、まるで原始的な戦太鼓みたいだった。
それから人が現れた、たくさん……数百人……あるいは数千人いただろう、彼らは粗悪な武器を持っていて、まったく聞き取れんフレーズを叫びながら、俺たちの拠点に猛突進してきた。
彼らは人に見えたが、“人”としての部分がまったく見て取れなかった、てっきり彼らはイカレてるのかと思ってたよ、なぜなら傍にいる仲間が弾で吹っ飛ばされても、止まらず突進してきたからだ。
あれは俺が人生で遭遇した一番恐ろしい突撃だった、それからレユニオンに参加して何度も戦ってきたが、あの狂った夜とは比べ物にならなかったよ。
……
山の麓に日の光が差し込んで初めて、彼らは撤退した。
無数の死体が拠点周囲に横たわり、あちこちが血痕とアーツが爆発した痕跡だかけだった……丸一日、空気中には吐き気を催すほどの鉄が錆びた匂いが充満していた。
……ぶっ飛んだ話ね。
どうして?
どうしてなにも顧みずにウルサスの軍を襲撃したの?目的はなんだったの?
重要な点はそこだ。
数日後、支援部隊がやっとかけつけて来た。その時に知ったよ、付近にあった感染者採掘場が二つも襲撃に合い、中にいた人たちを全員逃がし、その周辺にあった五つの倉庫の軍用補給品が燃やされたんだ。
彼らは捕らえた将校と採掘場の責任者を八つ裂きにし、目に入ったウルサスの旗やモニュメントをすべて粉々に破壊した……
ラスティハンマーはウルサスの痕跡を抹消した、彼らが後にした廃墟には標識やロゴは一切残っていなかった。
一番肝心なのが、あの率先してカジミエーシュ領内に入った運の悪かった連中は後方からの支援をほとんど失ってたことだ。ウルサス軍が反応した頃には、もう遅い。
今になっても、彼らのイカレた行動はまだ理解できないさ。
だが“殺戮を楽しんでる荒野のゴロツキ”が採掘場の可哀そうな連中のためにウルサス軍を襲撃することなんてありえない。
彼らは絶対にただの暴徒ではない、俺には分かる。
……その話……
信じ難い、だろ。
私にはまだ分からないわ……彼らに加入することは本当に正しい選択なのかって。
だってパトリオットさんみたいな人だって……
もうその辺にしておけ、今日ははやく寝な。
なんとかなるさ。
そうね……
ついたぞ……
ここがその、私たちが探してきた……?
「二つ目の山をそのまま北に進めば、そこには聳え立つ巨大な岩がある。」
まさか本当にここにあるとはな。
斑模様に錆びた鉄槌が山頂の岩石に逆さまに突き刺さっていた、鉄槌の柄に縛られている黒いボロ布はまるで旗のように風の中を激しく舞っていた。
「彼らに加入したければ、岩を砕くハンマーを探せ。」
見た目によらず芝居かかった表現が好きな連中だな。
芝居などではない、これはシンボルだ。
荒野で生き延びたければ、そのハンマーになれ。
鋭利な刃は必要ない、ただ耐え忍べ。
!
……
お前たちのその恰好……ただの“通行人”ではないな。
その服にあるロゴマークには見覚えがあるぞ。
“レユニオン”だな。
言え、なぜ俺たちを訪ねた。
お前は……感染者には見えんな。
てっきり……
私たちは、ラスティハンマーに加入するために来たのよ!
加入?
貧弱で、臆病で、恐れている上に、無力……
荒野で手足の震えすら抑えられないお前たちはまるで屠殺されるのを待つ家畜のようだ。
(ラスティハンマー構成員が道具を投げる音)
そら、それを拾え。
こ……これは、シャベルにピッケル……それにトラバサミ?
どういう意味だ?
なぜこの道具を俺たちに?
ラスティハンマーに加入したいのだろう?なら己を証明してみせろ。
なんだと?
己は荒野に属し、柵を飛び越えれば生きてはいけない家畜でないと証明してみせろ。
我らはみな戦士、荒野の征服者だ、我らは互いに身を支え合い、互いに我らのすべてを享受している。
だが貧弱甚だしい穀潰しの面倒を見ることはしない。
あそこの峡谷が見えるか?あそこはいい場所だ、ここらで一番いい場所だ。
峡谷にはお前たちが望むすべてがある。
そこで一か月生き残ってみせろ。
それすらできないというのなら、今のうちにさっさと消えるがいい。
生き残れ?一か月?こんな場所でか?
※スラング※、ふざけるのも大概にしろ。
こんなものだけでどうやって生き残れって言うんだ?
もし俺たちが死ぬとこを見たのなら、こんな面倒臭い方法せず、直接手を下したほうが手っ取り早いだろ?
俺たちが荒野で野垂れ死んでいく様を、嘲笑いながら見るのがお前たちの趣味なのか?
それとも、感染者を迫害するのがお前たちの楽しみなのか?
お前たちはそこら辺の賊どもとは違うと思ってたのに……見損なったぞ……
……はははは。
感染者?感染者と言ったか??
はははは……
感染者を迫害してるだと?はははははははは……
ブーン!
こっちに来てくれ、ここにバカがいるぞ。
ラスティハンマーの大男がガサツな笑い声を発してる中、身体がひん曲がった男が岩の後ろから姿を見せた、彼の身体に生えた源石はどれも恐ろしく醜い。男はボサボサな髪の毛の間から鋭い眼光を見せ、目の前の人を推し量るように見つめていた。
ほら、こっちだ、ブーン。
見えるか、こいつらはお前の“感染者仲間”だぞ。
ほざけ、こんなひ弱な仲間などいたことがない。
お、お前もレユニオン……
ここではな、お前が感染者だろうが、特殊な身分だろうが知ったこっちゃないんだ。
誰だって気にしちゃいないんだよ、※スラング※。
男も、女も、老人も、幼子も、サルカズも……
レユニオン?落ちぶれ貴族?そいつが荒野を抱擁すれば、文明の毒血を遮断しれば、俺たちはそいつを仲間として認めてやる。
……
一か月だけで、いいのよね……
イーラ?
そうだ、もし一か月耐えられれば、お前たちは荒野に属すると、文明の足枷から脱却した証明になる。
その時、お前たちは晴れて荒野の一部となる、ラスティハンマーの兄弟と姉妹たちもお前たちを歓迎しよう。
わかった……約束よ。
その態度気に入った、期待しているぞ。
幸運を祈ってる、お嬢さん。
(ラスティハンマー構成員が去っていく足音)
イーラ、お前正気か?
私たちに……選択肢なんてない、そうでしょ?
いや、保存食もまだ残ってる、だから帰れる、あそこの流浪人集落に戻ってから別の方法を考えればいいじゃないか。
ウソを言わないで!もう食料なんて底をついてるんでしょ、あなたなんか二日は何も食べてないじゃない、全部見てたわよ!
俺は別に……
私たちは戦友でしょ?戦友ならお互いを支え合うべきよ、そうでしょ?
あのラスティハンマーの人たちは……ここで生きている……なら私たちも出来なくはないはずよ。
……そうだな。
なら手を貸して、まずはキャンプを張るわよ。
十五日後
……アイツ動かなくなったわよ……
シッ!声を出すな、もうちょっとで罠にかかるんだ。
でも逃げられそうでもあるわよ。
落ち着け……待つんだ……じっと待てば……
動いたぞ!
あと少し……あと少しよ……
(罠が動いた音)
捕まえた!捕まえたぞ!はははは!
よし!やったわね!
はははは、いいぞ。
イーラ、ナイフをくれ。
はい、ナイフよ。
こんなところにも駄獣がいるとはね、野生種は初めて見るけど。
この肉を、帰って燻製にして、洞窟内で干したら、しばらくは保存できるな……
少なくともしばらくの間は干した砂虫を食わなくて済む。
あの流浪人集落はまだ残ってるのかしら。
急にどうしたんだ、そんなこと思い出して?
肉を燻製にしても全部は食べきれないわ、もしかしたらそこの荒野の流浪人たちと何か交換できるかもしれないわよ。
たとえば穀物の種を交換するとか……
コケ麦がどうかしたのか?
あなたね、今まで一度も畑仕事したことないでしょ?
……ないよ、俺は都会っ子だったからな。
ふふ、じゃあ都会っ子のボクくん、穀物は種を埋めてほっといたら勝手に生えるもんじゃないのよ、これを機によく学んでおくことね。
なにがボクくんだ……俺より何歳か年上なだけじゃないか。
まあいい、とりあえずだ。
そこの流浪人たちはあまり一か所には留まらない、それに東の山の麓にもいくつかの集落があったはずだ、機会があればそこにも行くとしよう。
さあ、コイツを持って帰るぞ。
わかったわ。
十三、十四、十五……
あと半月ってとこね……
ラスティハンマーの連中がちゃんと約束を守ってくれればいいんだがな。
だが今思うに、あいつらがいてもいなくてももうどうでもよくなった。
徐々に気付いてきたんだ、俺たちは自分だけでも生きていけるってな。
ずっと気になってたんだけど……どうしてこの峡谷にこんな洞窟があるのかしら、自然形成されたようにも見えないし……
この洞窟は、きっと昔は坑道だったんだろう。
坑道?こんな人すらいない地域に?カジミエーシュ人が掘ったのかしら?
カジミエーシュ人でも、ウルサス人でもないのかもしれないな。
あるいは俺たちが知ってるどの国でもないのかもしれない。
昔軍にいた時、たくさん古代の民話や伝承を聞いたよ。
数百年前、あるいは数千年前、ウルサスがウルサスではなく、カジミエーシュもカジミエーシュではなかった時代、多くの国々がこの大地で乱立し、発展し、強大になっていった。
しかし結局は戦争や天災、あるいはほかの様々な原因で滅亡し、分裂して崩壊していった。
天災は何度も何度も大地を襲い、その国々が存在していた痕跡もすべて一掃された、残ったとしてもこの坑道みたいな地下にしか残っていない。聞く話によるとほかの地域にもこのような古代の遺跡が多く残されているらしいんだ。
つまり……
ここも昔は荒野ではなく、人が住んでいた町や都市だったってこと?
おそらくな。
もし……もし私たちがここで生き続ければ、私たちみたいな人がどんどん増えれば、あるいは小さな町とかができるかもしれないわね……
この峡谷は南から北に伸びている、相当の人数を収容できると思うわ。
その時になったらこのイーラが村長!そしてあなたは副村長ね!
わかったわかった、夢が見たいのなら寝てからにしてくれ、とりあえず肉を吊るすから手伝ってくれ。
了~解。
二十九日後
ガレス!ガレス起きて!
なんだよ……こんな朝っぱらから……
はやく見て、コケ麦が!
!
これは……発芽か?
そうよ!
おお!すごい!すごいぞ!
こんな土地でも穀物は作れるんだ!
きっと粉に摺りつぶした駄獣の骨のおかげよ。
よし、そうだな……一番肝心なのは何だったっけ?
水よ水!
なら渓谷の水だけでは足りないな、ほかの方法も考えよう。
でもこの近くに……ほかの水源なんてないわよ。
東にある山の麓の森を探ってみよう、森があるということは、水があるということだ。
遠すぎるわ、あったとしても毎日運ぶつもり?
確かに遠い、だがやるだけの価値はある。
もしこのコケ麦が通常通りに成長できれば、なにをやっても価値はある!
荷物を片付けよう、森を見に行くぞ。
遠いとは思ってたけど……まさかこれほどまでとは……
帰って別の策を考えよう、もっと大きい器が必要だな。
水袋だけで水を運ぶには効率が悪い。
ちょっと待って……これは何かしら?
これは足跡?この近くに人がいるわよ。
足跡?なんの足跡だ?
……違う……これは……
軍靴の足跡だ!
この靴底の跡、間違いない、ウルサス軍の軍靴だ。
なぜだ……なぜだウルサス兵がこんなところにいるんだ?
私たちはどうすれば……
……とにかくはやく戻ろう、荷物を片付けるんだ。
ここを離れよう、この足跡を見るに……きっとまだ遠くには行っていない、それに二十数人はいる。
待って!ほかにも方法はあるわ。
火を起こさなければいいのよ……そうすればヤツらもきっと峡谷に洞窟があるとは分からないはずだわ。
いや、どうせいずれ見つかる、火を起こさずに毎日洞窟に籠っても仕方がない、ヤツらがいつここを離れるのかすら分からないんだぞ!
きっとヤツらは俺を探しに来たんだ、あの将校がそう簡単に俺を見逃すわけもないからな……
いやよ、私はここを離れないわ!
イーラ!
逃げたってどこに逃げるのよ、もう逃げるのはコリゴリよ、私がレユニオンに加入したのは、少しでも人として生きたかっただけなの!
これまでの一か月の生活は……確かにキツかった、けどキツいからなに?
徴税官もいない、貴族もいない、森には獲物もあるし、土地にはコケ麦も生えてる、全部私たちのものよ!
この一か月で、私は人間らしく生きれた!その日しのぎの家畜としてではなく!
イーラ、少しは落ち着け、話しを聞いてくれ。
俺たちが生きてる限り、俺たちに属する場所はいずれ必ずまた見つかる、もし死んじまったら何も残らないんだぞ!
じゃあ逃げる度に……私たちは自分たちが所有していた何もかもを諦めろって言うの?なんであんな連中に次から次へと私たちの生活を破壊されなきゃいけないのよ!
一番初めは村のみんなからだった……それから妹……シャーラ……隊長さんまで。
今日という今日は、どこにも行かないから。
死ぬんだったら、この峡谷で死んでやるわ、ここにあるモノすべては、私たちの血と汗よ。ここが私たちの新しい我が家よ。
もうどこにも行かないから!
……イーラ。
ここに残りましょう、ガレス、ヤツらと戦うのよ。
私たちはレユニオンの戦士であって、臆病者じゃない。
そ……
そうだな!
あの※スラング※どもめ!
貴族連中も、ロモノソフ将校も……みんな死ぬべきだ……みんな死ぬべきだ!
いい!素晴らしいぞ!
!!
……お前はあの時の!
なぜここに……まさかずっと俺たちをつけてたのか?
荒野で一か月のサバイバルだ、俺はただ毎日お前らが生きてるかどうかをチェックしに来ただけだ。
今はそんなことはいい、この近くにウルサスの……
慌てるな、取るに足らないことだ。
それで……私たちは合格したの?
合格?
何を言う、お前はもうラスティハンマーの一員だ、姉妹よ。
……
それとお前、少しばかり意志が足りないが、お前が正しい道を選択できて俺は喜ばしく思うよ。
妥協と逃亡に果てなどない、この言葉を憶えておくんだな。
お前も歓迎しよう、兄弟よ。
それと、愚かな獲物どもが今トラバサミに向かってきている、見逃しては損だ。
獲物?なんの獲物だ?
ヤツらのお出ましだ。
やはりこの峡谷にいたか。
散々手間をかけさせてくれたな、ガレス士官。
……
この恥知らずの逃亡兵め、逃亡に飽き足らず軍の倉庫から兵糧と補給をも盗み取ってくれたな。
ウルサス軍の尊厳を踏みにじった後、堂々と逃れられるとでも思っているのか?
ロモノソフ将校はたいそうご立腹だ、お前の首を斬り落とさん限り、彼の怒りは収まらん。
貴様の罪の代償を用意しておけ、この感染者のゴミクズめ……
黒装束を纏ったウルサスの畜生が……二十四匹か。
フッ、毛がついた肉を食らい生き血を啜る野人と仲良くやってるようじゃないか、まさかこの荒野のならず者共なら自分の命を助けてくれるとでも思ってるのか?
今すぐ跪いて自害しろ、そうすればキレイに埋葬してやってもいいぞ。
狙撃手、構えろ……
顔を隠したラスティハンマーの戦士が手に持つ武器で地面を叩き出した。
一回
二回
三回と
次の瞬間、峡谷全体から耳をつんざく打撃音が響き渡った、乱雑ではあるがはっきりとした音だった。
ウォークライ、雄叫びは、峡谷の寒風を纏っていた、さながらこの大地が発した最も原始的な叫び声のように。
その時、ガレスは見た。
峡谷両側の崖の上には、ぎっしりと粗暴な戦士たちが立っていた。
衣服はボロボロで、古くなった金属製の粗造な兜を被っていた。
みな身体は歪にひん曲がっており、手には簡単だがおぞましい見た目をした武器が握られていた。
た……隊長!これは……
な……なんなんだこの人数は???
そ、そんなバカな!歩哨兵は?歩哨兵は何をしていたんだ!
お前が探してる“歩哨兵”なら、ここだ。
その……兜……それにその武器、なぜ貴様らが……
我らの兄弟と姉妹よ、荒野へようこそ、ラスティハンマーに加入して初めての狩猟を楽しもうじゃないか。
あなたたちと共に戦えて嬉しく思うわ。
戦い?
姉妹よ、我らは“戦い”などしない。
ラスティハンマーの戦士たちの数が増えるにつれ、ウルサス兵は怖気づいて一歩も動けずにいた。戦士は話をし始め、この二十四人はただ静聴するしかできなかった。
ヤツらは――俗に言う“国家”と“文明”は――根本からの悪である、あの巨大な移動都市は、醜い鋼鉄の創造物は、悪意によって鋳造された金属の足枷と牢獄こそが、ヤツらが邪悪である証なのだ。
ヤツらはすべてを奪った、あたかも己の所有物であるかのように、大地の鉱物を、水と土地を強奪していった。
そして謳った、“文明”を信奉しなければと救いは訪れないと、ヤツらの足枷が繋がっていないモノはすべて野蛮という印を焼き付けられた、ヤツらは真実を恐れている、だが我らはその真実をこの大地へ返還してやるのだ。
ヤツらは力で人々を恐れさせ、文明をもって人々を弱らせてきた、虚空から発明した“秩序”に従わざるを得なくさせるため、己を自ら檻籠に閉じ込めさせるために。
それを用いてヤツらは本来自由なる人々を奴隷扱いにし、人々を呑み込んでいったのだ!
この大地は本来すべての人々に属するはずだった、誰もがお互いのように、己の両手で荒野の中で己の居場所を持つことができた!荒野は弱者を淘汰させるのは自然の理、だが根源を辿れば、一体この世と人々を弱らせてるのは誰だ?
人々はヤツらの悪夢に、ヤツらの災いに、ヤツらを滅ぼす力にならなければならない。
暴風と地震に足枷をかけて縄を縛り付けることができる人などどこにいる?霹靂と稲妻を檻籠に閉じ込めさせられるヤツなどどこにいる?
我らは戦いなどしない!我らは滅ぼすのだ!
檻籠を潰し、足枷を破壊し、奪われたモノを再び奪い返す、ヤツらに与えられた弱さを切り捨てる人は、誰だろうとラスティハンマーの兄弟と姉妹になり得る。
――滅べ!滅べ!滅べ!滅べ!滅べ!――
乱雑ではっきりとした金属の打撃音が峡谷全体に響き渡る。
彼らは叫び、武器で大地を叩く。金属と岩の衝突はまるで遠くで轟く雷鳴のようだった。
――滅びを!滅びを!滅びを!滅びを!滅びを!――
恐れるな!所詮はイカレた連中だ!
陣形展開!せ……戦闘準備!
ヤツらが震えてる、我らを恐れているぞ、我らの滅びを、我らの狩猟を。
文明の足枷を外した我らはもう軟弱ではない。
天災は荒野を一掃し……
錆びた鉄槌は大地を打ち砕かん!