アークナイツストーリー翻訳

【明日方舟】序曲の灯火「忘れ去られし灯台 アズリウス」

2:18p.m. 天気/晴れ
イベリア北部、海沿いの荒んだ町

こちら目標地点に到着。
目標の建築物の外観が先行調査の報告にある描述との一致を確認。
続いて小隊が建築物に進入し、一次調査を行います。以後通信が途切れ途切れになる可能性があり、もし特殊事態が発生した際は、信号弾に注意してくださいまし。
アズリウス、オーバー。

アズリウス
アズリウス

ここに入口がありますわ。うーん、一番最初に作られた入口ではなさそうですわね。

アズリウス
アズリウス

縁っこの跡が粗っぽいですわね、鋭利な斧か何かで削られたようですわ。バウンティーハンターの仕業かしら?彼らの中にはここで“トレジャーハント”しに来る人もいると聞きますし。

グラウコス
グラウコス

おそらく彼らはイベリア人じゃないからではないでしょうか……

アズリウス
アズリウス

そうかもしれませんわね。なんせ、せっかく逃れられた人たちからすれば、ここの遺跡は“毒”そのものですもの。

グラウコス
グラウコス

ここに残った人たちは……教会か、審問会の人なのでしょうか。だとしたら仕方ないことですね。

グラウコス
グラウコス

彼らも対処すべきことが多いからですかね。それにきっとこんな場所は見たくないと思いますよ。

グラウコス
グラウコス

……小さい頃の私が自分の足を見たくないように、いくら力いっぱい蹴っても、走り出すことは叶わない――今のイベリアも、“壊れた部品”に構ってやれないんでしょうね。

アズリウス
アズリウス

グラウコスさんが自分を比喩に用いるだなんて、わたくしもこの場所への同情を禁じ得なくなりますわ。

グラウコス
グラウコス

むー、からかわないでください。

グラウコス
グラウコス

電磁パルスを展開完了。

アズリウス
アズリウス

では、上に向かいますか、それと下へ?

グラウコス
グラウコス

アズリウスさんに従います。

アズリウス
アズリウス

なら上に行きましょう。なぜかは知りませんが、上に行くべきだと直感が訴えてますの。ここはまるで……塔であるかのように。

グラウコス
グラウコス

塔?そんなに高いでしょうか?地上にある部分も三階ほどしかありませんよ。上に行ってどうするんですか。

アズリウス
アズリウス

そう言うのであれば、やっぱり下に行きましょ。

グラウコス
グラウコス

え?

アズリウス
アズリウス

あなたが気付かせてくれましたからね。それにこの下がどれだけ深くまであるのかまだ分かっていませんし。

グラウコス
グラウコス

なら下を潜りましょう。ついていきます、背中は任せてください。

アズリウス
アズリウス

あら、グラウコスさんがそう言ってくれるのなら、わたくしも安心ですわ。ただ、今日ぐらいは争いが起こってほしないですわね。

アズリウス
アズリウス

うーん、暗いですわね。

グラウコス
グラウコス

照明は完全に壊れてますね。

アズリウス
アズリウス

直せませんの?

グラウコス
グラウコス

数十年前にあったイベリアの技術ですからね。レイジアン工業の配線設計とは全然違いですので。数日間か時間をくれれば直せなくもないですけど……

アズリウス
アズリウス

なら放っておきましょう。修復なら、クロージャさんと後からくるエンジニアチームに任せましょ。

アズリウス
アズリウス

こんなカタコンベでずっと引き籠ってる必要なんてありませんですし。

グラウコス
グラウコス

カタコンベ?

アズリウス
アズリウス

例えですわ、それか事実かもしれませんしね。この建物からは陰鬱な匂いがしますもの。

グラウコス
グラウコス

捨てられて数十年、それに海に沈んでいたんですし、何かが埋まってもおかしくは……

アズリウス
アズリウス

シッ。

グラウコス
グラウコス

ん?

アズリウス
アズリウス

わたくしたちが声を発さなければ、もしかしたら幽霊の叫び声が聞こえるんじゃなくて?

グラウコス
グラウコス

ゆ、幽霊ですか……

アズリウス
アズリウス

もう、ただの脅しですわよ。だからちょっとはわたくしの服を掴む力を緩めてくださいまし、この服かなりお気に入りなんですのよ。

グラウコス
グラウコス

……あ。じゃあついでに源石ランプをつけましょう。

(源石ランプを点ける音)

アズリウス
アズリウス

これで少しは明るくなりましたわね。

グラウコス
グラウコス

うーむ……

アズリウス
アズリウス

この遺跡の技術を食い入るように見てますわね。

グラウコス
グラウコス

これは過去に海辺の都市でしかない技術ですから。今のイベリアじゃ、めったにお目にかかれませんので。

グラウコス
グラウコス

これは……何に使うのでしょうか?

グラウコス
グラウコス

遠望?信号中継?エネルギー生産?それとも……ただの観光用でしょうか?

アズリウス
アズリウス

もしかしたら人を監禁する場所かもしれませんわね。

グラウコス
グラウコス

……ありえますね。

アズリウス
アズリウス

一部の人は往日のイベリアを見ると、忘れ去られた技術と、灰を被った黄金を思い起こすのでしょう。

アズリウス
アズリウス

しかし、あの最も輝かしかった時代、あの黄金の都市の下には、多くの骨も埋まってることを思い出してほしいですわ。

グラウコス
グラウコス

ごめんなさい……

アズリウス
アズリウス

どうしてあなたが謝るんですの?わたくしの先祖をイベリアに連れて行ったエーギル人たちは、もうとっくに波に削られて骨すら残ってませんわよ。

アズリウス
アズリウス

だからと言ってわたくしは別にイベリアが、エーギル人が嫌いというわけではありませんわ。それに、自分のこともそれなりに嫌ってはいませんもの。ドクターと、あなたのおかげですのよ。

グラウコス
グラウコス

この技術を見ると……嫌な記憶を思い出しちゃうのですか?

アズリウス
アズリウス

わたくしが今関心を持ってるのはただこの建物がロドスの役に立つかどうかだけですわ。

アズリウス
アズリウス

それに、それを確認するためにわたくしたちはここに来たんじゃないですの、違いますか?

グラウコス
グラウコス

……そうですね。周囲を観察して、データを解析して、回収可能な部品を確定するために来ましたもんね。

グラウコス
グラウコス

うーん、ただ残念ながらどれもボロボロですね。ただ単に老朽化あるいは環境による腐蝕であっても、ここまで破壊されるはずもないんですけどね。

グラウコス
グラウコス

これなんか見てください、壊れた部品があっちまで……あ。

アズリウス
アズリウス

どうかしましたの?急にフランカ―なんか取り出して……

グラウコス
グラウコス

ゆ……幽霊です!

アズリウス
アズリウス

幽霊?……あの先にある通路の影のことですの?

アズリウス
アズリウス

動いてませんし、生き物にも見えませんわね。

アズリウス
アズリウス

服装を見るに……バウンティーハンターのようですわね。

アズリウス
アズリウス

なるほど、ここは入口からそう遠く離れてませんものね。もしかしたら彼がここの扉を開けた張本人なのかもしれませんわよ、ただ入った後にここで亡くなってしまったんでしょう。

グラウコス
グラウコス

あぁ、そうだったんですか。

アズリウス
アズリウス

お待ち。近づかないでくださいまし。

グラウコス
グラウコス

ん?

アズリウス
アズリウス

彼の死因がまだ分かっていませんわ。

グラウコス
グラウコス

危険があると?

アズリウス
アズリウス

一人のバウンティーハンターが、入口からこんなに近い場所で亡くなってますのよ。

アズリウス
アズリウス

だから彼を殺したのは、只者ではないはずですわ。

グラウコス
グラウコス

うーん……

アズリウス
アズリウス

もう少し下がりましょう。

アズリウス
アズリウス

匂ってきましたわ……海の匂いが。

グラウコス
グラウコス

海の匂い?海岸はここから遠くにあるはずですけど。

アズリウス
アズリウス

……

アズリウス
アズリウス

まさか……

アズリウスはグラウコスをその場で留まらせて、自分は前へ進んだ、死体から1メートルの距離まで近づいたところでしゃがみ込み、じっくり観察した。

アズリウス
アズリウス

なるほど。ここに海草がついてましたわ。

アズリウス
アズリウス

骨格はキレイなまま。バケモノに食い荒らされた形跡も、致命的な外傷の形跡も見当たらず。

アズリウス
アズリウス

(くんくん)

アズリウス
アズリウス

毒によって死んだ痕跡も見当たりませんわね。

アズリウス
アズリウス

死体の姿勢を見るに、おそらくこの方は海草に身体を囚われ、海水に溺れて溺死したんでしょう。

グラウコス
グラウコス

海水なんて見当たりませんよ、どこも乾燥してますし。

アズリウス
アズリウス

そこの壁に海水による腐食現象が残っておりますわ。

グラウコス
グラウコス

うーん……錆びた痕跡が二つありますね。

グラウコス
グラウコス

じゃあここは、二回海水に浸かっていたということですか?

アズリウス
アズリウス

一回目の浸水で、この建物を徹底的に壊された、この建物が以前はどんな働きをしていたとしても、今ではもうただの廃墟となってしまいましたわ。そして二回目に、海水が突然この位置まで押し寄せてきて、建物内部を水浸しにした。

アズリウス
アズリウス

そしてこの不運な方が、ちょうどそのタイミングにやってきて、儲けものだと思い、嬉しそうに壁にあるものを取り外していたんでしょう。

アズリウス
アズリウス

しかし海水が侵入してきた頃には、もう時すでに遅し、海草に手足を絡められ、藻掻いたはいいものの命を失ってしまった。

アズリウス
アズリウス

だからといって何もかもこの人の自己責任とは言い切れませんわね。クランタですし。

グラウコス
グラウコス

……可哀そう。彼らは海の力を何一つ知らなかったんでしょうね。

アズリウス
アズリウス

ドクターが言ってましたわ、海の研究は、ほとんどの陸地にある国家にいる極少数の海洋学者たちによって棚に仕舞われてますの、それに歓迎されてすらいませんわ。

アズリウス
アズリウス

まあ、それもそのはずですわ。誰しも目に見える上に、この手で征服できるモノにしか興味がありませんもの。

アズリウス
アズリウス

それか……かつてのイベリアを除いては、でしょうか。

グラウコス
グラウコス

それももう過去の出来事です。私だって海は見たことがありませんよ。

グラウコス
グラウコス

うーん……それになんでアズリウスさんがこんなに海の匂いに警戒してるのかすら分かっていませんもん。

アズリウス
アズリウス

あの噂を、聞いたことはあります?

グラウコス
グラウコス

うっ……

アズリウス
アズリウス

あの災いの噂を。

グラウコス
グラウコス

そういうのは……口に出しちゃいけないんです。イベリアでは禁じられていますから。

アズリウス
アズリウス

あなた方はそれを語りたがりませんわね。

グラウコス
グラウコス

習慣ですからね、変えようにも難しいです。ロドスにいても、私たちはあまり話したがりませんから……故郷のことは。それに私たちは、あの事件に対して、みんなそれぞれ違う印象を抱いているんです。

グラウコス
グラウコス

たまにですけど、ウィーディさんと話したりしますよ。私たちは同じくイベリアで育ったエーギル人ですけど、彼女の目に映るイベリアは、私の目に映るものとは全然違っていました。

アズリウス
アズリウス

そんなの、みんな普通ですわよ。討論を禁じられた以上、その同一の事件の記憶は、皆さんがそれぞれ自分の目で見て思った観点の破片でしかないですもの。

アズリウス
アズリウス

彼らは……その砕けた観点を繋ぎ合わせようとする機会をあえて自ら遮断しようとしておりますし。

グラウコス
グラウコス

ぅ、今ここには私たち二人しかいませんよね。なら言ってもいいはずなんですけど、でも……私にはできません。なぜか知りませんが喉が塞がって言い出せないんです。

グラウコス
グラウコス

言い出したらその瞬間、この通路に映ってる影が私に襲ってくるような感じがするんです。

グラウコス
グラウコス

……源石ランプによる投影だってことは重々分かってますけど。

アズリウス
アズリウス

投影……ぴったりな比喩ですわね。彼らは巧みに人々の視線を誘導しているんですのよ、人々に影を恐れさせるために、背後にある大きな真実から目を背けさせるために。

グラウコス
グラウコス

寒気がします……汗はかいてませんけど。

グラウコス
グラウコス

自分がここに立って、アズリウスさんとこうして話ができるなんて、昔だったら想像すらつきませんでした。

アズリウス
アズリウス

誰だってそうだと思いますわよ?

アズリウス
アズリウス

おそらく、きっとこの真っ暗で封鎖された建物がわたくしたちを守ってるのでしょう。

アズリウス
アズリウス

ここには死体もある、通路もどこまで続いてるのか分からない。けどここは広く開放された場所よりも……ずっと安心する。

アズリウス
アズリウス

この壁がわたくしたちに現状を抑える錯覚を与えてくれていますし。

グラウコス
グラウコス

そうですね。少なくともほかの誰かに見られてるわけではありませんもんね。

アズリウス
アズリウス

果たしてそうでしょうか。

グラウコス
グラウコス

もう脅かさないでくださいよ……

アズリウス
アズリウス

はいはい、もうやめますわ。災害に話を戻しましょ。実際には、あれは審問会が引き起こしたことではありませんの。

アズリウス
アズリウス

審問会がどうとかは省いて、あれは岸に上がったエーギル人たちが決定したことですのよ。

グラウコス
グラウコス

え?

アズリウス
アズリウス

最初は、おそらくは一種の自己防衛の仕組みだったんじゃないかしら。

グラウコス
グラウコス

自己……防衛?

アズリウス
アズリウス

エーギル人たちはなぜ陸に上がったか分かりますか?

グラウコス
グラウコス

分か……りません。私たちはみんな本来陸にいたと思ってますから。たくさんのイベリア人はそうは思ってないみたいですけど。

アズリウス
アズリウス

実を言うとわたくしもそれほど詳しくはありませんの。

グラウコス
グラウコス

うーん……でもアズリウスさんは私たちよりたくさんそういうの知ってますよね。

アズリウス
アズリウス

滑稽かもしれませんけど、エーギル人の脳からそういう歴史が徐々に消えていくにつれ、逆にわたくしたちはそれを徐々に思い出せるようになってるんじゃないでしょうか。

アズリウス
アズリウス

わたくしの先祖は百数年前にエーギル人たちによって連れて行かれましたわ。当時彼らが欲しがっていたのは、紛れもなくわたくしたちが当初から持ち合わせていた“毒”の力ですの。

グラウコス
グラウコス

それは……どうしてですか?

アズリウス
アズリウス

彼らは立て続けに摘出し、繰り返し実験を行ってきましたわ。彼らは私たちが持つ陸地の奥底にある毒素は果たして兵器転用できるのかどうかが知りたかったんでしょう……

グラウコス
グラウコス

彼らは何を相手にしていたんですか?

アズリウス
アズリウス

分かりませんわ。わたくしだって見たことありませんのよ?ただわたくしたちの先祖の描述によれば、あれは巨大で、陸地には存在しない恐ろしい生き物だとか……

グラウコス
グラウコス

海から来るバケモノですか……

アズリウス
アズリウス

わたくしに言えるのは、可能性は大というだけですわ。

アズリウス
アズリウス

聞くべきなのかどうか考えたこともありましたわ。ドクターに、ケルシー先生に、はたまた……直接彼女たちに、と。

アズリウス
アズリウス

ある時、廊下でスカジさんに会ったんです。その瞬間、わたくしの心の奥底に潜んでいた疑問が浮上してきたんですの。

グラウコス
グラウコス

彼女は何も言わないと思いますよ……

アズリウス
アズリウス

そうですわね、彼女も確かに教えてくれないでしょうね。けど結局、わたくし聞けず終いでしたわ。

アズリウス
アズリウス

……わたくしは自分に真実を覗き見る勇気があるかどうかは分かりませんわ。

アズリウス
アズリウス

岸に上がったエーギル人だってそうだと思います、彼らは数百年もの歳月をかけてあの恐怖を忘れようとしていますもの。だからこそ、彼らは安心して陸地に根を張り、ゆっくりと自分をイベリアの一部として生きることができるのですから。

アズリウス
アズリウス

せっかく手に入れた新生活を捨ててまで、また永遠に止めることのない争いに身を投じようとする人などどこにいるのです?それにあの災害がいつどこで再び来るのかすら分からないのですのよ、もし本当に来たら、今までしてきた抗いもすべて無駄になってしまいじゃないですの。

アズリウス
アズリウス

たとえわたくしであっても、ドクターにたくさんのことを教わったあとのわたくしであっても、新しい人生を持ちたいと思っておりますわ。

グラウコス
グラウコス

じゃあ……戻ったほうがいいのでしょうか?

グラウコス
グラウコス

今ならまだ間に合いますよ。

アズリウス
アズリウス

そうかもしれませんわね。

グラウコス
グラウコス

……なのにまだ前に進もうとしてるじゃないですか。

アズリウス
アズリウス

あら、本当ですわね。まさかまだ前に進んでいるとは。

アズリウス
アズリウス

今思えば、今までの間、わたくしは自分の毒の能力を使わないでおこうとしませんでしたわ。

アズリウス
アズリウス

もしかすると、わたくしはずっとわたくしの先祖を奴隷扱いしたエーギル人の幽霊から逃れられていないのかもしれませんわね。無意識の奥深くで今でも信じ続けておりますわ、私の毒はいずれ待ちわびている敵と相まみえるんだと。

グラウコス
グラウコス

何階下りましたか?

アズリウス
アズリウス

……忘れましたわ。

グラウコス
グラウコス

私もです。

アズリウス
アズリウス

想像よりも深……えっと、高い塔ですわね。閉鎖された空間で私たちの感覚が狂ってしまったじゃないかしら。

グラウコス
グラウコス

あ、なんか幻覚も見え始めてきました。

アズリウス
アズリウス

何が見えましたの?

グラウコス
グラウコス

(瞬き)

グラウコス
グラウコス

前に光が見えます。

アズリウス
アズリウス

……

グラウコス
グラウコス

それに、ゆっくり上に向かっています。

アズリウス
アズリウス

アズリウス
アズリウス

(声を抑えながら)ランプを消して!

暗闇の中、青白い光が近くで揺れ動いている。
あの光は自分たちのランプが映した反射光ではないとアズリウスは確信していた。あれは幻、それとも現実?どっちの状況がより危険なのだろうか?

アズリウス
アズリウス

(ゆっくり接近していきますわよ。気づかれないように。)

グラウコス
グラウコス

(敵ですか?)

アズリウス
アズリウス

(とりあえず構えておいたほうがいいですわ。)

グラウコス
グラウコス

(いつでもフランカ―の用意はできています。)

アズリウス
アズリウス

(よし。もうすぐ接触ですわ。すぐそこに曲がり角がありますわね。私の合図に注意して。三回ノックしますわ、三回ノックしたら、一気に――)

(クロスボウの射る音)

クロスボウの矢が静寂を貫いた。
その朦朧とした白い光に命中した。いや、命中してはいなかった。射貫こうとした瞬間、少しだけ角度がズレたのだ。
問題ありませんわ。誰にも気づかれないうちに、矢は発射された瞬間すぐさま二つに分かれた。一つは前に、一つは後ろに、白い光を捕らえながら。
そして次の瞬間、白い光が膨張した。

グラウコス
グラウコス

フランカ―、バッテリーフルチャージ!

???
???

ちょ、ちょっと待って!

グラウコス
グラウコス

マイクロ波増幅――

???
???

敵意はありません!

アズリウス
アズリウス

ん?

インディゴ
???

ゴホッ、ゴホッゴホッ……いたた、背中をぶつけちゃった……すごい衝撃波……

インディゴ
???

二度目は勘弁してくださいよね……

アズリウス
アズリウス

命乞いがしたければ、先にアーツを止めて頂けませんか、名の知らぬ術師さん。

インディゴ
???

え、アーツってこの光のことですか?ち、違います、誤解です、これは光を使って足元を照らしてるだけですから……

インディゴ
???

さっきも、無意識に防御しただけです。信じてください、本当にあなたたちを攻撃する意思はありませんから!

グラウコス
グラウコス

どうりで……暖かくて、明るいと思ってました、光を浴びても身体に不調は起きていません。

アズリウス
アズリウス

グラウコスさん、まだ警戒を解いちゃダメですわよ。

アズリウス
アズリウス

こちらの方のアーツはそれなりの威力があると思います。それに、少々特殊なんじゃないかと。

グラウコス
グラウコス

うーん……そうなんですか?

インディゴ
???

じゅ、銃を向けないで!それと、話し合いましょう、クロスボウを私の喉からどけてくれませんか……ほんの少しだけでいいので……

インディゴ
???

も……もう息がしづらいです……うう……

アズリウス
アズリウス

どけてもいいですわよ。

アズリウス
アズリウス

ただあなたもそのアーツロッドを地面に捨ててくださいまし。もし良からぬことをしようと考えてるのなら……あなたが動く前にわたくしの矢で仕留めて差し上げますわ、ご安心を。

インディゴ
???

分かりました……

少女は大人しくアーツロッドを地面に捨て、光もすぐに消えた。

アズリウス
アズリウス

もうランプを点けてもいいですわよ。

グラウコス
グラウコス

うん。

インディゴ
???

それあなたたちの光だったんですか……

アズリウス
アズリウス

わたくしたちはあなたのターゲットだったんですの?

インディゴ
???

いえ、そういう意味ではなくて。

インディゴ
???

私はこの下に滞在しています。ここは私以外ほかの人はいません。光が見えたので、もしかしたら誰かが入ってきたんじゃないかと思って、挨拶をしようと、上に上がって来たんです……

アズリウス
アズリウス

ここに滞在してると言ってましたけど、あなたは誰なのですか?

インディゴ
???

あ、自己紹介し忘れてた……えっと、アリアです。

アズリウス
アズリウス

ではアリアさん、あなたはイベリア人ですか?

アリア
アリア

そうですよ。分かりやすかったですか?

アズリウス
アズリウス

聞いてみただけですわ。あなたが口を割らなくとも、クルビア、ヴィクトリアと当て続ければ、いずれは当たりますから。

アリア
アリア

なんか知りませんけど寒気が……

アズリウス
アズリウス

アリアさんはイベリア人で、術師、それに光を操るアーツが使える。審問会と関わりが?

アリア
アリア

審問会?いやいや、そんなことないです、あんな偉い方たちなんて見たこともありませんよ。

アズリウス
アズリウス

じゃあここで何をしていますの?

グラウコス
グラウコス

(尋問みたいになってないですか?私たちはここに来て様子を見に来ただけじゃないですか。)

アズリウス
アズリウス

(こうしたほうが一番効率がいいんですのよ。それに彼女、口籠る様子もないようですし。)

アリア
アリア

うーん……ここで何をしてるか、ですか?

アリア
アリア

実は私もよく分からなくて……

アズリウス
アズリウス

あら?アリアさん、もしかして記憶の障害をお持ちなのですか?

アリア
アリア

ではないんです。なぜここに来たとか、ここに数日間いたこととかも、全部覚えています。

アリア
アリア

二日前、現地の方に聞きまわっていました、近くでお金を稼げる機会はないかって。仕事が必要なんです……でないとお腹を空かしちゃいますから。

アリア
アリア

私が持ってた最後の少ないお金を全部その人に渡したら、教えてくれたんです、ここで一攫千金をするといいって。

グラウコス
グラウコス

(どうやらこの人は詐欺師に会ったようですね……)

アズリウス
アズリウス

……

アズリウス
アズリウス

おそらくその人はあなたをバウンティーハンターと間違えたんでしょう。

アズリウス
アズリウス

以前ここら一帯にはバウンティーハンターが多く訪れてきていましたから。アーツロッドも持ってますし、それに……えっと、かなりいいご身分にも見えますしね。その人たちはきっとあなたを刺激欲しさに冒険したがてるいいとこのお嬢様と思ってたんでしょう。

アリア
アリア

え……そうだったんですか?まさか私の意図が誤解されていただなんて……

アズリウス
アズリウス

(誤解とも言い切れませんね……なんせ騙しやすそうな見た目してますし。)

アズリウス
アズリウス

(ニコッ)

アリア
アリア

そ、そんなに笑える話でしょうか?

アズリウス
アズリウス

いえいえ。ただわたくしの友人は少々人見知りなところはありますが、これでもかなりあなたのことを心配してらっしゃるのよ。

グラウコス
グラウコス

オホン……

アリア
アリア

そうなんですか?あ……ありがとうございます!でも大丈夫です、ただちょっと道に迷っただけですから、灯台を見かけたものですから、そこで少し休憩しようと思ってだけでして……

アズリウス
アズリウス

今なんと?

アリア
アリア

み、道に迷って……

アズリウス
アズリウス

それじゃなくて、この建物は灯台とおっしゃいました?

アリア
アリア

ええ。灯台ならイベリアじゃ珍しくもありません、あなたたちは見たことがないのですか?

グラウコス
グラウコス

(首を振る)

アリア
アリア

うーん……珍しくないと言っても海辺にしかありませんからね。半年間外を歩き回ったけど、海から遠い町だと確かに灯台はないですね。

グラウコス
グラウコス

アリアさんは海辺で育ったんですか?

アリア
アリア

はい。ここからそれほど遠くないところにある町で育ちました、名前は聞いたことないと思いますが。

グラウコス
グラウコス

そこは……今はどうなってますか?

アリア
アリア

普通……ですかね?

アリア
アリア

あんまり人口は多くないですけど、みんな仲良くやってますよ。私の先生が言ってました、私たちは運がいい、海がもたらした災いがしばらく私たちの故郷を見逃してくれたんだ、とか。

グラウコス
グラウコス

ふぅ……それならよかったです。

アリア
アリア

灯台を……除いては、ですけどね。あの日以来、私たちの町にある灯台はもう二度と明かりがつかなくなったんです。

アズリウス
アズリウス

あの日?

アリア
アリア

ええ、あの日です。数十年前、最も大きな災いが来た……あの日です。

アリア
アリア

ほんの一瞬で、イベリアにあるすべての海岸線が暗闇に包まれたんです。

アリア
アリア

それから……もう明るくなることはありませんでした。

アズリウス
アズリウス

アリアさん、灯台についてお詳しいのですね。

アリア
アリア

小さい頃から灯台の中で育ってきましたから。

アズリウス
アズリウス

……こんな灯台の中でですか?

アリア
アリア

誤解なきよう、私たちの町にある灯台はこれよりもずっと状態はマシです、損傷もそれほど被っておらず、ただ電球が点かなくなっただけですので。

アリア
アリア

機械のパーツ、管制システム、エネルギー供給網、オート演算コア、外壁の投影装置、アンテナ設備、どれも問題はありません。

アリア
アリア

先生に連れられて、毎日マニュアル通りシステムを全過程点検し、外壁も定期的に補修していましたので。

アリア
アリア

胸を張って言えますよ、老朽化はどうしても避けられませんけど、私たちの灯台の状態は何十年前と変わらず良好なんですから。

グラウコス
グラウコス

すごい……

グラウコス
グラウコス

灯台の話になると、アリアさんの目が輝いています……私がフランカ―を調整してる時と同じ目です。

アズリウス
アズリウス

あなたとあなたの先生は、灯台の管理人なのですか?

アリア
アリア

あれ、言ってませんでしたっけ?ごめんなさい、私の先生はまさしく名誉ある灯台の守り人なんですよ。

アリア
アリア

私は、まだその……灯台は正式な守り人が一人いれば十分なので、えっと、私はただの見習いです。

アリア
アリア

それに今の私は……うっ、外に出ちゃってます。見習いすら失格です、はぁ。

アズリウス
アズリウス

外に出てこんなに経ってるのに、まだメンテナンスの過程を細かく憶えているだなんて……

アリア
アリア

毎晩寝る前に一通り暗唱していますからね!

アズリウス
アズリウス

……

アズリウス
アズリウス

アリアさんはその仕事を愛しておりますのね。

アリア
アリア

先生が描いた絵の景色を見たいからですね。その絵は先生の先生が先生に描いてくれた絵なんです。

アリア
アリア

夜の海辺、一つの灯台とそれによって切り分かれて入り混じった航路。

アリア
アリア

遠くで掘削リグと海上要塞が火を吹き、近くでは大小様々な船が交差する、どんな陸地にある都市よりも賑やかで、どんな昼よりも明るい景色……

アリア
アリア

もし近づけたら、イベリアのエーギル人たちが大陸棚付近に建造した海底都市も見られますよ。

アリア
アリア

――

アリア
アリア

これらすべては、イベリアの海岸に聳え立っている数千もの灯台によって見守られているんです。

アリア
アリア

今は、私たちの元気の源は災いによって破壊し尽くされてしまいました。もう昔のように明かりを灯してくれる灯台はありません。

アリア
アリア

けど私も先生も今でも灯台を守っています。

アリア
アリア

毎晩、先生は明かりが点かないか試しているんです。電球がつかないのなら、私たちでまた新しい光源を作ればいい。

アリア
アリア

私たちの光は本物と違って、海域全体を照らすことはできず、小さな一か所しか照らせないのでしょう。

アリア
アリア

それでもたとえ海上に導きを必要とする船がいなかろうと――

アリア
アリア

私たちはそこにいますから。

アズリウス
アズリウス

……

アズリウス
アズリウス

たとえあなた方がどう守ろうと、海岸が永遠に静まり返ろうとも、ですか?

アズリウス
アズリウス

たとえそうであろうともです。

アリア
アリア

ここが頂上です。

アリア
アリア

二日前にすでに検査を終えました。かなり損傷が激しいです……もう何も残っちゃいませんよ。

アリア
アリア

残ってるモノはこれだけです。

グラウコス
グラウコス

これは……?

アリア
アリア

イベリア灯台のエネルギーコアです。最先端の技術であって、真っ先に破壊されたパーツでもあります。

グラウコス
グラウコス

もう使えないのですか?

アリア
アリア

一番最初にあった技術は……もう失われてしまいましたからね。先生も私もこれを修復することはできませんでした。完璧だったエネルギー供給システムを失えば、どんな方法だろうとこのコアの実力を完全に引き出すことはできません。

グラウコス
グラウコス

もしかしたら……うーん、もし差し支えなければですけど、ロドスに持って帰って、クロージャさんと一緒に研究してみたいです。

グラウコス
グラウコス

あ……確信があるわけではないんです……なんせ当時のイベリアの科学技術体系はあまりにも特殊すぎますから……このコアも、私には源石エネルギー技術を基礎に設計されたモノじゃないってことぐらいしか分かりません。

アズリウス
アズリウス

……これは源石エネルギーを利用していないのですか?

グラウコス
グラウコス

完全にではありません。このコアもほとんど源石でエネルギーを賄っています。ただ……基礎技術が異なるんです。ただ、このコアを稼働させるための最適のエネルギーは源石ではないのかもしれません。

アリア
アリア

あ!

グラウコス
グラウコス

ど、どうしたんですか?つまらない話だったのでしょうか……

アリア
アリア

あなたたちなら本当にこの灯台に再び明かりを灯してくれるのですか?

グラウコス
グラウコス

試してみる価値はあると思います。ただそれなりに時間はかかりますけど。

アリア
アリア

その……入りたいです。

グラウコス
グラウコス

はい?

アリア
アリア

あなたが言うロドスは、私みたいな人は必要ですか?できることはそれほど多くないですけど……それでも、頑張りますから。

グラウコス
グラウコス

えーっと……

アズリウス
アズリウス

ならまず、履歴書を用意しなくてはいけませんわね。

アリア
アリア

りれきしょってなんですか?その……

アリア
アリア

うっ……おかしいな、頭がクラクラする……

グラウコス
グラウコス

え?

グラウコス
グラウコス

言ったそばから倒れちゃいましたよ。どうしたんでしょうか?

アズリウス
アズリウス

(肩をすくめる)

グラウコス
グラウコス

あ……もしかしてあなたの毒にかかったんじゃ?

アズリウス
アズリウス

彼女みたいなフィディアもあなた同様、私の神経毒には免疫があると思い込んでいましたわ。

アズリウス
アズリウス

今の様子を見るに、おそらく遅れて発作が起こっただけなのでしょう。

アズリウス
アズリウス

(なんて言えばいいんでしょうか?特殊体質には見えませんし、もしかして……ただ鈍感なだけだったのかしら?)

グラウコス
グラウコス

(分析はあとにしてください、げ、解毒薬は……まさか用意してないとか言わないでくださいよ?私との任務同行ですよね……)

アズリウス
アズリウス

焦らないでくださいまし、ただの一時的な麻痺ですわ。

アズリウス
アズリウス

先に灯台を出ましょ。冷たい風に当たれば、彼女も意識を戻しますわ。

グラウコス
グラウコス

電磁パルスを解除。

(無線音)

エリジウム
エリジウム

やっと通信が繋がったよ。レディたち、危険な目には遭ってないよね?

アズリウス
アズリウス

ちょっとした予想外なことには遭いましたわ……

アリア
アリア

ゴホッゴホッ……

アズリウス
アズリウス

あら、目が覚めました?

アリア
アリア

ごめんなさい、うたた寝しちゃったみたいで……

アズリウス
アズリウス

予想より早く目が覚めましたわね。

エリジウム
エリジウム

――

アズリウス
アズリウス

警戒する必要はありませんわ。偵察任務も順調に完了しております。

エリジウム
エリジウム

なら、この第三者さんの声は誰の声なんだい?知らない若いお嬢さんの声に聞こえるけど……

アズリウス
アズリウス

任務地点で遭遇したアリアさんですわ、私たちに重要な情報を教えてくださいましたの。これから彼女はわたくしたちとロドスへ同行します、人事部に履歴書を送りますので。

エリジウム
エリジウム

そうだったのかい、ならボクから先に歓迎しよう!

アリア
アリア

ど、どうも……

アズリウス
アズリウス

そうだ、先に結論を。ここは――灯台でしたわ。

エリジウム
エリジウム

ん?灯台?聞き間違いじゃないよね?それだと情報提供者が言ってた“複雑さ”と相違があるようだけど。

エリジウム
エリジウム

(ボクはてっきり何かの重要施設かと思っていたよ……)

アズリウス
アズリウス

あの災いが起こる以前にイベリアが建造した建物ですわ。

エリジウム
エリジウム

……なるほどね。

アズリウス
アズリウス

内部構造の状態はそれなりに良好、ただ中にある関連技術の損傷が激しいので、回収できる数量はお察しですわ。

アズリウス
アズリウス

では後方で待機してるエンジニアチームに連絡を入れてくださいまし――

アズリウス
アズリウス

本建築物はロドスの新しい事務所としての利用価値がある、と。

エリジウム
エリジウム

……了解。

エリジウム
エリジウム

はぁ、本当にそれが新しい事務所にでもなったら、ボクはしょっちゅうそこに派遣されるハメになるよね?

エリジウム
エリジウム

あそこと距離が近いとかイヤだなぁ……

エリジウム
エリジウム

でも、仕方ないか。必要としてるのはボクたちだけじゃないんだし。情報提供者が言うには、南にある壊滅した町でまた難民が出てきたらしいよ。彼らはこれから厳しい道を辿る、せめて誰かの助けが必要だもんね。

アズリウス
アズリウス

そうですわね、なのでこの灯台も……もしかしたら有用な拠点になるかもしれませんわよ?

アズリウス
アズリウス

付近の感染者に医療サービスを提供するためにも、助けが必要な人に手を差し伸べるためにも、刻一刻と大地に迫ってきている潮を……観察するためにも、ですわ。

アズリウス
アズリウス

昔のように容易に光を照らしてくれなくとも……この灯台は今もなおこの海岸を見守ってくれますわよ。

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