試合が開始してすでにおおよそ30分以上が経過した、だが驚いたことに、銅金を手に入れても試合を終えようとするチームはまだ一つも現れていない。
どうやら、今回のグランプリに参加した選手たちは非常にデカい野心を抱いてるようだ!
パンチョさん、どうお考えですか?
今年のグランプリはとても盛り上がりそうだな、期待しているよ。
ええ、きっと観客のみんなもパンチョさんと同じ心境でしょう。
それぞれの小舞台でも引き続き各チームの追跡を行っているぞ、観客たちのためならどんな鮮やかな場面でも逃しはしないさ。
それにみんなも暇を持て余さないように、みんなのソワソワした気持ちを投票への原動力に変えて、心から応援する選手たちに貴重な一票を投じてくれよ!
その人のために金を使うことこそ、その人を愛することになるのだから!
ハニー、助けて!
大丈夫だ、ベイビー、今すぐ助ける!
(忙しない男性観光客が落ち着かない参加選手にタックルする音)
チッ、てっきりただのネタカップルかと思ったのに、相当の実力者じゃねぇか!?
ベイビー、よかった、もう少しで君を失うとことだったよ。(小声)自分でなんとかできないのか!?
ううう、怖かったよ~。(小声)※ボリバルスラング※、こっちはか弱い女の子って設定でしょ!
安心してくれ、もう大丈夫だ、私がコテンパンしてあげよう!(小声)チッ、だとしても少しは頑張ってくれよ。
ハニー、最高~。(小声)あんたに言われたくないわよ!
(あの二人、中々やるわね、それに軍の気質を感じる、きっと元軍人ね。)
(カップルというのは、おそらくウソ、観客の好感度を狙ってるんだわ。)
(大袈裟だけど、方法としてはアリかもね。)
(大袈裟だけど。)
(スワイヤーがあんなものを見たら、きっと興奮しながらアタシも試合でこういうキャラをやってみたいって言いそうね。)
(……知られたら厄介だから言わないでおこう。)
(とりあえず、あのカップルは安定して勝てそうね、それに見飽きちゃったし、ここを大方探したけど銅金もなかったし、そろそろ退散しますか。)
(二十個の銅金、おそらく多くは目立つ場所に置かれているわ、例えばランドマークとか、ああいう場所は簡単に争い合いになる。)
(わざわざそこで奪い合う必要なんてないわ。)
(こっちは見つけにくい場所に置いてある残りの銅金を探せばいい。)
(でも……もし本当に試合中に事件を起こそうと企んでいるヤツらがいるとしたら、少なくともドローンとカメラの死角で行動を起こすに違いない。)
(両方片付けないといけないわね……さきにチェンと相談するべきだった、チッ、私ったら焦り過ぎよ。)
(まあいいわ、あの幼稚な女と相談なんかゴメンよ、その時になったらまた考えればいいわ。)
チェンさん、一つ聞いてもいいですか?
なんだ?
あなたとリンさんは友だちだったんですか?
……なぜそう思う?
仇にしては、ちょっと雰囲気が丸すぎますからね。それにいざこざを抱えてるにしては、お互いのことを明らかに理解してるようですし。
……まあそんなもんだな。
小さい頃同じ小学校だったんだ、それに共通の知り合いがいる。
だから君の推測はかなり近い。
だが私と彼女が仲悪くなった理由なら教えるつもりはない。
大丈夫です、お二人のような人は、よく色々事情を抱えてるので、踏み込んだりしませんよ、話題がちょっと欲しかっただけですので。
でも、お二人ともお互いがここにいるとは思ってもいなかったようですね。
ただどうであれ、これも一種の縁です、これを機にリンさんと持ち直すつもりはないんですか?
そんなに気になるのか?
そうではないですけど……いやそうかも、この街は朝から晩まで金のことしか考えてません、だから友情ってもんは贅沢品なんですよ。
……これは私や彼女が仲直りしようと思っても簡単に仲直りできるような問題じゃないんだ。
待ってください、チェンさん、あそこの路地を見てください。
うーん……困った。
こんな数のカメラの前で万が一手加減できなかったらまずいなぁ。
チッ、なんでか知らねぇが、このガキに全然攻撃が当たらねぇ、どうなってんだ。
俺たちを弄ぶとはいい度胸だ、まとめてかかれ!
どうやらあのソロで参加した選手、罠にハマっちゃったようですね。
どうします、チェンさん?あっちが終わるまで待ちますか?
……いや。
彼を助けるおつもりで?
だとしたらなんのメリットもありませんよ、グランプリで相手を助ける人なんていないんですから、ここじゃ正々堂々って考えは通用しませんよ。
わかってる。君はここでしばらく待っててくれ。
(チェンが走り去る足音)
言った傍から、チェンは突っ込んでいった。
……
エルネストは黙ったまま、ついてはいかなかった。
(こんな路地裏にもカメラがあるなんて、試合のためだけに設置したもんじゃないわね。)
(でも、住宅地内にある住宅の中ならまだカメラはないはず、あったとしても住宅に入った選手を撮影するドローンだけね。)
(てことはつまり、住宅に入るところさえ撮られなければ、運営に発見されることは極めて低い。)
(この点を利用すれば……ん?)
(参加選手が走る足音)
(……フッ、言った傍から現れたわね。)
どうだった?
こっちの爆弾はセット完了だ、ラファエラ。
いいね、こっちも終わったよ。
じゃあ次のポイントに向かおっか。
ちょっと待て、さっきC小隊から救援の連絡が入った、どうやら厄介な相手に手こずってるらしい。
誰?
あのチームLUNG wRAThのチェンだ。
……お兄ちゃんが言ってた、触らぬ神に祟りなしって。
近くにいる部隊をそっちに派遣しといて、あんまり目立たないようにしてね、敵わないなら諦めてもいい、とにかく深追いしないこと、今やるべきことが肝心なんだから。
わかった。
ラファエラとその他が離れていった後、リン・ユーシャは彼らがさっきいた位置に、天井からこっそりと飛び降りてきた。
この道に長けていた彼女からすれば簡単にラファエラが言っていた爆弾を手にすることができた。
(……まさかホンモノに出くわすとはね。)
(あの女の子があの連中の一員とは思いもしなかったわ。)
(彼女たちが言ってたやるべきことってきっと爆弾の設置でしょうね、それに話を聞くとまだほかの部隊もいるらしい。)
(運営側は通信の使用を禁止してるけど、彼女たちは独自の方法で裏から連絡を取り合ってるようね。)
(相手がまだ奥の手を隠してるかはわからない、今尾行してもあんまり意味はなさそうだし、見つかる危険性もある。)
(それに、爆弾、お兄ちゃん、私たちを把握してたこと、これらのキーワードさえあれば十分ね。)
(……そろそろ集合時間だわ、チェンの様子でも見に行ってみましょう。)
大会で空きにしなくとも、いつもは寂れた路地であったが、今はめっぽう騒がしい。
屋上、窓際、ベランダ、壁際、悪意を持った選手たちは路地中央に立ってるチェンに冷たい目線を向けていた。
だがチェンは手に握る高圧水鉄砲を握りしめるだけで、ちっとも怯えずにいる。
路地の入口には、先ほどチェンに助けられたミヅキがエルネストと一緒に立っている、一面嬉しそうな顔を見せるミヅキに反して、エルネストは戸惑いを見せていた。
しかし今この時、もはや彼らに目をやる人など誰もいない。
沈黙は路地を漂い、凝縮した空気が凝り固まる。
ただ潮を帯びた熱風によって靡いた髪だけが、このひと時が静止画でないことを証明していた。
「ポタッ」
どこからか、緩んでいた蛇口から水が一滴滴り落ちた、だがその水滴が水槽に落ちた時の音は、まるで静かな湖に石を投げ入れるようであった。
そしてその瞬間、周りの選手たちが一斉に押し寄せてきた、チェンも構えた。
途中からその場に間に合ったユーシャは屋上で冷静に周りの状況を確認していた。
(アイツ、またカッコつけてる。)
(まったくいつまで経っても学習しないわね、助けるのも面倒だわ。)
(でも、周りのチームも騒ぎを聞きつけてこっちに向かってきてるわね。)
(……少しは防いであげましょうか、目を引きすぎてもいいことないし。)
ユーシャは手をほぐしたあと、屋上から飛び降り、路地の入口に着地した。
遠くからすでに、人影が見え始めている、彼女も小さく息を吐き、そして構えた。