パパ、下の人から伝言、準備完了だって。
そうか。
?パパ、なんか機嫌悪い?
ああ。
どうしたの?パパはずっとこの日を待ってたんでしょ?
カンデラは厄介な女だ、最後まで油断はできん。
ラファエラ。
うん?
事態が悪くなったら、エルネストと一緒に逃げなさい。
え?私はパパと一緒がいい。
わがままを言うんじゃない。本来なら、お前をこの件に巻き込むべきじゃなかった。
ピユーがもし預けた娘が私とこんなことをしてると知られたら、墓から這い出てまで私を八つ裂きにするだろうな。
エルネストに関しては……フンッ。
お兄ちゃんがどうしたの?
あいつはまだバレてないと思ってるらしいが、あいつの考えてることなど、私が分からんはずがなかろう。
お兄ちゃんは裏切ったりしないよ。
分かっている、あいつがいなければ、事は進められなかった。
だがあいつの本心はこんなことをしたいと思っておらん。
どうして?
誰だってあることないこと考えず、平穏に暮らしたいだろ?
パンチョは傍に立つ養女の頭をワシャワシャと撫でた。
さあ、いい子だ、パイプを持ってきてくれ、少し一人でいたい。
うん……
(チェンの足音)
チェンさん、来てくれましたか。
リンさんは?一緒だと思ってました。
もう隠すつもりもないらしいな。
正直、もうここまで来たんですから、今更隠す必要もないじゃないですか、違いますか?
思いもしませんでしたよ、お二人ともここまで進んでこられるなんて。
やっぱりちょっとナメてました。
それにしても、すっごく気になるんですけど、どうやって知ったんですか?
ユーシャが第一ラウンドでお前たちが爆弾を設置してる場面を見つけた、君に伝えなかったけどな。
……その時から、俺は疑われていたってことですか?
あの時はまだ疑念に留まっていたさ。
その疑念が確信したのは、君の武器ショップに同様の爆弾が置いてあったからだ。
なるほど。
まさかこんなにも早く勝敗がつくとはね。
どうするつもりだ、最後まで藻掻くか?それとも自首するか?
少し話したいことがあります、チェンさん。
聞き終えたらたぶん違う見方が出てくると思いますよ。
ありがたく拝聴しよう。
チェンさん、ボリバルの歴史についてはご存じですか?
あまり。
まあですよね、あなたはヴィクトリアに留学していた、ヴィクトリアはあまりボリバルに干渉してこなかったですし、調べもしない限り詳細を知ることはないでしょう。
イベリアがこの地を見つける前、ここはボリバルと呼ばれる平原しかありませんでした。
ここで大量の源石鉱脈を見つけたイベリア人は、この地に駐留し、ここを自分たちの付属地にしたんです。
それから、途中色々あって、イベリアの統治は終わりを迎える。
130年間の混乱を経て、今度はリターニア人が入ってきました。
そのため今度はリターニアの付属地となってしまいました。
二百年前、ボリバルは付属地から属国へ変貌した、ツァインゼッセ王朝のね。
つまり、ボリバルはあの時から今のボリバルに変わったと言えます――ツァインゼッセ王朝の人たちは絶対に自分たちをボリバル人とは呼びませんけどね。
それから、巫王の時代、リターニアはボリバルを通じてクルビアで内乱を引き起こそうと企みました。
しかし、そうした結果、内乱は失敗に終えただけでなく、ボリバルはクルビアに侵攻されました、連邦政府もその時に立てられたものです。
それからボリバルはリターニアとクルビアが分割する状態に入りました。
リターニアはボリバルをそれほど重要視していませんし、クルビアに至っては野心に満ち溢れているが結局全土を掌握することはできませんでした。
そのため双方は一進一退の泥沼状態に突入したんです。
それから、こんな世情に耐えきれなくなったボリバル人たちが反乱を起こしました。
彼らはレジスタンスを結成し、シエルト・ボリビアンと名乗り、ボリバルを真の独立国家にするための誓いを立てたのです。
ただし、事態が好転することはなく、シエルト・ボリビアンの結成はボリビアを更なる泥沼に引きずり込むになってしまいました。
そしてその結果、今の有様の出来上がりです。
連邦政府、ツァインゼッセ政府、シエルト・ボリビアン、三つの勢力は永遠に消えぬ戦火の渦中に陥ってしまったのです。
それだけじゃなく、こんな環境下で、ドッソレスみたいな都市も生まれてしまいました。
ミス・カンデラの治政のもと、この都市は三政府の間で肥えていき、さらには三勢力ともミス・カンデラに恩を売る始末です。
なぜならこの都市はあいつらからしたら無視できない資源を持っていて、ミス・カンデラにもこの都市を守ってやれるほどの力を有していましたからね。
そしてこの都市はボリバル人たちの憧れの地となった。
戦火に虐げられてきたボリバル人なら、ここに来て金を稼いだり遊んだり、あまつさえここに移住しようと考えるぐらいにね。
けど、あなたやリンさんみたいないい人なら分かっていると思います、チェンさん。
この都市が一体どういうところなのかを。
仮に三勢力ともにボリバルを統一する考えを持っているのであれば、ミス・カンデラはその逆でまったくそんな考えは持ち合わせていない。
正直に言うと、チェンさん、この都市の繁栄はボリバル全土が受けてる苦しみの上に建てられているんです。
ここが繁栄すればするほど、国としての希望は失われていく。
ボリバルの地を本当に愛する人たちからしたら受け入れられないことです。
君もその一人なのか?
はい。
この都市はボリバルという地にあってはいけないんです。
君の目的はこの都市を滅ぼすことか。
いえ、滅ぼすには、勿体なさ過ぎますよ。
俺たちの目的は恐慌を起こすことです。
つまり長々と語ってくれたのは、私たちの力を借りたいと?
とんでもない、ちょっとした言葉で他人を説得させてこちら側に引きもうなんて、まだ自信ありませんよ。
ただ、あなたやリンさんには少なくとも傍観に徹して頂きたいんです。
あなたたちもお気づきでしょう、俺たちのやってることは正義なんです、チェンさん。
……
お二人が手出ししてこない限り、こちらも絶対お二人に手出ししないと約束しましょう。
お二人はとてもお強い、この点については、お二人と一緒に試合に参加した俺が一番よく知ってますからね。
お二人と衝突してしまっては、不必要な損失を招きかねませんから。
どうかお二人にはこの件についてご考慮頂ければと。
エルネスト。
なんでしょう。
私はついこの間、今回のよりさらに複雑な陰謀を経験した、あの陰謀で、私は自分の弱さを知ったこと以外、なにも得られなかった。
しかし、それでも一つだけは断言できる――他人に恐怖を与えるものに、正義と名乗れるものはない。
……
それに君、まだ本当のことを話していないだろ。
なんのことでしょうか、チェンさん、俺はもう自分が今回の首謀者と認めましたけど。
いいや、君ではない。
私の疑いは君が私たちを自分の武器ショップに閉じ込めたあの行為から始まった。
とても有効的な行為だったが、無茶でもあった、君が自分の正体がバレるかもしれない可能性を考慮しないとは思えない。
だから考え始めたんだ、君はまだ奥の手を残しているのではないかと。
もし君が今回の首謀者で、かつ正体がバレてしまったら、それらを補える奥の手などあるはずもないだろう。
だからピンと来たんだ、もし君の正体が重要でないのなら、つまりだ、君は実際バレてもさして問題はない。
もしそうなのであれば、話の筋が通るはずだ。
君からすれば、私たちを止められるのであれば一番いい、だが止められなかった上に正体もバレたとしても、今のような状況になるだけだ。
君の目の前に立ち、君をすべての首謀者として見なし、君の背後に潜んでいる何かから目を逸らさせるためにな。
……
今でも、私は未だに君の手で踊らされてる、そうだろ、エルネスト。
本当に手に踊らされてる人なら、そんなこと言いませんよ、チェンさん。
だがこちらが掴んでいる情報はあまりにも少ない、たとえ事件が発生すると知っていても、そこに飛び込むしかなかったがな。
しかし、そのあまりにも少ない情報だけで、短い一週間で俺たちが何年もかけて練り上げた計画の尻尾を掴みそうになった。
チェンさん、あなたとリンさんはやっぱりすごいよ。
本当です、周りのみんなからは気にしすぎだと言われてるんですよ、お二人を要注意人物として扱うことをね。
けど俺から見れば、警戒しておいてすごい助かった、でないと、もし俺がヘマをして、ちょっとでもなにか漏らしたら、すぐお二人に嗅ぎつかれますからね。
けど残念、お二人はそれでも失敗しちゃいました。
そう言ってエルネストは、テレビをつけた。