“風が金色の麦畑を靡いて”
“林と配管が一斉に音を立てる”
“地区の辺縁で私の愛を見つけた、天から降り注ぐ火の光が後を追う”

あの歌の後半の歌詞はこうだったべか……

……

悲しいなぁ。

ダミアンも逝ってしまった、まともな葬式もしてあげられなかったなんて……

連中があいつの身元を俺たちに返してくれるはずもない。ただあいつを灰になるまで焼いて、都市外へ適当に撒き捨てるんだ、なんら使い道のない土を扱うようにな。

(すすり泣く)

最初はローリー、それからクリス、ダミアンも今じゃ見逃してくれなかった。知ってるかグレイン、ショーンが連れ去られた時も、あいつは鉱石病を患ったの一点張りだったんだぞ――

やめて、もうそれ以上言わないで、ローナン。ショーンは……彼は本当にただうっかり罹っちゃっただけよ。

彼は勤労で、誠実で可哀そうな人だった、私たち親子にもっといい暮らしを送ってほしかったのが唯一の願いだったわ。

グレイン、まだ分からないのか?

俺たちはただの釘なんだよ。錆びてしまったら、連中は俺たちを気にも留めないで捨てやがるんだ。

錆びてなくとも、この都市というマシンに不都合を生じさせたら、どの道同じ運命を辿るんだ。

連中は俺たちが鉱石病に罹ろうが罹らまいがどうでもいいんだよ。

工場で毎月配給される薬だって、ほかの労働者は全部もらえるが、俺たちはいつも半分しかもらえてない、三分の一の時だってあった。

それに防護服もそうだ。ショーンは自分の防護服を何年着続けてきた?五年か、それとも七年か?お前だって夜中に縫い直してあげてたじゃないか。

どんな法律も、どんな基準も、連中だけが有利になってる。その代わり俺たちはどうだ?

俺たちは連中が捨てるジャガイモと腐ったリンゴをかじるしかないんだ、これっぽっちの農地に俺たちの汗がどれだけ染み込んでいようがな。

俺たちは工場で日に日に自分の命を削るしかないんだ、動けなくなったら連中が思ってるように、一人一人感染した扱いにされるんだよ!

そうすれば、連中は俺たちタラト人を全員自分たちの都市から放り出す大義名分を得られるからな――

……もうやめてちょうだい、お願いだから。ローナン、そうして鬱憤を晴らしても事態はよくならないわよ。

あそこにいるクレイナたちを見てみなさいよ。今だって自分たちの息子と兄のために泣いてるじゃない。これ以上自分たちの怒りで多くの人に苦しみをもたらすつもり?

その苦しみは人殺しどもがもたらしてるんだろうが。連中は次々と俺たちを殺しに来ている、ある時は病を、ある時は砲弾を使ってな。グレイン、もう自分を騙すのはよせ。

(声を抑えながら)今朝だって何人も俺のところに来たんだ。オブライエン一家、それとコナー家が俺たちに加入してくれた。

お前も子供も辛い日々を送ってることは、みんな理解してる、だからこの節目に、俺たちはもっとお互い助け合わなければならないんだ。

……なら私たちから距離を取ってちょうだい、ローナン、ショーンがあなたたちと仲良ししていたことに免じてあげる。

――!

俺はもう行く、グレイン。そこにいる人が見えるか?あの制服だ。

お前は俺たちのルールをよく知っているもんな。俺はお前を信じてる、だからお前も少しは俺を信じてくれ。もし考え直すんだったら、シアーシャに伝えてくれ。
(バグパイプの足音)

こんにちは!
(怒れる男性が走り去る)

えっと……こんにちは。

……

あのバリー、えっと、ダミアン・バリーの親族はご存じないですか?

(首を横に振る)

さっきそちらが歌ってるのを聞いたんで、場所はここで合ってると思うんですけど。

だ……誰をお探しなのか私には分かりません、ダミアンの母親と姉妹のことなんかまったく知りません。

じゃあ彼の特別親しい友人とか、それか一緒に倉庫で働いてた人はご存じですか?

……なにも知りません……本当です……

ヒッ……お願いします!逮捕だけは……

え?ごめんなさい……ちょっと近づきすぎちゃったかな?あなた達を傷つけるつもりはないから

なんかウチに怯えてるみたいだべ。顔になんかついてます?

い、いえなにも……

もしお許し頂ければ、家に帰らせて頂けませんでしょうか、今朝買った果物がまだたくさん残ってて、放っておくと、すぐに腐ってしまいますので……

はぁ。

……

あれ?あれは……ケリー大尉?

クレイナ、私はただ一目会いたかっただけなんだ、君もフィオナも元気にしてるかどうか……

ああ、私が間違っていた、でも――

……仕方がなかったんだ。

もちろん、もちろん憶えてるさ。ダミアンは……私の甥っ子だ。

小さい頃からずっと見てきた。私がペニンシュラ町からモナハン町に戻ったあの日、あの子がジャムを私の帽子に入れたことはよく憶えている。

あの時のあの子はまだあんなに小さかったのに……私は……

……すまない、君たちにこんなことを話しちゃダメだな。

君の言う通りだ……私はなにもできなかった、ここに戻る資格なんてない。

ダミアンがあの人たちと関わる前に、止められなかった……私も上の命令に背くわけにはいかなかったんだ。

それに、私はそうしなければならなかった。これもモナハン町のためだ。

私は君たちのことも、この町のことも愛してる……あの人たちが我が家をズタズタに引き裂くのをただ見てるわけにはいかなかったんだ。

分かってる、クレイナ、君から許しを乞いてるわけではない。

……では……もう行くよ。君も……君とフィオナも元気でな。

明日時間が空いたらまた伺うよ……
(クレイグがケリーに近寄り、ケリーに体当たりをした)

ゴホッ、ホゴッゴホッ……

君は――

――

……子供か。

怪我は……ゴホッゴホッ、してないかい?あんまり走らないようにな、ここの道はもう何十年も補修されていないんだから……

この裏切者!

な――なんだって?

裏切者が!!!

私は……

クレイグ!なにをしてるの!?はやく戻ってきなさい!
(クレイグが走り去る)

その手に持ってるボール……まあいいわ、どこに行ってもボールを手放さないんだから。またコナーさん家の人のところに行ったわね?それで……ローナンからなにを言われたの?

もう、手が真っ黒、ストックパイルの山を掘り返したみたいじゃない。

これからは一緒に朝市に来てもらうわよ。その間あの人たちのところに行ってはいけません……あなたまであの人たちみたいにさせるわけにはいかないもの……

裏切者?

……その通りかもな。
大尉はしばらく突っ立ったあと、その言葉を二度ほど呟いて、去っていった。
彼は頭を低く垂らし、誰にも視線を合わせなかった、彼のもとへそそくさに駆けよって来た若き同僚にさえも。

お待ちください、大尉……
(部隊の足音と笛の音)

貴様ら――ここで集まってなにをしている?さっさと家に帰れ!

何度も言ってるだろ、この時間帯での集会は禁止されている!

ここは俺たちの家だ、帰るのはお前らのほうだろ!

――誰に口を利いているんだ?
(腐った野菜がヴィクトリア兵に当たる)

なんだ……これは腐った野菜?

とっとと出てこい!

このタラトのクズどもめ、痛い目を――

町でボウガンを構えちゃ危ないべ!

……誰だお前?

あ、令状なら持ってるよ、事件を調査しに来たんだべ。

バーでの謀殺事件の調査か?

えっ、謀殺?

このクズどもが、私たちを何人も殺したんだ。

……ダミアン・バリーのこと?

そうだった、そいつはもう処刑されたと聞いたぞ、ってことは、お前らがそいつを捕まえたのか?そりゃ結構なことだ、感謝してるよ。

ウチらが彼を捕まえた時はまだ知らなかった……本当にゴースト部隊の人間だったんだべ?うーん……まあいいや。

そいつがどこから来たなんざ知ったこっちゃない、死んでざまあないな!

聞こえてるのか?集会は――禁止されている!裏でコソコソ集会なんざしてみろ、全部違法扱いで処分するぞ!
(腐った野菜がヴィクトリア兵に当たる)

この※ヴィクトリアスラング※が――

お、落ち着いて!ほとんど一般市民みたいだし、家族が亡くなったから、一緒に集まって弔ってるだけだよ、人間なら誰しもこうなるべ。
(腐った野菜がバグパイプに投げつけられる)

うわっ――く、腐ったジャガイモ?

はは、そら見たことか、そいつらを庇ったとしても、投げつけられるんだぞ?

こんな場所に居たけりゃ好きにしな、私はこのクズどもが暴れないように抑えときゃそれでいいんだ、ここの巡回任務が下りたのはアンラッキーだったがな。

おいゴミムシども、もう一遍言うぞ、集会は禁止だ!!
(ヴィクトリア兵が笛を鳴らしながら走り去る)

ウチは……
(腐った野菜がバグパイプに投げつけられる)

はぁ、腐りかけの野菜が積もってくばかりだべ……

こっちよ。

えちょっ?
(バグパイプが走り去る)
“報告、第九防衛隊が襲撃され……”
“第十三防衛隊が交戦中……”
(無線音)

もう一度伝えなさい、ハミルトン大佐に会わせて。

大佐は今急用に当たっています。

二時間前も同じことを言われたわ。

こちらはすでに厳格なプロセスを経て、昨日モナハン町に入った時点に任務説明をしたはずだけど。

大佐は私たちに容疑者の尋問へ参加させなかっただけでなく、容疑者を許可もなく処決し、今も面会を拒絶してる――

第三者からすれば、この一連の行為は私たちの任務遂行の阻害として見れるんじゃないかしら?

私にそれを答えられる権限はありません、中尉。

構わないわ、聞く耳さえ持っていれば。

言ったはずよ、今回窃盗された源石製品の数量は少なくない、武装すれば小型の町の軍隊を攻め落とすことだって十分だわ、それか中型の移動都市の履帯を切断するこも可能よ。

その源石製品を手に入れようとしてる人たちが誰だかわかる?

普通の盗人はこんなもの必要ないわ、リターンが少なすぎるもの。あんな大量のヴィクトリア軍需品よ、クルビアの庇護下にあるサルゴン最大の闇市でさえそれを流そうとは思わないわ。

じゃあ残りは誰でしょうね?現地で横流しして改造費用を稼いでいる個人の武器商人かしら?けど彼らはそれに興味はないし、やる度胸もないわ。

あのブツを手にいれようとして、私たちの目から逃れられる人たちなんて、軍の動きに詳しく、訓練された部隊しかいないわ。

そんな部隊が大量の源石製品を手に入れたとして、何が目的?

国家転覆かしら、それともロンデニウムから距離を置いて、管理を任されてる財務から金を抜き取り、外部勢力と手を組んで、少しずつ私腹を肥やそうとしてるのかしら?

中尉……

そんな焦らないでよ、これはただの根拠ない推測なんだから、何もやることなくただ私を待たせてる誰かさんのおかげでね。
(無線音)

(声を抑えて通信に応える)

中尉、大佐がもう間もなく到着されるようです。