
ゴホッゴホッ……

隊長、大丈夫ですか?

私は大丈夫。それよりあなた、前回のように抑え込もうとしなくてよかったわ。

ウチより隊長のほうが反応早かったですよ、隊長のシールドの後ろにあるホールは基本的に無事なんですし。

……全員を守る事は出来なかったけどね。

煙がそろそろ晴れますね、大佐は軽傷だけで済んだようです、今別のドアから撤退しています。

詩人のミスター・ウィリアムズは……

……彼なら爆弾の至近距離にいましたので。

残念です、誰しも他人の身代わりになって刃を防ぐことはできません。彼は詩人でしたけど、優秀な戦士にも劣らない勇気を持っていました。

……

彼の死が無意味でないことを切に願っているわ。

敵はまだ入ってきていない、バグパイプ、今のうちに生存者を疎開させるわよ。

バグパイプ……?
バグパイプは茫然と窓の外を見ていた。
その瞬間、戦火混じる轟音がなかったかのように消えた。
ある巨大な力が暗い夜の底から現れてきたのだ。
炎が広がったわけでもないのに、彫刻から市政庁まで、生きとし生けるものすべてが声もなく灰と化した。
そして続けざまに、とある部隊が音もなく暗闇と灰燼から姿を現してきた。

……

…………

あんな炎……今まで見たことがない。

部隊を率いてるあの術師、彼女は一体誰?

バグパイプ、はやくそこから離れなさい!
(シールドでアーツを防ぐ音とガラスが割れる音)

窓から近すぎよ。さっきのエネルギーを見るに、次の一撃で壁が簡単に破壊されるわ。

はい、隊長。

ウチはただ……

助けて……誰か助けてくれ……

私の足が……痛ッ!

救助が最優先。まずは撤退するわよ。
(複数の銃撃音と爆発音)

誰だ?付近にまだ生き残ったヴィクトリア兵がいるのか!?
(バグパイプがダブリン兵を倒す)

そこら中敵まみれです!

……あの進軍速度じゃ、とっくにゴースト部隊はこの都市に浸透してるわね。

十一区から十七区の陥落速度がはやすぎます……まさか……大佐がこの市街地区を捜査してた理由ってこれだったんですか!?

……

私たちは第十区よりも南まで撤退するわよ。駐留軍とゴースト部隊がちょうどそこまで交戦してるから。

せ、戦場には行くな、まずは……まずは私を安全な場所まで運んで匿ってくれ……首領たちに私がまだ生きてることを知られてはならん……

安全な場所まで?今のあなたは本当は刑務所にぶち込まれるべきだべ!

もう少しそっとしてくれ……うっ……痛ッ……

金が……金が欲しいのならくれてやる……それかお前たちも安全な場所まで送ってやってもいいぞ……お前たちが私を……

……隊長、ウチのやり方でこいつを黙らせてもいいですか!?

まだ目が覚めてるうちに、もう何個か聞いてみましょう。

さっきの部隊を率いてた術師は誰?

……あれは……リーダーだ……

ゴースト部隊のリーダーってこと!?

あの人は……一体どういう人だべ?

わからん……

おめーさんらは同じ仲間じゃないの?じゃあ正体も何も知らないのにそいつらを招き入れたって事だべか!?

彼女は……公爵のお客人だ……

……公爵って?どの公爵!?

それは言えん……
(男爵がバリスタに射抜かれる)

うぐッ――
(男爵が倒れる)

し……死んだ?

ゴースト部隊によって……?
(斬撃音)

(ダブリン兵が倒れる)

あいつら仲間じゃないの?なんで自分側の人間に手を出したの?

……先にここを離れるわよ。

そこのお前、止まれ。

……

何者だ?そこで隠れて何をしている?

ボクは……ただの薬の配達員です……急に戦いが始まったもので。

薬の配達員?誰宛てだ?ヴィクトリア兵にか?

その……ふふ……ロドスアイランドの薬品、感染者用です、病人の身分は気にしていないんで……

怪しいヤツめ。
(打撃音の後にダブリン兵が倒れる)

あっ……!

もう大丈夫だ、ウィル。

Outcastさん!じゃ、ジャストタイミングですよ!

やれやれ、午後の連絡を聞いていなかったのかい?モナハン町における一切の業務を一時停止するとのお達しがロドスから出ているんだが。

耳には入れています、でも……

――残りの薬を届け終えたいのだね?

君はいい子だ。残りの薬は私が預かろう、代わりに届けるよ。

Outcastさん、外は今どうなってるんですか?ちょっと瞬きしたら、あちこちで争い合ってます!

数百年もの間積もった憎しみが何者かに利用され、すべてを焼き尽くす炎に挿げ替えられたんだ。

それに、これはまだ始まりにすぎない。

君ははやく戻るといい。私がここにいる以上、最優先にすべきなのが、ロドス人員の安全確保だからね、誰一人漏らすわけにはいかない。

わかりました、Outcastさん……そうだ、さっき十七区付近でジェニーさんを見かけました……彼女は……彼女はよく事務所に遊びに来てくれたので、もうボクたちみんな彼女を半分オペレーターとしか見ていません!

彼女はヴィクトリアの兵士です、あの暴徒の様子じゃ、きっと彼女も狙われているはずです。

わかった。

さっきの言葉を訂正しよう――ロドスの人員であれば、半分とて漏らしはしない。

隊長、移動できる人は全部移動させました。

結構。怪我はしてない?

大丈夫です。一晩交じってみて、少しは安心しました。あのリーダーの術師と、ほかに凄腕の何人かを除けば、残りの大多数の兵士は普通の人です。

ちょっと訓練を受けたことがあるみたいですけど、統制は取れてませんでした。もしある程度の頭数までなら、正面衝突したとしても、ウチら小隊の相手じゃないです。

ある程度の頭数ならね。それに、向こうの主要目標は駐留軍だわ。

隊長、その通りです、もしあいつらとやり合えば、駐留軍は劣勢に陥ります。

ほかには?

装備も非常に優れています。さきほど何人かの政府関係者と貴族を救助した際、ウチを死角から奇襲しようとしたヤツがいました。それでウチが気絶してやったあと、その人からこれを奪ってきました。

ヴィクトリアの制式ボウガン?

二年前の型番です、でも改装されています、この二つの丸く囲まれた弦と下にあるレールを見てください。

破盾弾の加速装置ね。

ボウガンにはあまり詳しくありませんが、隊長、軍でも学校でもこんなものは見たことがありません。これってウチらが持ってる技術なんでしょうか?

それっぽくはないわね。

バグパイプ、なにか忘れてないかしら……私たちは源石製品の窃盗事件を調査しに来たはずよね?

はい、紛れもなく、ゴースト部隊はウチら正規軍と交戦するために、大量の武器を必要としています。

けど今私たちが鹵獲したこのボウガンで多くの情報を手に入れた。

まず、敵が裏で画策していた時間は私たちが予想してたよりも遥かにはやかった、その次、私たちから奪っていった過去の物資のほかに、別の勢力が長期にわたって部隊を支援している。

つまり、今回、ここで、彼らはまだ最新の装備を使って進攻してくるつもりはない。

なるほど!それじゃあ、盗まれた武器はどこに行ったんでしょう?

あなたも問題点に気づいたようね――ゴースト部隊はついに姿を現した、けどモナハン町で消失した源石製品は、どこに行っても未だ見つからない。

トライアングルが新しい手がかりを見つけてくれるといいんだけど。
(無線音)

(小声)お呼びですか、隊長。

そっちの班の様子はどう?

ドラムが少し怪我を負いましたが、全員まだ行動可能です、まあみんな疲れてるしお腹も空かせてるので、いい状態とは言えませんが。

そっちも昨日の戦いに参加してたの?

はい。昨晩から、突如大量の敵が湧いてきました、ずっとビニールハウスと灌漑用の機械の中に潜んでいたようです――

そこが彼らの潜んでいた場所ってわけね。農用地に詳しくない駐留軍なら、当然鬼ごっこには負けるか。

敵の一部と遭遇してしまいましたが、数があまりにも多すぎたので、日が昇るまでずっと隠れていました。

よくやったわ。都市には戻れそう?

あはは、隊長、それがちょっと難しそうです。敵の半数は都市に侵入しましたが、もう半分はまだあちこちをウロウロしています。

……

隊長、班の一致した意見として、最初の任務を継続するべきだと考えています。

こちらである輸送車を見つけました、隊長の予想通り、確かに誰かが作物輸送用の通路を利用して源石製品をほかの場所に移しています。

毎回少量ずつ運んでましたけど、今回でそれも最後になるかと。

今回で最後って?あなたたち今どこにいるのよ!?

その輸送車の中ですよ。

隊長、実はあまり喋りたくないんですよね、バレちゃいそうなので。次通信を入れた時、誰が盗人か教えてあげますからね。

そんなの危険すぎよ!

あはは……では隊長もバグパイプも気を付けてくださいね。

トライアングル、通信オーバー。
(無線が切れる音)

……

バグパイプ、今すぐチェロに通信、今から軍営に戻るわよ。
(無線音)
“……第三から第九地区をロスト……”
“……市政庁、新聞社、マリー病院が同時に襲撃され……”
“……ボトン男爵の奥方から緊急のお電話です、旦那様が未明時刻を最後に失踪したので、軍に捜索願いを……”

大佐!お話があります。

通せ。
(扉が開く)

今度こそ有意義な話を頼むぞ、スキャマンダー中尉。今見ての通り、敵は獰猛に侵攻を進めている、君と言い争っている暇はないんだ。

大佐、敵は農用地区に潜んでいます。

なに?

ずっとそこに隠れていたのです。それに、今都市内にいるのがすべてではありません、ほかにもまだたくさん潜んでいます。

……

だろうな。

すぐ農用地区まで派兵して一般人を疎開させたあと、セントラル地区と農用地区の連結部を緊急切断してください、これ以上敵を都市に侵入させてはいけません!

君に言われなくともわかっている。

大佐!駐留軍と我々突撃部隊の兵力だけでは、すでに市内に浸透した敵軍を殲滅するのは不可能です、敵にこれ以上援軍を確保させては――

もう下がっていいぞ。

大佐!?

モナハン町をどう守るかは私の仕事だ。

ヴィクトリアの国防を担う最重要の任務において、大佐も私も同じ立場にいるはずです!

ヒール、お帰り願え。

聞いたか、ヒール?農用地区だ、ハッ、農用地区に隠れていたんだぞ!そうだろうと思っていたさ、この世に霊を呼び戻そうとする連中などほかに誰がいる!?

おっしゃる通りです、大佐、タラト人どもが手を組んでいるのです。

砲兵の準備のほうはどうなっている?

計画通りなら、正午あたりに最後の原料が届きます。

よろしい、改造を急げと伝えろ。吐き気を催すモノが私の都市で跋扈してる様子を想像しただけで、一秒たりとも待っていられなくなるからな。

そうだ、それとスキャマンダー中尉とその部下たちのことだが、ロンデニウムから来たオオカミは噛みついたら一度も放してくれそうにない。お前も聞いていただろ?外で調査してる人がいる。

下に伝えろ、どんな方法でもいい、何人たりとも我々の計画の邪魔をさせるな。

了解致しました、大佐。

それとスキャマンダーだが、事が終わるまで、自由行動をさせろ。

了解です。

……ヤツにあんなことを言われたものだから、ピンと来たんだ。

なぜ昨晩我々が実行したボトン家における行動が敵に知らされていた!?

スキャマンダーめ……いや、それはないな。ヤツはあの貴族どもと同じように考えは甘くて軟弱だが、帝国への忠誠心は確かなものだ。

……

チッ……クズは所詮クズというわけか、腐った性根など簡単には変えられまい。

この最後の数時間で、早急に終わらせるべきだった任務を完遂させるぞ。