この付近で頭に角が生えた白い髪の女を見かけたと聞いたが?
はい、そちらが探してる人かどうかまでは分かりませんでしたが……
続けろ。
重傷を負っていたんでしょうか?胸と腹にこう、でっかい穴が開いてまして――
続けろ。
あと白髪のサンクタに抱えられ、地面一面に血を流してたんで、ひどい光景でしたよ!
サンクタ?それは確かか?
はい、間違いありません。モナハン町じゃ、サンクタはあんま見かけません、彼女の頭の丸っこいのがピカピカ光ってなかったら、真夜中じゃ気付けませんでしたよ。
どこへ向かった?
最後はあの建物の屋内で見ました、窓が割れてるあの部屋です、すげー速さで走ってったので、すぐ部屋の中で入っちまいました。
あそこか?近いな。
(無線音)
P8、P3、こちらP9――何をやってるんだ!?目標はこの区域内にいるじゃないか!
一時間前と三十分前、お前たちの班はこの街で家を一軒一軒調べ尽くしたはずだろ、なぜ報告してこなかった!?
……
どうした?なぜ反応しない!P8、P3,応答しろ!
(無線が切れる)
※ヴィクトリアスラング※!
あの、まだ何か聞きたいことありますか?ないならもう行きますけど、あと、教えたら包帯を少しくれるって約束は……
ああ、包帯か?
もうお前が使うことはないさ。
なっ……何をするんですか!?
ボスの命令でな。恨むなら、見ちゃいけないものを見た自分を恨むんだな――
(重装甲音)
いやあああ!
(斬撃音)
なにモンだ?
今は戦う前に名乗るのが流行ってるんだべ?
うっ……あっ……あともうちょっとで……俺の首が飛ぶところだった……
おめーさんははやく行って、ウチが代わりにこの悪いヤツを懲らしめてやるべ。
あ、ありがとうございます……
いいのいいの、ウチらの義務だからね。
(萎縮する青年が駆け足で立ち去る)
破城矛……ヴィクトリア兵か!
おい、はやく“バーグラー”長官に知らせろ、ここにまだヴィクトリアの部隊が残っている!
“バーグラー”?おめーさんらゴースト部隊って名前を決めるセンスは随分と悪いんだね。
さっきもずっと“プリズナー”とか言うボスの名前を叫んでた連中を倒したけど……
……P8の班にいるヤツら全員を倒しただと?お前……一人でか?
あいつらの班は30人もいたんだぞ!
でも相手はヴィクトリアの部隊だべ――
ウチ一人でも変わらないよ。
体制を整えろ!ここでこいつを包囲する、ヤツは一人だけだ!
もう陣形を整えた?結構訓練されてるみたいだべ!
(バグパイプが複数のダブリンを突き飛ばす)
陣形を維持しろ!そのまま前進!互いへの支援も怠るな!
敵の先鋒能力は極めて高い、一対一で相手をするな!
へえ?数で勝るつもり?
ウチの矛を――舐めてもらっちゃ困るべ!
(バグパイプが複数のダブリンを突き飛ばす)
ぐわあああ!なぜだ!?
このヴィーヴル強すぎる、一振りで二人も倒しやがった!重装兵を前に出せ、ほかは守りに徹しろ、はやく長官に知らせるんだ――
逃げるな!
これでラスト!
(バグパイプがダブリン兵を突き飛ばす)
ぐああああ――クソッ、なんで重装甲も効かないんだ!?
撤退だ、じゃないと全滅しちまうぞ!
え、飛んだ?
ウチらの蒸気噴射装置を盗んだんだ?それともまたほかの国の飛行装備を改造した?
こいつらの戦い方も最初に出てきたヤツらとは違う。一体ゴースト部隊はどういう連中なの?
ここにトライアングルがいればよかったのになぁ、ウチの矛は高い位置にいる連中が苦手なんだけど――
(ダブリン兵が何かに当たって落ちる)
落ちてきた!クロスボウ使いでもいるんの?いや、敵を落したのはボウガンの矢じゃない、これは……石?
あ、やっぱりクロスボウ使いじゃなかったべ――
(Outcastの足音)
Outcastは片手で意識不明の負傷者を抱えながら、街の傍にあった空き家から現れた。
あなたが助けてくれたの?ありがとう!
どういたしまして、まあ実際、君にも助けられたからね。
サンクタは銃の扱いが得意って聞くけど、石投げもあんなに正確なんだね!
あはは、申し訳ない、私の銃はちょっと目立っちゃうからね。
そりゃそうか、銃声が響いちゃったら一発で見つかっちゃうもんね。
お友だちは怪我でも負ってるの?なんか容態がよくないようだけど。
お昼時にいやらしい砲弾を食らってしまったんだ。
えぇ!?
……ごめんなさい、ウチらあとちょっとであの襲撃を止められたんだ。無関係な人を巻き込んでしまったことは、本当に申し訳なく思ってるよ。
はぁ、こんなこと言ってももう遅いもんね、今は助けられるだけ助けてるつもりだけど。
さっきの敵はあなた達を探していたの?
多分そうだろうね。
あいつら行く先々で一般人を殺していたからさ、先を急いでいたとは言え、放ってはおけなかったべ。
彼らの悪行はいずれ報いを受けるさ。
そうだ!さっき敵が、二つの班との連絡を失ったって言ってたべ、ウチはたぶんそのうちの一つしか出会わなかったけど、もう一つはあなたがやったんでしょ?
すごいべ!
君も中々やるじゃないか。
でも、敵はあの部隊だけじゃないんだ。あいつらは軍団ぐらいの勢力なんだ、それに午後から、どんどん敵が押し寄せてきている。ウチらもモナハン町の守備はもうキツいんだ。
ここに住んでる人じゃないんだったら、お友だちを連れてはやくこの町から脱出したほうがいいべ。
今のところ外は敵だらけだから、裏口から脱出しかな――
うわっ、全部塞がられてる!?
街中に限って落石が多すぎるよ。
あいつらが戻ってこないうちに、ウチがこの道を塞いでる石をどかしてあげるからね――
君は撤退しないのかい?
撤退はしないよ。
ウチはまだ市街地を通って、隊員と合流しなきゃいけないから。
市街地を通るのかい?だがそこは敵でごった返している、ほとんどの寄り道も瓦礫で塞がれているぞ。
大丈夫、もう半分は通ったから。
君は一人だけで、あんな大勢の敵を相手にしているのに、少しも怖気づいていないんだね。
怖気づく?ウチ戦場じゃ、一度も怖がったことはないべ。
けど、不安には思ってる。
ヴィクトリアの町がこんな風になるなんて……思ってもいなかったからさ。
リンゴネスがヴィクトリアとその同盟によってズタズタに引き裂かれた時、あのかつて世界の都と称された巨大都市は煉獄と化した、その時の光景は今よりも百倍は惨たらしかったよ。
そうだね、四皇会戦の勝利は教科書じゃ美化されて書かれてるけど、ガリア人からすれば残酷極まりないもんね。
ヴィクトリアも確かに色々ひどいことをしてきた歴史がある……
戦火が自分の故郷まで広がってきた時に初めて、こんなに痛いだって、痛感するんだろうね。
もうそろそろだべ、あとはこの倒れた石柱をどかせば――
手を貸そう。
ありがとう!横にずらせばいいから。
ふぅ、片方が倒れると、もう片方にもぶつかっちゃうからね。
(ボソボソ)この先どうなるかもわからないし……
最後になるまで、ヴィクトリアが向かう先を知れる人なんていないさ。
ごめんなさい、最近ずっとこればっか考えちゃうんだ、それに人を抱えてるのに押すのも手伝ってもらっちゃって。
一緒にどかしたほうがはやい。
そうだね、みんなで一緒にやれば、チャンスはいくらでもあるし、いい方向にも変わるもんね?
あはは、こんなこと言うのも変だけどさ、結局のところ、チャンスがないから何だって言うの?どんどん悪い方向に向かったってだからって何だって言うの?
故郷が一変したらもう故郷じゃなくなる?そしたら自分たちの手でもう一度自分たちの土地を豊かにすればいいべ、それがそこに生きてる人間のするべきことだもんね?
ふぅ……これでラスト一本!
やっと道が開いた――
(急げ、B9がついさっき発信した路地はすぐそこだ!)
(後ろの道が落石で塞がれてる、念のために、偵察小隊を組んで回り道しろ!)
(ほかの者は出入口を死守しろ、一人も通らすんじゃないぞ、長官たちならもうすぐここに――)
また敵だべ!
あの、ウチが足止めしておくから、二人ははやく脱出するべ。
いや、このままじゃ脱出は不可能だろうね。
え?
敵の通話を聞くに、おそらくこれからやってくるのは敵のボスだ、一般の兵士より厄介極まりない。
だったら尚更はやく脱出したほうがいいよ!?
言い忘れていたが――
私の辞書にも逃げるなんて言葉はないんでね。
そら、若い兵士さん、少し手を貸してもらおう――
Outcastは抱えていた負傷者をバグパイプに預けた。
うおっ、なんだべこの重さ?この人本当にヴィーヴル?
おやおや、レディに対して重いとは聞き捨てならないね。
ふぅ……よいしょ……こりゃほかの人だったら担げないだろうね。
私の友人にちょうどヴィーヴルの知り合いがいるんだ、君と同じく、若くて心強い戦士だ。
それってつまり……
その負傷者を彫像の東側まで運んで、私の友人と仲間に預けてほしい。
それと言伝も頼む、すまない、約束は守れなかった、とね。そしたら向こうもようやく動いてくれるはずだ。
あなたはどうするの?
もう少しここに残るよ、まだ何人か会いたい人がいるんでね。
(“オラター”の足音)
ここか?
はい、長官。えっと、ほかの五名も全員いらしたのですか?
情報によると、向こうは三人しかいない……そのうち一人は重傷かつ気絶してるらしいですね。
では、長官らのうち一人だけ出動されれば余裕で対処できるのでは?
向こうは二人で三つの小隊を倒したんですよ、それも無傷で。
私たちがとんだ役立たずで、それと今ある任務は再三失敗してもさして重要なものじゃないとでも言いたいのですか?
いえ、そのようなことは……
ふぅ……ふぅ……相手はそんなに強いのか?
少なくともお前の目を覚ましたぐらい強い。
慎重に越したことはありません、正体不明のサンクタとヴィクトリア兵以外にも、彼女がいることをお忘れなく。
極限まで追い込まれた場合、彼女がどう動くか、皆さんもご存じのはずですよね?
ふぅ……ワクワクしてきたぜ。
敵の数が……まだ増えてきてる!
隊長、応答してください隊長――
まだ信号が繋がらない……クソ!すぐこの子も預けないといけないのに……
(斬撃音)
うぅ……
あれ……目が覚めた?
い……いや……
いやまだ眠ってる……でも急に藻掻きだしてどうしたんだろう?悪い夢でも見てる?
バグパイプは何かを感じ取ったかのように、視線を上げた。
朧げな数人の人影がそう遠くないビルの屋上に立ち、下に広がる街の狼藉を見下ろしていた。
彼女はまだ気づいていない、周囲の余炎が密かに色を変えたのだ。
つい先ほど地面で死んだ若き兵士の目にも、同様の紫の炎が焚かれていた。
彼女は視線を街へ戻し、遠くから湧き出てくる大勢の敵たちを眺めていた。
(雷鳴と雨の音)
……そろそろ時間だ。
敵が向かい側で集結している、もうここに長居しちゃいけない。
もう少し待ってみましょう、シュレッダーさん、Outcastさんは必ず時間を守る人ですから。
ああ。
見てください、あっち!人影が二人見えませんか?
Outcastさん、こっちでーす!
Out――違う、彼女じゃない、こっちに向かって来てる人って……
バグパイプさん!?
(バグパイプが駆け寄ってくる)
あれ?あのかっこいいサンクタの女性はおめーさんらの知り合いだったんだべか?
ならちょうどよかった、ほら、この重傷を負った女の子もおめーさんらの仲間なんでしょ?サンクタさんがウチに預けておめーさんらに――
Outcastさんは……
彼女はどこ!?なにかあったんですか?
あの人ならまだ別れた時ピンピンしてたけど……
そういえばなんか謝ってたよ、約束を守れなくてごめんとかなんとか、あとこれを教えたらおめーさんらが動いてくれるとかも言ってたけど。
――!
それって……
自分で言ってたくせに、人を救う前に、まずは自分の安全を確保しろって!
そうしなければ、より多くの人を救うことはできないって、より……多くの……
……
そんなのイヤ――!
ジェニー!待て!
彼女から言われたはずだ、これから俺たちが何をすべきかって。
でも……
このお兄さんの言うとおりだべ。
おめーさんは彼女を信じてるんでしょ?ウチは一回しか会ってないけど、ウチなら彼女を信じる。
それにこの子を運んできた時、途中で二十数人の敵を倒してきた、後ろに追っ手が来てるかどうかも分からない状況だべ。
一般兵なら大したことないけど、あのボスみたいな術師と遭遇しちゃったら……ウチを信じて、彼女の実力なら大丈夫だよ。
だから、まずはこのお友だちを預けて、さっさと脱出しよう。
(凄まじい閃光)
……なんだ、この光は!?
爆発?
いや、違う、一瞬でこんな眩しい光を放てる爆弾は存在しない、それに今ウチらは吹っ飛ばされることなくここに立っていられて呼吸もできてる!
まさかあれはアーツ!?
でも、短時間であんな極限のアーツを放ったら、技を出した人も無事じゃ……
……
光が……雲を貫いていく……
雨が……止んだ?
――
光は西からだべ……さっき通った路地から?
方角が違っていなかったら、てっきり日が昇ってきたかと思ったよ……
……そうね……
夜が……明けてきたわ。
それから誰も声を発さなかった。
あの天幕を貫いた炎は未だに轟々と燃え盛っている――
まるで頭上を今も覆い被さる暗闇に死を告知する憤怒の炎のように、地上で助け合う人々に語り掛けている生の輝きのように。
こんな眩しい夜明けは……人生で初めて見たよ。
そりゃ目立つわけだ。あはは……
はぁ……
……
ジェニー……
うぅ……ッ、大丈夫です。
シュレッダーさん、時間のほうは?
……時間だ。
ではオリバーさんに伝えてください、人は……預かりましたって。
――例の重症感染者を。