敵が……倒れた!?
隊長、ウチら勝ったんでしょうか?
……
まずい、隊長、傷が……
しっかりしてください!ウチが支えてますから、目を閉じちゃダメです――
……ゲホ、ゲホゲホ……
力……強すぎ。そんな引っ張っぱらないで、全身が痛むでしょうが。
よ、よかったぁ!隊長、無事でなによりですよ。
ええ……まだ……倒れるわけにはいかないからね。
だって敵も……まだ……
……フッ……フフフ……アハハハハハハ!
あんたたち……その程度で私を倒せるとでも思ってるのかしら!?
ホントバカなヴィクトリア兵ね!
私はね――どぶ水の傍にあった墓から這い出てきた人なのよ!あんたらヴィクトリアの上流階級連中は私たちから奪っていったものを、まだ返してもらってないんだから!
えっ?まだ立ち上がってくるの!
あいつは一体何者なの?ウチがさっき食らわせた一撃なら、胸を貫けてなくとも、少なくとも重い傷は負わせたはずなのに。
……アーツよ。
ウチの矛が数センチズラされたという事ですか?あんな数えられるぐらいの石しかなかったのに!クッ、あんなチャンス、もう二度と無かったかもしれないのに……
……フェリーン、おめーさんは敵だけど、硬い意志を持っているんだね、石だけに感服したべ。
ペッ、好き勝手言いやがって……あんたに感服される筋合いなんかないんだけど!?
私が欲しいのは――あんたらの命よ!
湧け、棘の森よ!!
(石柱が地面から生えてくる)
……さっきよりも多い石柱が地面から生えてきた!?
もうろくに足場もないべ……
隊長、ウチが担ぎますので、向こうに逃げましょう!
逃げようっての?
逃げられるわけないでしょ――私は一度も首領を失望させたことなんてないんだから!
待って、なんの音?
「モナハン町と付近の村々にいる住民たちよ、今ここで諸君らに告げたいことがある。」
「見ての通り、巨大な災いが今日の正午にこの愛らしい町を席巻し、我々の家族を傷つけ、我々の故郷を壊滅させた。」
「我々はこの目の前で起こった痛ましい一幕を共に見届けた。」
「過去数百年間、ヤツらは次々と似たような苦難を我々の身に振りかざしてきたが――」
「その時我々は声を発せられなかった、なぜならヤツらにまだ最後の良心があると思っていたからだ、我々が耐え忍べば、お互いにまたこの地で平和的に歩み寄れると信じていたからだ。」
「だが今日、ヴィクトリア軍は我々の喉にナイフを突きつけてきた――」
「ヤツらは鉱石病の暗い靄を人為的にこの都市に覆い被せた、ヤツらがしでかしたことは、天災よりもはるかに恐ろしい。」
「我々が欲しているのは戦争ではない、だが抵抗はやむなしだ。」
「この宣告を聞いている者たちよ、もし我々と共に戦いたいのであれば――君が今どこにいようと、きっと我々の手腕になってくれる。」
「我々は炎を用いてこの国が数百年積み重ねてきた汚濁を浄化する。」
「炎を用いて不平への抗いに身を捧げた命を慰めよう。」
「炎を用いて自由と平和な未来の道を切り拓く。」
「我々は敵ではない、諸君らの友人である。」
「過去も、今もこれからも、みな等しく家族だ。」
「どうか我々の名を憶えてほしい――」
「我々の名はダブリンだ。」
これって……ゴースト部隊が流してる音声?
町にいる住民たちに向けてこれを?
いや、ここの町だけじゃない……今のところ全通信基地はアイツらが抑えてる、このメッセージも、近くにある都市にも聞こえてるはず!
……今じゃ周囲にいる人たちは駐留軍が犯した過ちを知ってしまった、このメッセージもすぐ広範囲に広がってしまう。
まずいです、アイツらが言ってたことの大半が事実だということ、ウチらじゃ弁明のしようがありませんよ!
でも、ウチらは何を言おうにも、声を出すこともできなくなっちゃう……
……
最悪の事態が起こってしまったわね。
隊長、だから通信基地を必死に守ってきたんですよね?メッセージが外に伝わることの阻止と、敵の口を封じるために……
……私たちの負けね、ハミルトン大佐……
あなたも……私も、完膚なきまでの敗北だわ。
いいや、まだ負けてません!
黙ってるより遅かれ早かれ声に出したほうがまだマシです!
ゴースト部隊は自分たちを正義の味方にしようとしてますけど、ウチらはこの目でアイツらが自分たちの支持者を焼き殺したところを、しつこく一般人を追い掛け回してたところを見たじゃないですか!
だからウチらにはそれを声にして伝える義務と、あの部隊の正体を暴く義務があります!
……
そうね、あなたの言う通りだわ。
この戦いの結果なんて……まだまだ分かったもんじゃないものね。
あの……隊長、あの術師、なにしてるんでしょうか?ボーっとしてますよ?
……
アヘモニー、アヘモニー……このクソ野郎が、それを言う機会を得るために、私をこんな場所に誘い込んだわけね?
どうして……どうしてあんた如きが!
どうしてあんた如きが首領に代わってそれを言えて、私はあんたの代わりに下でゴミ掃除しなきゃならないのよ!
ロンデニウムに行かないと……ロンデニウムに行くのはこの私よッ!!!
(石柱が崩れる)
うわっ……急に突風が!どうしちまったんだあのフェリーン??脇目もふらずアーツを放ってるけど、苦しくないの?
隊長、石柱に気を付けてください、風で倒れてきます――!
(ホルンが盾で石柱を防ぐ)
くっ――フンッ!
隊長、もう無理しないでください!とっくに盾のエネルギーは切れてるんですから、今の隊長は生身で支えてるようなもんですよ!
(盾を構える)
はぁはぁ……どうってことない。
どうってことない?なに言ってるんですか?血だって吐いて――
なら拭いてもらえないかしら。
……こんな状況で冗談はないですよ、隊長、お言葉ですが、その冗談ちっとも面白くないです。
ウチはもう隊長の盾に隠れるわけにはいきません……隊長の命令だとしても、それだけは従えませんからね。
隊長、これからアイツに突貫してみます、ちょっと攻撃が当たっても問題はありません、うまくアイツの間合いまで詰め寄れたら、もう一発だけぶっ放せると思います……ウチの破城矛にはあと一発撃てるエネルギーが残ってるので!
相手も一気にあれだけ多くの石柱を召喚したんです、きっとそろそろ限界でしょう……絶対スキを見つけます!
バグパイプ……
引っ張らないでください!その命令には従わないって言ったじゃないですか!あとで罰として倒立でも好きに命じてください、隊長一人乗っかってもへっちゃらですから!
……あの術師が空中に浮いた。
……
ハッ……あなたは飛べないわよね、あの石を踏み台に登るだけでなく、おまけとしてアイツに攻撃を当てる必要があるわよ、それでも突っ込むつもり?
……だとしてもやってみるしかありません。
もういいいわ。さっき自分で言ってたこと、忘れたわけじゃないでしょうね?
なにをです?
声に出さなければならないということ。
はい、絶対この事実を伝えなければならないことですよね、忘れてませんとも!隊長、だからあいつをやっつけて、通信タワーに登るチャンスを掴まなきゃならないわけですよ!
ハッ……通信タワーね……
上層部にはこいつらを……ゴースト部隊を支援してる層がいる。さっきあいつに言われたわ。
私たちがタワーに登っても……私たちの情報が……ロンデニウムに伝わることはない。
隊長、今はまだ溜息してる場合じゃありませんよ!
教えてくれたじゃないですか、如何なる時でも、仲間を信じろって――
そうね。私は……仲間を信じてる。
バグパイプ……だからこそ……あなたはここから脱出しなきゃならない。
隊長、なに言ってるんですか!?
ホルンは片方の腕でほとんど破損してしまった盾を支え、もう片方の腕でギュッとバグパイプの腕を握りしめた。
そのエネルギー、無駄にしないで。
しっかり矛を持って、弾の発射機能を起動して、ここから脱出するのよ――
町中と出入口は敵だらけだけど、誰も予想できないでしょうね……空であなたを止めることなんて。
情報を一つでも漏しちゃダメよ。
本当に信頼できる人を見つけて、ゴースト部隊の事実を外に伝えなさい……
ロンデニウムにはモナハン町事件の真実を知る必要がある。
だからバグパイプ――生きてここから脱出せよ!
これは私たちの……最後のチャンスなんだから!
――
隊長ッ!!!
もうほかに方法はない。これが最終手段だと彼女にはわかっていた。
反論のための言葉は予め鼻腔を塞ぎ、彼女の目を引き裂くぐらいに刺激した。
彼女は自分の隊長を見捨てなければならなかった――ただ一人残った戦友を。
彼女はヴィクトリアの兵士だ。
戦場で最も信頼する人の命令には決して背くことはない。
(爆発音)
……仲間を投げ捨てただと!
まあいいわ、所詮は一人、逃げたところで何か変えられるわけでもないわ。
それで残ったあんただけど……
フッ、もうまともに立ってもいられないじゃない、なのになんでまだ倒れないのよ!?
――いい加減終わらせてあげるわ、こっちもこんなクソみたいな場所はもうこりごりだからね。
全員揃いました、オリバーさん。
現地の方たちと話し合ったところ、まだ安全な町を出る通路を見つけてくれました。
近くにはまだ敵がたくさんいます……ダブリンのことですよ。
住民たちはみんなあいつらの言うことを信じてしまいました、悪い連中を片付けた後、一般人には手を出さないって。
それでも気を付けないといけません。
あいつらがどんないい顔をしようが、私は決して忘れはしない、一体誰が私たちの友だちを――私たちの一番尊敬するあの人と永遠に会わせなくしたのかを。
そうだ、もう一本タオルをください、この重傷者の女の子をもう少し硬く包んでおきたいので。
私たちが一番近くにあるセーフハウスに着くまで、この負傷者は誰にも見つかるわけにはいきませんから。
まだまだ道のりは長いです、彼女でしたら、きっと私たちのために道のりの無事を祈ってくれるでしょう。
見てください、オリバーさん……
本当に夜が明けそうですよ。
「バグパイプ、代償は惜しむなとは言ったけど――」
「たとえ私たちがここで死のうが、あなただけでも脱出しなければいけないって意味よ。」
「振り向かないで。」
「バグパイプ、あなたならできる、あなたにしかできないって私は信じてるから。」
破城矛は町の残骸を飛び越え、荒れ果てた荒野へ重く墜ちていった。
バグパイプは数回転んだのち、すぐさま起き上がった。
自分の武器を地面から抜き出し、堅く手に握り――
決して振り向かなかった。
これは命令なのだから。
彼女は深く一口息を吸い込み、情緒という情緒を心に押し留めて、荒野の奥へと進んでいった。
その前方で、本当の朝日が顔を覗かせる。
「この大地に何が起きようと、夜は明ける。」
「もし明けなかったら、大勢の人が我先にと、命で一つ一つの光を灯すことになるのだから。」
(雨と雷鳴)
深夜 天気/雨
モナハン町 某路地
(”オラター”の足音)
ようやく来たか、待ちくたびれたよ。
……サンクタか。
君一人か。救助した人は、彼女はどこにいる?
そんなことは君が気にするまでもないよ。
聞きたまえ、君は強い。彼女はどうやって君を見つけ出し、君をボディーガードになるよう説得したのだ?まさか、我々の知らぬ間に、ラテラーノとも取引を済ませていたのか?
いや、違うな。彼らが言うに君にはまだ一人仲間がいたはずだ、しかもヴィクトリア軍人の。
彼女はやはりヴィクトリアに下ったのか?であれば、一体誰が君を遣わした――いずれかの大公爵か?
そんな無意味な問いに時間を費やしても構わないのかい?
私の仲間が焦っているのは確かだが、こちらは君と話をしてみたいのだよ。
君の雇用主が君に約束したものが何であれ、富、地位、欲しければこちらがより高額な――
ふふ、私が欲してるものなら、おそらく君たちには出せないよ。
ダブリンの力は君の予想をはるかに超えているかもしれないぞ――
言ってみたまえ。
――
正義が自らその足で赴くのなら、私が銃を抜く必要などないだろ?
……つまるところ、死んでも私たちを止めるつもりだな?
最初からそれを聞けばいいじゃないか。
残念だ、マダム、実に残念だ。
――一斉にかかれ。
この男のほかに五つの影が暗闇から姿を現した。
“アカウンタント”、“プリズナー”、“アーソニスト”、“トキシコロジスト”、“バーグラー”――そして、“オラター”。
実に耳に馴染む名前だ。
君たちのことなら何度も何度も見てきたよ――
“アカウンタント”、君はこの戦争で可能性ある利益を熱心に計算して、いかにしてより多くの人命を帳簿の数字にさせ、その中から巨万の富を掠め取ろうとしてきた。
“プリズナー”、君が何度も脱獄を繰り返してきたのは、単純により重い罪を犯し、それで入獄し再び脱獄を繰り返したいがためだ。
“アーソニスト”、君はただ家屋を、家庭を破壊するだけではとっくに満足できずにいた――そしてしばらくしてすぐ、町を壊すことになっても心穴はぽっかり空いたままだったな。
“トキシコロジスト”、君は自分を学者と思ってるようだが、その名称を掲げても君が残忍な虐殺と繰り返された陰謀に心酔してる本質を隠しきることはできないよ。
――それに君の次なる裏切りでまた多くの都市が死んでいくだろうな。
“バーグラー”、君はどうしようもない略奪者だ、他者からすべてを奪い取る行為を何よりも渇望している――金銭に留まらずにね。
君が奪い取ろうとしているのは人々の尊厳だ、君の欲望は一国を蹂躙せしめるほどのものだ。
そして“オラター”、君は自分の美辞麗句に陶酔している、それを政治の武器にして、争いを煽動し、より大きな戦争へと発展させたいと今か今かと待ちわびている。
もし君たち六人をこのまま通してしまえば、あの女の子は死に、これからの悪行も立て続けに起こってしまう。
だから――
(雷鳴とリボルバーが回る音)
彼女はリボルバーに最後の弾丸をこめた。
君たちにはここで最後の審判を迎えてもらおう。
……
君が信じる信仰のためにか?
違う、私は君が理解してる信仰など持ち合わせてはいない――
強いて言うのであれば、私は己の銃しか信じないさ。
そちらは一人、こちらは六人だぞ。
弾数なら十分にある、安心してくれ、みんなの分はちゃんとあるから。
ここで死ぬぞ。
死ぬのは私だけではないさ。
「Outcast、お前が言ってることは、よくわかる。」
「お前は多くの道を歩んできた、一度も振り返らずに、銃で他者を裁いてきた、自分だって分かってるんだろ、この道の果てで裁きを待っている人はお前自身なんだって。」
「俺はお前にそこまで行ってほしくない――お前らの誰一人そこまで行ってほしくないんだ。」
「運命は打ち破るためにある、お前がその結末に満足していようが、俺が変えてみせる。」
「ああ、たとえあの過去の日々が絶えず無情にも俺に失敗を告げてこようが、お前らが次々と俺から離れて行こうが、俺はこれっぽっちも考えたくないね、受け入れたくもねぇ。」
「だからOutcast、どうか俺にそのチャンスをくれ。」
「生きて帰ってこい。」
ふふ、相棒……どうやら、結局私は君の命令には従えなかったよ。
(6回の発射音)
六発の銃弾が彼女のリボルバーから同時に発射された。
六人の敵が彼女に押し寄せる――
ある者は斧で彼女に切りかかろうと、ある者は毒霧を吹き付けようと、ある者はアーツで弾を弾こうと、ある者はそのスキに彼女を越えて路地の向こう側へと。
しかしすべての動きは始まったその時から止まっていた。
驚きの声を発する間もなく、倒れる間もなく、全員聖なる光の中で塵と化した。
なぜなら銃が撃たれた瞬間から、審判は完了していたのだ。
目を突き刺すほど眩しい銃火が空へ勢いよく昇っていき、町のほとんどを明るく照らす。
Outcastは未だに立っていた、この公平無私なる光が放たれるがままに、彼女は指先から、自身を灰へと燃やし尽くした。
「この道は、そういうものなのさ。」