9:33a.m. 天気/濃霧
某荒野、ロドス艦内
(後勤オペレーターの足音)

クロージャさん、おはようございます。朝ご飯ここに置いておきますね。

おお!ご苦労さん!

……これカビてるとかじゃないよね?

えっ。たぶん大丈夫ですよ、たぶん。

はぁ、こんな天気のせいで何日も足止め食らってるのに……この先の航行スケジュールがどれだけ遅れてるか分かったもんじゃないよ……うっ、ていうかこの匂い……

天災が起こした濃霧ですからね……万が一天災の余波にも遭遇したら大変ですよ。

昨晩の環境源石監査報告は今提出しましょうか?

ケルシーはどこなの、まだ手術室?

はい、昨日の夜からずっとです。

……じゃあ、提出はまたあとでいいよ。

わかりました。

ほかに何かお手伝いできることはありますか?

うーん……そうだなぁ、じゃあ代わりにこのヘルシー定食を食べてくれない?正直に言うけど、なんか変な匂いするよ。

えぇ!?こんなにたくさん、全部私がですか?

あはは、まあまあ、ただの冗談だってば。
(メールの着信音)

……ん?

どうしたました?

あれ、新しいメール?こんな荒野のど真ん中で?

この近くに町とかトランスポーター中継点でもあったかな?

いや……あったとしても、二三日前に届いてるはずですよ……

おっかしいなぁ、どれどれ……

送って来たのは、Dijkstra……なんでこいつが!?今クルビアにいるんじゃないの?
TO Closure
親愛なるClosure、久しぶり。
最近はどうだい、上手くいってるかい?前回共に行動した時はまだ夏だったよな?
あの時Graceから連絡があったんだが、あんたに考えがあるって聞いて俺は度肝を抜かれたぜ、なんせカジミエーシュの商業事務ネットワークをおちょくるなんてただ事じゃねぇんだからな。
だが、実にお前らしい。どうであれ、本当に愉快だったぜ、俺たちが前々回クルビアでやったアレよりはほんの少しだけ下だけどな!だがお見事だ!

……

急性腫瘤の摘出に成功。

血液輸送はそのまま維持しておけ。

はい!

傷の縫い合わせも完了だ……

待った、患者の身体状況を確認してくれ。

わかりました……!
(ピーピー音)

先生!患者の心肺に異常が……体温が、どんどん下がっています!

慌てるな。

内外圧力を調整して、すぐに予防注射を打て。

止血の準備もだ。

はい!

……
だがあんたも知っての通り、いくら銀行をハックしても、いくら金持ちを片付けても、町半分のドローンが俺たちの言うことを聞いて、雲になるぐらい集めて、キモの小せぇヤツらを脅したところで――
効果なんざ一時的なものにすぎない。一時的なんざ、ほぼ徒労みたいなもんだ。
そうだ、Closure、一つ教えたいことがある。
以前俺があんたらに話した、鉱石病に罹った男のことを憶えてるか?

……やっほー、みんな、そろそろ交代だよ。

ブレイズさん!

状況は?

なんも起こってませんよ――とは言ったものの、こんな視程の中じゃ、モニター設備しか今のこと信用できませんがね。

見張りを任されたあの狙撃オペレーターたちでも、こんな天気じゃ、たぶんなんも見えないだろうし……

はぁ、それもそうか、連日の濃霧、やる気が起きないわぁ……

Stormeyeがあと半月遅れて出発してくれたら、こんな霧なんてどうってことなかったのにね。タイミングよ!

けどもう足止め食らって何日も経つんでしょ?仮に事件なり事故なりあったら、とっくに起こってるはずだから平気平気。

まあそれより交代だから、君たちはゆっくり休んでいったら。

あ、わかりました。
あの男は本来至って健康体だったんだ。
それなりの教育を受け、それなりの仕事を持ち、世帯を作った、子供はまだだけどな。
あいつ自身なんで鉱石病を貰ったかは知らないんだ、とにかくある日の朝仕事に向かったら、会社の告知欄にそいつが病気を貰った告知が張られてた、そのせいで同僚がそいつを見る目つきが変っちまった。
正直に言うと、この事件を俺が調査するのもメンドーでな、どうせ嫉妬か、貶めか、陰湿な類で起こった事件だろうからな。
まあとにかく、あれ以来、そいつの日常はすべて壊れちまった。仕事はなくなり、嫁にも逃げられた――気持ちはお察しするよ、俺たちはこの病は伝染するって分かってるからな。
俺がそいつと出会ったのは単なる偶然だった、手を貸したのもその場の勢い。資料を修正するなんて俺たちからすれば朝飯前だろ、ちょっと手を動かせば、その人の運命まで変えられちまう、実に不思議だ、そうだろ?
あの時の俺もそんな風に考えていたさ。こいつは不公平に遭遇しちまっただけ、だから手を貸したまでだ。
俺はそいつを助けてやったって思ってたよ。
だがことの経緯は俺が考えてたのと違う方向に進んじまった。
あいつは元のような暮らしには戻れなかったんだ。
もう一回そいつと出会ったのは、クルビアの外にある荒野だった。そん時すでにとある感染者の組織に加わってた。あいつは俺に言ったんだ、ウルサスにいる同胞が助けを求めてる、だから加わったってな。

……とある感染者の組織?

うーん……あいつって感染者とつるむようなヤツだったっけ……
Closure、俺がこのお話の中で、あんたに何を伝えたいかわかるか?
目つきだよ。
あいつらは必死の思いで俺を探し出したよ、この感染者連中がどこのどいつかは知らねぇが。
みんな埃まみれで、装備もボロボロ、おまけにほとんど痩せこけてる――
だが目だけには光を宿していた。
Closure、俺たちはその光をずっと探してきただろ。ずっとだ。
怒り、悔しさ、信念のための犠牲となる覚悟、成し遂げるために身を捧げる精神を。
俺があんたを知ってるように、あの志を同じにする仲間を知ってるように、俺たちは何かを変えようとしている、俺たちは何が間違ってるのかが分かってるだろ。

「だから俺は決心したよ、こいつらに手を貸す。クルビア、カジミエーシュ、あと昔お前が俺に言ってくれた、サルカズの故郷も――」

「俺たちはずっとこういうことをしてきた、ずっとだ、たとえそれが――」

「――今だろうとな。」

……それだけ?

マジでこれだけなの、ちょっと待ってよ、今ってなにさ――
(爆発音)

どわぁ!なんだ!?

震動……下層からだ、この規模の揺れってことは――爆発!?
(爆発音)

わっ!な、なんですか!?

今日この手術を行う前に告知しましたよね、とても難易度が高いから、絶対安静にしてくださいって!

……
(無線音)

えっ、はいこちら手術室……はい?

セーフティドアが……!?船内にいるオペレーターたちが閉じ込められた?えっ?一体なにが……

冷静に。

……連絡が取れるオペレーターたちに連絡を入れるんだ、すぐ閉じ込められたブロックに向かわせろ。

それと、ブレイズにも連絡を、船体の設備をある程度まで破壊しても構わないと。

は、はい!

残りの者は、手術に集中するんだ。

外のことならほかのオペレーターたちが片付けてくれる。

手術室内で患者の命より重要なものはない、気を散らさないように。

あ、申し訳ありません!すぐ準備します!

……

…………
(爆発音とナインの足音)

……困難なこととは思っていたんだがな。

おそらく今回が初めてとなる“正式な遭逢”だな、レユニオンの“首領”よ。

……

お前たちは……レユニオン。

驚かないのだな。

私はただ誰よりも理解しているだけだ、感染者の怒りの炎がそう容易く消えはしないことを。

しかし……

――久しぶりだな、“首領”。

――!

お前は……!
(レユニオン兵がタルラの襟を掴む)

憶えてないのか?ハッ、そりゃそうだろうな!俺はただの名もなき一兵卒、チェルノボーグでお前に殺され損ねた人なんだからよ!

だがな、タルラ、“首領”よぉ!お前のツラだけは、絶対に忘れやしねぇ!

お前は私たちが徴税官によって滅ぼされたあの村を通った時に加入してきた……ワリア。

……俺の名前は憶えててくれていたんだな、じゃあレシェンスキー、デニス、アルジェニーはどうなんだ、まだそいつらを憶えているか、そいつらがどうなった知ってんのか?

俺が今回の作戦に参加したのは、目の前でお前に聞きたかったからだ――なんであんなことをした!?なんの資格があってあんなことを!?なんで俺たちを裏切ったんだ!?

……

……襟から手を放してやれ。
(レユニオン兵がタルラを離す)

今はまだその時じゃない、ひとまずここから撤収するぞ。

聞いたな、レユニオンの首領よ。

全員同じ答えを求めている。あまりにも多くの人がそれで苦しんでいるんだ、みんな機会を伺っていた、お前に問いただす機会を。

忘れないでくれ、お前を裁けて、お前に結末を下せて、お前の詭弁と訴えに耳を傾く権利を一番持ってるヤツらは――お前によって立ち上がり、お前によって死んでいった感染者たちだ。

タルラ、私たちについてきてもらう。

……

クロージャさん、大丈夫ですか!?さっきのは一体……

……冗談じゃない……

クロージャさん?

冗談じゃないぞ!あいつはきっとこの近くにいるはずだ、ロドスのシステムをシャットアウトしただって!?

制御システムも……偵察システムも……ハッ、やってくれるね……
(無線音)

後勤部門から連絡です!一部オペレーターたちが……れ、レユニオンと遭遇しました!

――れ、レユニオン!?

こりゃ一大事だ――はやく!はやくアーミヤちゃんに知らせて、きっとタルラが狙いだよ、アタシは防御システムの回復を優先的に行うから、そっちも急いで!

は、はい!
(メッセージの着信音)

なんでこんな時にメッセージが来んのよ!

うわぁ……!アタシの操作パネルがロックされた!?
(無線音)

グッモーニン、グッモーニン?

Closure、システムの修復で忙しそうにしてるな?もしかして今めちゃ怒だったり?

あ、先に言っておくが、これ録音したヤツだから、追っかけて来なくても大丈夫だよん!

あとあと、昨日の夜中準備してた時、医療部門のシステムだけはちゃんとそのままイジらないでやったから、人道的配慮ってやつだ、さすが俺。

Dijkstra――!

一つあんたに謝らないといけねぇな、Closure。あんたが俺に残してくれたこの奇襲はあんま王道とは言えねぇけど、でもまあ……

この件について、俺はちっとも後悔してねぇから、俺は一度も後悔するようなことはしないんだ、あんたも知ってるだろ。

あん時あんたがテクの雛形を俺に渡してきた時、俺に言ってたよな、これはクルビアが今持ってるネットワークプログラムに一番効果覿面なんだって、あんたの最終手段だってな。

そんでここ数日間裏でコソコソ仕掛けてた時によ、俺分かったんだわ、あんたはウソを言ってなかった。ロドスのセーフティシステムとあんたが俺に渡したロジックはとても酷似していた……

だからあんたの信頼を利用させてもらった、絞りカスも残らないぐらいにな、あんたにはあんたの立場がある、俺には俺の考えがあるんだ、そうだろ?

俺がまだ“サルカズ”としてのあんたと出会った頃、どうやって友だちになったかを憶えているぜ。

だからまだ友だち同士でいてほしいよ……それか昔のように、戦友としてな。

――けどな、Closure。

それ以前に、俺はレジスタンスだ。俺たちは昔っからレジスタンスだろ。ずっとそうだったろ。
(無線が切れる音)

……あのヤロウ……堂々とかましやがって……!

いや……今はそんなこと気にしてる場合じゃない、通信システムはまだ使えるかな?

すぐ全艦に知らせないと!
(ブレイズの駆け回る足音)

チッ、アスカロンとLogosたちがいれば、こんな好き勝手にはさせないっての――

――さあ!出てきなさい。

廊下の両脇に潜んでるのは分かってんのよ、ここはロドスよ、私の目を誤魔化せるとでも思ってるわけ?
(Guardの足音)

そうですね、ブレイズの姉貴、ここはロドスだ。

俺も昔はこの廊下で初めて見たよ、ブレイズさんたちエリートオペレーターが凱旋してくるのを。

――

Guard……?

俺も迷ったんですよ。ロドスを襲撃する計画を知った時、当然迷った。

これは言い訳なんかじゃありませんよ。だが思ったんだ、だからこそ、俺がしなきゃいけないんだって。この責任を背負って、この計画を見届けるんだって。

“責任”……ねぇ?

そう。ここに現れた以上、俺は自分に道徳的な言い訳を言うつもりはないです。

一人でもオペレーターがそう思ってんのなら、俺は確かに“裏切者”です。

……じゃあそのレユニオンとしての君は、今回何しにここに来たの?

数えきれない生存者のためにウルサスを離れ、俺たちは国境が引かれていない荒野を彷徨ってきました。

最初はクルビア、それからリターニア、それからシラクーザ、ヴィクトリア……あの国々には、あの場所には、どこも感染者の面影が残されていた、どこも俺たちと関係を築こうとしていたんですよ。

レユニオンは火を点けた。あの凍土から、この大地全土へ。

だが俺たちは……どうやってあのタルラによって立ち上がった感染者たちに、ウルサスのレユニオンによって運命に抗おうと決心した感染者たちに――

俺たちがチェルノボーグで受けた失敗を教えなきゃならないんですか?どうやってレユニオンも大国に利用されていただけだって教えればいいんですか?

……

あまりにも多くの感染者がなにも知らないままあの戦争で戦友や同胞たちを失った……

だからレユニオンには説明が必要なんですよ。“首領”からの答えが。

そしたら……
(サルカズ達の足音)

そしたら、俺たちはもう一度始めるんだ。

――サルカズ?

いや、ただの傭兵じゃないわね――

]ああそうとも。

聞く話によるとあのWとかいうイカレ野郎がお前らとつるんでるようだな?まあどうでもいいが。

大尉が死んだあと、遊撃隊の戦士の全員が全員、レユニオンと袂を分かつことはしなかったさ……

タルラを寄越せ。レユニオンが消滅していない限り、そいつは俺たちが預かるべきだ。

……ハッ。

お互い口で説得し合えるとでも思ってるわけ?

そりゃ思ってないさ。

ただな、タルラがお前らロドスと龍門人の命を背負ってるのと同じように、忘れるんじゃねぇぞ、お前らには、大尉とイェレナの借りがあるんだ。

俺たちが手加減するとでも、万に一つも思わないことだな。
(戦闘音)
(レユニオン達の足音)

ナイン、近くの隔離防壁を作動させた、各ブロックは封鎖されてる、その間にここに残ったヤツらを片付けよう。

よし。外の者にも準備させておけ、いつでも撤収できるようにな。

わかった。

相手は反撃し始めたわ、こちらは人手があんまり――

戦いにはこだわるな、撤収が最優先だ!

そうはさせるか、逃がしはしないぞ!

絶対逃がさないからな!
(オペレーター達の足音と狙撃音)

チッ、まったく鬱陶しいわね。

ボス、あんたたちは先に行って!
(アーツ音)

……わかった。必ず逃げ出してこい、また後で会おう。

ルートを再度確認しろ!

確認した、問題ない!計画通り来た道を戻れば無事に脱出できる!

よろしい、外部のメンバーに通達、計画通り撤収する!

おう!

待ってください!

……

――止まりなさい。逃がしはしませんよ。

ここは通しません。

……タルラさん、あなたはあの部屋から出て行ってはいけません。

この人たちは――レユニオン?助けにきたのですか?

……

ロドスのリーダーか。“助ける”という言葉はあまり相応しくないな、だがまあいい。

それと、一つ理解して頂きたいことがある、我々と共に行くにあたって、彼女に選択肢なんてものはない。

……いいえ、彼女はここに残るべきです。

ウルサスと龍門には当然タルラを捕える理由を持っている。もちろんロドスにもな。

だがタルラはレユニオンに……感染者たちに説明をしてもらわねばならないんだ。

――では、なぜタルラに説明させるよう、ロドスを信用して待ち続けてもらえないんですか?

Guardからもそんなことを言われたな、ロドスを信じろと。

それにチェンも……龍門のチェン警司も言っていた、彼女は公平を創り出そうとしていた、タルラのような感染者を裁くための。

だが、公平とは一体なんだ?

……

チェルノボーグも龍門も、多くの犠牲を、多くの無駄な死を強いられ、幾千もの屁理屈を吐かれた、彼女がそれらから逃れられることはできんさ。

ロドスはどの未来を創造することを、待つことを許されるというのに、一番裏切りに遭ったレユニオンは……どんな発言も許されないのと言うのか?

ロドスのリーダーよ、どうなんだ。

では、共に待ち続けましょう。

盾兵たちは信じてくれました、ロドスのオペレーターたちも信じてくれました……私たちならいつか必ず答えを導き出せるって……

それなのにこんな――こんな暴力を使って、ロドスから彼女を奪うなんて、それでどうやって世間にもう一度レユニオンを信じさせればいいんですか?

私はもう感染者たちに血を流してほしくはありませんし、レユニオンと敵対したくもありません、なのになぜ――

たとえ私が待ち続けようと、ほかの者も待ち続けようと――“レユニオン”はもう待てないのだ。

……え?

……話は以上だ。

ナイン!もう時間だ!そいつのことは放っておけ!

行くぞ、タルラ。

……

待ってください、行っては――

お前がダメだって言えば済むような話じゃねぇんだよ!

全員、このコータスを抑えろ!こいつのアーツに気を付けるんだ!
(戦闘音)

ロドスの感染者!お前強いな!俺一人だったら、太刀打ちできなかったろうよ!

チッ、そりゃどうも、じゃあそこをどいてくれない?

いいや、ただな、イェレナが命をかけて戦ったあの一戦で、彼女は少なくともホンモノの戦士と出会えたんだなって思っただけだ!

ならごめんなさいね、こっちはまだ先を急いでるんだから、痛い目遭うかもしれないわよ!

――狙撃手、彼女を止めろ!

まだいるの――!?
(クロスボウの射る音)

……

待って――君たちは――?その手に持ってるのって?

隊長のクロスボウだ、よく保管してくれたな。

感謝するよ。

だがそれでも俺たちはこっち側に立つことを選んだんだ、であればこのクロスボウも……まだ遺品扱いで保管される時じゃない。

全員、戦闘用意だ。
(アーミヤのアーツ音)

このウサギ……年端も行ってないのに、どっからこんな力が!?

はぁ……はぁ……

そこを……どいてください!

チッ……俺だって覚悟を決めてこの奇襲作戦に参加したんだ。

さあ来い、コータス。お前たちのチェルノボーグでの戦いは見たことがある、正直に言うが、感心してたよ。

だが今回ばかりは、譲るわけにはいかないんだ、この日がまた感染者の死によって場が収まろうがな。
(アーミヤのアーツ音)

そんなこと――

――!

……咲き時だな。

こ、これは……花?いつの間にこんな――

こんな時になっても、お前は彼らの急所を外すんだな。

ロドスのリーダー、確かにその名に相応しい人物だ、だが今はしばらくの間眠ってもらおう。
(ナインのアーツ音)

……行かせは……

(あなたたちを……行かせては……)
(アーミヤが倒れる)

もう少しその効果をはやく起こせねぇのかお前のアーツは……まあいい、どれぐらいもつんだ?

充分だ、全部隊を指定した座標まで集合させろ、飛行装置がもうじき――

おい待て!ナイン!Dijkstraから連絡だ、何かがこちらにものすごい速さで接近しているぞ!

……まさかまだほかのオペレーターが……
(崩壊音)

いや、違う!こいつは人間じゃねぇ!
(斬撃音)

(甲高い咆哮)

こ、こいつを止めろ!こいつの狙いはナインとタルラ――

(身軽く四肢を広げる)

(甲高い雄叫び)
(斬撃音)

ぐわぁッ!
(レユニオンの戦士が倒れる)

――コレは、一体なんだ――?

(鳴き声)

(まずい!アーツが間に合わ――)
(斬撃音と炎の音)
(タルラが近付いてくる)

……

(挑発的な咆哮)

……なにを……

沈黙も一種の答えとは言えないぞ、レユニオン。

これが、今の私の答えだ。ただお前たちの言う通り、今の私に選択肢なんてものはないがな。

……
(爆発音とサルカズ達の足音)

ナイン!もう時間がない!こっちもこのフェリーンと化け物を相手しきれなくなる!

(鳴き声)

ちっ――クソがぁ!

……あと三十秒だ。

うっ……うぅ……

(激昂した鳴き声)

化け物がまたそっちに向かったぞ、ナイン――

……ロドス。

私は誰かを諭すつもりないし、誰かに私の考えを押し込めるつもりもない。

ただ、この一件はまだ終えていないだけだ。

私はずっとその日を待ち続けよう、彼女が言ったあの日を、お前が言ったその日を、その審判を待ち続けよう。

だがその前に――
炎が彼女の指先から燃え広がる。
まるで怒りによって出来上がった高い壁のように。

――(一瞬の委縮)!

私は必ず生き残ってみせるさ。

・アーミヤ!
・タルラ!

・アーミヤに触れるな!
・殺すなら私を殺せ!
君はアーミヤを庇うように立ちふさがる。
高温による窒息で君は瞬時に意識を朦朧とするが、襲い掛かる炎の苗は君たち二人を避けていった。

……安心してくれ、炎は避けさせた。

お前たちにはまだまだ長い道のりがある、願わくば……お前たちの心に翳りがないことだ。
(タルラが走り去る)

もう時間だ!ナイン!これ以上は待ってられないぞ!

わかっている。

では……また会おう、ロドス。
(ナイン達が撤退していく)

待て!

あれは――近距離飛行装置?
(ケルシーが近付いてくる)

アレを落とせ。

(雄叫び)
(アーツ音と爆発音)

……

・命中……してない?
・見えなくなってしまった。

国籍マークを見るにクルビアの近距離飛行装置か、この濃霧を待ち続けて機会を伺っていたのだな。

今は一先ずアーミヤを地面に寝かせておけ、急ぐんだ。

わかった!

……

……

あれがケルシーか。

Guardから聞いた話によると、その場に三名のエリートオペレーターとケルシーさえいれば、我々の襲撃は失敗に終わるとのことだ。

そのため今日、つまり今が、たった一度のチャンスだった。

……どのくらい前から計画していた?

ずっと昔からだ。

それで、私たちはどこへ向かっているんだ?

始まりの地だ。

うぅ……

・大丈夫かアーミヤ?
・……大事ないかアーミヤ?

焦るな……ただ眠っているだけだ。

だがただのアーツではなさそうだ、おそらくは植物性の毒だろう……ブレイズ。

……

アーミヤを医療室まで運んでやってくれ。

……うん。

君もそんな自分を責めるような顔をするな、あのサルカズたちは只者ではない。

けど逃がしちゃった。

せめて……せめてGuardからなにか吐かせておけば――!

Guardか……

向こうは事前に準備して敢行した、その代わりロドスは、手も足も出なかった。
(クロージャが駆け寄ってくる)

み、みんな!今どんな感じ――

あ、アーミヤちゃん……

まずは損害の確認と、負傷者の手当が優先だ、話ならあとで聞く。

……

もしあいつにハメられなかったら、今回の襲撃は……止められていたんだ。

チクショ……!あいつを信用してたからあれを――!

ケルシー!

聞いている。

この船……アタシたちのロドスは、これからもっと頻繁にあからさまな脅威と対面するかもしれないよ、昔のように!

すぐ緊急会議を開いてほしい。

……我々はもうじきヴィクトリアに入る。

君が徴用できる人手には限りが出るぞ。

わかってるよ。

……であれば、ドクター。

さきにクロージャを手伝ってやってくれ。彼女のあの目つきは……中々見れないものだからな。

・ああ。
・……
・……すまない、私がもっと……

少なくとも君は最後に身を挺してアーミヤを守ってくれた。

……感謝している。

……

……

……これはなんだ?

新しい拘束具だ。

いつでもお前の位置を監視できる、それと、もしさっきのようにアーツを放てば、ろくな目に遭わないぞ。

……

タルラ、お前は私たちの囚人だ。

いつからレユニオンに入った?龍門人。

……

この大地の者はいずれ死ぬ運命にある、ましては感染者、私など。

ただ、感染者が受けた屈辱が、隷属された怒りが、まだ解き放たれていないだけだ。

だから私は死ぬわけにはいかない。

ではその結末を迎える時、お前は死ぬのだな。

その時は同胞たちに旧時代の旗を引きずり降ろさせ、一切の不平と強権を燃やし尽くしてもらおう、それから彼らの灰塵を私の墓に撒いておけばいい。

分かっているさ、その前に、お前たちは真実を知りたいのだな。

……お前はチェンとそっくりだな。

彼女を知っているとはな。

もちろんだ、私が知ってるのはチェン警司だけではない、チェン・フェイゼもだ。だからお前たちは似ている。

だが、それももう過ぎた話だ。

みなさん……申し訳ありません、ご心配をおかけしました。

アーミヤちゃん!大丈夫なの?

……はい。

私……タルラさんを止められませんでした。

レユニオンは濃霧と天災を利用して本艦を少なくとも十数日追跡していた、加えてシステムにもとっくの昔にハッキングしていたとのことだ……焦ることなく、我々が一番油断した時期をあえて待っていた。

タルラならいずれ奪還する、だが今、龍門とウルサスはロドス本艦を追う理由を失った、悪いことばかりではない。

もうそろそろヴィクトリアにも到着だ、アーミヤ。

……はい。

あいつが私のシステムに手ぇ出せるってんなら……こっちだってあいつの位置は把握してるっつーの。

あいつは全記録をクリアリングし損ねた、だからその中にきっとあいつの油断で残された手がかりがあるはずだよ、端末の産地とか、位置情報とか、偽造した手段とか――

見てなさいよ、絶対あいつを見つけ出してやるから!

・すまなかった、アーミヤ。
・……
・なにも君のためにしてやれなかった。

……いいんですよ。

けど不思議なんです……ケルシー先生、クロージャさん、ドクター。この一件について、私ずっとなにかを嫌な予感がするんです。

・なにが?
・……
・奇遇だな、私もだ。

たぶん……起こるべくして起こることなんでしょう。そして遅かれ早かれ、私たちはそれと対峙しなければならない。

だから感じるんです……

これで終わりじゃないと。

――いずれまた会いましょう、タルラさん。

……

――手伝ってくれるトランスポーターを見つけたよ、ウチが以前――

チェンちゃん?なにボーっとしてるんだべさ?

……いいや。

ただ、嫌な予感がするんだが……まあいい。

ん?おめーさんら炎の人間ってみんなそんな敏感なの?それってつまりいわゆる“第六感”とか?

そうだな、私たちは一般的に事件を捜査する時は直感頼りなんだ。

えぇ!?それホントなの?

……フッ。

とぼけてないで、そろそろ行くぞ。
寒いな。
昔はあんなに見慣れた風と雪だったのに、久しぶりに戻ってくるとすっかり疎遠になってしまった。
雪風に混ざる細かな砂や石は、ドラコの頬を密かに痛めつけた。
ウルサスの凍原は静かに色褪せていく自分の記憶の中よりもいっそう野蛮で、生き生きとしていた。
寒いな。
この気温を痛感しなくなってどれぐらい経った?
数か月、それとも半年?はたまた一年か?
……
あれから……
もうこんなにも経っていたのか?

だからなんで平然とあいつの命を残してやがるんだ!?

確かに俺たちはタルラを今でも吊るし上げたいと思ってるさ。

……

この雪原から、チェルノボーグまで。これまでの間……ずっとついて来てくれた同胞たち、誰よりもタルラの裏切りに耐えられなくなっているのはあいつらだ。

タルラは……あの野郎は……チッ。

俺たちはチェルノボーグの全貌を知らない……あの事件には胡散臭さが残ってる、だから俺たちには確実な回答が必要なんだ。

今更あいつを信用できるわけがないだろ!?

……ナインに委ねよう。

隊長なら感染者たちの士気がどん底まで落ちてしまうことなんか望んでないはずだ……この件に対してナインはまだ比較的冷静でいる。

そりゃ冷静だろうよ!所詮は途中から入って来た龍門人なんだからな!彼女はこれっぽっちもレユニオンのことなんざわかって――

――言葉に気を付けろ!

あの時仲間から離れ、ほかの国へ渡った同胞たちがどこから出発したのか分かってないのか!?

あの大罪を犯した裏切者が見守る中、お前が今踏んでるこの凍土から、大地全土へと渡ったんだ!

あいつを首吊りにすれば裏切りはチャラになるよう簡単な一件だとお前は本気で思ってるのか!?

だが……すまん。

俺……ちょっと頭冷やしてくる。


ロンデニウムの感染した労働者たちが、頻繁に外部へ助けを求めて、ほかの感染者と関係を築こうとしている。

ヴィクトリア……彼らもお前が起因で立ち上がったんだ、タルラ。それに、お前は……ドラコだ。

……

お前の言った通り、今のお前には好きなように死ねる権利すらない。もし大地全土のレユニオンがすべてお前を起因に立ち上がったのであれば――

――すべての反抗を無駄に終えるか、あるいは……パチパチと鳴る薪に成り下がるかのどちらかしかない。

つまり、お前たちの次なる目標はヴィクトリアなんだな。

それだけじゃないさ、タルラ。

……

まさかウルサスに残りたいのか?

探したい人がいる。

私が焼く尽くすべきだった人だ。

……それは誰だ?

不死を自ら宣う死神だ。

なんのために?

そいつに抗うために。

……

この国がどれだけ広いか分かってるだろ?数か月しかない時間の中で探しても、海に落した針を探すようなものだ。

それで十分だ。

必ずそいつを見つけ出そう。
(タルラの足音)

……

お前はよく急に黙りこくるな。

少し……考えごとをしてただけだ。

ここだ、ついたぞ。

……ここは……

レユニオンの拠点だった場所だ。

当然だが、生存者が私に教えてくれた、私は当時どのような光景が広がっていたかは知らないからな……

お前は知ってるか?憶えているか?

……
沈黙した戦士が歩みを止めた。
ウルサスの積み重なっていく冬のグレー混じりの白色の中、廃棄された拠点は雪で覆い隠され、過去の痕跡は微塵も残されていなかった。
タルラ自身も不思議に思っている、まだ当時の光景が目に映るのだ、一目でどこに焚火を焚いていたのか見分けがついた。
彼女たちの部隊は困難な道のりを経て、少しずつ大きくなっていった。戦士たちは一緒に取り囲んで歌を歌い、ほんのわずかに塩味しかしないスープで一度も満たされなかった胃を温めていた。
だが今、かつて焚火が焚かれていた場所には、不揃いな石碑がいくつか静かにたたずんでいるだけであった。

あれは……

……墓だ。慰霊碑とも言えるな。

あの時生き残った戦士たちによって建てられた。

たとえ生者たちがお前をどう評価しようが、お前の未来がどこへ向かっていようが、そんなことよりも、お前はここに戻ってくるべきだった。

まずは自分に問いただしてみるといい。

……
(レユニオン術師が近寄ってくる)

ナイン、この先のルートの確認が済んだわ。

西にある村から迂回しましょう、そこには私たちの協力者がいる、戦士たちが対応してくれるわ。

時間がない、みんなもう少し踏ん張って、予定時間より早めに拠点に戻るよう伝えてくれ。

わかった……

……なにかあったのか?

……あんたがチェルノボーグで私たちに言ったことは決して忘れないわ、タルラ。

あんたが中枢区画でやったこともね、どの出来事も、どの決断も、一つ一つ説明してもらうから。

逃げようなんて思わないことね。
(レユニオン術師が立ち去る)

……

……聞いただろ、ここは今安全ではないんだ。

私たちはこの先でお前を待ってる、だが長居は許可できない。

行ってこい。

かつてお前が踏み進んできた犠牲を見定めてくるがいい、彼らを心に、永遠にお前の脳裏に刻み込むんだ。

……いいな。
(ナインが立ち去る)

……
(タルラが立ち去る)
ドラコは無言のまま足を踏み出した、真っ白な雪路の上には彼女の足跡だけが残り、厚く積もった雪を踏み固める、一人の重さを背負った泥土の痕跡を顕わにして。
タルラは背筋をしている。
あの冬、背中に背負った体温が徐々に冷たくなるに息もままならなくなったあの時を除いて、彼女は一度も腰を曲げずにいた。
粗雑な慰霊碑には刻まれた名前があって、定期的に拭かれているようだが、今では朧げとなり不鮮明だ。
時間は一瞬しか過ぎ去っていないようであったが、すべてがまるで静止してると錯覚するぐらい経っているようでもあった、この大地にしか雪が泥土に染み込む時の感情を背負えなくなるほどに。
遠くから見れば、戦士はまるで静かな彫像のようでもあり、雪風の中に生える樹木のようでもあった。
彼女は深く根を張り、雪面にほんのわずかな姿しか見せていない。目の届かない土壌の奥では、ドラコから生えた大きな根っこが次々と伸びていき、ゆっくりと土を固めている。
雪風もまるですべての音を呑み込むかのようだった。沈黙すらも雪原に飲み込まれるかのように。
戦士は顔を上げ、雪が彼女の頬に落ちてくる、溶ける間もなく、干からびた。
だが雪などとうの前に止んでいたのだ。北風はこの荒れた地を優しく撫で、雲を散らし、太陽を覗かせた。
今日は凍原の冬からすればめったにない良い天気だ。

……

寒いな。

私は独りでもう一度この気温に慣れておかなければならないようだな。

すまない、あまり長居は許されていないんだ、私は前へ進もう、より多くの者に弁明するために。

いつか、私たちは必ずこの吹雪を越えて、自分たちの行くべき終着点に辿りつけるはずだ……

だが、どうやらここにはソレを目覚めさせるための火が足りないようだ。

――私がソレに火を点けに行かねばな。












