お前はなにを照らしたい?なにを照らせる?
私の為せるすべて。それが騎士のあるべき栄誉だ。
栄誉。栄誉がカジミエーシュを見捨てたのではない。人々が栄誉を見捨てたのだ。
それで栄誉に価値はないとは言い切れない。
栄誉など中身のない言葉にすぎない。マーガレット、それを口にかけることしかわからぬヤツの大抵は、愚か者だ。
ならなおさら、騎士が行動でそれを示すべきだ。
仮に身を捧げる相手がお前のすべてを鼻で笑った場合……お前がしてきたことに一体なんの意味がある?
(剣と剣がぶつかり合い、ムリナールの剣が弾き飛ばされる)

――!

くっ……!

叔父さん!

決闘中は無闇に相手と言葉を交わすな。教えたはずだが?

では、なぜアーツを使わなかった?

逆に聞くが、お前はアーツに長けていただろう、であればすでにあの真実には気づいてるはずではないか?

……あの件に関しては、その通りだ。

しかし!ムリナール叔父さん、だからといってこんな時に――

くどい。

私の剣はすでにお前に打ち落とされた、お前の勝ちだ、マーガレット。

……たとえ……あなたが最初からアーツを使わなかったとしても?

勝負は勝負だ、そのほかの外因などすべて言い訳にすぎん、私はいつお前をそんな優柔不断に育てたんだ?

……

すでに祖父がお前の甘さのせいで代償を支払ったことに気づいたのなら、なおさらここに戻って来た意味も理解してるはずだ。

マーガレット、お前のそれは祖父の意志を踏みにじってることを意味するんだぞ。

ではその祖父の意志とは、私たちに臆病者になれと?

……

「苦難と闇を畏れるべからず」。

そうだな、苦難と闇を畏れるべからず……お前は決闘に勝った、確固たる意志を示す機会を勝ち取った。

せいぜいお前の身勝手な行いに、多くの者たちを巻き込まないようにしておくんだな。

……叔父さん。

私たちはもうあの頃には戻れないと、まだそう思ってるのか?

……
(携帯のバイブ音)

マーガレット、まだそんなことを聞けるとはな。

この後電話会議がある。トーナメントで世間はどこも多忙なんだ、お前が狙ってる優勝についてだが……せいぜい私の気を散らさないでほしいものだ。

現実に、他人の暮らしにいい加減目を向けろ。他人の日常をよく見ておくんだな、もう自身の栄誉で他人に幻想を抱くのはやめろ。

失望するぞ、遅かれ早かれな。

では私があなたと違っていたら?

……違いだと?お前がか?

……

どうやらあの放流された日々の中で、お前はあのサルカズのお友だちに世話され過ぎていたようだな。
(ムリナールが立ち去り、マリアが駆け寄ってくる)

お姉ちゃん!

お姉ちゃん、怪我とかは……!

ああ……大丈夫だ。
(ゾフィアが近寄ってくる)

はいはいマリア、もうそんな力いっぱい抱きつくのはやめなさい。そろそろマーガレットの腕が痺れてしまうわよ。

あ!ご、ごめん……ホントに?

はぁ。けどまさかね、あなたたち二人が今日決闘をするなんて――

――ムリナールの剣、重かったでしょ?

……

叔父さんは最近どうしてるんだ?

いつも通りよ、いつも通り普通の生活を送ってる。朝早く仕事に行って夜遅くに帰ってくる、ずっと会議と顧客からの文句に忙殺されてるわ、あとたまに“ニアール”だからって非難されることもあるけど。

けどそんな“普通の暮らし”なんて、彼からすれば、受刑と大して変わらないと思うわ。

だって昔の彼はあんなに……はぁ、もういい!この話はここまでよ!

……

そんな眉をひそめて、勝っても嬉しくなかったんでしょ?あなたたち一家っていっつもそうなんだから。

……でも少なくとも叔父さんはお姉ちゃんの競技参加に賛成してくれたんだよね?

お姉ちゃんがもう一度優勝すれば、叔父さんもきっとなにも言ってこないと思うよ。

だってこれも全部――
なんのために?
家族のために。自分のために。騎士の、栄誉のために。
わかっていたさ、今の騎士の国で得られるものなど、ほとんど栄誉から遠ざかってるものしかないのだと。

……

マリア?急に黙っちゃってどうしたの?

あ……

お腹でも空いた?

ちょっと、おばさん!

でもその前に、マーガレットを休ませてあげないとね。
(携帯の音)

……もしもし。

大変申し訳ありませんでした、ついさきほど家に戻って、個人的な用事を……問題ありません、ファイルならすでに整理しております。

メジャーリーグの広告代理……?私がですか?そんな、ご冗談を、それに関して私は門外漢ですので……

……はい。おっしゃる通りです、これは仕事、文句を言う資格などございません、申し訳ございませんでした。

はい、すぐ向かいます。
(携帯が切れる)

……窓が開いてるぞ、トーラン。

腕がなまったな、お前の気配すら感じるぞ。

次からは、正門から入ってきてくれ。

……よし、怪我はしてないわね。

叔父さんが手加減してくれたからな。

そうね……これっぽっちのアーツも使ってなかったんだもの。

実を言うと、彼のあんな顔は久しぶりに見たわ……

……

――ほら!立ちなさい。

これからどうするの?騎士協会に行って応募するんでしょ?

少し面倒な手続きがあるからな、だが、今はまだいい。

お姉ちゃん……あの時うやむやになった試合に乱入しちゃって……本当に大丈夫だったの?

大丈夫ですって?この人はこの間まで追放されてた感染者なのよ?競技場の外壁を突き破って場内に侵入までしたのよ?

いまさら試合の一つや二つ邪魔したところで一緒でしょ?

た、確かにそうかも……

面倒事なら避けられない。あの時だろうと、今だろうと、カジミエーシュが今のままである限り、私たちは様々な障壁へとぶつかってしまう。

それでもお姉ちゃんはメジャーリーグに参加するつもりなの?

……ああ。

……

それって……どうしてもお姉ちゃんがしなきゃいけないこと?

……マリア。

いや……ただね、せっかく実家に帰ってきたんだしさ、協会も叔父さんやニアール家を困らせたりはしないはずだよね……

でももしお姉ちゃんがまた数年前みたいに連合会に狙われたら、私たち――

……

……マリアの言う通りよ、マーガレット。

どうであろうがあなたはあの耀騎士。騎士協会がどう動こうが、監察会がなにを決めようが、あなたは大衆と騎士たちの目に映るあの耀騎士なのよ。

私も……私も分からないわ、マーガレット、どうしてあなたがそんなにメジャーリーグに参加したがるのか、一体なにを考えているのか。

きっと自分なりの考えがあるんでしょうけどね、あなたたち一家って性格までまるっきり同じとは言え、あなたほど無鉄砲とは限らないもの。

……これはただの始まりに過ぎないさ。

メジャーリーグでもう一度優勝しようが……あるいは敗退しようが、どれも始まりにすぎない。

マリア、ゾフィアおばさん、もし誰もが怯えて隅に隠れながら、この社会を冷ややかな目で傍観し、“どうしようもない”という理由で自分を慰めているのなら――

――私たちはいつ本物の栄誉を取り戻せる?

まさかカジミエーシュの騎士は、生涯、過去の時代の悲嘆の中で自分も他人も欺き続けなければいけないのか?

……だからあなたは……

この大地の苦難を照らすことは、終わることなく暗闇を駆逐する意味とは限らない。

ある時は……ある時は、道を照らすことや、迷える人々に、新しい視野を切り拓いてあげることでもある。

今のカジミエーシュにいようと、その信仰を保ち続ければ、意味が消えることはないさ。

お姉ちゃん……

……そう、もう決心してるのね。

でも、あなたはカジミエーシュに戻ってくるなりあんな騒ぎを起こしたのよ、だから機会があればだけど……マーガレット。

忘れないで、あなたは我が家に帰ってきたのよ。ここにはあなたの家族、あなたの思い出、マリア……私がいるんだから。

だからせめて、今のうちにマリアを甘えさせてやりなさい。

お、おばさん!なに言ってんの!

この子ったら、最近すごい頑張ってるのよ。

そ、そんなことないよ……

ああ。知ってるさ、誇りに思うよ、マリア。本当に……本当に成長したな。

マリア・ニアール、君はきっと優秀な騎士になれるさ。

えっ……うん。

そのことについてだけど……お姉ちゃん。メジャーリーグに参加するけど、今からポイントを稼いでも、間に合わないんじゃないの?

確かに時間は切羽詰まってる、だが無理な話ではない。

そうね……たとえばここ数年頭角を現してるあの燭騎士、彼女がポイントを稼いだのって、たった一か月未満だったって噂があるわ。

そう噂されてるけど、実際は予選期間の早い段階ですでにポイントを蓄えてたにすぎないわ、マーガレットが今すぐ騎士協会から認可をもらえても、時間が足りないのは事実よ。

なにか考えはあるの?

……試合形式は少し変化したが、大本は変わっていない。混戦試合で一回優勝すれば、チャンスはまだある。

でも、それって危なくない!?私ですらほかの騎士からすごい狙われたのに、お姉ちゃんが出て行ったら、もっと強い相手をおびき寄せちゃうだけだよ……!

そうよ。それにあの企業家連中があなたになにか仕掛けてくる可能性だって否めないわ。

とにかく、このことは早急に決めないとね……

……わ、私一個思いついたんだけど。

マリア?

独立騎士って……私もだし、お姉ちゃんもそうだけど、騎士団に加わってない状況なら、“騎士一族”の名義で試合に参加するんだよね?

……そうね……試合時も登録した時も、ロゴマークはニアール家の家紋を使ってたわ。

それに、憶えてるよ、“同じ騎士団”でも、“同じ騎士一族”にいる騎士なら、ポイントの譲渡はできたはずだよね?

――まさかマリア!?

いや。それはダメだ。

マリア、それは君が騎士として奮闘した証だ、だから賛成は――

――私は気にしない!

私……最初騎士になるって決めたのは、もう私たちの家が、こんな家になってほしくなかったからなの。

ニアール家の先祖たち……お爺ちゃんも、お父さんもお姉ちゃんも。もうみんな失いたくない、ニアール家の栄誉を守りたかったからなんんだよ。

……

でも……でも気付いたんだ、私はやっぱりまだまだ、浅はかだったんだって。

もし私たちがあの人たちの意志で、試合に参加して、騎士の名を守るために彼らの騎士になったら……そんなことしても……なにも変わらないままなんだって。

お姉ちゃん……

……私ね、本当は騎士になりたくなかったの。

騎士になっても騎士を変える事は出来ないんだ、お姉ちゃん。

マリア……

もしお姉ちゃんにしかできないことがあるのなら、そのまま続けてほしい。

私は……ただ……この家を私たちの家のままでいてほしいってだけなの。

……

わかった、マリア。しかし、もうしばらく考えさせてくれ。

……まあまあ、そんな重苦しく考えないで、方法ならまだいくらでもあるんだから。

あとでマーティンのところで飲みにいかない?せっかくマーガレットが戻って来たんだもの、あの老いぼれたちもきっとあなたとたくさん話がしたいはずよ。

叔父さんのほうは……

……あなたたち二人が行くと彼を刺激しちゃうからやめておきなさい。様子なら私が見に行くわ。

その前に、マーガレット、もう一つ。

この都市の感染者は以前より数を増してるわ、それで無冑盟も活発になってる。

だから気を付けて。

……

ご報告。

状況は?

……耀騎士がムリナール・ニアールとさきほど決闘をしていました。

唇の動きを読むに、あまり結果は芳しくないかと。

はぁ、ああやって大人しく家にこもって、久しぶりに家族と団らんしていてほしいよ。

絶ッ対変なことに首を突っ込まないでよね、耀騎士さま、じゃないとこっちも無駄に動かないといけないからさ……

……えっと。プラチナ様、ではこれからどうすれば……?

監視続行。

もし耀騎士がなにか動きを見せたら……まずは私に連絡を入れて。

はい。

……ほかの人は今どういう任務にあたってるの?

えっと……それは規則上申し上げることは……

私はそれを知っちゃいけない、でしょ。

まあいいや、どうせ感染者絡みじゃなければ、監察会絡みだろうし。

どっちでもいいよ、ウチらが出動しなければどっちだっていい。

……ムリナール。

……

ムリナール!

……なんだ。

あなた……大丈夫?

さっきの交戦、マーガレットは手を引いてくれたけど、あなた甲冑も身に着けないで……

心配はいらん。

……予想外だったんでしょ?

大外れだったわね、彼女……予想してたよりもさらに……強くなってた。

……それだけを言いに来たのか?

あなたを心配してるのよ、ムリナール。

私はお前に心配されるぐらいまで落ちぶれてしまったのか?

そうよ、まさか気付いていないとでも?

……少しだけ捻っただけだ、彼女の剣術は確かに驚きの成長を遂げた、だがまだ完全に手中には収めていない。

しかし……はぁ。

どうしてマーガレットがあんな風になったかって、言いたいんでしょ?

当然だけど、彼女の傍にいたサルカズのお仲間さん、あの人たちは……どれも高尚な人たちだわ、敬服するほどにね。

この数年間、彼女が経験したことは私やあなたの想像をはるかに超えるものだったのかもね、ムリナール。

少しだけ……肩の力を抜いて彼女たちと話をしちゃ、ダメなの?

……指図するようになったな、ゾフィア。マリアを騎士に育て上げたことで、そんなに達成感を覚えたのか?

――!

マーガレットが喝采を浴びる前、あなたと彼女たちの父は、あなたたち二人は私たち全員のヒーローだったわ。

あなたが私たちへ向けてる態度は理解してる、マーティンだって、フォーゲルもコーヴァルもそれを分かってる。でも、私も同じくあなたに……失望したわ。

それだけ、お仕事頑張って。

……
(シャイニングとナイチンゲールの足音)

……ここには、人が生活した痕跡が残っていますね。

ええ、彼らの暮らしがまだ残っています……しかし、皆さん隠れたのでしょうか?

ここはもう……私たちが見た集落では三番目になりますね。

繁華な都市の中で、感染者というにはいつもこういった狭くて冷たい隅へ逃げ込む。

カジミエーシュが彼らに対してまったく心を動かさないとは、想像し難いです……

アーミヤさんとあの優しそうな騎士のお婆さんが話してたのは、この感染者たちのことでしょうか?

……ええ。騎士たちですらこの事態を知っていました。であればこの一件はそんな簡単なものじゃないということになりますね。

まだ動けそうですか、ナイチンゲール?そろそろ日が暮れますし、戻って休憩してもいいのですよ。

いいえ、まだ頑張れます……

……わかりました。

では――
(爆発音)

キャッ――なんですか?

工事……家屋と……地下構造区域の解体作業が行われていますね。

……けど感染者がまだ地下に隠れているのでは……?

今日見たものはすべて憶えておきましょう、リズ。

ニアールならなにか分かるかもしれませんので。

……
耀騎士は無言のまま長い廊下を歩く。
栄誉はまるで道端にある柵のように、チャンピオンの肖像画が続いていく。

……マリア……

ん?

……あ、あなたは……耀騎士?

すまない、まだ開館の時間じゃなかったかな?

あ、いえ……確かにまだ開館の時刻ではございませんが、あなた様は部外者とは言えませんので、こちらがダメと言うわけにも……

そうか、迷惑をかけたな。

えっと……申し訳ございません、自己紹介がまだでした。

マルキェヴィッチと申します、だいべ――チャンピオンウォールの修繕を担当している作業員でございます。

一つお伺いしてもよろしいでしょうか、耀騎士様、一体どういったご用件で?

耀騎士か。その称号は、今日でもう一度手にしたことになるな。

騎士協会から認可が下りされたのですね……おめでとうございます。
マルキェヴィッチはハッとなって、奥へと目を向けた、そこにあるのはまさしく耀騎士本人の肖像画だった。
たとえ本人が目の前にいたとしても――本人が目の前にいるからこそ、マルキェヴィッチは突如と奇妙な感覚に襲われた。
硬くがんじがらめになっていたことがようやく解けるのだと。一片も変化を遂げなかったことがこの先で打ち破られるのだと。

……肖像画よりも幾分か猛々しくなられましたね。

何年も経ったものなのでな。

あなた様が……騎士協会と、多くの人たちといざこざを抱えてるのは理解しております。私ごときの人間が口を挟むべきではないのは承知しておりますが、しかし……

それでもあなた様と一言交わしてみたいのです。今の私としてではなく、えっと、つまり、ごく普通の騎士愛好家として、大騎士領の領民として……

遠慮せずに話しても構わないさ、それにそこまで畏まらなくていい。

……ようこそカジミエーシュへお帰りなさいました、耀騎士。

信じておりますよ、すべては、まだ始まったばかりだと、そうですよね?

ふわぁ~、お姉ちゃん、どこ行ってたの?

……ちょっと大騎士領を散策していたんだ。叔父さんは?

叔父さんなら私が帰ってきた時、ちょうど会議しに行ったよ。

お姉ちゃんは帰ってきたばっかなんだし、あちこち見て回って当然だよね、どうだった?

あんまり変化は感じられないかな。

そう?私はここ二年でデパートとか、ファストフード店がすごい増えたと思うけど。

それに比べてここは……かなり物寂しくなったな。

ここ数年で結構家具とか売っちゃったからね……

叔父さんは会社で仕事してるし、私もコーヴァル師匠のところで工房の手伝いとかしてるんだ。実際、支出に関しては全然問題ないけど、叔父さんあんまり私に色々知ってほしくないみたいなの……

でもマーティンおじさんが教えてくれたよ、今のニアール家は、たくさんの騎士貴族や商人の目の敵になってるんだって、だから叔父さんが受けてるプレッシャーも私たちが想像するよりも大きいんだと思う。

それで、お姉ちゃん……私たちって叔父さんとまたあの頃みたいに仲良くなれるのかな?

難しいと思う、マリア、だがいずれ必ず仲は戻るはずだ。

実は私がカジミエーシュを去る前、何度か叔父さんと口喧嘩したことがあったんだ。

その時ゾフィアおばさんから教えてもらった、叔父さんは私たちの両親が失踪したあの日から、色々に対して自暴自棄になったんだ、と。

だが今となっては……おばさんの言ってたことにはすべて頷けないんだ、私は……多くの人と出来事を見てきた、だから今更、ムリナール叔父さんと面を向かってもな……

小さい頃お爺様が私たちに話してくれたことを憶えているか?ほらあれだ、叔父さんが初めて彼と一緒に遠出したとき、重税を強いて、地方にいる人々を虐げていた小貴族を片付けただろ?

憶えてるよ。昔の私たちってあの時の青年と今の叔父さんが同一人物だったなんて信じられなかったよね。

……人の意志とは偉大なる物事で必ずしも変化するとは限らないんだ、マリア。私はそれをたくさん見てきた。

叔父さんは……多分あの時から、失望したんだと思う。

……

マリア、騎士になって、どうだった?

……ぶっちゃけると、想像してたものとは違ってたよ、お姉ちゃん。

……ああ、わかるよ。

だから私はそれでも試合に参加する。たとえ、誰もこの決断を理解してくれなくともな。

……お姉ちゃん……ううん、お姉ちゃんには、本当は応援してくれてる人がいるんでしょ?ずっと応援してくれてる人が。

私にか?

シャイニングさんとナイチンゲールさんのことだよ。

一回しか会ったことないけど、全観客が注目してる試合会場で二人が立ってた姿を見たとき、なんの心配もなくこの人たちになら背中を預けられるなって感じがしたんだ。

ねえお姉ちゃん、実は最初から聞いてみたかったんだけど、この数年間、一体どんなことを経験してきたの?

……いずれ話してあげるよ、マリア。

ただ、とても長い長い話ではある、君が小さい頃に読んであげた騎士の絵本みたいな、ハッピーエンドとも言い難い話だ。

私たちは姉妹なんだから、遠慮することはないよ。

そうだな。


奪え!殺せ!ここにある食いモンは全部奪い取ってやれ!


騎士だと?カジミエーシュの騎士がなんでこんなところに!?もう全員死んじまったってのに、まだそんなフリをして俺たちの邪魔をするつもりなのか?


……耀騎士?

騎士とはどういう意味か……ですか?

いけません!ニアールさん!今嵐に突っ込むのは危険すぎます、ほかのオペレーターたちに――いや、なら私も一緒に行きますから!


――ファウスト。

そいつの口に穴を空いてやりな。

……騎士が私たち遊撃隊に手を貸したことなんて一度もない。

私の隊長と副隊長はあんな数年も待ち続けたのに、結局最後になっても、援軍は来なかった。私たちだけが最後まで戦ったんだ、ウルサスに飲み込まれるまでな、生き残ったのは数人だけだった。
(大歓声)

再びこの会場へ舞い戻った耀騎士!私たちにどのような素晴らしい戦いを見せてくれるのでしょうか!!もしかして今回のメジャーリーグで、数十年に一度しか現れないレジェンドが誕生するのでしょうか!?

感染者かそれとも騎士か!?勝利は敗北か!?数多の夢を背負った刃は、果たしてその鋭さを保てるのか!こうご期待!

それではお迎えしましょう――耀騎士――マーガレット・ニアール――!
長き道を経て、騎士は故郷へと舞い戻った。
普段と変わらず、騎士はその歩みを一歩踏み出す。
彼女にとって最大の挑戦と立ち向かうために。










