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【明日方舟】レッドパイン「大物 マルキェヴィッチ」

スタッフ
スタッフ

マルキェヴィッチ様!

スタッフ
スタッフ

こちらです、マルキェヴィッチ様!

(マルキェヴィッチの足音)

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あ、そっちでしたか。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

申し訳ありません、ここの道はあんまりよく知らないものでして、お時間を取らせてしまい申し訳ございません、お待たせしました。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

それとお迎えなんかして頂いて……

スタッフ
スタッフ

いえ……とんでもございません、当然のことですので。

スタッフ
スタッフ

どうぞこちらへ、会場は向かいの区域にあります。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

わ、わかりました。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あの、お伺いしたいのですが……

スタッフ
スタッフ

なんでしょう?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

いや、今はよしましょう、なんでもありません。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

今日はメジャーリーグ本選前の座談会……でしたよね?

スタッフ
スタッフ

はい、今回の座談会は商業連合会主催のものです、座談会とは言ったもの、形としては比較的気軽なものとなっておりまして、各代弁者様や企業の代表者様がお越しになられます。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ふむ……

スタッフ
スタッフ

専用の招待状なら事前に皆さまへお届けしてると思いますので、その時になればご提示して頂ければ大丈夫です。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ええ、もちろん……持ってます……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

スタッフ
スタッフ

あの……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

は、はい、なんでしょう、ど、どうぞ!

スタッフ
スタッフ

……あの、まだなにかお困りでしょうか?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

えっ……はい?

スタッフ
スタッフ

申し訳ありません、ずっと上着を弄っておりますので……

スタッフ
スタッフ

もしなにかお困りでしたら、こちら側で可能な限りお力添え致しますので、なんでも言ってください。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あ……服でしたら大丈夫ですので、つまり、だ、大丈夫です、ただ……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ただまだあまり慣れていなくて……申し訳ありません、個人的な問題のですので、お気になさらず。

スタッフ
スタッフ

そうでしたか……

スタッフ
スタッフ

……少々緊張されてるのですか?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

す、少しは、申し訳ありません。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

こういった座談会に正式に参加するのは初めてですので、少々……慣れていなくて。

スタッフ
スタッフ

……

スタッフ
スタッフ

緊張なさる必要などございません、代弁者のマルキェヴィッチ様。

スタッフ
スタッフ

本日の座談会は商業連合会が主催を務める集会です、ご来場頂ける皆さまの中では、商業連合会を代表する代弁者の皆さまこそがメインを飾る大物ですので……

スタッフ
スタッフ

リラックスして頂いても構いません。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

しかし……私が大物だなんて。私はただ……運が巡って来ただけです……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

きっとなにか差し違えたのでしょう、私がこんな場所になんて……

スタッフ
スタッフ

いえ……そんなお謙遜を。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

私は――

(携帯のバイブ音)

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

すいません、電話が……

スタッフ
スタッフ

どうぞ。

(マルキェヴィッチがスタッフから離れる)

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

はい、マルキェヴィッチです……どうなさいましたか。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

は、はい、問題はありません……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ぴったりです、ほかに加える箇所はございません、本当にありがとうございます。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

え、いえそんなとんでもございません、わざわざ私を送って下さりありがとうございます。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

い、いえいえ!とてもご親切に対応して頂いております、失礼なところなど、私が時間に遅れたせいですので、ど、どうか彼を責めないでくださいませ……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

冗談?……は、はい、そうですよね……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

はい、もう間もなく到着します。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

わかりました、ではのちほど……

(マルキェヴィッチがスタッフの元に戻ってくる)

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

すみません、お待たせしました。

スタッフ
スタッフ

……いえ、お気になさらず。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

さっきの話ですが――

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

――うわっ!

スタッフ
スタッフ

お足元の階段にお気を付けください、マルキェヴィッチ様!

スタッフ
スタッフ

これから四番通路から上へ向かいますので、ご案内致します。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あ、は、はい、申し訳ありません。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

スタッフ
スタッフ

……

スタッフ
スタッフ

この先が座談会の会場になります、このまま直進して頂いて、招待状を入口のスタッフにお見せください。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

はい、わかりました……ありがとうございます。

スタッフ
スタッフ

では私はこれで――

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ま、待ってください!

スタッフ
スタッフ

……なんでしょうか、マルキェヴィッチ様。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

実は、さっき言おうとしたことですけど……私はやはり大物なんかじゃありません……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ですのでそう畏まらなくても大丈夫です。私のことなら、マルキェヴィッチとお呼び頂ければ。

スタッフ
スタッフ

……

スタッフ
スタッフ

そんな……恐縮でございます。

スタッフ
スタッフ

あなた様は商業連合会の代弁者様でございます。連合会のスタッフとして、私はとてもあなた様のお仕事を、あなた様のことを大変尊敬しております……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……そんな、私は尊敬されるような人ではありませんよ。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

まだまともな仕事もしたことがないような人です、今日の集会が終わったあと、きっと私など代弁者に相応しい人間じゃないと皆さまもお気づきになると思います。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

今すぐ電話がかかってきて、解雇通知を言い渡されても、不思議には思いません……

スタッフ
スタッフ

……杞憂でございますよ。

スタッフ
スタッフ

商業連合会があなた様を代弁者の任にお選びなられたのは、きっと熟考に熟考を重ねたからだと思います……あなた様に実力があったからこそのことです。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

私に……実力?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

 

???
重厚な男の声

私が鳴らしたのは代弁者の電話だ、そして君がその電話に出た。

???
重厚な男の声

つまり、君が代弁者だ。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

私は……そうは思いません。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……もし本当に理由を探すのであれば、すべてはチェルニー様の即興劇だった、としか言えません。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

たまたま私はあの時、あの場所にいただけです……

スタッフ
スタッフ

すみません、今なんと?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

いえ、なんでもありません……

スタッフ
スタッフ

……

スタッフ
スタッフ

実は……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

はい?

スタッフ
スタッフ

私……以前あなた様にお会いしたことがあるんです、マルキェヴィッチ様。むかし運よくあなた様と一緒にとあるプロジェクトを。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あ……

スタッフ
スタッフ

もちろん、憶えておられないでしょう、なんせかなり昔のことですし、少しの間しか一緒に働いていなかったので。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……ジェラードさん。

スタッフ
スタッフ

私の名前を憶えて頂いたのですか?……光栄です。

スタッフ
スタッフ

初めて会った時から、あなただってわかっていました……しかし、あなたの言う通り、かなり昔のことです、私の口から言えたことでもないと思います。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

憶えていますよ、あの時は騎士団の新入りへの連絡係で……あなたと一緒に同じリストを担当していましたよね。

スタッフ
スタッフ

はい、そうです。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……私たちが連絡を担当した騎士のことはまだ憶えていますか?

スタッフ
スタッフ

それは……申し訳ありません、あまり。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

感染者騎士の方々でした……

スタッフ
スタッフ

そう、そうでした、はい。感染者たちでしたね。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あの……そのような呼称であの方たちを呼ばないで頂けますでしょうか……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あの方たちは不運にも感染してしまった騎士なのですから。

スタッフ
スタッフ

ええ、不運でしたね……

スタッフ
スタッフ

しかしあなた様に出会えたのは彼らにとっての幸運です、正規の騎士団に加入することは、あの感染者にとって……騎士にとって、願ってもないことですから。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

それについてなんですが……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

おそらく思い違いではないでしょうか。あの時、私たちはあの案件を完成させられませんでしたので。

スタッフ
スタッフ

……え?待ってください、けど確かに記憶では……

スタッフ
スタッフ

それは……焔尾騎士、それと遠牙騎士の数人を招致した時ですよね?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

思い出しましたか?そうです、あの時彼女たちは試合を数回勝ち抜いたばかりでしたが……それでもあなたは彼女たちに騎士団から提供された契約に目を配るよう釘を刺していました。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あの騎士たちはまだ若すぎたんです、それにまだ小さな女の子だった、騙すことなんてとてもじゃないですけどできません。

スタッフ
スタッフ

……

スタッフ
スタッフ

……騎士団が感染者に開示する条件に、不合理な箇所が多くあるのは確かです、たとえ合理的に見えたとしても。

スタッフ
スタッフ

ただ、サインするまで、誰も感染者騎士にあれこれ説明したりしませんので……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ええ……普通ならそうでしょう。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

しかし、これはあの騎士たちの将来へ関わってくることです……

スタッフ
スタッフ

将来なんて、誰も予想できませんよ。

スタッフ
スタッフ

そう……あなた様のように。

スタッフ
スタッフ

もし事前にあなた様の資料を確認させて頂けなければ、きっと当時のあなた様とはわからなかったでしょうから。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

出発する前に鏡を見たんです。あなたどころか……鏡の中の人が私と同じように手を振っていなければ、自分でも自分が分かりませんでした。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……とにもかくにも、私を憶えて頂きありがとうございます。

スタッフ
スタッフ

……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

こう言うのもあれですけど、実は今でもこれは夢なんじゃないかって思ってるフシがあるんです。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

現実的とは甚だ言い難いものに感じますので……

スタッフ
スタッフ

仮に夢だとしたら、きっとよい夢なんでしょう。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

そ、そうでしょうか?

スタッフ
スタッフ

違いますか?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

うーん……しかしそこまでとも……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

本心を言うのであれば、怖いという感覚のほうが強いように思うんです。

スタッフ
スタッフ

怖い?

スタッフ
スタッフ

何に恐れられているのですか?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

たくさんです、たくさん。今でも簡単に寝つけられないほどなんです、今あるものが本物だろうと偽物だろうと、私にとってはどれも悪いことでしかありません……悪いという方向性が違ってるだけで。

スタッフ
スタッフ

……独特な考え方をお持ちなのですね。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

そ、そうでしょうか……

スタッフ
スタッフ

そうですとも。なんせ、一夜にして出世されたのですから。

スタッフ
スタッフ

突如とただのスタッフから力も勢いも持ってる大物へなったのです……私みたいな人間なら全員寝るとき同じ夢を見てると思いますよ。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

誰も一度は思い描いたことがあると……確かにそうですね……

スタッフ
スタッフ

いけないことなどありましょうか?夢が叶うこととは、現実ではめったに起こりえませんので。

スタッフ
スタッフ

あなた様は幸運です、マルキェヴィッチ様。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

しかし私はそんな……私は……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

そうですね……

スタッフ
スタッフ

ご理解されましたか?あなたの経歴は誰もが羨むものなんですよ。

スタッフ
スタッフ

率直に申し上げますと――私も相当あなた様が羨ましい。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

たぶんですけど……それだと思います……

スタッフ
スタッフ

はい?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

えっと、つまり、そこが私に恐れを感じさせてるところなんだと思うんです。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

なにもかも上手く行きすぎていて、当たり前のように、成就してることが……なにもかもあまりにも突拍子でした。

スタッフ
スタッフ

……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

つい二日前まで、私はこれから家賃をきちんと払えられるかどうかすら心配で仕方がありませんでした。なぜなら騎士マリア・ニアール様への売り込みが失敗したため、減給されるかもしれなかったからです。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

チャルニーさんと出会ったのはその後でした……メジャーリーグの予選期間はとても多忙な時期ですので、私もせいぜい彼のパシリとしてお手伝いする程度でした。

スタッフ
スタッフ

それからは……?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

一通の電話を受け取ったのです。

スタッフ
スタッフ

電話?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

電話です。

???
豪快な女の声

今からあなたがスウォマー食品会社の人間でも、ミウェシェンコの人間でもなくなりました――あなたは商業連合会を代表する者であることを肝に銘じてください。

企業職員
企業職員

ちょっと待ってください……!私はこんな……!

???
豪快な女の声

“質疑”は認められません。

企業職員
企業職員

わ……私は……

企業職員
企業職員

……

企業職員
企業職員

いえ、わ、わかりました……

???
豪快な女の声

それはよかったです。では、万事順調に進むようお祈りしております。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……まだまったくわからないんです……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

たとえ今の私が頭からつま先まで“大物”の服飾に着飾ったとしても、私が本物の“大物”になったことにはなりません……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

正直に言いますとこの衣装、私には似合わないと思います。

スタッフ
スタッフ

……そんなことございませんよ。とてもお似合いです……

スタッフ
スタッフ

……

スタッフ
スタッフ

こういうのは失敬だと重々承知しておりますが……それでも以前あなたと共にお仕事して頂けたことに免じて、お許しくださいませ。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

はい?なんでしょうか……

スタッフ
スタッフ

忠告です、マルキェヴィッチ様。

スタッフ
スタッフ

運命に選ばれたものとして、私のような選ばれなかった人間の前では、どうかそのようなことは慎んで頂けるようお願い致します。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

スタッフ
スタッフ

あなた様のお気持ちを理解するよう努めておりますが、残念ながら……

スタッフ
スタッフ

私にはできません。

スタッフ
スタッフ

あなた様と替わりたい人間はいくらでもいます、私も含めて。しかし私たちにそんな運は巡ってこなかったのです。

スタッフ
スタッフ

ご理解頂けましたか?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

私は……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

わかりました……私はただ……

スタッフ
スタッフ

確かにお悩みを多く抱えておられてるでしょう、焦り、恐怖、戸惑いを感じられてると思います……たとえあなた様が感じ取ったものがなんであれ。

スタッフ
スタッフ

しかしどうであれ、今のあなたは身を整え、その衣装に袖を通された、招待状を手に持ち、公式から認定された商業連合会の代弁者としてこの建物の中を歩かれている……

スタッフ
スタッフ

誰の目から見ても、あなた様はとっくに“大物”です。ご自分がどうお考えになってるとしても。

スタッフ
スタッフ

会場はこの先にありますので、このまま真っすぐ進んでくださいませ。ではマルキェヴィッチ様、ここで失礼させて頂きます。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あの、待ってください……!

スタッフ
スタッフ

よい一日を。

企業職員
企業職員

マルキェヴィッチ様には創業なされた経歴があるとお聞きしてますがそうでしょうか?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

は、はい……以前友人と一緒に、ただとても小さな会社に過ぎなかったので……

企業職員
企業職員

きっと大成功を収められたのではないでしょうか?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

いえ、そんなことはありません、恐縮です。

企業職員
企業職員

ご謙遜を!もし機会がございましたら、ぜひみな様とそのご経験を享受したいと考えておりますよ。

企業職員
企業職員

それと先ほどおっしゃった独立騎士への待遇問題も、実に深く考えさせられる問題でございます……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……ありがとうございます。

企業職員
企業職員

そうだ、お飲み物のおかわりは如何ですか?私が取りに行って――

(ガラスが割れる音)

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

だ、大丈夫ですか!

企業職員
企業職員

も、申し訳ありません……本当に申し訳ありません、マルキェヴィッチ様!

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

いえ、大丈夫ですので、お気になさらず……

企業職員
企業職員

マルキェヴィッチ様、お洋服が――

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

服?……あっ。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

お酒を全部被せてしまいましたね……

企業職員
企業職員

ま、誠に申し訳ありません!

企業職員
企業職員

本当に申し訳ありません、今すぐタオルを持ってきます!

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

いえ、お構いなく、大丈夫ですので。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

あっ、どうも……

企業職員
企業職員

お待ちください、私が代わりに綺麗に拭いて差し上げますので――

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

いえそんな……!じ、自分でできます!

企業職員
企業職員

先に上着をお脱ぎください。マルキェヴィッチ様、こんな大きなシミでは拭き取るのは困難ですので、すぐクリーニングするよう手配致します。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

脱ぐ……?

企業職員
企業職員

あっ……もしお気に召してるのでしたら、直接弁償致しますが……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……

企業職員
企業職員

マルキェヴィッチ様?あの、マルキェヴィッチ様?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

い、いえ……このままでも大丈夫です、弁償も大丈夫ですから!

企業職員
企業職員

え?しかし……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

大丈夫です、本当に大丈夫ですから……お気遣いありがとうございます。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

このままで結構です……すみません、さっきはちょっとボーっとしてました……

企業職員
企業職員

浮世の習いというものです、わかります。お顔色が悪いようですが、近頃お疲れなのでは?

企業職員
企業職員

もしや先ほどもお仕事のことを?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ま、まあそんな感じです……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

……ある友人から頂いた忠告を、思い返していただけです。

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

彼の言ってることは正しかったようです、多くの物事は私がどう考えていようがいまいが関係はない、と……

企業職員
企業職員

えっと、つまり……?

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

お気になさらず、独り言みたいなものですので……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

ただ思うんです……私は自分が“大物”になったとは思っていません……

マルキェヴィッチ
マルキェヴィッチ

しかし……今の私はもうこの服を脱ぐことはできなくなったようにも思えてくるんです。

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