
お待ちを、マルキェヴィッチさん。

あなたでしたか、マギーさん、あの……なにか?

また会ったな、連合会からメールは届いているかな?

メジャーリーグ期間に試合進行監督を担当してる代弁者は私たち二人だけだ……割に合わないが、注目は集められる仕事だ。

もし“代弁者”という肩書きを取ったあとでも平穏な暮らしを送りたいのであれば、今は最大のチャンスだ。

あはは……お恥ずかしい話ではありますが、注目されるぐらいなら、淡々と現地イベントの企画を担当できたほうが私としてはありがたいです……

こういうことは得意なのか?

得意もなにも、私はただ……

またご謙遜なさる、あのベテランたちよりあなたのほうがよっぽど適任だ。

――しかし今日は、別のことを事前に知らせようと思って参った次第だ。

休憩室でお話しても?

あっ、お好きなように……

そんな慎重になさるとは何事ですか?

実は、本来なら私から言うことではないのだ、ただチェルニーさんがあまりにも突然去ったものでな。

カジミエーシュの中核となる大騎士領本土を除いて、毎回商業が著しく発展を遂げている都市を三つ選び、今の大騎士領へと合併することは知っているな。

メジャーリーグ終了後の数か月以内に、大騎士領を除いた移動都市は、ルートデザイナーの設計のもと、一か月以内に本来の航路へ帰投する。

四都市のドッキングは毎回ながらも千載一遇のチャンスだ。大量の人流、隙間なく往来する物流、それと……一部の問題を解決するチャンスにもなる。

正直に言うと、四都市連合の規模がこうも巨大でなければ、移動が困難になろうが、天災を避けられずにいようが、物資配分や採掘問題は簡単には解決できなかっただろう。

四都市連合はこのまま永遠に繋がったままでいてほしいものだよ。

しかし今日話すのは……うぅむ……暗黙のルールというやつだ。

一体なんでしょう……?

……感染者についてだ。

今年ミェシェンコ工業が大騎士領に移動プラットフォームを七台提供してくれる、ほかの国家からすれば都市一個相当の規模だ……もちろん、表ではそう伝えられてる。

それなら、同僚からも聞き及んでおります。

だが今注目すべきなのはゼロ号地だ。あれはミェシェンコ工業が交付するリストには載っていない地区になる。

あの地区は少々特殊でな、とても規模が小さい移動プラットフォームなんだ、今は南西方向にある十七号都市区の外に連結されている。

あそこって……

そうだ、あそこは感染者収容治療センターの隣になる。

無礼を許してくれ、マルキェヴィッチさん、これから私たちが話すことは、すべて記録に残さねばならない。

これは規則事項だ……発言者が連合会に背く行為をすることは許されないからな。

……

……わかりました。

……

顔色が悪いな……わかるさ、私が喋り出した時から、あなたはそんな顔をしていた。

あまりにも非人道的すぎます……

……今のあなたは理事会の代行者、そして商業連合会の代弁者なんだぞ、マルキェヴィッチ。

……そこだけ努々お忘れなく、当然だが、別に警告や脅しをしたいわけじゃない――はは、チェルニーさんからもよくこういった印象を抱いたのではないかな?

すべては手の内。彼の言うことに背くことなんてできないはずだ。

……

私にそういう意図はないよ、マルキェヴィッチ、お互い助け合おうじゃないか。

さっき話したことをもうしばらく考え込むといい、私はこれから何個かの騎士団とスケジュールを確認しないといけないのでな。

では、また後程。

……ムリナール?

いるの?ムリ――
(マーガレットの足音)

……ゾフィアおばさん?

あら……マーガレット、まだ家にいたの?

マリアから騎士協会に行ったって聞いたけど?

ちょっとした手続きにすぎない、そんな時間は掛からなかったからな。

……ふふ、あなた本当に変わったわね。

“ロドス”って場所のせいかしら?昔のあなたはあんな事務作業なんか得意じゃなかったのに。

あなたが騎士へエントリーしたばかりの頃を憶えてる?独立騎士のマーガレット・ニアールは、いっつも証明書類や手続き書類をごちゃ混ぜにして……

ああ……あの時は君に助けられたよ、おばさん。

はぁ……マリアならともかく、私とあなたの年齢なんてそう大して変わんないでしょ?

以前は必死に名前で呼ぶようにしてやったのに、こうやって何年も合わないうちに、また元に戻ったわね?

もしかして疎くなっちゃった?ん?

……ふふ、そんなことないさ、ゾフィア、ただこうして面と向かって家族と話をするのは久ぶりだったからな。

おじさんに会いにきたのか?

ええ……まだ仕事中だったかしら?

まだ戻ってきていないんだ。

……ムリナールは……

……わかっている。

彼を敵視したりしないし、恨んだりもしないさ、ゾフィア。

絶対にな。

あっ……もうすぐ試合が始まるよ。

……相変わらず、人でごった返しじゃな。

あっちにいるブレードヘルメット騎士団のヤツ、去年も見なかったか?

はぁ、そんなヤツ放っておけ、左腕騎士でさえマリアに敗れたくせに、ブレードヘルム騎士団がなんだって言うんだ?

えっ……いやあれはたまたまだよ、たまたま、それ言われるとまだ恥ずかしくなるから……

……うぅむ。今晩の試合、どうやら“錆銅”のオルマー・イングラも出場してるようだな……

ハッ、見慣れた顔ばっかじゃな、マリア――

――お前は少し黙っておれ。

いいよ、コーヴァル師匠。

私はもう競技騎士になることは諦めたから、私には合わなかったんだ。

そうじゃそうじゃ!自分の目指す方法なんていくらでもある、どれかを無理して選ぶ必要なんてない!これ歳を食ったジジイからのアドバイスな!

それに、お前はもう十分頑張ったじゃないか、この一杯はお前のためじゃ!

そういえば、マーガレットのあの甲冑はまだ最終調整していなかったんじゃないか?

以前着ていたものの造りは確かに見事だったが、マーガレットみたいな勇ましいクランタにはどう見ても似合わんだろ。

あっ……それなら私がもう調整に着手してるよ、もうちょっと時間かかるけど。

それとお姉ちゃんの武器なんだけど……

マーガレットが騎士競技に初めて参加した時は、ハンマーを使っていたな。それから、騎士用のロングソードへ変えた、光が彼女の剣へ集束していくとこはまだ憶えているよ。

今は――槍に換えたんだったかな。

ハッ!ミノスのD32鋼で鍛造された一級品、抜群なアーツ伝達性質のおまけつき!

懐かしいなぁ、当時マーガレットが手に馴染む剣を交換してくれとわしに言ってくれたっけな――あれはニアール爺さんの孫娘が初めて助けを求めてきたことだった――

懐かしんでる場合か、コーヴァル、来週には耀騎士が出場するんじゃぞ、ちゃんと手伝ってやっているのか!?

ああ?お前と一緒にするな。毎日酒を飲むことしか知らないくせに、やることがないのか?
(老騎士と老工匠が殴り合う)

(錆銅騎士が参加するのは……フラッグ争奪戦か……?なぜブラッドボイル騎士団はエリート騎士をあんな旨味のない試合に宛がったんだ……)

(錆銅の相手は……ふむ、名が立って間もない騎士団ばかりだな……)

(……待て、感染者騎士もいるぞ……)

メジャーリーグ本選試合、へへ。

感染者になっちまった時、お前はこういう日が来るって想像してたか?

この会場に立って、自分は人生何回回っても稼ぎきれねぇ賞金を勝ち取るんだって想像したことがあるか?

わかってる……わかってるさ。

レッドパイン騎士団に加入できて光栄だよ、ワイルドメイン。

ハッ、名前でいいよ。

よし!じゃあ俺が賞金をゲットした時には、酒を奢ってやるよ、イヴォナ。

いいぜ、どうせアッシュロックしか酒に付き合ってくれる人はいねぇんだ、ちょうど暇してたぜ――

――フラッグ争奪戦のルールはまだ憶えてるか?

憶えてる、なるべくゴールラインで待機して、衝突を避けることだろ――

はぁ、それはソーナから言われたことだろ――アタシが言ってんのは、あの貴族騎士連中の甲冑をボロボロにしてやれば、チャンピオンになれるってことだ。

ポイントを奪ってくるヤツがいれば、お前はそいつを真っ先に片付ける、簡単だろ?

は、ははは……俺にそんなことができればな。

自信を持て。ド派手にやらねぇと、あいつらに舐められちまうぞ。

相手に見上げられたいのなら、簡単な話さ、そいつらを叩き伏せてやればいい、だろ?

それよりどうやらお前目当ての人がいるらしいな、ハッ、あいつアッシュロックでも懲りなかったのか?

オルマー・イングラ……感染者たちに報復するためここに来たのか?

器の小さい男だ。

貴族のボンボンか、ケッ。

どうやらあいつの自尊心はアッシュロックに折られちまったようだな、見掛け倒しのヤツがこの会場に立つ資格なんざねぇ。

あぁ――ムズズムすんな。あとでこっそりあいつをぶん殴ってやりゃいいか。

……

……

では――各騎士にご入場して頂きましょう――

行くぞ。

……おう!

子供たちが俺たちの帰りを待ってるからな。
(錆銅騎士の足音)

……ガァ。レッドパイン騎士団……

感染者、ゴミムシ風情が……騎士を名乗るだと?

……虫唾が走るぜ、クソが!





