
始まったな。感染者たちが動き始めた。

……本当に向こうから釣られにくるのか?

できればそうしてもらいたいね。俺たちも騒ぎを大きくすれば、理事会から尻尾を掴まれなくて済む。

それで動力源のほうは……?

私を疑ってるのか?

い、いいや。

野鬣は殺していいか?

……もちろんだ、もうここまで来たんだからな。

獲物を幾つかもっていけば、飼い主も大人しくなってくれるだろうからね。
(ロイが立ち去る)

……

元から私が逃した獲物だ……得られるべきものを取り返すってだけだよ。

第三小隊、撤収だ、私についてこい。

野鬣を発見!野鬣を――
(斬撃音)

遅ぇぞ、無冑盟!
(打撃音)

グハッ!?
(無冑盟構成員が倒れる)

裏でコソコソ汚い手使いやがって、騎士の相手すら忘れちまったのか?

この感染者のクソ野郎が!

これはジェミーの分、それとお前らに殺された感染者たちの分だ!
(打撃音)

カハッ――
(無冑盟構成員が倒れる)

――イヴォナ!ソーナが言ってただろ、勝手にこいつらを殺すなって……少なくとも殺すにしても、覚悟を決めてからやれ。

……無冑盟、お前は何人殺してきた?

……ハッ。

てめぇらこそなに正義面ぶっていやがるんだ?クソガキがよ?俺が黄金草原でバウンティハンターやってた頃なんざ、んなこと一度も考えたことねぇよ!

都市の外では、カジミエーシュ人がどうやって生活してるか忘れたのか?簡単な話さ!一番強いヤツは全員血も涙もないクソ野郎なんだからよ!

――好きに喚いてろ、無冑盟、今はアタシの勝ちだ。

負けたとか、死んだとか、んなもんただの言い訳にすぎねぇよ。

てめぇ――
(無冑盟構成員が殴られ倒れる)

……こいつはさっき救難信号を出しやがった。

できるだけ無冑盟を引き寄せて、グレイナティたちの作戦を邪魔させないようにしねぇと。

……
(無線音)

遠牙、そっちは無冑盟を見つけたか?

ない。

そっちは?

グレイナティが配置についた、あとは私たちの合図次第だ。

しかし、無冑盟の反応がこんな遅いものだとは考えにくい……あいつらは本当に野鬣に引き寄せられてるのか?

たぶん……

……!

無冑盟の小隊を発見した、四番大通りの路地からそっちの包囲網に入っていったよ、イヴォナ!

……イヴォナ?聞こえてる?イヴォナ?
(無線が切れる)

ねぇ!?シェブチック?イヴォナ!?

……通信が……切られた?そんなまさか……こんな電波が密集してる街の中で……?

……

不気味なぐらい静かだな……イヴォナ、なんかイヤな予感がするぞ。

無冑盟は本当に俺たちの待ち伏せにハマるのか?

……さあな。

そんなことより、さっきからユスティナの通信が入ってこねぇんだ。あいつなら高い場所からアタシらを見張ってくれてるはずだが――

(悪寒)――――――

――逃げろッ!
突如、イヴォナはその場で吐き気を催すほどの息苦しさを感じた。
これが生理反応なのか、はたまた一種の毒かアーツによるものなのかは定かではなかった。
そこに一人の人影が高層ビルから飛び降りてきた。
地面へ落ちてきたが、まるで軽く被せたシルクのように、まったく音を立てなかった。

……あんな高い場所から落っこちてきたのに、ビクともしてねぇだと?

お前らフェリーンってのはみんなそんな便利な身体を持ってるのか?

……第三小隊。

こいつら――いつの間に!?

(さっきの無冑盟とはまるで質が違う……この青いヤツ、この前のラズライトか?)

お前らは先に逃げろ……

しかし!

いいから先に行けッ!

……絶対に死ぬんじゃないぞ!
(感染者騎士が走り去ろうとしたタイミングで矢に射られる)

ガハッ!?
(感染者騎士が倒れる)

――!?

ウソだろ、弓を引いてるとこなんか見えてなかったぞ――
青い無冑盟は片手で投擲する姿勢を保っていた。
彼女の冷たい顔に一瞬だけ不快な表情がよぎる、このハンティングゲームが想定とは違う開幕を迎えたからだ。

……な、投げたのか?

ガッ、足、足がッ!

歯を食いしばって逃げるんだ!止まるんじゃねぇぞ!

おい、なにボケっと見惚れてるんだ、アタシはまだここにいるぞ!
(矢の射る音)

……!

……感染者はどいつもこいつもバカなのか。今お前にクロスボウがどれだけ向けられてるのか見てみたらどうだ?

野鬣騎士、お前は本来なら数日前に死んでたはずだ、だがちょうどよかったな、英雄気取りできて。

逃げるがいいさ、私もただのハンティングで終わらせたくはないからな。暇つぶしにはちょうどいい。

ハッ、なんか誤解してるようだな?

アタシがそこら中に逃げ回るような人間に見えるか?

……そうだな、自分から死に行くような人間に見えるよ。

ケッ、アタシら感染者からすればそんなこそこそして生きる生活にはもう飽き飽きなんだよ!

無冑盟、てめぇらは商業連合会の後ろに隠れて汚ねぇことしかできねぇような連中だ、ここで堂々と生きてるヤツらのほうがてめぇらよりよっぽど強ぇ!
こいつら全員の顔をよく憶えておくんだ……
憶えておけ……この騎士たちを……このカジミエーシュ人たちを……この陰湿な人殺したちを……
誰一人、絶対に許すなッ……!

……

……無冑盟のクズどもが。

野垂れ死にそうな鉗獣と戦ったことはあるか?無冑盟さんよ?もう自分は長くないって知った畜生どもが、どうやって襲ってくるか知ってるか?

自惚れやがって……

アタシは死ぬかもしれねぇが、負けはしねぇ、てめぇらには、ここで今までのツケを払ってもらうぜ。

そしたら……アタシの仲間たちが……

その死ぬのは怖くないフリをしてる自分の顔を見てみろ、死に行くヤツが勝とうだなんて、そういうのは死んでから言いな。
青い無冑盟は背後から矢を手に取った。

来い。

……矢で攻撃を防ぐってか?アタシを舐めてんのか?

当たり前だ。

……この……
(矢の射る音)

うわっ――!?

それが自慢の“スピード”か?クランタ?

舐めんじゃねぇぞ――
(斬撃音)

ウギャアアア――

そんな大げさに叫ぶな、急所は外しただろ。

もっとお前の血を見せてくれよ。

そんで街中がお前の血に染まれば、暗い場所に隠れてるあの感染者たちも、抵抗してこなくなるんじゃないか?

……ラズライト様、こいつは感染者ですよ……

……感染するのが怖いのなら、こんな仕事さっさと辞めちまいな。

こいつの怒りを死でかき消しちまえば、感染者連中の抵抗もかなり楽になるだろうな。

……こんなに時間が経ってるのに、なんでユスティナからまったく通信がこない?

なんか遭ったんじゃないのか?

……

なにが起きようとも、あと五分でこちらから奇襲を仕掛けます。

ソーナたちもそろそろ配置についたと思います、今はお互いを信じましょう。

……そろそろ時間ね。

みんな、絶対無事でいてね……
残り四分。

……もう終わりか、数分ももってないぞ。

……

……進むぞ、この近くには感染者の巣窟が七八個ある、撤収してる可能性もあるが、引き続き捜索しろ。

なに……行こうとしてんだ。

まだ、終わっちゃいねぇぞ……!

……こいつはお前たちに任せる。私は時間を無駄にしてくないのでな。
(モニークが立ち去る)

了解しました。

みんな準備しておけ、こいつの片付け――
(斬撃音)

言っただろうが、まだ――終わっちゃいねぇぞ!?

――まだ反撃の気力が残ってるのか!?

……私はあんまり人を殺したくないんだ。

老人や子供なら、見逃してもいい。だが、感染者騎士を十人も残してしまったら、あとで説明しなくちゃならなくなるんだ。

こ、この……人殺しが!

イヴォナになにしやがった!?

……普通なら失血で意識を失ってるはずだが、騒ぎを聞くに、まだ抗ってるようだな。

――この悪魔が!

お前たちも理解してると思うが、今日逃げられたとしても、意味はないぞ。

無駄話は嫌いだ。もう一回言う、感染者騎士十人で、残りの命と取引をしてやる。

そんな戯言に耳を貸すと思ってるのか!?この殺人鬼、変態どもが!

……ならイヴォナを含めて、そっちは九人の騎士だけでいい。

なんだと――

お前たちに勝算はあるのか?

……!

……それは……

……もういい、やっぱり自分で動いたほうが手っ取り早い。

まあそう急ぐなって。

本当に上へ報告するのなら、量より質のほうがいいとは思わないかい?

どうなんだ?

……トーラン・カッシュ。

自分で言うのもなんだが、俺なら指名手配の中じゃそこそこお高い部類なんじゃないかな?

首を差し出してくれるっていうのなら、こっちもほかの連中を狩らなくて済む。

そいつを挑発するな!トーラン!そいつは――

無冑盟“ラズライト”のモニーク様、だろ?

……言ったはずだ、仕事の邪魔をしにくるヤツは嫌いだと。

お前が大人しく死んでくれないのなら、今回で三回目だ、トーラン・カッシュ。
(戦闘音)
傷を負った感染者騎士はなにが起こったのか理解できなかった。
鼓膜が音を拾った頃には、鋭い衝突音が聞こえた。

ひぃ~、確かに弓を引く速さは尋常じゃないな。

……見えたのか?いや、その構え、騎士の剣術か?

なぜバウンティハンターがそんなものを習得している?

まあそう言うなって、矢を放ったり、罠を仕掛けたり、獲物を罠にハメるだけなんだったら……

下賤な無冑盟と変わりないじゃないか?

次は避けられると思うな。

そうかい?
(打撃音)

うおっとっと、あとちょっとで当たりそうだったぜ。

けどあんたも足元には気を付けたほうがいいぜ?

――なっ――
(爆発音)

爆破トラップか、結局のところバウンティハンターじゃないか……

そりゃそうだろ。

――!?
(戦闘音)

――間合いを詰めてきただと……お前まさか騎士の訓練を受けたことがあるのか?

なるほど、どうりでニアール家に肩入れするはずだ……ニアール家と関わり合いがあったんだな。

興味深いことではあるが、今は仕事が先決だ。こっちはこれ以上時間を無駄にはできない。
残り二分。

……相変わらずメジャーリーグ期間はタクシーが拾いづらいな。

すいませーん、このホリデイズ騎士記念品ショップはどう行けばいいですか?

おい、こんな時間だぞ?先にメシでも食べに行ったほうがいいんじゃないのか?

ご覧ください!クルビアからやってきた新参者が紫藤騎士にまたもや圧倒されています!

なんという素早さ!それから――待った待った!これは一体何事でしょう!?

信じられません!!まさか最後のぶつかり合いでとんでもない事故が起こってしまいましたよ!?転倒でしょうか?おいおい、ここはメジャーリーグの試合場なんですよ!頼みますからしっかりしてください!
残り一分。

……

いつもこんな遅くまで仕事しているのですか?ムリナール?

……まさかお越しになられるとは。

一声かけて頂ければ、お迎え致しましたのに、ラッセル様。

お気遣いは結構、すぐ出て行くので。

今夜は騒がしくなります、色々と片付けないといけないことが出てきますよ。

……

ムリナール、あの剣を携えて遠游していた侠客は戻ってきましたか?

……

死屍累々の戦場と焦土から、戦火に包まれた要塞まで渡り歩いた、あの侠客はまだ戻っていないのですか?

……
残り三十秒。

――連絡はまだ来ていませんが、このまま予定通り敢行します。

五分以内に、メインとなる電力源に奇襲を仕掛けてこれを遮断し、商業連合会が位置する中枢区画の電力喪失を確保します。

そうしないと、ソーナは商業連合会へ潜り込めません。

……ビッグイベントだな、そういうのは好きだぜ。

……監察会の“お友だち”もすでに秘密裏にここの警備を撤収させているはずです、武力衝突を避けるために。

迅速に動きましょう、作戦の準備を――
(爆発音)

!?

な、なんだ!?どこかで爆発が起こったのか?

え、エネルギー区画?一体なにが?

おい灰豪!なぜ作戦の開始を繰り上げた!?

いえ、私たちはまだ突入もしていま――

――ハメられた、急いで撤退するぞ!
(爆発音)

さあさ眠りな、カヴァレルエルキ、俺が愛した大騎士領。

いい夢を。
三。
二。
一。