カヴァレルエルキが緊急事態に陥ったことを確認。
信号のコードを確認。部隊の識別番号も確認。
全部隊に伝達。
偽装を解除し、入城せよ。
……電力が完全に回復するまで、まだ時間がかかりそうですね。
ロドスの皆様にはすでにご自分の部屋に戻られるよう指示を送りましたが、もしお二人とも確認がしたのであれば……
……ドクター、私がみなさんの様子を見てきます。
突発的な事態なため、状況を把握していないオペレーターもいると思います、感染者に応っている際のあの数々の抗議で、みなさんプレッシャーを感じてるとも思いますので。
・苦労をかけるね。
・……
・本当に私の助けはいらないんだね?
いえ、気にしないでください、ドクター。
最近はずっとドクターに各種商談やお付き合いを任せっきりにしていたので、私も申し訳なく思ってたところです。
今のうちに、休んでおいてくださいね。
……あはは、ドクターもお疲れのようですね。
昨日からずっとあの企業家たちとの接待で、喉もガラガラなんじゃないですか?
大丈夫です、ハイビスカスさんもいますので、なにも起こらないと思います。
みなさんの様子を見に行くだけなので、すぐ戻ってきますからね。
ご心配なくアーミヤさん、ご不在の間は、私がしっかりドクター様を見ておきますので。
あっ……はい。
では行ってきますね。
……ドクター様。
近いうちに商業連合会が動きを見せますが、それがロドスに不利益を生じさせる可能性がございます。
それに今の停電事件も加えて、次からはおそらくさらに明確な陰謀が姿を表すでしょう。
ですのでしばらくの間は……決して私の目から離れないようにしてくださいね。もちろんですが、そちらが私の傍にいてくれるのなら、もっともなんですが。
散歩はいかが?
……うふふ、急に私の気持ちを理解してくれたみたいで、少し驚いちゃいました。
どうしたんですか?なにかいいことでもあったんですか?
グラベルさん、あなたは商業連合会のことをどう思ってるんですか?
……同じようなことは以前も聞きませんでした?どうしたんですか、また私の答えが知りたくなったんですか?私は全然構いませんけど。
あいつらはカジミエーシュの蛆虫です。
連携しながら騎士と街を腐らせ、最後には自分たちの目的を果たすような商売人連中です。
いいや。
商業連合会、その名の通り、ただ“連合”をしているだけにすぎない。
利益が彼らを紐づけているんです、なら当然彼らを崩すこともできる。
ただ騎士と対抗することによって、彼らがまるで一体になってるように見せているだけです。
……
……なにかしたのですか?
商業連合会の常務理事長の人間は四つのタイプに分けられる。
うふっ……ぜひお聞かせください。
時代を押し進むことに焦燥し、騎士階級を取り締まっている過激派。
保守に回り、一歩一歩踏み固めて進めていく穏健派。
どの立場も持たず、ただ利益があればいいという利益至上主義派。
……では最後の一種類は?
今のロドスにとって、まだ時期尚早です。
無闇に動けば、むしろ危険に陥ってしまう。
……つまり、連合会は内部に亀裂を抱いていると?そしてあなたは……その亀裂を掴んだと?
・亀裂とは言い難い。
・彼らに“団結”の文字など存在しない。
・皆利のために来て、利のために往く。
……しかしあなたはまだ来て間もない、それに代弁者を通じて、常務理事長の一部と知り得ただけではないですか……
どうしてそう断言できるのですか?仮に信頼する相手を選び間違えたら、監察会とてその尻拭いはぬぐい切れませんよ……
・ロドスは目的達成のためなら他者を犠牲にしてもいいなんてことを考えたことは一度もない。
・私がなんの覚悟もせずにあの晩餐会に参加したとは考えづらくないですか?
……ええ。
あなたならきっとそうなんでしょうね。
(戦闘音)
これ以上時間を無駄にしちゃっていいのか?
感染者の指名手配はもう出してあるんだ、あとは大遮断の影響が回復したら、お前たちに逃げ場はなくなるぞ。
あっ、ついでに言っとくけど、“大遮断”ってのはな、メイン電力源を失った各区画が短い間に漂流現象を見せるからそう言われてるんだ。
それと、今は連合会周辺の区画ドッキングも中断されてるから、逃げ出すことは不可能だぜ。
……チッ……クソ……
……こりゃ正面から戦って勝てるような相手じゃないわね。
ようやくそれを理解してもらって助かるよ。それじゃあもう一回聞くが、ブツを渡してくれないか?そしたら見逃してやる。
フンッ、いつから無冑盟はそんな優しくなったの?
……気持ちの問題かな、ようやく長い争いの中から……希望の光が見えたもんでな。
ボリバルの廃墟から、カジミエーシュの平原まで、そして最後にはここにやってきた。
殺人が愉快だなんて普通の人間はそう思わないさ、他人の血を見て喜ぶのは裕福な暮らしを送ってるバカどもだけだよ。
しかし、今のお前は俺を救ってくれるんだ、感染者、だから俺もお前たちの代わりに無冑盟をぶっ壊してやれるぞ。
……お生憎様、あんたの言ってることが本当でも、これを渡すつもりはないから。
そりゃなぜ?
もう他人に指図される日々には飽きたからよ、無冑盟。
カイちゃん!
了解、一発食らえ!
――なっ。
(爆発音)
ゴホッ……ゴホッゴホッ……なんのマネだ。
逃げるよ、カイちゃん!
わかってます!
(ソーナとグレイナティが走り去る)
……この都市の構造区画は複雑だ、走り回ってエンジンにでも足を外してみろ、ひき肉にならないよう気を付けるんだな。
逃げられると思うなよ――
――フンッ。
(矢を射る音)
……!?
カイちゃん!危ないッ!
――
青い矢が焔尾騎士の甲冑を貫いた。
防ごうと試みたソーナだったが、その小さな身体では巨大な衝撃を受けきることはできなかった。
彼女は空中で藻掻き、都市区画の間にある隙間へと落ちていった。
ソーナ――!
(……外した、それに一瞬だけ視界が暗くなった……)
(疲労による錯覚か……?いや、きっと邪魔されたに違いない……)
――ロイ、貴様ァッ――!
(戦闘音)
……!
理性を失っちまったか。
(戦闘音と爆発音)
おいおい、そんな近距離で撃ってきやがって、道ずれにするつもりか?
貴様……貴様よくも……ソーナを……!
……油断が過ぎたな。
チップが壊れてないか分からない、一番おっかねぇ状況だ、俺はあんな責任まで背負いたくないね。
黙れ!
(戦闘音と爆発音)
(どうする、今すぐ灰豪を殺して、死体を確認したほうがいいか?)
(いや、それも危ない、それに電力がもうすぐ回復する、鉄板の間に挟まるのはゴメンだぜ。)
貴様の血で償わせてやる――!!
わかりやすいねぇ、理性を失ったお前の動きなんざ筒抜けだよ――
――それはどうかな?
!?
(爆発音)
くっ、この俺が油断しただと?
……逃げた?
ってことは、あの激昂っぷりはフリだった……?
……アタシは感染者のために騎士になった。
感染者のために奮闘し、死んだ。
光栄の限りだよ。
栄誉あることのために死んで……とても光栄だったよ。
……ってな感じで凛と締めたかったんだけど、これ……どういう状況?
ロイはまだ近くにいます、きっと私のアーツを見抜くはずです、長居は無用ですよ。
あなたのお仲間にも、逃げるようにお伝えください、もし必要があれば、私が裏でサポート致します。
(無線音)
……もしもし、カイちゃん、アタシは無事だよ。
あいつにバレないようにしてね、スキを見て逃げ出すのよ、チップならあんたが矢を防いでくれたときに鎧の中に投げ込んどいたから、確認してみてね。
あと返事は大丈夫だから、まとあとで。
(無線が切れる音)
……あなたが私をキャッチしてくれたんですよね?一体どうやったんです?
アーツの応用方法は多種多様です、勉学に励むリターニア人であれば、元のアーツがどんなものであれ、ほとんどの場合は基本的な技を出せるのですよ。
……あなたは、燭騎士ですよね?
あなたみたいな大騎士が、なぜアタシみたいな……感染者を助けたんですか?
あなたに会いたがってる人がいます。
誰ですか?
それはまだ言えません。
あっ……じゃああなたも私たちがなにをしてるか知ってるんですね、街を陥落させたり、連合会を襲撃したり……お散歩に付き合う時間なんてこっちにはありませんよ?
……私を信用してないのも無理はありません。
いや、信用してますよ。
その人の目をチラッと見ただけで、その目からその人が考えてることを読み取れるんです。
まあ当然、百発百中ってわけではないけど、今は緊急事態ですし、ね?
はぁ、なんてこった、道路は封鎖されてるし、車も拾えないし、今晩は家に帰れそうにないな……
チーフめ、なーにが記事なら昨日で書き上げられるはず、だ……一日で終われるはずないだろうが……
うわああああ!な、なんだ!?!?
(戦闘音)
そこをどけ、じゃないとお前の脳みそをぶち抜くぞ。
ひぃ――――か、勘弁してください、今すぐどきます――
おっと動くなよ、そこの兄ちゃん、脳みそをお引越しさせたくはないだろ?
で、でも彼女がどけって――
口を開いても閉じても殺すって言う人だぞ、そんな人を信用すんのか?
じゃ――じゃあどうすれば――
トーラン、一般人の後ろに隠れて情けないと思わないのか?
あ、あああ――
それもそうだな、じゃあ三つ数えるか?
た、頼むから、やるなら私抜きにやってくれ!
一。
イヤァ――
二の。
……
三!
(企業職員が走り去り、トーランとモニークが戦闘を再開する)
イカレてる、あの二人イカレてやがる――
それよりどこだよここ――待った、あれって――
騎士さん!騎士の旦那!
私はローズ新聞社の者です、助けてください、ローズ新聞のことは知ってますよね?編集部にあなたのことを推薦しておきますから、あっちにイカレた輩が二人いて――
……
――ひっ――
……
……もう矢は使い果たしたんじゃないのかい?
チッ、数分かけても獲物を捕らえられなかったのは初めてだ……大したもんだな、トーラン・カッシュ。
最初から私を足止めするのが目的だったのか?
ふふ……あんたはどうなんだい、俺と遊ぶのが目的だったのか?
いいや、お前の首は高くつく、どんな時でも、私たちは金が必要なんだ。
ほう?床に伏した弟でもいるのかい?それとも介護する必要がある父親とか?
……この仕事は想像を遥かに超える金をくれるんだ、バウンティハンター。
私たちはお前たちより、騎士より、このカジミエーシュにいる誰よりもこの社会のルールを熟知している。
私たちはただ早道を選んだだけだ、今晩のハンティングを終えれば、私たちは新たな始まりを迎える。
だが今、またバカ一人がそれを邪魔しにきたみたいだがな。
……
(逐魘騎士が近寄ってくる)
……この、意気消沈した都市で……またこんな夜空が見れるとはな。
これこそが私の知っている夜空だ、この汚れた人工物をここに沈めさせ……この街の血を抜いてくれた、よくやった、名の知れぬ反逆者よ!
……あんた本当に変わった騎士だな、私闘は金にならないぜ?
チッ、また茶番が始まった。
みんな無事か!?
お姉ちゃん!さっき予備電池を見つけたよ……だから……このランプはもう消してもいいよね?長く持ちそうにないし……
……みんな無事なようね。フォーゲルとコーヴァルは外で様子を見に行ったわ、あとで戻ってくるって。
ムリナールは?
叔父さんは家にいるよ、せっかく仕事から息抜きできるチャンスだから、一人で家にいたいって言ってたけど……
シャイニングさんとナイチンゲールさんは?
彼女たちならドクターが無冑盟に狙われることを案じて、感染者収容センターに戻っている。
……
心配するな、二人とも頼りになる人だ。
ううん……ただ……お二人のことまだ全然よく知らないからさ……
すまない、私が接触しないようにしているんだ……ドクターたちを私個人の事情に巻き込ませるわけにはいかないのでな。
ただいつか、必ず改めて紹介するよ。それに、マリアもいつか、あの船に乗れるかもしれないからな。
理想家の光はどんな人でも惹きつける、それぞれの進む道と、信念が異なっていても、心の中にある意志を揺れ動かせるものなどは存在しないのだから。
……それってまるで……
まるで読んでいた本の中の騎士みたいだろ。
(バーの扉が開く)
帰ったぞ!
本当にあたりが真っ暗だ……隣で懐中電灯を売ってる店は今夜繁盛するだろうな……
マーガレット、来ていたのか。
今の外はどこもめちゃくちゃだ、ここで大人しくて、電力が回復するまで待ってたほうがいいんじゃないか?
なにを待つんだ?今日あった試合も見れなくなったんだぞ?
今日は本来ならトップ8の騎士を決める最初の試合だった。
……もしかして血騎士のことも注目していたの?
少しはな……彼は今シーズンの選抜からメジャー戦まで無敗だったからな……それだけじゃない……
彼は感染者の英雄でもある。
……どこに行くんですか?文句ってわけじゃないですけど、こっちもあんまり時間がないもんですから……
ここです。
チャンピオンウォール展示会場?
密会ですので、くれぐれも声を荒げないでくださいね。
アタシに会いたがってる騎士って一体誰ですか?
騎士ですか……そうですね、尊敬に値する騎士と言えば間違いありません。
……
うふふ、そう緊張なさらずに……少しお年を召した女性の方ですよ。
先にお入りください。
……あなたは来ないんですか?
あの方はカジミエーシュでも指折りの人物でして、少し怖いんですよ。
へぇ……燭剣を掲げる燭騎士にも怖い人がいるんですね?じゃあ尚更アタシが会っても大丈夫なんですか?
……きっと違う反応を見せると思いますよ。
なんせ名義上では、彼女は私の養母みたいなものですから。
(連合会と一緒でここも緊急用の電力を備えている……大遮断の影響はなしか……)
(騎士……それと連合会は……)
(……未だにこの暗闇の中で光を輝かせている。)
……
光がチカチカと煌めく。
ソーナは考えることを打ち切られた。
騎士と資本も避けるような濃い夜の色。
そんな夜に溺れ死ぬのは一体誰なのだろうか?
(年長な騎士が近寄ってくる)
……焔尾騎士の、ソーナね。
さあこちらへいらっしゃい、よく顔を見せてちょうだい。
――!
あ、あなたは……!!
あら。今日は別に公務として会ったわけではないわよ。
聞いたわ……感染者騎士は監察会の一部の騎士と、取引をしたようね。
騎士協会と監察会議員の、デミアンという人物じゃないかしら。
……
感染者は大騎士領で生き長らえるため、彼の支配に下ることを約束し、今回の騒動を起こした。
そして四都市の大遮断……監察会はこの事件の再発を黙認したのよ。
この壁を見てみなさい……ここにいる騎士たちは、本来ならこんな姿で人々の注目を集めるような存在ではなく、真の英雄になれる存在のはずだったわ。
はぁ、あなたは……それで悲哀を感じないかしら?
……悲哀なら、感じます。
けど感染者たちのためにも、今の私は不公正な待遇に、享楽と欲望に沈んでいる人々のために悲哀を覚える暇などありません。
頑張って苦労しながらも生きている、カジミエーシュ人の誰一人に対しても……同じです。
……素晴らしい主義主張だわ、リスのお嬢さん。
本当に監察会は私たちに普通の生活を約束してくれるのですか?
手続き、公的文書、国民院が認可した法律文書があれば。もちろん、監察会が代わりにやってあげるわ。デミアンはあなたたちに約束したからね。
しかしあなたたちの身体に生えてる源石結晶のことはどうするの?
……
私はあなたたちのことが気に入ってるの、レッドパイン騎士団、けど輪郭がはっきりしない問題のことも、あなたたちは克服する必要があるわ。
あとでデミアンがそちらに向かうわ。彼のことなら信じてあげなさい、方法はちょっと馬鹿っぽいけど、彼なりの考えがあるから。
……わかりました。
……さあ、私の騎士団もそろそろ到着する頃だから、はやくお仲間さんたちと合流しに行きなさい。
それと、ヴィヴィアナにも伝えてちょうだい、たまには一緒にご飯を食べに来なさいって。
……
…………騎士とは一体なんなのでしょうか、マダム?
それは一人一人で答えが違ってくるわ、お嬢さん。
私の答えなんて多分聞きたくないと思うわよ、私たち年を取った連中は、あまりにも多くの道を歩みすぎたからね。
さあ、リスのお嬢さん、行ってきなさい。
カジミエーシュの朝日がまだ灼熱のままか、その目で確かめてみるのよ。
……見失っちまった。
もう一回包囲殲滅したほうが効率的になるのかな……
(無線音)
俺だ、どうした?
……なっ……数は?
(戦闘音)
……卓越した剣捌きだ。
はぁ、こっちはあんたとのお突き合いに時間を無駄にしたくないんだけどな、騎士のお兄ちゃん。
……イカレた野郎だ……
トーランを殺したあと、すぐに撤退しておこう。
(無線音)
……こっちは今“公会のボス”と夢魘との鬼ごっこに付き合わされてる、話ならあとにしてくれ。
……
いや……私もすぐに行く。
(無線が切れる)
鬼ごっこはここまでだ、トーラン。
逃げるつもりかい?
いいや。
それとお前、夢魘。
――!お前夢魘なのか!?
……
しばらくは休戦だ。
お前……カヴァレルエルキに来たのは同胞を探すためと試練を受けるため、なんだろ?
栄誉ある伝説をそう軽々しく口にするな、カジミエーシュ人、お前にその資格はない。
私はただ警告してあげただけだ、夢魘。
無駄骨はよしたほうがいい。
それは言えてる。
……なにを根拠に……
……フンッ、もう会うことはないだろう、このアホめ。
交通はまだ回復してないのか?一部じゃもう電気が通ってるって聞いたぞ……
こんな損害を起こして、騎士協会からはなんの補償も出ないのか?
そうだそうだ!政府は観光の補償を出すべきだ!
はぁ……冷蔵庫の肉は大丈夫なんかな……
……それは本当か?
はぁ。
知ってるか、あいつら一人がかりなら、俺たちも単独で仕留められる。
だが二人がかりなら、協力しないと無理だ。
三人にもなれば、空前絶後の激戦になるだろうな。
もし三人以上だったら……一個の戦術部隊と見なしてもいいだろう、無冑盟じゃ歯が立たんよ。
もし両手でも数えきれないぐらいの数がいたら、無冑盟全員でかかっても、二三回殺されても足りないぐらいだ。
それは知ってる、私だって見たことぐらいはある、お前に言われるまでもない。
それで歩哨が見た数はいくらだ?
四十人弱だってさ。
最悪だ……こんな節目にか?
……ああ。理事会にも伝えてある。
あいつらも四都市連合を攻め落とすつもりなのかな?
……ありえない!
そ、そんなのありえない……軍事顧問はどこだ!征戦騎士を監督してる責任者はどこだ!?
この前監察会が動かしたあの征戦騎士たちなんだが、前回報告した時ヤツらはどこにいた?
……573キロ先。
通常規模の征戦騎士小隊の進軍速度じゃ絶対に間に合わないはずだ……馬鹿な、早すぎる……
まさか監察会は連合会の目を盗んで、ほかの部隊を動かしていたのか?いや、そんなのありえない……
……待った。
銀槍のペガサスの先鋒隊の……一番速かった記録はどれくらいだ……?
なっ……ヤツらは……自分たちの軍隊識別番号を偽装していただと……?しかも、自分たちの甲冑と槍にもカモフラージュを施していただと?
ん?なんかちょっと明るくなってないか?
あっちを見ろ!あの道の向こうが光ってる!きっと電力が回復したんだ!
でも……街灯とかは消えたままだぞ……
どっちかって言うと……月の光みたいだな……?
月光。
ガラス管に光が通ったネオンライトが繁栄したことにより、人々は月光本来の輝きを忘れてしまっていた。
この暗闇の都市は――
――すでに銀光によって照らされていた。
………………あ、あれも騎士なのか?
せ、征戦騎士だと!?なんでこんなところに!?
騎士が群衆を通っていく。
騎士の街と謳われたこの都市を通っていく。
だがこの街はこの騎士たちを認めてなどいない。
騎士もこの街を認めていない。
彼らは遥か遠い辺境の要塞からやってきた。
その身にははっきりと匂えるほどの泥臭さが染みついていた。
血肉を浴び、白骨になるまで戦い、戦場に埋もれた無数の英傑たちだ。
……全無冑盟へ通達、今どんな任務を請け負っても、直ちに手を止めるんだ。
面倒事がイヤなら何もするな、下手に動くんじゃないぞ。
ゴクッ。
モニーク?
あそこ……あそこにいる人は……
……
……懐かしいかい?
いいや。
……俺は懐かしく思うけどな。
この大地は思ってるほど悪くないと勘違いして、意気揚々としていた時代が……懐かしく思ってくるぜ。
……
だがもしなにも思うことがないのなら、あんたがここにいるのはおかしい、違うかい?
ムリナール、周りを見てみな、この街は眠った、誰も想像しなかったことが起こった。
あんたはどうなんだい?
(企業職員が駆け寄ってくる)
報告です!一部の通信回線が回復しました――!
――国民院の判事に繋げてくれ。
はい。
(無線音)
……判事殿か?
私が言おうとしてることならご存じだろう、あの征戦騎士たちは許可なく大騎士領内に踏み入った、すでに第二法案に抵触している――
前任の国民院判事のデュークさんなら、賄賂受け取り、違法取引、さらに謀殺と涜職など多数の容疑にかけられ、すでに勾留されております。
……
冷静に発言をお選びになられてほうがよろしいかと、代弁者様。
大騎士領は停電による緊急事態に直面しておりますので、監察会には緊急事態時に軍を派遣する権限がございます。
ほかになにかご質問はございますか?
……いいや。邪魔をしたな、では。
……マギーさん。
……ああ。
通信がほぼ回復したようです、マギーさん。
皆さん忙しそうにしてますね……ところで、電話はどういうものかご存じですか?
……?そんなのもちろん、通信用の道具……
いいえ。電話とは現代社会における紡錘と鋤、この現代社会を編み出してる血管のようなものなのです。
偉大なる象徴なのですよ、マギーさん。
……
マギーはなにも言葉を返さなかった。
ただ突然マルキェヴィッチから雰囲気を感じたのだ。
数か月前には創業に失敗し、何も成し得ず、他人の言いなりになっていたこの男から、とても自然な雰囲気を感じた。
マギーはこれまでたくさんの人からこういった雰囲気を見てきた。
彼らのほとんどは変化と競争の中で我を失ってきたが、そこから生き残ってきた人たちは――
――ほとんどなにかの一部へ形を変えてしまっていたのだ。