「騎士の最後の敵は、この大地そのものになる。」
「地上で大人しく身を置くべきだった都市たちは、民の血と汗を糧に、蠢き始めた。」
「都市は暮らしのバケモノだ、彼らを召集し街々に抗え、最も純粋たる素晴らしさを彼らに返してやるのだ!」
「草原を再び草原へ、空を空のままへ、人々の意志を固め、永遠に朽ち果てぬ栄光を!」
「我こそは最後の騎士なり!」

どうですか、征戦騎士の目的地は分かりましたか?監察会でしょうか?

いいや……

……ヤツらは、チャンピオンウォール展示会場へ行った、歴代優勝者の肖像画とトロフィーが飾られてる場所だ。

……なぜです?直ちに政府関連の施設に行くべきでは?

理事会も今このことで話し合ってる。私が見るに、今回の事件は監察会がメンツを取り戻すための一歩目なのだろう。

次の一歩……もしかしたら次の一歩で、ヤツらは軍を常駐させるかもしれんな。

……

だが今のカジミエーシュは、ヤツらが喉元にナイフを突き立てれば従うほど臆病じゃないさ……愚かな騎士はまだその点に気づいていない。

暴力による時代はとっくに過ぎ去ったんだ。

……ええ……

すまないがあなたにはもう一度ゼロ号地まで行ってほしい、感染者収容治療センターにとって停電は手痛いものなのでな。

そこで問題が起こってないか様子を見に行ってほしいんだ。

わかりました。

報告です、代弁者様、電力システムが……ほぼ回復しました!今再起動を計っています!
暗闇の中に銀光が通っていく。
喧噪な観客たちはその豪華な登場を見ようと人の壁を作り出した。
街灯がチカチカと点灯する、そして、ネオンライトが再び片時眠りに落ちていたこの街へ戻ってきた。
銀槍の天馬たちは広告の灯の下でまるで場違いなように映っていた。
しかし、その場にいる誰もが、野次馬の人々、慌ててる騎士、興奮してる観光客……
その誰もが錯覚していた、天馬が光をもたらしたのだと、みな錯覚していたのだ。
街は彼らが過ぎ去った後、彼らの背後で徐々に活力を取り戻していたのだから。

……イオレッタ総帥。

お久しぶりね、ライム。

長旅ご苦労、しかし残念ながら、あまり休憩時間は残されていないみたいなの。

我々に休憩など必要ありません、カジミエーシュのために穢れを清めることが急務ですから。

ふふ……あなたは相変わらずせっかちね。

今回の宴の主人公に会ってみる?

……マーガレット・ニアールですか?

彼女はあの頃の総帥のお誘いを断るべきではありませんでした、本来ならあそこまで没落することなく、我々の内でも一番優秀な人材になり得たはずです。

しかし、彼女はまたカジミエーシュへ戻ってきた、さらにはもう一度あの偽りまみれの舞台へ上がっていった……もしやマーガレットは追放されたことで考えに変化が生じたのでしょうか?

あなたはマーガレットと決闘したことがあったわね、彼女はどういう子だった?

ふむ……時間は万物を変えうる、今のマーガレットは……

ここの壁をご覧なさい、ライム、メジャーリーグの歴代優勝者が飾られているわ。

なぜこんな徐々に崩壊していく時代の中から傑出してきた騎士たちは、未だにこのような光を浴びているか考えたことある?

……優秀な騎士が一人二人出てきただけでは、説明にはなりませんよ、総帥。

騎士競技は依然として純粋なる冒涜のまま、カジミエーシュの禍根のままです。

大騎士領に戻ってくるたびに、私は悲しみを重ねるのです。我々の民は今も畏敬を忘れようとしている、崇高なる人徳も陳腐な笑いのネタにされているのですから。

……そうかもね、征戦騎士が大騎士領を去ってから、ずっとこの有様だわ。

ただ時代はいつだって若者の手にあるものよ、私たちが得た答えなど、もはやどうでもよくなったわ。

……ドクターもお気づきになられていたのですね。

さすがです。

・私たちがカジミエーシュの中心で派手に動くわけにはいかない。
・アーミヤと各オペレーターの安全が最優先だからな。
・誰も私たちが好き勝手に動いてほしくはないと思ってるだろうな。

……わかりますよ、ニアールさんもメジャーリーグ期間中は私たちがドクターのもとに戻ってほしくないと思っていましたから。

ただ現地の感染者から聞いた情報がますます無視できないものとなっていたので……アーミヤさんとドクターもきっとこの件について知ってるかと思います。

……いいえ、シャイニングさんの判断は正しかったです。

もし感染者たちが本当にゼロ号地で……非人道的な扱いを受けているのなら、私たちも“危険が及ぶ”という理由で無視するわけにはいきません。

……

ただ……ドクターが心配してることも理解できます……カジミエーシュはウルサス、それと龍門とは違いますから……

考えてみよう。

・今すぐ施設を吹っ飛ばし、中にいる感染者を救助した後、カジミエーシュから離脱するのはどうかな。
・今すぐ連合会と話をして、感染者全員を買い取るのはどうかな。
・今すぐこのことを国民院に検挙し、監察会に委ねよう。

……暴力はいけませんよ。

もし仮にそのラインを越えてしまったら、ロドスは瞬時にカジミエーシュの力にねじ伏せられてしまいます。

私たちは今カジミエーシュの中心にいます。もしかしたらこの国はウルサスと本質的に異なってるかもしれませんが、それでも……ここは騎士の国です。

ここの内側に蔓延る矛盾がどれだけ激化していようとも、カジミエーシュであることに変わりはありません。

ロドスはそんなカジミエーシュと敵対してはいけません。

えっ……ろ、ロドスにしてもそれは厳しいんじゃないですか……?

仮に感染者を全員買い取ったとしても……その後はどうするんですか?カジミエーシュからもう感染者は現れないとでも?

そんなこと、感染者を……取引可能な商品にしてしまうだけです。

それでは根本的な解決にはなりません。

監察会……私はまだゼロ号地の全貌すら把握していません。

監察会は商業連合会とずっといがみ合ってる仲ですが、監察会の感染者への態度はどっちつかずのままです……もし監察会が最初から黙認していたとしたら?

その際ロドスは……なにができるのでしょうか?

……ドクター。

どうするおつもりですか?

彼らのやり方で、彼らの問題を解決しよう。

あっちに行ったぞ!追え!

……チッ!

(電力はもう回復したか……ソーナならきっとどうにかして合流しに行ってるはず。)

今すぐ増援を呼べ――

ここの角を曲がって――ッッ!

本来ならゼロ号地で大人しくしていたのに……急に真っ暗になっちゃった。

とうとう無冑盟は哨戒してる場所に電気代を払わなくなったのかなと思ったら、この支援要請だよ……

……プラチナ!

……またアンタか。

前回で焔尾騎士ともども反省していればいいんだけれど。

お生憎……私は叩かれた分だけ、抵抗しようとするタイプの人間なんで。

そこをどけ――!
(爆発音)

学習しないなぁ……ならまた懲らしめてやるしかないか。

(距離を離された――さっきの一撃さえ防げば反撃できたはずなのに!)

ここにいたぞ!プラチナ様を援護に回れ!

(しまった――後ろに――!?)
(矢の射る音)

うがっ!
(無冑盟構成員が倒れる)

なっ……
(外灯が矢で割れる)

くっ……!街灯を潰して目くらましか……

……ガラスで顔を切ったらどうしてくれるのさ……まったく……
(無線音)

ユスティナ!

灰豪、はやく逃げて。

こっちでなんとか足止めするから。

……わかりました!
(無線が切れる)

逃がすか!
(複数の矢を射る音)

チッ……鬱陶しいな、先に隠れる場所を探して、それから方角を……

……!
(複数の矢を射る音)

制式のライトクロスボウの射程距離はこんなに長くないはず……

まさか、二人いるのか――

遠牙、ヤツに気づかれたようだ。

場所を移すよ。

狙撃ポジションで無冑盟を挑発してはいけないけど、今は……二対一だ。

(射撃が止んだ……移動したのか?勘のいいヤツめ。)

(こんな面倒臭いことなら救援要請なんか無視しとけばよかった……)

(でも……)
目を閉じた。
プラチナは忽然と遠い昔のことを、両親が自分に語ったことを思い出した。
彼女の鋭い視力ならきっと一族に栄誉をもたらしてくれると、二人は言った。
しかし今、はたして彼女は栄誉だろうか?

捕らえたぞ、シェブチック。

ッ――!?
(複数の矢をいる音)
矢はまるで嵐のようにシェブチックの顔をかすめていった。
あとほんの少しズレていたら、彼の頭は原型を留めていなかっただろう。

――撃ち返してきやがった?この距離だぞ!?

どうしたの?シェブチック?

チッ!止まってはダメ、動き続けるんだよ!

スゥ――フゥ――

……次は、オマエの番だ。
(矢がユスティナをかすめる)
(ユスティナが走り去る)

――!
(爆発音)

……特製の矢か……なんて威力。

こんな複雑に入り乱れてる街の中でも、私たちの動きを正確に捉えている……?

……見えなくなった。

逃げたのか?

私は……逃げるつもりなどないぞ、プラチナ。

……
(シェブチックが走る)

……貴様……私の家族をどうした!?
(斬撃音)

二人になにをした!?

……遠距離じゃ歯が立たないから、近づいて一騎討ちってわけ?

すごい発想だね。
(戦闘音)

うがっ――

情けない……一人の父親が、無冑盟に抗ったからここまで落ちぶれるなんて。

――このぉ――!

別に奥さんと子供を殺したりはしてないよ。

――じゃあどこに隠したッ!

無冑盟の言うことを聞いてくれるのなら、とりあえず電話ぐらいさせてあげてもいいよ。

……貴様……

いや、私にレッドパインを裏切れと言うのか?

アンタは父親で……騎士なんでしょ?

感染者のためにそこまでする必要なんてある?シェブチック?

……

……動かないで。

プラチナ……そこまでだよ。この距離なら、いくら動きが速くても矢には敵わないはず。

……選びな。

……チッ……

どいつもこいつも……騎士を眼中に置きやしない……

誰だって騎士競技に参加すれば騎士になれるよ、古いお家のほうがなり易いってだけ。

騎士の夢には……本当に……失望させられたよ。

……チッ!
(斬撃音)

――家族より自分のプライドのほうが大事ってわけ?

元から貴様を信用するつもりはない、ゲスな人殺しめ!

やれッ!遠牙!

――
(矢の射る音)

街はもう落ち着いてきたな。

とんだ大騒ぎだったよ……

……ソーナたちがやったのかな?

……そうかもな、それかほかの人も手を貸したのかもしれない。

彼女たちの内側には不公平への怒りで満ちていた、抗おうとしているんだ、だが感染者の反抗は……いつだって最後には利用される。

そのような惨劇は……何度も見てきた。

……マーガレット、もしかして、彼女たちを助けるつもり?

……

感染者のために戦うことと、騎士として戦うことは、今のカジミエーシュからしたら、とても矛盾した行いよ――

――感染者が受けてきた不公平は、私たちの目の前に映った無数の苦難の縮図でしかない。

感染者のために正義を広める人が出てくると私は信じているよ、それに、その人たちなら必ずやり遂げてくれるはずだ。

お姉ちゃん……

だが私たちだけで救いに行っても無駄だ。堅い意志に目覚めた人たちだけが救いに行っても、まだまだ不十分だ。

……珍しい客人だ。

ムリナール様、ご無沙汰しております。

……私に畏まるな、もはや騎士とも呼べなくなったのでな、お前も自分の身分を忘れるな。

マーガレットを探しに来たのなら、失望するかもしれないぞ。

……久しぶりに大騎士領に戻って見たら、英雄の邸宅は、こんな有様になってしまったのですか?

あの姉妹はもうここに住んでいないのでしょうか?

……

ああ、これは失礼……ご家庭の事情でしたな、申し訳ありません。

……まだなにか用か?

ムリナール様――

その呼び名はやめろ。

ほかの者はあなた様を蔑むことができても、私たちにはできません。

マーガレットが道を誤っても、彼女の妹はまだ年若い、それにニアール家は歴史と名声で敬意を得たわけではないのはあなた様もご存じのはず。

あの自らをエリートと謳ってる商売人どもはその本質を理解していないからこそ、騎士たちの行いの数々に疑問を呈しているのです。

それにあなた様が健やかであるところを見ただけでも、私としては安心できます。

……こんな有様を見てもか?お世辞は結構だ、騎士の旦那様。

もし本当に私のためとお思いなら、どうぞお帰り願いたい。

ムリナール様。

どうか、あなた様に……いえ、ニアール家に最高の敬意を表することをお許しくださいませ。

……英雄の幕はすでに下りたのだ。

ただの一般的なカジミエーシュ人が、銀槍のペガサスから出た最高の敬意を受け持つことができると思うか?

……奇妙な夜でしたね、ドクター様……

もうすぐ日の出でございます、すぐそちらへ駆けつけられず申し訳ありません、連合会にはいつも数々の仕事が舞い込んできますので……

あなたはゼロ号地のことをどうお思いですか?

……

それは……聞かなかったことにしてもよろしいでしょうか?

あなたは聡明なお方なのでご理解頂けるかと。

それは残念です。

……いいでしょう。

あなたは……大騎士領がこのように感染者を扱うことを、合理的な措置だとお思いですか?

返事は結構です、お互いその答えを――妥協した答えを知っていますから。

完璧で情のある選択を出せないのであれば、血腥い原始的な答えを選ぼうとしなければ、結果はそうなります。

それは合理的とは言えませんよ、マルキェヴィッチさん。

ご存じでしょうか……もしカジミエーシュの歴史書などをお読みになったら、お気付きになるかと思います、我々の今ある社会がどういった“不合理”の上に成り立っているのかを。

それかご存じないかと思いますが……夢魘がもたらした動乱でペガサスの国が転覆してしまい、そのあと騎士の国が成り立った後、一番最初に団結したのは従者たちでした。

従者たちは騎士たちのために財産を運営し、土地を治めてきました、その後、彼らは再び手を取り合い、悪逆非道な大騎士たちを表舞台から引きずり下ろしたのです。

では今はどうでしょうか?商業連合会は殺し屋組織と競技騎士を飼っている、そして飼われてる側はこの先ずっと抗おうと、権力の楔から逃れようとしている――

……歴史は繰り返すものなのです、ドクター様。

前任の代弁者も卑劣な事柄に手を染め、それでツケを払わされました。そして今、今度は私がその席に就かされ、力の限り仕事を全うしております。

こういった物事は、あなたの道徳的な観点に合致しておりますか?はたして、“合理的”に見えますでしょうか?

どこからそれを知ったかは存じ上げませんが……あなたもすでに察してると思います。

試合で重い怪我を負った者に、抑えられなくなるほど鉱石病が悪化した者に対して、連合会は……人道的な処置を施すことを選ばれました。

これは不合理でしょうか?もちろん、私も“ノー”と言いたいところです。

しかし私たちはこの先ずっとあの感染した患者たちを養わなければいけないのでしょうか?この不治の病を……

鉱石病が“治癒”されない限り、私たちは平和に共存することは不可能なのです。

生を必死に掴もうとする人々を“処置”することは、もはや殺害とも言えます。

……不合理と感じた人々を排除しきれたからこそ、合理的な歴史は作られてきたのです、幸い私はその点をようやく受け入れられましたが、そちらはまだ理解されていないのですか?

それはカジミエーシュへの挑発とも受け取れます……あまりおすすめはできません。

確かにほかの方法もあるかもしれません、もしその方法をお探しなのであれば、私もお力添え致します。

しかし今ではありません。

昨晩の停電を引き起こした主犯は、感染者騎士です。

もしも、もしもの話です、もしも停電によって交通事故を引き起こしてしまったら、もしくはご年配の方がつけてる呼吸器が止まってしまったら――

感染者を救うという立場のもとで、私たちはそんな悲劇に、目を逸らさなければいけないのでしょうか?

感染者の試合への出場が認められたことで、カジミエーシュの国民は全員がその負担を背負わされています――

そしてその負担はまさしく社会から生まれたものなのです、個人でも、特定の団体からでもなく、ドクター様。

・しかし今でも、感染者は絶えず亡くなっている、私たちはそれに目を逸らしています。
・あなたの言う通り、「ほかに方法があるかもしれません」。
・……
・……

今この時でも、多くの一般人たちが病や天災を受けて、非業の死を遂げています、全員を救うことは不可能です。

本当に申し訳ありません。

……ええ。

もしなにかお考えでしたら……あなたならきっと成し遂げられると信じておりますよ。

しかし私が今話したことも努々お忘れなきよう、ご年配が道路を渡る時の手助けのようにこの一件を軽々しく扱わないで頂きたいと思っております。

ゼロ号地が抱えるいざこざはとても複雑なものですから。

……申し訳ありません、言葉が過ぎたかもしれません。

そちらも落ち着いてお考え頂ければと思います、そうすれば双方ともにメリットが生じますので。
(グラベルが部屋に入ってくる)

……ドクター様。

あなたにお会いしたいという方が。

……では私は失礼させて頂きます。

誤解しないでくださいね……可能であれば、私はあなた方のほうに立ちたいと思っておりますので。

ただ、無数ある“不合理”と“無力”の中から、最も可能性ある答えを導き出すことは、とても困難なことです。

あなたの言う通り……今回の大停電、耀騎士、血騎士、これらの要素があの感染者騎士たちの抗う意志に火を点けたのかもしれません。

事件が一通り収まるまで、どうかお互いとも……なるべく死傷を避けていきましょう。

“善は報われる”と言いますが、今の時代において、もはやそれは自分から掴みに行かなければ実現しなくなりましたから。