
突然ともう一人のチャンピオンが現れ、雷霆のごとく一触即発の二人を止めました!

昨晩の試合は逐魘騎士のアーツがルール違反の疑いがかけられてことにより中止となりましたが、その事態の悪化を防いだのが、紛れもなく“英雄”である血騎士ご本人です!

逐魘騎士と耀騎士も相打ちという形で手を止めてくれました、逐魘騎士に関しましてはこれから不戦勝によって勝ち進んだ血騎士との対戦が予定されております――

相打ち……?逐魘は違反してたんですから、耀騎士が勝ったことにはならないのですか?

……感染者にこれ以上勝ってほしくないのよ、きっと。

シェブチックは?

家族へ会いに行った、しばらく一人にさせてあげて。

……正直、アイツのことは嫌いでした。

見りゃわかるわよ。

確かに、けどそんな露骨に嫌悪感を出すつもりはなかったんでしょ?

……

彼にも家族がいたから、でしょ?

この都市にいるせいでしょっちゅう忘れちゃうけど……アタシたちだって生きた人間なんだもんね。

アタシたちはアタシたちの選択肢を、アタシたちの生活を持つべきだわ、無尽蔵の荒波の中で……自分を見失うんじゃんくてね。

血騎士と逐魘騎士の世紀の一戦が、今宵開幕!

ナイトオブナイツをご覧になってる皆様、今夜八時に当チャンネルで最高の試合をお送り致します!

(高らかなピーピーと鳴る音)

ハハッ……ジャスティスナイト号!お前も無事だったのか!

イヴォナ!まだ動いちゃダメだって……

肩を貸します。

へへっ……あんがとよ、カイちゃん。

カイちゃんって呼び名はアタシだけの専売特許なんだけど?

ハハッ、じゃあちょっと借りるぜ……

使用料金は払ってもらうからね。

……イヴォナ、あの日のあれって……

ああ、血騎士で間違いない、チラッと姿が見えたんだ。

……現場には血のアーツの痕跡が残っていた。

あれは……すごくヤバいアーツ。今のアーツは、ただ発動するだけでも痛みが発生するのに、あんなアーツを使うなんて想像できない、血騎士は一体どれだけの苦痛を受けているんだろう。

……血騎士は……強い。

それはみんな知ってるよ。

血騎士がいたからこそ、感染者騎士にも試合への参加資格が与えられたんだから。

……連合会のおもちゃになって……自由と尊厳は失いましたが……そのおかげで私たちは生き残れました。

生きてりゃなんとかなるしな。

……耀騎士と血騎士、みんなはどっちを応援するの?

……アタシは血騎士だ。感染者のために未来を切り拓いてくれたのはアイツだからな。

今私たちに必要なのはたゆまぬ闘争であって、現状に満足することではありません……ですので私は耀騎士を応援します。

あなたはどうなんです?

……私はソーナを応援する。

おいおい、そんなのアリかよ!?

……お呼びでしょうか?

……

……理事会が……ゼロ号地の処遇を決断なされた。

現段階における感染者の措置は誤りだったとのご判断だ。

誤り、ですか……

それに加えて、ロドスの指導者もゼロ号地に深入りしている。これは無冑盟の過失とも言えることだ。

……

常務理事長の何名かは無冑盟に草の根を断つことを強くお求めになられている。ロドスの医療チームを決してカジミエーシュから出すな。

できるな?

……

……了解しました。しかし、理事会全体ではなく、“常務理事長の数名”というのはどういうことですか?

……お前が知る必要はない。お前の指揮権は私たちが握っていることを忘れるな。

正確に言うと、握っているのはそちらにいるマルキェヴィッチさんです。

マルキェヴィッチ……どうするかはわかっているな?

……

怪我したの?

……ああ、防いだときに貰ったんだろう。

あの時はなにも感じなかったが……骨までいってるかもしれない。

ちょっと動かないでね、診てみるわ……

医者を呼んだほうがいいわね、今後の試合にも響くかもしれないし……

お姉ちゃん、とりあえず氷とか当てたほうがいいんじゃ……

そうだな。

アーツじゃ治せないの?

痛みとか傷口を治すことはできるけど、骨折となると話は違ってくるわ、処理が下手だと最悪後遺症を残しかねないからね。

どうしよう……次の相手は風騎士でしょ……あの人も強敵だわ、もし怪我のままだったら……

……ゾフィア、心配はいらないさ。

心配いらないわけないでしょ!

ただの軽傷だ、とっくに慣れてる。

……これでも……軽傷って……

お姉ちゃん……一体なんのためなに、そこまで頑張って、そこまで強くなろうとしてるの?

優勝するため?

「ルールの中でそのルールの主に勝つことはできない」、叔父さんからそう言われたことは憶えているな。

……うん。

あれはただのムリナールの意地悪で――

いいや、私にはわかる。

叔父さんの言ったことは正しい。

だが私たちが勝とうとしているのは、ルールを定めた者ではない。

ルールそのものに打ち勝つのだ。飼い慣らされた者たちをもう一度立ち上がらせ、堕落しきった者たちにもう一度光を取り戻すために。

叔父さんは……信じてないだけなんだ、灯台の導きに従って、嵐に歯向かう人はもういるはずがない、とな。

だが私はそうは思わない。

この苦難を退ければ、人は必ず前へ進んでくれるはずだ。

……しばらくは医者の言う通りに、安静にしておるんじゃぞ。

次の相手はあの風騎士なんじゃろ?もしそれまでに回復しなかったら、痛い目を見るからな。

……私みたいになるんじゃないぞ。

もう手が動かないと知ってもなお無理をすれば、最後はこうなっちまうからな。

ああ、心配をかけたな。
(マリアが扉を開け駆け寄ってくる)

……お姉ちゃん!ほら見て!

新しい甲冑か?

もう出来上がったのか……驚いた、少なくとも明日にならないと調整は終わらないと思っていたぞ。

俺一人だけじゃ、二三日はかかっていただろうよ。

この前はお前の新武器に合わせてお前の籠手の調整ができていなかった、まあどう調整すればいいのかすらわからなかったが。

だがその教訓もあってか、今回のマリアの手はかなり速かったぞ。

……マリア、ロドスで優秀な職人たちを知ってるんだ。今度君に紹介するよ。

ホントに!?どこの職人さん?

ウルサス人、リターニア人、極東人、ラテラーノ人、どこでもだ。

……わぁ……じゃあすごいレベルの職人集団なんだね……ん?でもお姉ちゃんがいるのって製薬会社なんでしょ、なんで職人集団とかがいるの?

それについてはいつか自分の目で確かめてみるといい。

……今ので急に思い出したんだが、むかし君の誕生日の時、ムリナール叔父さんが君に小型のドローンを買ってくれたな。

けどその日の午後にバラしたのを見た時はさすがに驚いたよ。

あ、あの後ちゃんと組み直したじゃん。

あの時は俺も驚いたよ、まあ組み直したらもう飛ばすことはできないが、まさかあの年齢であんな素質があったとはな――

――けどマリアはいつか騎士になるんだろなって思っていたよ。じゃなきゃとっくに工房をマリアに譲っていたさ。

今のうちに譲ってやれ、コーヴァル、お前が天に召されてからじゃ遅いからな。

は?お前それさっさと死ねって言いたいのか?

……自分の好きなことがしたいか?マリア?

うーん……まだわかんない。

ハッ、マリアはまだまだ若いからな、ゆっくり悩めばいい。

でも……すごく久しぶりだよね、こうしてゆっくりお喋りできたのって……

あーッ、お姉ちゃんにあげるゲル修復液を工房に忘れてたんだった!

新しい籠手もまだ調整が必要だし……もうすぐ試合だよね?すぐ取ってくるから!
(マリアが駆け出す)

(お姉ちゃん……あんなひどい怪我してるのに……)

(なのに……)

ん?この音、なんだろ?

……
夢魘は長槍を引きずり、ガリガリと地面に火花を散らす。
怒りのあまりに沈黙していた彼は、光の匂いを辿って、ここへやってきた。
(斬撃音)

――うわぁッ!?

……ん。

お前、彼女ではないのか……お前は……そうだ、彼女の妹だったな。

……彼女はどこだ?

――!お姉ちゃんに、何の用ですか?

まだ決闘は終えていない。

いや、試合はもう終わってますよ!

試合だと……?

我が悠久な天途は試合なんかのためにあるものではない。

耀騎士は私の旅路にとって不可欠の存在だ……なのにあの神聖な決闘が……部外者どもによって邪魔された!

じゃあ血騎士に勝って、それからまたお姉ちゃんと再戦すれば――

黙れェ!

うっ……!

試合……騎士の試合など……ただの見掛け倒しだ。

規則と、観客たちの、ヤツらの歓声に耳を傾けてみろ!お前にはあの冒涜が聞こえていないのか!?

――!
これが騎士競技なの?なにに勝ったの?そしてなにを得られたっていうの?
名誉、富、それとも一族の復興?いや違う、なにかが足りない……そう、なにかが足りないんだ。
考える時間はほとんどなく、マリアは結局、歓声に操られるように高らかに剣を掲げた。
腕から伝わる鮮明な痛みだけが、歓声の慰撫にかき消されなかった。

よくも私をあのピエロ紛いな弄臣どもと一緒にしてくれたな!

……私はケシクの末裔だ、必ず天途を終えなければならない。

そこをどけ、軟弱な童に興味はない、用があるのは耀騎士だけだ――

……ダメ。

あなたを行かせるわけにはいかない。

……貴様がか?

耀騎士の付添いに過ぎないお前がか。

……つ、付添い?

貴様が抱いてる夢と、お前が掲げてる信念は、他者と余所から譲り受けたものにすぎない。

貴様なら若さを言い訳にし、自分が抱えてる迷いから逃げることができるだろう……だがそんなことになんの意味がある?

世間は耀騎士の執拗さを嘲笑っているが、何人たりとも彼女の強さを否定することはできん。

だが貴様は、所詮騎士にも及ばん存在だ。

……

……そこをどけ、さもないと我が刃が貴様の喉元を掻っ切る。

イヤです。

……お姉ちゃんには、会わせません。

彼女は逃げているのか?いや、あのような輝きを放つ耀騎士がそんな人間のはずがない……

では、怪我を負ったのだな?

――

まさか私との決闘で受けた傷が完全に治癒するまで、戦いはお預けだとでも言いたいのか?

恥を知れッ!
(斬撃音)

くぅッ――!

(重いッ――タイタスさんの槍よりずっと重い!)

……

はぁ……はぁ……

私、なんで……

見よ、貴様はすでに恐怖に染まった……

私の前で冷静に武器を振ることすらできてないではないか、もしここが戦場であれば、お前はすでにただの屍になっていたぞ。

……そんなの!

そんなの……騎士であるかどうかとは関係ない。

私はただ、お姉ちゃんを、守りたいだけ――

耀騎士は貴様の守りなど必要としていない、身の程を弁えぬペガサスめ……
(複数の矢の音)

フンッ!

……今の矢、あの青い弓使いとは天と地ほどの差だな。
(老騎士の足音)

その子から離れろ、夢魘。

……バトバヤル。

お前も……私を止めるのか?

マリア!ほら、はやく立て、こっちに来るんじゃ!

う、うん!

お前、頭おかしくなったのか?

……それを聞いてきたのは二度目だ。

失望したぞバトバヤル、お前なら……

もうお前は住処を失っとるんじゃ、若造。

教えてくれ、お前のカガンは一体どこにおる?

ケシクの族長は?大軍の帳はどこにおると言うのじゃ?

もう数千年の時が経っておる……なのにまだ過去に生きておるのか?なぜそこまで伝統に拘る?

その伝統はお前になにを与えてくれるのじゃ?若造よ?

……
(回想)
トォーラ。
あなたの名前は、“草原”を意味する。
己の血統に誇りを持つのよ。
いついかなる時、いかなる場所でも、己に誇りを持ちなさい。
トォーラ。
これからは普通のクランタとして生きるのよ、難しい話じゃないわ。
勉強して、大きくなったら職に手をついて、綺麗な奥さんを貰えばいいの。
(回想終了)

……

バトバヤル、母が獣の牙に殺された時から、私は決心したのだ……

あれは私が見た魘される夢だったのだと。

なにを言っておるんじゃ――

長年藻掻き続けてきた、この……騎士の国で。

だが結局、私はこの道へ誘われた。私の最後の理想を叶えるために。

……待て、待つんじゃ。

まさか、お前のこの旅路の目的は――

……口に出す必要はない。

お前は老いた、だが戦場を体験したことに変わりはない、もしまだ私の邪魔をするのであれば……

お前も踏み越えていく、自らの手で数少ない我が血族を打ち倒そう。

来るがいい。我が歩みは止められんのだ。
(斬撃音)

なっ――
(マリアが攻撃を防ぐ)

フォーゲル師匠――避けてッ!

マリア、大丈夫か!?

だ、大丈夫。

この頭おかしい人をお姉ちゃんのところに行かせたらダメ……じゃないと……!

……止めるということは、私を殺すつもりでいるのだな?

カジミエーシュに生きる騎士は、まだ殺し合いがなんたるかを理解しているのか?

いや、お前たちにできるはずもない。バトバヤル、お前は老いたのだ、そして世間知らずのペガサス、貴様はこの大地の残酷さをまったくもって理解していない。

私と彼女の決闘を邪魔することは、即ち我ら双方の名誉を汚したことになる。

違う!

名誉なんて……そんなのどうだっていいの!

――なら貴様の姉はなぜ戦っているのだッ!?

よくも侮蔑を吐きつけてきたな!ではなぜ耀騎士はメジャー戦の優勝に拘っているのだ、栄光を再び手中に収めるためではないのか!?

それは……

冒涜者め、武器を取れッ!その言葉を吐いた報いを受けてもらうッ!

……それでも……行かせない!

絶対に!








