……いいニュースです、ドクター様。
監察会がロドスの皆様の外出申請に許可を出されました、「重要な提携パートナーに街を散策して頂くことも必要だ」とのことです。
もし一連の事件が起こらなければ、本来ならもっと自由に街を散策して頂けましたが。
(アーミヤとハイビスカスが部屋に入ってくる)
ドクター?お呼びですか?
あっ!騎士のお姉さん!ちょうど私が作った健康食が残ってるので、よかったら持って帰りますか?
……
……ごきげんよう、グラベルさん、ドクター。
・カジミエーシュを観光するまたとないチャンスだ。
・街を見に行かないか?
・休――暇――だ――!
なんという苛烈な戦い!もはや自分の目も信じられなくなるほどです!
(大歓声)
いや違う!名もなき夢魘が!まさか初めてメジャー戦に進出したにも関わらず、チャンピオンと互角にやり合えることにビックリ仰天と言ったほうがよろしいでしょう!
今宵の月明かりも色あせてしまうほど、紅い甲冑同士がぶつかり合う!
皆さんも言われなくとも理解してきたでしょう!トォーラ!この「草原の恐」と呼ばれる逐魘騎士!彼のクレイジーな意志は人々を惹きつけるほどです!
耀騎士との決闘を経てから、一気に人気が高まった逐魘騎士!今回の試合で彼が大騎士に成り上がる物語に、また一ページを加えることができるのでしょうか!?
ではここでおまけのお知らせです、エンシェントヒューマン・エンターテインメント会社がお送りする“騎士称号クイズイベント”が絶賛開催中です!騎士称号を当てた方には、もれなく豪華なプレゼントが贈呈されます!
(戦闘音)
さっきまでの威勢はどうした?夢魘?
……くっ。
ミノス人……我が同胞が命を投げ捨てていた時代、お前たちの英雄はすでに詩人たちが口ずさむ詩歌にしか存在しない者となっていた……
(血騎士が逐魘騎士に近づき斬りかかる)
よく喋る。
ではお前のカガンはどこにいる?お前が誇りに思う同胞たちはこの大地のどこにいるのだ?
……
過去に生きる夢魘、哀れな人だ。
……ミノス人、感染者よ、お前はなんのために戦う?
生きるために戦っている。
ヤツらは私を感染者の英雄に……歴史の支柱に仕立て上げたが、私は最初から生きることしか考えていない。
……感染者の英雄?
なるほど……ではお前も自分の同胞たちのために戦っているのだな?
同胞……?いいや、私たちに同じ故郷を持ってるわけでも、ましてや同じ血が流れているわけでもない、私たちはただ奇しくも同じ病を患っただけだ。
あの者たちの処遇を見て哀れに思った、だから救ってやった、皆のために道を作ってやったのだ。
同胞ではない者たちに……それでもお前は、手を差し伸べたのか。
……笑止。
お前の実力は確かなものだ……だが、今のカジミエーシュはすでに感染者と異国人たちによって分け隔てられたというのか?
カジミエーシュ人は、クランタたちは、一体どこへ行ったのだ!?
まさか遠路はるばる騎士の国に来た私は、感染者と、ミノス人と自分の同族と決闘するために来たというのかッ!?
――なんたる屈辱だッ!
あわわ……こ、ここがカジミエーシュの商業の中心なんですか?
正確には、大騎士領内にある大小数百個ある商業の中心の一つでございます。
距離が近いため、よくここを観光することをおすすめしているんです。
それにしてもジャンクフード屋さんが多すぎます!ざっと見ただけでも、ポップコーン屋さんが三軒、ピザ屋さん二軒にハンバーガー屋さんが四軒も見受けられました!
これじゃ身体に悪すぎます!
あはは……近くに騎士競技会場があるからでしょうかね?
ええ、競技場も商業圏の核心とも言えますからね。
これが、騎士たちの殺し合いによって発展してきた商業です。
……!
……これは……ニアールさんのぬいぐるみでしょうか?
うわぁ!かわいいですね!
……待ってください、このお店、もしかして……
おや、お客さん、みんな耀騎士のファンなのかい?
ならいいところに来たな、ここは耀騎士関連グッズの専門店だ!フィギュアに、ぬいぐるみ、ニアール家の家紋などなど勢揃いだよ!
ついでに言うと、もし耀騎士が風騎士を倒してもう一度決勝に進出したら、源石でできた彫刻作品をメーカーが製造してくるらしいんだ!だから今のうちに予約してみたらどうだい?
どうせ耀騎士なら絶対に勝つんだからよ!ガハハ!
・(ナイチンゲールにぬいぐるみを買ってあげよう。)
・(予約はいくらか聞いてみよう。)
・(耀騎士が使ってた盾を縁起物にできないか聞いてみよう。)
毎度あり!
値段は――おや、外国の通貨でのお支払いかい?龍門幣?なら一回銀行に行って両替してもらわないとな。
為替レートを確認してみるよ、130万龍門幣だっけ?
え、盾?耀騎士って盾なんか使ったことあったか?
まあ、うちにはハンマーとか、サーベルとか最新のスピアとかの模型も置いてるぞ。見てみるかい?
実力は互角!逐魘騎士の凄まじい攻撃は血騎士に防がれてしまいましたが、血騎士はまるで豆腐を斬るかのように、人工会場を更地にしていきます!
時間はすでに10分経過!それでも両者の攻防は依然と嵐のように苛烈です!一体どちらが先に、終わりが見えないような攻防の中から疲れを見せるのでしょうか!?
――っと言ってる間に!チャンピオンがまたアーツを放ちました!相手の薙ぎ払いもそのまま避ける!
もしや両者ともにまだ相手に探りを入れているのでしょうか!?チャンピオンと夢魘、二人とも未だに本気のアーツを見せておりません――
(戦闘音)
……ミノス人、お前はどんな訓練を受けてきた?
残念だが、騎士になるまで、私はまともな戦闘経験を積んだことはない。
騎士になった後でも、見よう見まねでこうなっただけだ。
……天性の戦士というわけか。
若いの。
私はお前の教師になるつもりはないが、そこまで相手を渇望しているのなら、一つ教えてやろう。
コケ脅しの恐怖など、生に藻掻いてる者からすれば、なんの意味もなさない。
血騎士が半歩退いた。
彼の甲冑から鮮血が滲みだし、空中で凝固する。
赤い光が彼の武器を包みこむ、まるで裁きを下す刃のように。
答えろ、夢魘、お前が夢見ている歴史の中、数千年を経てきた歴史の中で――
感染者に僅かでも生きる機会はあったか?
……なにを……
怯むな、夢魘!ケシクを名乗る夢魘よ!
お前のカガンはどこにいる!いるのならそいつをここに呼びだすがいい!
(回想)
あなたのカガンはどこにいるのだ?
お前のカガンはどこにおるのじゃ?
カガンは数千年の歴史を持つ。
けどもうそれも歴史の中にしかいないわ。
ケシク?あの人たちはカガンの従者よ、この大地で最も勇猛果敢な戦士だったわ。
カガンは色んなところを征服した、でも、色んな人も傷つけてきた。
恐怖をまき散らすのは夢魘の天性ね、そしてカガンにとって征服欲とは糧そのもの。
でもね、トォーラ。
あなたがこの大地に生きる以上、きっと自分の――
(回想終了)
……父を、強敵を、師を、理想を。
私は……この街でそれらを探し求めていたというのか?
いや違う!夢ならもう醒めてるはずだ。
これはただの記憶の餞別にすぎない、我が天途の道筋は、とっく決まっているはずだ。
若き狩人が、天へと踏み出した♪
夢の中より出でて、黄金の彼方へと行かん♪
夢魘。
一人の夢魘が会場に佇む。
四肢の力は抜け、全身スキだらけだった、兜の下にある目線も泳いでいた。
彼はずっと古い歌を口ずさんでいた。
黒夜が彼の視野を塗りつぶすまで♪骨の塔が心中に聳え立つまで♪
毒の人参が朦朧とした故郷を掌握するまで♪
……
……
祈りは済んだか?
私の家族は死んだ。私の同族もみな路頭に迷った。
――カガンは、元から私の刃にいたんだ。
そう、私が――
私のカガンなのだッ!
さあ、来るがいいッ!
……天候、晴れ。風は吹いていない、矢を射るには絶好日和だ。
ターゲット、ロドス指導者の二人、種族不明のマスクを被ったヤツと、コータスが一人。
メンタル状態は……最悪。毎回仕事に邪魔が入るからだ。
(シャイニングが近寄ってくる)
……
……訂正、メンタル状態はとんでもなく最悪だ。
よく日記を書かれるのですか?
こんなものをわざわざ残して、監察会に送って罪を被ろうとするヤツなんていると思うか?
では、あなたは個人の感情を仕事に持ち込むタイプの人間なのですね。
……贖罪師、耀騎士、それと変な感じがするあのコータス。
お前たちロドスは一体なんなんだ?
ずっと聞きそびれていましたが……あなた方は……
どこで“贖罪師”という名前を知ったのですか?
モニークは目の前にいるサルカズが剣を抜いたところを見たことがないわけではない。
突出した剣術、それに付随する未知のアーツ、耀騎士と共にクロガネの矢を防いだあれは、きっと巫術なのだろう。
あの時“矢を阻んだ”このサルカズはまだ本気を出していなかったのかもしれない、そう彼女は思った。
しかし今、彼女はそれを確信した。
……教えるわけないだろ。
暗殺者がドクターとアーミヤさんに弓を構えているところを見逃してあげるほど、私もお人よしではありません。
それに、その前に挨拶ですが、まだお返しができていませんでしたね、失礼しました。
(アーツ音)
……光……?
耀騎士のお仲間ってのは、どいつもこいつもピカピカしてるのが好きなのか?いい加減目が疲れる。
(暖かい……それに攻撃性すら感じない……本当にサルカズの巫術なのか?)
(いや……)
(あいつの目……自分の剣に悲しんでいるのか?)
……
……返事はなしか。
なら、見せてもらおうか、お前の強さを。
――な、何が起こったのでしょうか?
私の目がおかしくなったのでしょうか?会場に突如と黒い霧が発生しました――いや、珍しいことではないのですが、それでもあの黒い霧の中にいるのは、一体――?
あれは――は、旗?いや、軍隊!?
……
あれが……あなたの執念か?
――
……残念だ。
観客席から見ている騎士たちは、今私が受けてる感覚を感じ取れていないらしいな。
はためく旗、鳴り響く角笛、軍隊……民族、歴史の一部と言うべきか。
しかし――
――今を諦め、死に物狂いで探し求めてきたものがそれか?
――フンッ!
夢魘騎士が仕掛けていきました!し、しかし会場が黒い霧に覆われているせいで、一体なのが起こってるのかまったく確認できません!
なにかが黒い霧の中で動きましたかね!?まさか夢魘騎士は本気でアーツを発動したら、自分のご先祖様すら召喚できてしまうのでしょうか!?
笑わせてくれる。
お前にはただ運命と直面する勇気が足りていないだけではないか。
血騎士は大斧を振りまく、自分は正真正銘の古のクシケ軍と相対しているわけではないと、理解していた。
己を滅ぼさんとしている若者。
前世を呼び戻そうとしている若者。
漆黒な霧が血騎士の血のような甲冑を覆い隠す。
感じる震動、そして痛みによってこの召喚物は決して幻などではないことを思い知る。
しかし血騎士は依然と微動だにせず、待っていた、夢魘本人の一撃を待っていた。
(古い言語)倒れるがいい、英雄よ!
血騎士が悶えて唸る。
カジミエーシュにあるトップクラスの甲冑でも、この時ばかりは悲鳴を上げていた。
刃は鎧を割り、強靭な血騎士でさえも片膝を危うく地につきかねなかった。
……
――!傷が浅かったか、くッ!
私に、傷をつけたな。
だが私の血も、お前の武器に付着した。
(罠――!?)
恥じる必要はない、もとよりお前の弱点はその実戦経験の乏しさだ。
お前は“ケシク”と比べても、まだまだのようだな。
……お前と耀騎士がクロガネの矢を防いだ時は、正直驚かされた、銀槍のペガサスでもクロガネの懲罰を受けきるのは困難だからだ。
諜報員の情報によると、お前たちと耀騎士は“使徒”を名乗り、感染者を治療する組織に属してるらしいな。
“医師”か、フッ、後であの諜報員を鉗獣の檻にぶち込んでやる。
……生憎、私は戦いが好きではありせん。
……そう。
私はヴィクトリアの元軍人だった。
貴族出身じゃなかったから、将官にはなれなかった、だから結局連合軍の演習の時に商業連合会にスカウトされたんだ。
多分あの頃、私の上官はようやくひねくれ者が一人減ったと内心ほくそ笑んでいただろうな。
……
だから、私はこれでも自分の射撃技術には自信があるんだ。
この距離で、正面から私の矢を三発受け止めたら、ロドスの暗殺は諦める、これでどう?
それであなたを信じろと?
……信じるか信じないかお前次第だが、無冑盟はロドスに対処する方法なんていくらでも持っているぞ。
たとえば今アイツらがまったく無警戒に持ってるあのぬいぐるみ、それに発揮性のある毒を塗るとか……
……
そんな目で私を見るな、簡単にできることだ。
三発、でしたね。
……三発だ。
ふぅ……
いくぞ、一発目だ。
モニークは弓を引いた、模範的とも言えるヴィクトリア式の構えで。
軍に所属していた頃、若いモニークの弓は高く評価されるほど、百発百中だった。
(矢が空気を裂く音)
……!
(斬撃音)
一射目、浅すぎますね。
目の前にいるサルカズは剣を抜くことすらしなかった。
予想外の結果にモニークに熱が込みあがり、悔しさから少しだけムキになった。
……二発目だ。
もう一度弓を引く。
かてつの雨が降る夜、モニークはとある一階級の征戦騎士を襲った。
その相手は名声ある大英雄ではなかったが、ウルサス=カジミエーシュ戦争を経験した老兵だった。
矢を瞬時に察知した彼と取っ組み合いになり、両者は山の崖から落ちていった。
早春のカジミエーシュの森の中、春寒が残る中、森で行われた追撃戦は、七日七夜続いた。
四肢の痛みと耳元で唸る耳鳴りがそろそろ限界に達しようとした頃、モニークは弓を引き、ようやく水源の傍で水を飲んでいたターゲットを仕留めることができたのだった。
……構え、そして目つきも変わった。
まるで機を窺うハンターのようですね。
(矢が空気を裂く音と斬撃音)
――!
(矢が空気を裂く音と斬撃音)
弾かれた矢は空中で二つに折れる。
片方は地面に刺し、もう片方は芝生へ落ち、取り留めなく闊歩していた数匹の羽獣を驚かした。
ですが私は獲物になるつもりはありません。
……贖罪師ってのはみんなお前みたいな剣豪なのか?
それとも、ロドスにはお前みたいな人間がゴロゴロいるのか?
……
(……ロドスの脅威度をもう一度評価し直したほうがよさそうだ……)
……本当のことを教えてやろう、ロドスの暗殺は理事会から下された命令だ。
だがもうじき、私はそんな命令から解放される。
……
信じれない?
いえ……正直、驚きはしません。
私たちの指導者も、すでにその可能性を予測していましたので。
それであなたは何が言いたいのですか?この決闘は、あなたの自尊心の上に成り立っているとでも?
お前もそろそろ本気を出せ、と言いたいんだ。
最
後の一発だ。
(矢が空気を裂く音)
くっ!
終わりだ。
(戦闘音)
窮地からの反撃!とてつもなく重い一撃が、会場を覆い隠していた黒い霧を晴らしてくれました!
怒涛のような勢いで、逐魘騎士が創り出した幻もついに瓦解し始めました!
なんという失策だ夢魘!あと一手のところでした!血のアーツを操る血騎士と対面して、相手を軽んじて接近戦を挑んだことこそが彼の最大の誤算だったと言えるでしょう!!
……あれが幻?もはや……戦争そのものじゃないか。
……ガハッ……ア、アア……
なに!?あんな近距離から攻撃を食らっても、逐魘騎士はまだ立つことができただと!?
なんということでしょう!まさか彼にはまだ反撃の――
――血騎士、審判員に判定を要求する。
……ああ、ヤツはすでに気絶してる、モタモタすれば命が危ないだろう、さっさと結果を出せ。
――審判員が判定を出しました!今ここに、カジミエーシュメジャーリーグの今大会で最初に決勝進出した騎士が誕生しました!
夢魘とチャンピオンの決闘!恐怖と恐怖のぶつかり合いが!今その勝敗が決しました――!
栄えある勝者は――
(大歓声)
モーブが勝者の名を宣告する前に、会場の端、目を引くほど厳重な柵の後ろ。
そこから感染者騎士たちが率先して立ち上がった。
血騎士!
血騎士!血騎士!血騎士!
あれは……感染者?
血騎士が勝ったぞ!血騎士万歳!
血騎士!血騎士!
血騎士!血騎士!
血騎士!血騎士!血騎士!
血騎士!血騎士!血騎士!
……
血騎士!血騎士!血騎士!
血騎士!血騎士!血騎士!
血騎士はゆっくりと手を掲げ、観客たちに意を示した。
そして振り向き、未だ仁王立ちする夢魘に目を向けた。
視線を上げれば、夢魘の背後、その遠くにある観客席にいた別の騎士と目線が合った。
……
……
血騎士!血騎士!血騎士!
あー……
(プロとして、観客たちがコールしてる時にマイクを挟むわけにはいかない、いかないんだが、コールしてるヤツら全員感染者っぽいな……大丈夫なのか?)
血騎士!血騎士!血騎士!
……あれがカジミエーシュの感染者たちの英雄です、マーガレットさん。
あなたは、そんなご自分と重なる相手と、どう立ち向かうつもりですか?
血騎士!血騎士!血騎士!
あれが感染者……ディカイオポリス。
血
騎士!血騎士!血騎士!
……英雄、血騎士。大袈裟な呼び名ですね。
耀騎士も抵抗の象徴みたいな方ですが、本当に感染者のために生きる空間を勝ち取ってくれたのは、血騎士ディカイオポリスのほうです。
……しかし、彼はとっくの昔に我々に首を垂れていました。
……メディアの職に就いていた者として、あなたの提案には心底感服したよ、マルキェヴィッチ。
だがあなたも知っての通り、あの世論は……所詮ただの保険だ、万が一を防ぎたければ、もっと強硬的な措置を準備しなければならない。
当然です。
私も……全員の退路が塞がれてしまう場面は見たくありませんから。
血騎士!血騎士が勝ったよ!!
あはは、血騎士なら絶対勝ってくれるって信じてたよ!血騎士は無敵だ!
うわっ、なに?
あっちの路地からなんか光が……太陽?
――
お前――
サルカズは自分のアーツが見られたことに辟易したのか、静かに瞼を下ろした。
短い輝きは、まるで落日のように、今もサルカズの剣先に纏わりついている。
なにか思い出したかのように、サルカズはさっと剣を持つ手を変え――それを懐に収めた。
まるで鞘から抜き出すべきではなかったかのように。
……
……今の……一体どうやって……
サルカズの巫術なのか?いや、でもさっき確かに感じたあれは……
命の息吹?いや、魂の力か?それも違う。
もっと本質的な、夢あるいは酒酔いから出る幻を見た時にしか触れられない無形のなにか。
だが、このサルカズは……確かにさきほど朝暮を振っていた。
……
……チッ。
さっきの剣撃……お前……
本当なら私を殺せたはずだろ!
あなたの矢を三回受けるために抜いただけです、無冑盟。
もちろん、ウソをついていたら、そうしていましたが。
なっ――
掴まれたような感覚だった。
退いてはダメだ、さもないと捕まえられてしまう……なにに?このサルカズにか?それともコイツの剣に?
それともコイツが捕らえていた……命の本質にか?
……
……まだ続けますか?
……いいや。
信頼というのは、実行することで初めて生まれるものだ。
(無線音)
撤収だ、ロドス一行の追跡を中止しろ。
感謝します。
……ちょっと一つ関係ないことを聞いてもいいか?
あなたは約束を守ってくれましたので、質問次第では答えてあげます。
お前たちサルカズにとって、角を削るってのは……どういう意味だ?
……それは人によってまちまちです。サルカズとは呪いを受けた種族と考え、それで種族を隠すために削る人などがいます。
また、角は巫術の媒体、アーツの依り代と考える人もいます。
あるいは……一部では角を削ることを伝統にしてる部族の人たちもいます。角を削る意味は十人十色、決まった意義はありません。
……
それがどうかしましたか?
……いや、なんでもない。