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【明日方舟】ニアーライト NL-HD-3「道は漫々と」翻訳

燭騎士
燭騎士

今の私は、堪らず本を読み漁りたい衝動に駆られてしまいました――

燭騎士
燭騎士

――マーガレットさん。

マーガレット
マーガレット

……ヴィヴィアナ、それはいつからだ?

燭騎士
燭騎士

わかりません。

燭騎士
燭騎士

あえて言うのであれば、おそらく覚悟も決めずにメジャーリーグに足を踏み入れた時からでしょうか。

マーガレット
マーガレット

君はここに残っても構わないのだぞ。

燭騎士
燭騎士

それも考えました、なんせここは大騎士領、それにあなたという騎士がいるのですから。

燭騎士
燭騎士

……けどこれも私が出した選択です。

マーガレット
マーガレット

選択?

燭騎士
燭騎士

ご存じですか、あなたと血騎士の荒唐無稽な冒険のために剣を抜くと決心した時、実は私……結構興奮していたんですよ。

マーガレット
マーガレット

……

燭騎士
燭騎士

せめてなにか言ってください、黙られちゃうと恥ずかしくなっちゃうじゃないですか……

燭騎士
燭騎士

あれは得難い体験でした。他人のために、一つの信念のために、不条理に見える戦いのために剣を抜いたのは。

燭騎士
燭騎士

きっとリターニアを離れてから、私は本物の騎士として生きてこなかったからなんでしょうね。

マーガレット
マーガレット

本当に残らないのか?もし行ってしまえば、それこそヤツらの思うツボだぞ。

燭騎士
燭騎士

ではこう言い換えましょう、マーガレットさん、私を留まらせないでください、その代わりとして私の帰還を祈ってください。きっと帰ってきますから。

燭騎士
燭騎士

ただ今は、ノヴァ騎士団の“指示”に従って……辺鄙な都市にしばらく滞在しておきましょう。

燭騎士
燭騎士

きっと素晴らしい冒険になり得るかもしれません。

マーガレット
マーガレット

君の騎士仲間たちは?

燭騎士
燭騎士

私の数えられるぐらいしかいない仲間たちなら、すでに揃ってるじゃないですか。

マーガレット
マーガレット

……本当に光栄に思うよ。

マーガレット
マーガレット

最後はせめて、君を見送らせてくれ。

燭騎士
燭騎士

ありがとうございます。二回もチャンピオンを制覇した者に見送って頂けるなんて、こちらも光栄の至りです。

燭騎士
燭騎士

そうだ。荷物を片付ける時にこの本を仕舞い忘れたので、ちょうどいいですし、差し上げます。

マーガレット
マーガレット

詩集か?

燭騎士
燭騎士

『二つの月とキンセンカ』です。

マーガレット
マーガレット

ありがたいのだが、私はリターニアの詩歌文芸を嗜めるほど詳しくは……

燭騎士
燭騎士

文字と隠喩の魅力は、具体的でロジカルな答えを強要しないところにあります。

燭騎士
燭騎士

耀騎士とあなたがした行いのように。

燭騎士
燭騎士

……送迎車両が来ましたね、見えますか?

マーガレット
マーガレット

ああ。

燭騎士
燭騎士

次お会いする時、大騎士領は一体どんな姿になってるのでしょうね?

マーガレット
マーガレット

……君も知ってるだろ、この国はそう簡単には変わらないさ。

マーガレット
マーガレット

だが少なくとも、騎士たちが再び騎士と名乗れるように変えてみせよう。

燭騎士
燭騎士

ええ、その約束、心に刻んでおきましょう、マーガレットさん。

感染者騎士
送迎に来た騎士

燭騎士様、お待たせしました、ご乗車くださいませ。

感染者騎士
送迎に来た騎士

おや……これは意外ですね、ごきげんよう、耀騎士様。

マーガレット
マーガレット

ごきげんよう。

燭騎士
燭騎士

今すぐ発たなければいけないのですか?

感染者騎士
送迎に来た騎士

あ、はい……あなたが最後の乗客ですので。天災トランスポーターのほうもすでに準備が整っております。

燭騎士
燭騎士

……わかりました。美しい都市だといいですね。

燭騎士
燭騎士

では、また会いましょう。

(燭騎士が立ち去る)

マーガレット
マーガレット

……また会おう、ヴィヴィアナ。

マーガレット
マーガレット

……

マーガレット
マーガレット

彼女ならもう行ってしまったぞ、見送りに来なくてよかったのか?

代弁者マギー
代弁者マギー

……

マーガレット
マーガレット

確かあなたは……

代弁者マギー
代弁者マギー

商業連合会代弁者の、マギーでございます……しかしメジャーリーグを終え、私も近いうちに代弁者の席から外されると思います。

マーガレット
マーガレット

なら勇気を出して見送ってあげるべきだったと思うぞ。

代弁者マギー
代弁者マギー

ミス・ドロストとノヴァ騎士団関連の事務作業は長らく私が担当しておりました。

代弁者マギー
代弁者マギー

私はただ最後までその職務を全うしただけです、しかしどうやら間に合わなかったようだ、残念です。

マーガレット
マーガレット

あなたは……いや、いい。

代弁者マギー
代弁者マギー

ミス・ドロストがあんな扱いをされたのには、あなたにも関係がございます。

代弁者マギー
代弁者マギー

耀騎士様、あなたがメジャーリーグで行ったことを鑑みると、今の私たちは敵同士でございます。

マーガレット
マーガレット

それは語弊がある、代弁者殿。

マーガレット
マーガレット

私たちはお互いにただ己の信念に従い、己の理想と正義のために奮闘してきただけだ。

マーガレット
マーガレット

もし……連合会がその理想を未だに抱いていればの話ではあるがな、他者を貪って腹を満たしてるのでなく。

代弁者マギー
代弁者マギー

……あなたがそんな弁舌だったとは驚きです。

マーガレット
マーガレット

事実を言ったまでだ。

代弁者マギー
代弁者マギー

……まあいいでしょう。

代弁者マギー
代弁者マギー

これは燭騎士が向かわれた都市の座標です、いい場所ですよ。

代弁者マギー
代弁者マギー

お時間があれば彼女に手紙でも送ってあげてください、あの人はあなたが想像するような強い人ではありませんから。

燭騎士
燭騎士

……木漏れ日と職人の都、オグニスコ。

感染者騎士
送迎に来た騎士

ええ、燭騎士様、しかしなぜあえてそこへ?

燭騎士
燭騎士

なぜでしょうね……

燭騎士
燭騎士

おそらく詩を書くためじゃないでしょうか。この街の呼び名を聞くと、なんだか創作意欲が掻き立てられるような感じがしませんか?

感染者騎士
送迎に来た騎士

あはは、あなたの前で下手なことなど言えませんよ、私は学のない人間ですので。

燭騎士
燭騎士

ご謙遜を。

感染者騎士
送迎に来た騎士

この先の暮らしを期待しておいでですか?燭騎士様?

燭騎士
燭騎士

……ええ。

燭騎士
燭騎士

きっと、いい詩が書けそうです。

逐魘騎士
逐魘騎士

……

逐魘騎士
逐魘騎士

……なにか用か?ペガサス?

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

今の騎士たちはもう忘れてしまったでしょうし、歴史の教科書にも記されていない事実を。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

“天途”、その儀式の正式名称は――

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

(古い言語)天を行く征途。

逐魘騎士
逐魘騎士

……お前……なぜそれを知っている?

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

成年した夢魘の戦士は一族と酋長が見守る中、己が決めた試練の地へと赴く。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

古い部族は伝統的に、“自分で決断する”行為が一番大きな経験になると考えていた。自信か狂妄か、慎重か怯臆か、すべてそれによって決まってくる。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

ただすべての夢魘の部族がそういった伝統を持ち合わせているわけではなかった。昔の書籍から歴史を漁っても、そういった儀式に関する記述はごく僅かしかないわ。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

ただ一人を除いてね。その人だけが、生涯をかけて自分の天途を歩み終え今なおも歴史にその名が刻み込まれている。

逐魘騎士
逐魘騎士

……

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

トォーラ。あなたの祖父はもう亡くなったと思っていたわ、けど彼はまだ生きてる上に、夢魘の血統を今も引き継がせていたとはね。

逐魘騎士
逐魘騎士

……ペガサス!

逐魘騎士
逐魘騎士

貴様――!

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

怒ってるのね……あなたが生まれた地はこの大騎士領から数千里も離れたところにあるはず。騎士になった屈辱に耐え忍んで、絶えず競技場で殺戮をしてきたのは、その怒りを発散するためだったのかしら?

逐魘騎士
逐魘騎士

――憤っているとも、だがこの私が貴様に刃を立てられないとは!屈辱だ!

逐魘騎士
逐魘騎士

貴様は一体誰だ!?

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

ただの老いた征戦騎士よ、武器を下ろしなさい、若き夢魘。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

話を続けるわ、その死してようやく天途を成し遂げた人、彼の天途のスタート地点は今のウルサスの東にある、かつて豊かな草原だった。

逐魘騎士
逐魘騎士

……

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

彼はその広大な草原に立ち大地全土を眺めながら、一族の者と兄弟たちに誓いを立てた――

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

彼の天途はヒッポグリフとペガサスの国を跨ったわ。ガリア皇帝の堅牢な陣地を粉砕し、阻んでくるリターニアの千に並ぶ塔をも打ち倒していった……

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

彼の人生における最後の十年で、ようやく誓いの通りに天途を終えた、大カガンは大地全土を鞭笞し、旧時代を焼き尽くし、人類文明の世界に目を向けさせた。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

あなたのご先祖は確かに類まれなる偉大な功績を築き上げたわ、トォーラ、そしてあなたにはカガンの血が流れている……カガンの末裔は、今なお私たちの目の前に生きているのね。

逐魘騎士
逐魘騎士

ハッ!ケシクたちの最も偉大なる功績は、ペガサスという腐りきった神民を統治者の席から引きずり下ろしたことにある!

逐魘騎士
逐魘騎士

だがしかし!己自身を見てみろ!

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

……

逐魘騎士
逐魘騎士

依然とペガサスはその高位に身を置いている、さらには自分たちの愚かしい弄臣たちが騎士の時代を滅ぼす様をただただ座視してるだけではないか!

逐魘騎士
逐魘騎士

己自身をもう一度よく見直してみるがいい!貴様のどこが騎士だというのだ!?その腰に佩びているか細い儀仗剣でなにを防げるというのだ?

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

ここカジミエーシュにおいて、私に剣を抜いてほしいと望んでいる者などいないわ。

逐魘騎士
逐魘騎士

――ふん、冗談にしては笑えるな!

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

それと、私たちは見てみぬフリなどしていないわよ。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

ただ天に帰す力を失ってしまってるだけなの。

逐魘騎士
逐魘騎士

……フン。

逐魘騎士
逐魘騎士

戦う意志を失った老兵なんぞに興味はない……そこをどけ。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

ならあなたが探し求めてる試練の地っていうのはどこにあるのかしら?

逐魘騎士
逐魘騎士

貴様に答える筋合いはない、ペガサス。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

あなたにはもう忠義を尽くす主も、あなたの帰りを迎えてくれる一族の者もいないわ。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

あなた、帰るつもりがないのね。

逐魘騎士
逐魘騎士

……

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

フォーゲルヴァルデから話は聞いてるわよ、夢魘。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

あなたの試合を見たわ。このままあなたを行かせるには勿体ないわね。

逐魘騎士
逐魘騎士

なんだと?

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

もし天途を終えたあとでもカジミエーシュに戻ってきてくれるのなら、あなたを騎士として、望むがままに戦場に行かせてあげるわ。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

あなたたち一族の者はどれも稀有な存在、ましてやカガンの血が流れてるあなたは尚更よ。

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

たとえその血が薄くても、あなたはきっと優秀な戦士のはず。だからあなたは光栄に満ちた戦いの機会を得るべきなのよ。

逐魘騎士
逐魘騎士

……傲慢だな。

逐魘騎士
逐魘騎士

貴様は私が今まで見てきたカジミエーシュの騎士たちとまったく同じように、傲慢そのものだ。

逐魘騎士
逐魘騎士

貴様のために戦い、この見るも無残なカジミエーシュのために戦うことこそが光栄だと言いたいのか?

イオレッタ・ラッセル
イオレッタ・ラッセル

私はただせっかくのいい苗をこのまま枯らせたくないってだけよ。

逐魘騎士
逐魘騎士

ハッ、枯れるかどうか私自身が決めることだ、ペガサス!

逐魘騎士
逐魘騎士

そこをどけ、私の目の前から消え失せろ。この都市を出てからようやく、私の旅路は始まるのだ!

血騎士
血騎士

……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

え?ん?んん?

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

き、騎士様?なんでこんなところに?大騎士様が来られるなんて村長からなんも聞いておりませんが……

血騎士
血騎士

……この近くにある田んぼの土地を買わせてもらった者だ。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

ああ!あなたがあのジャックの土地を買って頂いた騎士様だったんですかい!これはこれは、お目にかかれて光栄です……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

えっと、もしやと思いますが、その全身真っ赤な鎧に、その猛々しいお姿、お名前を……伺っても?

血騎士
血騎士

むぅ……今の私はもはや騎士ではないゆえ、名乗れるほどの者でもない。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

では単刀直入に伺いますが……その……もしやあなたは……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

血騎士のディカイオポリス様でいらっしゃいますかい?

血騎士
血騎士

だった者だ。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

(失礼な驚きの声)――なんということだ、その……えっと……あの……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

わしらはみんなあなたのファンなんです!なぜ急に引退を――?あなたと耀騎士の――あっ、そうだ!初めてここに来られたのなら、きっとなにか足りていないのでは?なんなりとお申し付け――

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

いやいやいや、わしはなにを言っておるのだ、申し訳ない、チャンピオンであるあなたなら、わしらよりお金も持ってるのは当然でございますもんね……ささ、わしが村を案内致します……

血騎士
血騎士

……う、うむ、頼んだ。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

――ここがウチの村で一番大きな商店でございます、以前の店主は身体を壊してしまったため、今では彼の娘にお店を任せていまして……

雑貨屋の店主
雑貨屋の店主

あら?そちらの騎士様は?

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

おお、噂をすれば、こちらの方がさきほど言っていた、あの荒れた田んぼを買ってくださった騎士様だ!誰だかわかるかい?

血騎士
血騎士

いや、今の私は――

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

血騎士様だ!あのチャンピオンだ!あの血騎士のディカイオポリス様だぞ!

???
野次馬の通行人

チャンピオン?チャンピオンだって!?

???
野次馬の通行人

なんで血騎士がウチらんとこに?

雑貨屋の店主
雑貨屋の店主

ち、血騎士様ですって?本当に本人なんですか??

血騎士
血騎士

……そうだ。

雑貨屋の店主
雑貨屋の店主

うそ……

(雑貨屋の店主が座り込む)

雑貨屋の店主
雑貨屋の店主

す、すみません、オホン、その、あまりに急な出来事だったので足の力が……その、えっと、ここへはなにしに……なにか必要でしたら、なんなりと言ってください!

雑貨屋の店主
雑貨屋の店主

遠慮はいりません!本当になんでもおっしゃってください!

血騎士
血騎士

……

血騎士
血騎士

その……作物についてなんだが……

雑貨屋の店主
雑貨屋の店主

さ、作物ですか!?作物の種籾は村が一括して取り入れておりますが、なにか必要でしたら、今すぐ手配致します!

血騎士
血騎士

……いやその、ここはオリーブを植えれるかどうか、それを聞きたいだけなんだ。

雑貨屋の店主
雑貨屋の店主

オリーブ?み、み、ミノスのあれですか?少々お待ちください、それは村長に聞いてみないとなんとも……

血騎士
血騎士

いや、待ってくれ。

血騎士
血騎士

あとでも構わない。

雑貨屋の店主
雑貨屋の店主

いえ、お気になさらず、今すぐ聞いてきます!

(雑貨屋の店主が走り去る)

血騎士
血騎士

……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

こりゃいけねぇ、ついとぼけちまった、すいません、お邪魔だったでしょうか?これ!みんなどくんだ!騎士様は街からいらしたばかりで休まれておらんのだぞ!

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

さあ、騎士様、こちらへどうぞ!わしが案内致します!

血騎士
血騎士

……待ってくれ。

血騎士
血騎士

お前たちは私を知っている、であれば……私が感染者であることも知ってるはずだ。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

はい?感染者…え、ええ、それは存じておりますが。

血騎士
血騎士

鉱石病が怖くないのか?

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

そりゃ怖いですとも!

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

それがどうかしたんですかい?

血騎士
血騎士

……なら私から距離を置くべきだ。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

ああ、そういうことでしたか……確かに、あなたは感染者でしたな、これは失敬、興奮のあまりつい……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

……けど今はそんなことよりも人の助けがご必要なのでは?

血騎士
血騎士

……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

農作業は簡単なもんじゃありませんからね……えっと、農作業のご経験はありますか?

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

村に学生の若い連中が何人かいるんでさ、ここでオリーブを植えれるかあとで聞いてみます……ああそうだ、それと鉱石病のこともだった、その……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

都市での鉱石病の治療は順調ですかい?

血騎士
血騎士

……順調とは言えん。だから私は村から一番離れた土地を選んだ、用事がないのならあまり私のところには近づかないほうがいい、危険だからな。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

……なら今のうちにサインを頂いても?

血騎士
血騎士

……フッ。

血騎士
血騎士

名は?

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

わしですかい?あっ、あはは、申し訳ない、自己紹介すら忘れておりましたわい、村ではみんなから歯医者の先生と呼ばれているので、騎士様もそう呼んで頂いても構いません。

血騎士
血騎士

……わかった。

血騎士
血騎士

もし私の力が必要であれば、そちらも申し付けてくれ。

血騎士
血騎士

ただ少なくとも今はまず先に……

血騎士
血騎士

……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

騎士様?

血騎士
血騎士

……ふふ。

血騎士
血騎士

先に“家に戻らねばならん”。着替えておきたい、いつも鎧で出歩くわけにはいかないからな、さきに行っててくれ。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

ええ、確かにそうでございますね!

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

では邪魔しちゃいけませんので、先に失礼させてもらいます!ではまたのちほど!

(カジミエーシュの村人が立ち去る)

血騎士
血騎士

……ゴホッ。

血騎士
血騎士

ゴホッ!ゴホゴホゴホッ――

血騎士
血騎士

……チッ。いい加減さっさと着替えないといけないな……ゴホッ。

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

いやぁ……まさか今日血騎士に会えたとは……今でも信じられんよ!

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

ん?しかし、彼はいつ引退したんだ?しかもこんな遠い場所まで来て隠遁生活なんて……もしかしてなにか人目についちゃ悪いことでもあったとか?うーん……

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

おや?またお客さんかい?ウチらの小さい村も随分と賑やかになったもんだな、わしらもそろそろ移動地区に移り住める頃合いか?はは?

カジミエーシュの村人
カジミエーシュの村人

やあ!旦那さんたち!どちらからいらしたんだい?この先道はもうないから、ウチらが案内するよ!

ロイ
ロイ

……こんにちは。

■■年後、ウルサス北部、“文明の境界線”
1:43p.m. 天気/小ぶりの雪

ウルサス兵士
ウルサス兵士A

……こんなクソ寒い日なのに、なぜわざわざ巡回に出なきゃならないんだ?

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

文句言うな……ここ付近に村なんてもんはない、少し先を進んでもあるのはミノス人の観測所だけだ……いや、本当はクルビア人のだけどな。

ウルサス兵士
ウルサス兵士A

冗談はいい。

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

これは――ただの聞いた話なんだが、昨日ミノス人の祭司かなんかの人が、慌ただしく上官に会いに来たらしいぞ。

ウルサス兵士
ウルサス兵士A

ミノスの祭司?ああ、雪祀ね、あんなおっかない連中が国境を越えてどうしちまったんだ?

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

知ったことか、俺たちがこんな階級でいる限り、そんなこといちいち知る必要なんざないさ……今は目の前にある真っ白な大地を眺めてればいい、はぁ、毎日毎日同じ景色ばかりで、いい加減目も痛んでくる。

ウルサス兵士
ウルサス兵士A

それもそうだな――おい待て!

ウルサス兵士
ウルサス兵士A

前に……前方になんか人影がいなかったか?

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

これは――角笛?

ウルサス兵士
ウルサス兵士A

遺棄されてかなり時間が経ってる……なのに車輪や足跡は見当たらない、どうする?

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

と、とにかく上官に報告だ、こんなところに人工物が落ちてるなんてありえない……この角笛、どこで作られたかわかるか?

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

どうせミノス人のじゃないのは分かる、見るからに古い形状だし、損傷も激しい。

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

ん?

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

おい……なんか音聞こえなかったか?

ウルサス兵士
ウルサス兵士A

はぁ?聞き違いだろ。

ウルサス兵士
ウルサス兵士A

とにかく本隊に連絡だ、信号はあるか?

(無線音)

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

こちら第七捜索隊、第七捜索隊、角笛を……見つけた、ああ、ほかの痕跡等は発見できず……

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

……待った、また聞こえたぞ!

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

そ、捜索隊!こちらで異変を発覚したため、十分後に再度通信を入れる!

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

おい!あそこを見ろ、遠くにあるあそこだ、あんなところに森なんかあったか?

ウルサス兵士
ウルサス兵士B

望遠鏡を持ってこい!

第七捜索隊の情報によると、ウルサスの巡回兵二名が極北辺境地帯でとある“軍隊”を発見した。
二名がその“軍隊”の残した痕跡を辿って後を追跡したところ、戦鼓と武器が交わる音が聞こえてくるだけで、人の痕跡は見つけられなかった。
ただ遺棄された角笛一つだけを残して、それ以外はなにも発見できなかったという。
これについてミノス側は軍事行動含む一切の行動も起こしていなかったと言い、クルビア側の科学研究観測所も矢継ぎ早に否定した、雪の大地はいつもながら静かに煌めき、果てしなく広がっている。
ただ徐々に大雪に埋もれていく足跡だけが極北の果てまで、文明の境界線まで伸びていたことを除いて。

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